題「野いちごを摘みに」その後
 剣八に抱かれて一護が帰って来た。
「あらぁ、一護どこ行ってたのよ?・・・泣いてるの?」
こしこしと目をこすると、
「んーにゃ。んにゃあう、らんにゃう」
えへへと笑った。
「なら良いんだけど・・・。あ、ハイこれ!イチゴのタルト。いっぱい出来たわよ!」
とバスケットを目の前に出された。中からは甘い匂いが漂っている。
「お前が作ったのか、松本」
「はい、昨日一護が摘んできた苺で作ったんですよ。ねー!」
「みゃあ」
「ふーん」
「それでね、一護。頼まれた通り朽木隊長の分はあんまり甘くしてないからね、青いリボンが付いてるからすぐ分かるわ」
「みゃあ!みゅうん!」
バスケットを開けると、一つ一つ丁寧に包装されていた。赤いリボンと青いリボン。青いリボンの物は2つだけだった。
「みんなに配るのよね?一護」
「みゃあ!剣にゃん、みゃう」
「ん、ほれ」
と下ろしてやる。乱菊からバスケットを受け取ると。ごそごそ中から一つ取り出した。
乱菊からの目線では一護のホッペはまぁるくて頬袋のようだった。ピンクの唇が可愛かった。
「みゃあう!」
はい、とタルトを差し出された。
「ありがとう、一護」
「飯時には帰れよ」
「みい!」
「かっわいいですね〜!更木隊長が羨ましいです」
「そうかよ」
「みゃあう!」
「あらもう行くの?折角だからおめかししましょ?」
「みぃ?」
先の丸くなった耳をぴこっと動かした。
「おい、松本・・・」
「良いじゃないですか、可愛いワンピースがあるんですよぉ」
「・・・好きにしやがれ」
「はーい!行きましょ!一護」
「みい」
乱菊がバスケットを持って、一護の手を引き連れて行った。

秘密基地へと一護を連れて来た乱菊は大きなピンクのリボンとワンピースを取り出した。
「うふふ、可愛いでしょ?これはね、スカートの部分がバルーンになってるのよ。バスケットを持ってお菓子を配るんなら死覇装より断然こっちの方がみんな喜ぶわ!」
「みぃあ?」
「ホントよ!さ、着替えましょ」
「みー」
いそいそと一護の死覇装を脱がせ、着替えさせていく乱菊。

ピンク色のワンピースを着せられた一護。スカートの部分はふわふわしたバルーン状で腰の所に大きなリボンがあった。
「やっぱり良く似合うわ〜。とっても可愛いわよ一護!次はリボンを結んでお終いよ」
と頭に大きなリボンを結んできた。首の後ろから頭の上で結ばれた大きなリボン。髪型もやや変わっている。
「ハイ出来た!可愛いわ!一護。靴と靴下を忘れちゃ駄目よ?」
「みゃう」
スカートの裾から覗く尻尾を振りながら返事をした一護は六番隊へと急いだ。

六番隊。
「んみゃーう!」
「んむ?一護か?」
「みたいっすね。偉くご機嫌な声ですね」
「入れてやれ」
「はい」
扉が開かれると、そこにはバスケットを持ってワンピースを着た一護が立っていた。
「んみゃーう」
スカートの裾を摘んでちょこんとお辞儀した。
「お前、それまた乱菊さんだな」
「みぃ」
とことこ中に入ってソファにバスケットを置くと中から青いリボンが結ばれたタルトを二つ取り出した。
ソレを持って白哉の所へ行き、先にタルトを膝に乗せると、よじよじとよじ登っていった。
「みゃくあ、みい!」
と差し出すといちごの甘い香りがした。
「・・・菓子か?」
「みゃぁ」
「おいおい、隊長は甘いもんは喰わねえぞ?」
そう言って横から手が伸びてきて、そのタルトを取り上げた。
「やー!みゃくあのー!やー!」
必死に両手を伸ばし取り返そうとする一護。
「隊長は甘いもんより辛いのが好きなんだって」
と言いながらリボンを解こうとする恋次に、
「やー!やー!」
と涙目になって泣きそうになっている一護。丸い耳もぺたんと、寝てしまっている。
「恋次・・・、そこまでにしておけ・・・」
いつの間にか千本桜を手に掛けている白哉。
「いや、隊長?」
「この様な幼子を泣かすとは・・・、嘆かわしい・・・、散れ・・・」
「みゃあ!」
慌てて止めに入る一護。
「む?良いのか、兄を泣かせたのだぞ」
「みゃあう、みぃ」
「む、恋次、茶を」
「は、はい」
お茶を淹れてきた恋次に一護が、
「みぃ、みぃ」
とバスケットを指差した。
「これか?ほれ」
と渡すと、中から赤いリボンのタルトを一つ恋次に渡す一護。
「俺にか。あんがとよ」
運ばれたお茶でタルトを食べる3人。
「ふむ、あまり甘くないのだな、苺の甘さだけでさっぱりしているな」
「そっすか?結構甘いっすよ?」
にこにこと笑う一護。
「もしかして一護、お前隊長用に甘くないの作ってもらったのか?」
「みゃあぅ」
「そうか、美味であったぞ一護」
と頭を撫でた。
「んみゅう」
嬉しそうに笑う一護。
「おい、こんだけあるってとは、配って歩くのか?」
「みい!」
ぴょんっと白哉の膝から下りるとバスケットを持って帰ろうとした。
「もう行くのか?あまり暗くならないうちに帰る様にな」
「みい!」
バイバイと手を振り、隣りの隊へ向かった。
「そういやぁ、この苺って昨日一護が摘んで来たんですって。乱菊さんが言ってましたよ」
「そうか」

