題「母の誕生日」
 夕飯が終わり、みんなで寛いでいると剣八がいきなりこう言った。
「おい一護、お前誕生日もうすぐだったな?」
「ん?15日だけど、どうしたよ?」
それを聞いた子供達が驚いた声を出した。
「本当ですか?お母さん!」
「マジか!」
「え、うん。明後日の15日が俺の誕生日だよ。心配すんな、ちゃんとケーキも予約したし!料理も作るからよ!」
ニッ!と笑う一護。
「他になんか喰いたいもんあるか?」
「や、そうじゃなくて・・・」
歯切れの悪い二人の息子に、やちるが助け舟を出した。
「ねぇ、お風呂入ったの?いっちー」
「ん?みんな入ったのか?」
「夕飯前に入っちゃたよ!」
「んーじゃあ、入ってくる」
とキッチンから出ていった。
「サンキューやちる、誕生日かぁ・・・、プレゼント要るよなぁ」
「何が良いんだろう?」
「お前らがくれたんだったら何でも喜ぶぜ。本だろうがなんだろうがよ」
ずずっとお茶を啜った。
「そうだよ!明日何か見てきなよ!」
「そうだな・・・、そうするか・・・」
「ん・・・、やちると親父は?何か買ったのか?」
「あー、まあな、俺は着物だ」
「あたしはねー!お菓子にしたよ!」
「じゃあ、かぶらねえな。よし!」
席を立ち部屋へと帰るグリ。
「お前もなんか買うのか?」
「はい、明日探してみます」
と言うとウルも部屋に帰って行った。

「金残ってたか?」
がさごそと机の中を漁っているグリ。ふ、と指先に紙の様な物が当たった。
掴んで出すと、今年もらったお年玉のポチ袋だった。中を覗くと手付かずで2万円が残っていた。
「こんだけありゃあ、いけるよな?」
誰かにプレゼントなど買ったことがないグリは、いくら使うものなのかもよく分からなかった。
「明日、学校終わったら、デパートにでも寄るか・・・」
お金を財布に入れて、何が良いか考えた。喜んでくれるだろうか?笑ってくれるだろうか?こんなにも楽しい事だとは思わなかった。ばふっとベッドに寝っ転がって、そのまま眠ってしまった。

「ふむ・・・、何がいいかな?」
剣八が本でも〜、と言うのを聞いて思い出した。この間、好きな本の話題で結構盛り上がった二人。
確か・・・、シェイクスピアがお好きだと言っていたな・・・。明日は本屋を巡ってみよう。
ウルも眠った。

風呂から上がった一護はキッチンに剣八とやちるしか居ないのを見ると、
「あれ?あいつらは?」
と聞いた。
「お部屋に帰ったよー」
と一護に飛びついてやちるが教えた。
「おっと!へえ、珍しいな。いつもは何だかんだで夜更かしすんのに」
「そうだな、やちるお前ももう寝ろ!」
「ぶー!また剣ちゃんいっちーの事一人占めする!」
「お前はこないだの誕生日ん時に1日一人占めしたろうが、俺は夜だけなんだからいいんだよ!」
「おい、俺の意志は?まるっと無視かよ?やちる、おいで」
「なーにー?いっちー」
ちゅっとほっぺにキスをしてやった。
「さ、やちる、子供は寝る時間だ。夜更かしすると美人になれないぞ?」
「やだぁ!じゃあ寝るー!おやすみ!いっちー!剣ちゃん!」
「おやすみ、やちる」
「おう」

ひょい、と一護を抱える剣八が寝室へと向かった。
「さてと、料理なんにしようかな?」
「何でも良いだろ?寿司にでもするか?」
「出前?なら俺がちらし寿司作るよ」
「自分の誕生日なんだから、お前が作んなくて良いだろうがよ。出前の握りにしとけ、片付けも楽だろ」
「んー、でも・・・、子供らには・・・」
「ガキも気にしねえよ、たまにゃあそんな日があってもよ」
「ん・・・・、そうする・・・」

