題「黒猫のおやつ」
 剣八がでかい黒猫になった。毎回暴れるから、その度に俺が現世から呼ばれる事になる。

ただし、今回は来れない事情が出来た。期末テストだ。これだけは絶対譲れないので剣八に言い聞かせた。
「良いか、剣八!俺は今週から期末テストでこっちに来れないから、暴れんじゃねえぞ?大人しくしてたらご褒美におやつ持って来てやるからな」
と言った。剣八は渋々と言った感じで、
「ぐるる・・・」
一声だけ鳴いた。これで安心かも・・・。
「じゃあ、約束な!」
と鼻の頭にちゅっとキスしてやったら、べろんと舐めてきた。
そしてそのまま現世に帰ってテストを受け、瀞霊廷に行った。御褒美の牛の骨を持っていった。

十一番隊。
「おーす!剣八居るかぁー!」
「ああ!一護君やっと来てくれたんだね!」
と弓親が慌てた様子で駆けつけてきた。
「何だよ、剣八が暴れてんのか?」
「いや、違うよ、って何持ってんの?それ」
「あぁ、これか。剣八にご褒美にって牛の骨。茹でてやるんだ、肉とか髄骨とか食べるんだって言ってた」
「ふ、ふうん」
「台所借りるぜ」
「うん、いいよ」
「で?剣八は大人しかったのか?」
「うん・・・、暴れはしなかったよ・・・、寝てばっかだった」
「うん?飯は?」
「食べなかった・・・」
「またか、なんなんだあいつは!ストライキか?」
「さあ、やっぱり不安なんじゃないかな・・・君が居ないと」
「な、なんでだよ!お前らもやちるも居るのに!」
真っ赤になって叫ぶ。
「そうなんだけどね・・・」
湯を沸かし、骨を湯掻いてアクを取り除いて冷やした。

匂いに誘われたのか背後から、
「ぐるるる・・・」
と声が聞こえた。
「ん?おう!剣八、今回は大人しかったんだってな、ご褒美に牛の骨湯掻いてんだ、ちょっと待ってろよ?」
「ぐる・・・」
邪魔にならない所でちょこんと座る剣八。
「あちち!良し!後は冷ましてっと」
冷水をかけ冷ます。中まで冷めるまで剣八を撫でる。
「また、痩せたな。飯喰ってないんだってなぁ、何でだ?みんなに心配掛けんなよ、俺も心配なんだから・・・」
一護の膝に顔を乗せ、甘えた声で鳴く剣八。
「うるあぁ・・・」
「しょうがねえやつ・・・。ほらいつもの縁側で待ってろよ、おやつ持っていってやるから」
新聞紙と大皿に盛った牛の骨2本を持って縁側に行った一護。
「おう、ちゃんと待ってたな、いい子いい子」
新聞紙を広げ、大皿の骨を置いてやる一護。
「ほら、もう冷めてるだろ、食べろよ」
一護が言うと食べ始めた剣八。

 ごりごり、がりっがりっと音を立てて齧りつく剣八。
「美味いか?」
「ぐるああ、んぐるうああ」
と何か唸りながら齧っている。その隣りで横になる一護。
「喜んでくれて嬉しいよ、しばらくこっちにいるから晩飯俺が作ってやるよ」
と目を細めて言い聞かせた。
軟骨や髄骨を食べ終わり口の周りを舐めるといそいそと一護の隣りで昼寝を始めた剣八。
「んん?満足したか?剣八」
「ぐる・・・」
くああ、と欠伸をして寝てしまった。
「ふふ、可愛いな・・・」
頭や耳の後ろ、喉の下をを撫でてやると、喉をごろごろ鳴らして喜んでいる。
「晩飯は何が良いかな・・・」

ふー、ふー、と寝息が聞こえてきて、深く寝ているようだった。痩せて骨の浮いている背中を撫でながら一護が、
「なぁ、お前が飯喰わねえのって俺のせいなのか?」
と呟いた。
「俺がお前だけを選べたらこんな事にはならないのにな・・・。もどかしいよ・・・」

ああ・・・、もどかしい。住む世界の違いが、立場の違いが、存在の違いが・・・。

自分たちを取り巻く全ての違いが途轍もなくもどかしかった。

「ごめんな・・・」
ぽたっと涙が一つ剣八の顔に落ちた。
グイッと顔を擦るといきなり何かが圧し掛かってきた。
「うおおっ!何だ?」
「ぐるるる・・・」
「剣八、何だいきなり。重いよ退け」
そう言われても退こうとせず、一護の上に陣取って目の周りをペロペロ舐め始めた。
「ん、擽った・・・、やめろよ、こら」
言ってる内に一護の首を甘噛みしてきた。
「こら!何やってんだ!これから買い物に行くんだぞ!」
パッと離れる剣八。
「ったくもう、一緒に来るか?お前の飯の材料なんだけど」
「うるる・・・」
すりっと身体を擦り寄せてきた。
「じゃ、行こう遅くなっても嫌だろ?」
そう言って一緒に買い物に出掛けた一護と剣八だった。