七番隊。
「んみゃーう」
「んむ?一護か?」
「その様ですな」
隊首室に現れた一護は、さっきと同じようにちょこんとお辞儀した。
「おお、今日は一段と可愛らしい格好じゃのう。一護」
「うむ、良く似合っておるぞ」
「みゃあう」
照れた様にピコピコと動く耳と大きなリボンが揺れていた。
「して今日はどうした?大荷物だが?」
「み!みい!」
早速、バスケットの中身を取り出す一護。
「うん?菓子か、それは」
「みい!みゃあう、らんにゃう」
「ほう、お主が摘んで、松本が焼いた菓子か」
「ほう、乱菊さんがのう」
よいしょっとバスケットを持って帰ろうとするので、
「今日は食べて行かぬのか?」
「んー、みゃあう」
「そうか、まあ感想くらいは聞いて行っても良かろう?」
「み!」
大きな手で器用にリボンを解き、食べる狛村。
「みぃ?」
隊首席まで行って顔を覗き込む一護。
「うむ、苺も菓子も美味いぞ。一護」
「みゃあう」
嬉しそうに笑った。
「次はどこへ行くのだ?」
「みい?まあ!」
「ほお、四番隊か、ちと遠いな、送ってゆこうか?」
「みー・・・、みぁ?」
「よいとも、儂ならすぐだからな」
「みい!」
二人で四番隊まで行く事にした一護。

「その荷物は重くないのか?」
「みい!」
「そうは見えぬが・・・」
「一護、肩に乗せてやろう。少しは楽かも知れぬぞ」
「みい!」
喜んで乗せてもらう一護。
「しかし、松本も良くお主を着替えさせるな。可愛くてしょうが無いのだろうが最近やり過ぎではないのか?」
「ん〜?」
「まぁ。お主が嫌がって無ければよいのだが・・・。着いたぞ」
「みゃあう、みい!」
「よい、美味い菓子の礼だ。ではな」
と瞬歩で隊舎まで帰った。

四番隊。
「んみゃーう」
「あら、一護君の声だわ。きゃー!かっわいいー!」
着くなり黄色い声をあげられ取り囲まれた一護。
「きゃー、今日の一護君一段と可愛いわ!」
「やっぱりこの為に作らせたのね!乱菊さんてば!」
「み、みい・・・、まあ、まあ!まあ!」
怖くなって必死に卯ノ花隊長を呼ぶ一護。
「どうかなさったのですか?貴女達・・・」
「みい!まあ!まあ!」
「まぁ、一護君、こんなに脅えて、どうしたのです」
「みいぃ、まあ・・・」
抱き上げられてぐりぐりと胸に顔を擦り付ける一護。
「なんだか囲まれて怖かったみたいですよ」
「そのようですね、勇音」
「はい」
バスケットを持って、卯ノ花隊長の後を付いて行く勇音。
隊首室に入ると、
「もう大丈夫ですよ一護君」
「みぃあ?」
「ええ、そんな顔しないで下さいな、可愛いお洋服が台無しですわ」
「みゅう・・・」
「あの、隊長、これ・・・」
と勇音がバスケットを示した。
「一護君、これは?」
「みゃあ」
と中身を二人に渡すと、
「ああ、昨日摘んだ苺で作ったお菓子ですね?ありがとうございます」
「ありがとう、一護君」
「みい」
と返事すると帰ろうとする一護。
「もうお帰りですか?」
「みい、みああ」
「ああ、まだ配るのですね。頑張ってくださいね」
「みい!」
と言って隊舎を後にした。
「今日は本当に可愛らしい格好でしたね」
「そうですね、写真が欲しいですね」などと話していた。