翌日、放課後デパートに寄ったグリは、色々見たが良く分からなかった。
(服もなー、趣味があるだろうし、ぬいぐるみなんかは、やちる辺りか・・・)
派手な頭でうろうろしながら、エレベータ前の看板を見ていたら、『日用品・食器類』と書かれていた。
「ここなら、いいのあるかもな」
とその階へと向かった。
「うわー、結構あんなぁ。良いの見つかるかな」
きょろきょろと、見回しキッチン用品など、結構面白い物があった。
「何に使うんだよ、これ?」
顔を上げると、食器類を集めたコーナーがあった。中でも茶器に目が行った。
「これが良いかな?紅茶とか淹れてくれっし・・・。ティーカップとコーヒーカップ、どっちにするか・・・」
う〜んと悩みながら、見ていると可愛らしいイチゴ柄のティーカップがあった。
「ワイルドストロベリー・・・、ウェッジ・ウッド・・・。コレ良いな。8千円か、もう1個買えるな。やっぱ親父と一緒だと嬉しいかな?」
少し考え、2客買う事にした。近くの店員に声を掛ける。
「あ〜、すんません」
「はい」
「これ、二つ包んで貰えますか」
「ハイ。プレゼントですか?」
「あ、う、はい」
「では、少々お待ち下さいませ」
丁寧な対応で少し安心したグリ。

「お待たせ致しました。お会計こちらになります」
「ん・・」
2万円を渡すグリ。
「では、おつりの4千円でございます。こちらメッセージ・カードはどうされますか?」
「メッセージカード?」
「はい、お相手の方に何か一言添えると大変喜ばれますよ」
「そうか?じゃあ、誕生日のあるか・・、ありますか」
「こちらになります、余分にお入れしますね」
「あんがと・・・」
薄いピンクのカードには可愛い花が浮き上がっていた。
「いいえ、こちらこそありがとうございました。またお越しくださいませ」
最後まで丁寧だった。
「・・・他の店もあんたんとこみたいだったらいいのにな・・・」
ぽつりと零して、
「じゃーな、サンキュー」
プレゼントを持って家に帰ったグリ。

家に着くと部屋に隠した。メッセージはどう書こう?

その頃のウル。
本屋にて、目的の本を探していたウルは無いのを確認すると店を出た。
「ふぅ、これで3件目か。なかなか無いものだな・・・」
ふと、古書店が目に入った。
「ここにあると良いが・・・」
「いらっしゃい」
柔らかな物腰の老人が対応に出てきた。
「何をお探しで?」
「あの、シェイクスピアの本です。ありますか?」
「そうだねぇ、確かここら辺に・・・、ああ、あったよ僕」
「僕・・・?ありがとうございます」
結構揃っていた。
「どれが良いのだろう?」
「自分で読むんじゃないのかい?」
「あ、はい。母の誕生日プレゼントにと思いまして」
「へえ、偉いねぇ。これなんかは入りやすいよ、詩集「ソネット集」に「ジュリアス=シーザー」なんかは有名だね」
ぱらり、と中をめくると全て英語だった。
「これは・・・?」
「うん、外国で売られていたんだよ。物は良いよ」
手触りのよい表紙の本にウルキオラは、
「では、この2冊を頂けますか」
「ありがとう、大事にしてあげておくれ」
「かあ様は、きっと大事にしてくださいます・・・」
店主は丁寧な包装をしてくれた。
「はい、ちょっと高いけど、1万5千円になるけど良いかい」
「はい、ありがとうございます。また来ます」
「ありがとう、ぼうや」
ウルキオラはこの場所を忘れないように記憶した。そして家路に着いた。

「ただいま帰りました」
「お帰り、ウル。何か良い事でもあったのか?」
「いいえ、何故ですか?」
「いや、何か嬉しそうな顔だから」
「いえ、特には」
そう言って部屋へと帰っていった。
「ウル、ちゃんと手洗い、うがいしろよー」
「分かりました」
部屋で着替えを済ませ、手洗い、うがいも済ませた。