「ん〜と、何が良いかな?鶏の胸肉と鰹節。お前好き嫌い無かったな?」
「ぐる」
「んー、じゃあ、こんなモンか、野菜は何食わせて良いか分かんねえしな。俺のは魚で良いや」
と買い物を終え、隊舎へ帰る。
「ただいまー、台所借りるぜ」
「お帰り一護君、夕飯の準備かい?」
「そ!剣八のは鶏肉な、足りるかな?」
と取り出した量は1キロはあろうかという量だった。
「うん、足りると思うよ・・・」
「じゃ、下拵えすっか!」
皮を取り、余分な脂も取り除き、湯掻いていく。中まで火が通ったら細かく割いて鰹節をまぶした。
「おっし!出来た、次は俺の分〜」
とあまり塩をしなかった白身の魚に焼き加減を見て、
「ん、丁度良いや!剣八、飯だぞ」
と居間まで運んだ。お膳の上に一護の分、その隣りの床に足付き膳に剣八の分のお皿が置かれた。
「ああ、そうだ。これもあったんだ」
とマグロのブツを足してやった。
「たくさん喰えよ?」
と言い、二人きりで夕飯を食べ始めた。

「がふっがふっ!んぐるあ、ぐるぐる」
「喉に詰まらせんなよ」
と笑いながら、自分の分のご飯を食べていく一護。
「んぐ、んぐ、ぐるうあ」
食べ終わり、綺麗に皿まで舐めている剣八がすりっと、すり寄ってきた。
「うん?もう食べたのか?早えな、こっちの魚も食うか?」
「うるぁ」
片身だけになった魚を解してやり、食べさせる。はぐはぐと美味そうに食べる剣八。
「ふふ、良かった。ちゃんと食べれたな」
と残ったご飯をお茶づけにして食べ終える一護。
ぺろり、と口の周りを舐める剣八のヒゲに魚の欠片が付いていたので、
「ほら剣八、お弁当付けてるぞ?」
くすくす笑って取ってやった。
「うあ?」
それをぺろり、と舐めると甘えるように身体を擦り付ける剣八。
一護はそれを可愛いな、と思いながら、
「明日は何が食いたい?牛か、それとも挽き肉で何かするか?」
「うるああ」
「ま、俺としては喰ってくれるんなら、何でも良いんだけどな」
なでなでと頭を撫でてやった。
「さ、片付けるか、風呂にも入らなきゃだし」
かちゃかちゃと片付ける一護。
洗い物をしていると弓親が話しかけてきた。
「一護君、どう?隊長ご飯食べてくれた?」
「ん?ああ、全部食べたぞ。ちょっと安心だな」
「そう!良かった」
そんな会話をしていると後ろから、パァンッ!と音がした。驚いて振り向いて見ると剣八が尻尾を揺らしながらこちらを見ていた。
「あ、じゃあ僕はこれで」
そそくさと逃げる弓親。
「なんだぁ?どうした剣八、喉でも渇いたのか?」
「ぐるあぁ・・・」
洗いものも終わったので、
「さて、風呂にでも入りますかね」
と着替えを用意していると剣八も付いてきた。
「一緒に入んのか?」
「うるあ」
「しょうがねえな、ちょっと待ってろ」
と剣八用のタオルとドライヤーを準備した。

「ほら、入るぞ」
と中に促し、先に剣八の体を洗ってやった。
「そこでちょっと待ってろ、俺もすぐ洗うからよ」
と髪を洗い、身体を洗い終えた。
「ふぅっ!さ、お湯に浸かるか」
と湯船に入ると剣八ものそのそと這入って来た。
「ぷふー」
と目を閉じている剣八は可愛かった。
「ふふ、可愛いな。でも早く人間に戻れたら良いのにな・・・」
充分にあったまったので、一護が脱衣所に出ると、剣八が体の水気を飛ばした。
「よしよし、風邪ひく前に乾かすぞ」
既に着替えている一護がタオルでガシガシ拭いてやり、ドライヤーで完全に乾かしてやる。
温風を当てながら、ブラッシングしてやりふわふわの毛皮にしてやる。
「うん、綺麗になった!男前だ!」
とガシガシ撫でた。

部屋に帰ると既に蒲団が敷いてあった。
「じゃあ、もう寝るか。今日は疲れたよ・・・、おやすみ剣八」
「ぐるる・・・」
久し振りにお腹一杯食べた剣八もその日は、ぐっすり眠った。

朝ご飯は一護が作った玉子粥だった。これも残さず食べきった。

おやつを強請るので、また牛骨を湯掻く一護。嬉しそうに食べる剣八が居た。








09/07/20作 第103作目です。
多分、この夜あたりに襲われてるはずです・・・。

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