一番隊。
「んみゃーう」
ここでも黄色い声が上がった。
「総隊長!一護君が来てくれました!」
「ほう、それで何をそんなに興奮しておる?」
「ご覧になればお分かりになります!ああ!なんて可愛らしい」
とその女性隊士は頬を紅潮させていた。
「じいにゃ!」
「おお、一護か、良く来たのぅ」
「みゃあう」
とちょこんとお辞儀した。
「ほう、今日はまた可愛らしいのぅ」
「西洋のおとぎ話に出てくる女の子の様ですね」
と雀部。
ちてちて、と近付いて、バスケットの中身を二人に渡す一護。
「うん?何じゃこれは?」
「苺のタルトですね。確か昨日苺摘みに行ってたそうですから、一護君が摘んだ苺でしょう」
「そうか、ありがたく貰うとしよう」
「ありがとう、一護君」
「みゃあう」
と挨拶して帰る一護。
「気を付けての」
「みい!」

二番隊。
ここは少し怖いけど、顔を出した。
「んみゃーう」
「む・・・」
中から出て来た砕蜂が一護を見た途端、
「みゃあぅ・・・」
少し怯えながらお菓子を差し出す一護が居た。
「なんだその格好は?」
「み?」
スカートの裾を持ち上げ首を傾げる。
(か、かわいい!)
「みぃ」
とタルトを差し出す一護。
「く、くれるのか?」
「みい」
砕蜂が受け取ると少し嬉しそうな顔をして、帰る一護。
(ああ、もう少し見ていたかった・・・!)
と内心悔しい砕蜂。

一護が歩いていると向こうから冬獅朗が歩いてきた。
「みゃあう!」
「お、一護じゃねえか、何だお前のその格好は?・・・松本だな」
「みい、みゃあ、みゅう」
とタルトを差し出す一護。
「俺にか?あんがとよ、これからどっか行くのか?」
「みゃあ」
と指差す方向は、雨乾堂。
「へえ、俺も用事があんだよ、一緒に行くか?」
「みい!」
二人で雨乾堂まで歩いた。

「おお!冬獅朗に一護君じゃないか!一護君は可愛い格好だなぁ!」
いいこ、いいこ、と頭を撫でられた。
「んやーう」
とくすくす笑った一護。
「冬獅朗はともかく一護君はどうしたんだい?そんな大きなかごを持って?」
「みぁ?みゃあう」
と苺のタルトを差し出した。
「それ一護が摘んだ野苺で作ったタルトだってよ。松本がはしゃぎながら作ってたぜ」
「そうなのかい、じゃあありがたくいただくね」
「みゃーう」
「で、冬獅朗の用事はなんだい」
「ああ、この間の破面の霊圧の事でな、書類が出来たから持って来た」
「そうかい、ありがとう」
「みぃ、みあう」
「うん?帰るのかい?お菓子ありがとうね、明日は俺があげよう」
「みゃあう」
バイバイと手を振り帰っていった一護。

帰り道でバスケットの中から音がしたので見てみると、一つだけタルトが残っていた。
「みー・・・」
一護は、流魂街に出ると、野苺の森に行った。
はあ、はあ、と肩で息をしながらきょろきょろと周りを見回してもやはりグリムジョーの姿は見えなかった。
しゅんとする一護が最後に残ったタルトを取り出すと、ハンカチの上に乗せて苺畑の所に置いて帰った。

木の上から一部始終を見ていたグリムジョーが下りると、ハンカチの上の包みを手に取った。
「何だこりゃ?甘え匂いだな・・・」
しゅるり、とリボンを解くと中から出てきたのは苺のタルト。
「ああ、昨日の・・・。わざわざ律儀なこって・・・」
がぶり、と一口食べると、
「甘ぇな、甘酸っぺえ・・・」
と二口、三口で食べ終えたグリムジョー。
「ふん、あほらし・・・」
と呟いてどこかへ去ったグリムジョー。

ハンカチの上には、花が置かれていた。








09/07/19作 第102作目です。その後を書いてみました。一護のリボンは柚木さんと相談して赤頭巾にするか、「魔女の宅急便」のキキみたいなリボンにするかで迷い、私が赤頭巾にしようとしたものの、耳が見えないじゃないか!と後で気付いてリボンにしました。キキみたいな感じです。



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