剣八達が帰って来て、夕飯となった。
いつものように時が過ぎていった。
「明日だな・・・、お袋の誕生日。誰か来んのか?」
「ん〜、いや来ないよ。みんな気を使ってこの日は避けてくれるから」
「ふうん。意外だな」
「そうか?結構考えてくれてるみたいだぜ」
「ああ、そういや明日は剣八非番だっけ?」
「ああ」
「じゃあ、荷物持つの手伝ってくれよ」
「荷物?」
「ケーキとかな」
「ああ、いいぜ」
そんな会話で終わり皆自分の部屋に帰った。

ウルが部屋にいると、ドアをノックされた。
「誰だ?」
「俺だけどよ・・・」
ドアを開けるとグリが立っていた。珍しい。
「何の用だ・・・」
「や、あのよ、お袋にやるプレゼントの・・・、メッセージカード、何書いたらいいのか分かんなくなってよ・・・」
「メッセージカード?」
「ん、お前にも1枚やるからよ。何か良いの無いか?」
「・・・入れ、母様に聞こえる・・・」
「お・おう・・・」
お互いを部屋に入れるのは初めてだった。
「これ・・・」
と出された小さいカード。
「ふ、ん・・・、名前とお祝いのお言葉で良いんじゃないのか?」
「この前の親父のケーキみたいにか?」
「そうだろう、この大きさではそれくらいだ」
「ん、わぁった・・・。やちるも要るかな?」
「何枚あるんだ?」
「5枚」
「なら、取り敢えずお父さんにも渡した方がいいぞ」
「おう・・・じゃな・・・」
「ああ・・・」

部屋に戻るとグリは、メッセージカードに一護の名前と自分の名前と「誕生日おめでとう。お母さん。」と書いた。
隅の方に小さく、「いつもありがとう」と書き添えた。
「こ、これでいいか・・・」
カードを二つに折るとプレゼントの入った紙袋を引き寄せ、リボンに挟んだ。
「喜んでくれると良いけどな・・・」
カードを2枚持ってやちるの部屋に行った。
「やちる、起きてるか?」
「んー、なぁに、グリ兄?」
「ん、これよ、プレゼントに付けるメッセージカードだ、親父の分とやちるの分。やるよ」
「わ!ありがと!いっちーも剣ちゃんも喜ぶよ!」
「じゃあな、お休み」
「うんお休み、明日楽しみだね」
「そうだな」

ウルも名前とお祝いの言葉を書いて、一言添えた。
「あいつも役に立つんだな・・・」
と呟いて眠った。

「おはよう、ご飯出来てるぞー」
「おはようございます」
「おはよ・・・」
「グリ、珍しいな、寝坊しないなんて」
「たまにはな・・・」
欠伸をしながら席に着いた。
「親父は?」
「まだ寝てるよ、昼には起きてくんだろ」
「剣ちゃん今日は忙しいから大変だもんねー!」
「まあな、お前らはちゃんと学校と仕事に行けよ」
「はーい!」
和やかな朝食となった。
「では行ってきます」
「行ってきやーす」
「行ってきまーす!いっちー!」
「行ってらっしゃい!」

朝食の後片付けをしていると剣八が起きてきた。
「おはよう剣八」
「おう」
お茶を淹れてやった。ついでに自分の分も。
「はい、お茶」
「ん・・・」
「飯どうすんの?」
「昼飯にする」
「あっそ、じゃあ、俺は用事あるからな」
と洗濯を始めた。次に掃除をしている。
洗濯が終わったので、庭に出て干し始める一護。
縁側に出て、眺める剣八。
白いシーツが光を反射して、一護が明るく光っていた。
「何だ、こっち来たのかよ」
「用事は終わりか?」
「そうだな、後はお前と昼飯食って買いもんくらいだな」
「んじゃ、しばらくこうしてろ」
「へっ!」
ぐいっと腕を引かれて、その広い胸に抱き込まれた。
「な、なな、なに!」
「良いからよ・・・。ちょっとこうしてろよ」
胸に一護の背中を抱き、離そうとしない剣八。
「どうした?甘えたいのか?」
「そうかもな・・・」
「しょうがねえな・・・、お昼までだぞ」
剣八の手に自分の手を重ねると身を委ねた。
「ん、一護・・・」
お昼までくっついたままの二人。

正午近くになり、起きて剣八を起こす一護。
「起きろ、飯喰って買いもん行くぞ」
「おう・・・」
大人しく二人で昼食を食べ終え、買い物に出掛けた。
「えーと、ケーキは傷むと嫌だから最後にして、料理の材料か」
「あん?寿司じゃねえのかよ」
「それもあるよ、肉と酒とジュースっと」
「こんなもんで良いんじゃねえのか」
「そうだな、、後はケーキだけだな」
最後にケーキを受け取り家に帰った。

家の帰ると早速料理をしだした一護。子供達の好きな唐揚げやサラダなどを作っておいた。
「お前の誕生日なんだから、のんびりすりゃあ良いじゃねえか」
「別にいつもと一緒でいいじゃねえの?俺の作ったもん美味い美味いって食ってくれんのすっげ嬉しいし」
「ふーん」
出来たての唐揚げに手を伸ばす剣八。
「あち、ん、美味」
「て、あ!つまみ食い食いすんなよ!暇なら、寿司の注文しとけよ!」
「へいへい」
特上寿司の握りを10人前注文した剣八。

子供達が帰って来て、宴会が始まった。
「お前こんなに頼んだのか・・・」
居間のお膳の上の寿司を見て呟いた一護。
「喰い盛りなんだ、食えるだろ。早くそれ置けよ」
両手に持った唐揚げの皿を受け取り並べていく。サラダを持って立っていたのはウル。
「どうぞ」
「おう」
良く冷えたジュースとお茶に酒で飲み食いが始まった。

「おう、一護これ俺からだ」
と渡された包み。
「ありがとう」
「あたしからはこれねー!」
じゃら、と言う音と共に甘い香り。
「ありがとう、やちる」
「これ、俺から・・・」
とグリから渡された。
「ありがとう、グリ」
「これは、俺からです」
「ありがとう、ウル」
両手いっぱいにプレゼントを抱え嬉しそうに笑っている一護。
「中見ても良いか?」
「どうぞ」
まずは剣八からの。
「わ、着物じゃん、高かったろ?」
「良いから貰っとけ」
「うん、ありがと。やちるのは?」
金平糖とお菓子の詰め合わせだった。
「あ、チョコが多いな。一緒に食べようなー」
「うん!」
「グリのは?あ、メッセージカードだ」
中身を読んでから包みを開けた。
「わ、ウェッジ・ウッドのティーカップじゃねえか、なんで2客?」
「あー、親父とお揃い・・・」
「そか、ありがとうグリ」
にっこり笑う一護にホッとした。
「次はウルな、本の匂いがするな・・・」
丁寧に包みを開けていく。
「あ、シェイクスピアじゃん!しかも英語かよ!探すの大変だったろ?」
「いえ・・・」
「だってこれ絶版になってるヤツだぜ」
裏表とひっくり返してみたり、手触りを確かめた。
「ありがとう、ウル」
本の間に挟まってたメッセージカードに目を通すと、丁寧に閉じた。
「さ!次はお待ちかねのケーキだぞ!」
と皆でケーキを食べてお開きとなった。

後片付けを息子達がやると言い出したので、頼むと寝室に連れて行かれた。
「おい、子供ら起きてんだぞ」
「知るか・・・、一護、どうして欲しい?」
「え・・・?」
「今日はお前の言う通りにやってやる。一護・・・」
「ん・・・!」
耳元で息を吹き込まれた。
「あ!ん・・・、いつもより・・」
「あん?」
「いつもより、優しく、して?」
「いつもは優しくないか?ん?」
「そ、じゃないけど、は、あ、いっぱい触ってほしい・・・」
「朝まで鳴かせてやるよ、一護・・・」
「ん・・?」
とろん、とした目で見つめると、
「お前が生まれてきてくれて嬉しいぜ・・・。じゃなきゃ逢えなかったんだからな・・・」
ちゅ、と優しくキスをした。
「ん、俺も嬉しいよ・・・」
甘い夜は続いた。








09/07/16作 第101作目です。エッチは少なめ。息子達が可愛いな。
あの古書店はウルのお気に入りになります。




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