題「新しい家族」10
 翌朝。
「ん、んん・・・」
白が目を覚ますと京楽は既に起きていたが、ずっと自分の髪を梳いていた。
「おはよう白。気分はどうだい?」
「ん、普通」
別段何も無いように言う。
「そう、よかった」
それでも京楽は嬉しそうに笑った。
「なぁ、朝の・・・」
「うん、頑張ろうね」
と朝の営みが始まった。

 朝食が済み死覇装に着替えた京楽。
「じゃ、行って来るね」
「ああ」
特にいつもと変わり無く過ぎていく日常。

 一週間後。
白は一護の所に夕月と行くと開口一番、
「一護、ガキ引き取りに行くけど家知ってっか?」
と聞いた。
「ううん、知らない。今日来たら案内してもらおうよ」
「そうだなー」

 お昼を過ぎた頃、子供たちが来た。
「いらっしゃい。来てすぐ悪いんだけどね、今日おうちまで連れてってくれないかなぁ?」
「なんでだ」
「親御さんとお話しようと思って」
「んー。分かった」
「剣八に言ってくるからちょっと待ってね」
と隊首室に行き、事の次第を伝えると、
「俺も行く」
とのっそり立ち上がった。
「え、お仕事は?」
「んなもん後でも良い。おら、行くぞ」
ずんずん先を行く剣八。
「なんだ?剣八も行くのか」
「ああ。お前ガキ置いてけよ、危なっかしい」
「どこに預けんだよ!春水仕事で居ねえぞ」
「ちっとの間だろ?京楽か卯ノ花のどっちかに預けろ」
と言われ取り敢えず近い八番隊に向かった。
「おい、春水!」
「なあに、白」
「今から流魂街のこいつ等んちに行くんだけどよ、夕月預かれ」
「・・・僕も行くよ」
「はあ?なんなんだ、お前等二人」
「山と違って流魂街は何があるか分からないからね。七緒ちゃん」
「はい。結構ですよ、なるべく早く帰ってきてください」
「ん、そうするよ」

 三人の子供と二組の夫婦(幼児連れ)で流魂街を行く。
「ああ、あそこだ!」
とグリが指を指す。案内された家を訊ねるとすぐ通された。
小さな家には褐色の肌の女性と小さな女の子が居た。
「誰だ・・・」
「俺達を学院に行くまで引き取ってくれるって言ってた人達・・・」
凛とした強い眼差しでこちらを見る女性。
正座する一護の横に胡坐の剣八。その横に胡坐を掻き夕月を抱く白、隣りが京楽。
「あ、あの、俺一護って言います。隣りに居るのが夫の剣八、十一番隊の隊長やってるの」
「よろしくな」
「その隣りが俺のにぃに、その隣りが旦那様の京楽さん。八番隊の隊長さん」
「白だ、よろしくな」
「京楽春水って言うんだ、よろしく。この子が夕月」
あぶぶ、と言いながら京楽の髪を引っ張っている。
「あの、急にこんなに来てごめんね。だけど三人を引き取るんだったらご挨拶に来た方がいいと思ったの。入学して6年は学院に通う事になるし、入学するまで俺達の所で預かるんだし・・・」
「そうか・・・わざわざすまない。ありがとう」
心配そうな顔をしている子供たちを外に出すと大人の話になった。
「あの、学校もお休みってあるから、その時は帰って来れるんだよ」
「いいや、勝手を言ってすまないが休みであろうと帰らせないでくれ・・・。里心が付くのは・・・」
「・・・良いの?」
「・・・ああ、あいつらは覚悟はあると言っていた。ならば正式な死神になるまで帰ってくるなと言えば気丈にも頷いた」
とても優しい目で外に居るであろう子供たちを見つめる。
「じゃあ!迷惑でなかったら俺色々報告に来るよ!成績表とか、写真とかもいっぱい撮って持ってくる!」
「とてもありがたいが・・・」
「良いじゃねえか、一護がやりてぇって言ってんだからよ」
と白が言う。
「それでは、あいつらも我儘ばかり言うだろう、暴れるだろうがあいつらをよろしく頼む」
と深く頭を下げたハリベル。
「こちらこそ。うちの子と同じに扱うからね?怒るし、泣かせるかもしれないけど大切に育てるから。信じてくれてありがとう」
と頭を下げた。
二人が頭を上げると剣八が一護の頭を撫でた。

「その子は・・・?あんたの子か?」
「ああこないだ生まれた。もう一人いる。姉妹でな」
夕月をあやす白。
「可愛いな・・・」
「ああ、お前んトコのもな」
幼子を挟み白とハリベル、二人の母親の会話があった。
荷物を纏め家を後にする三人。ハリベルの足にしがみ付くネルが居た。
「今まで、ありがとうな!ぜってぇ死神になって帰ってくるから!」
「俺も今よりもっと強くなって見せるからよ!」
「どうか元気で。ネルも」
「ぶわぁああ〜ん!」
ハリベルの足に顔を埋め泣いてしまったネル。
一護がしゃがみ込み、頭を撫でてやりながら、
「ちゃんと元気かどうか知らせに来るからね?お兄ちゃん達を笑って見送ってあげてくれるかな」
「やく、約束!だすよ!」
「うん」
漸く笑ってくれたその顔は、涙と鼻水でグチャグチャだった。
三人も必死で泣くのを堪えている。
そうして瀞霊廷に戻っていった一行。

剣八の所へは、グリとノイ。京楽の所にはウルがそれぞれ引き取られていった。
グリとノイは同じ部屋で寝起きすることになった。さてウルは・・・?。

 京楽邸。
荷物を置いたウルを白が呼ぶ。
「なんでしょうか・・・」
「そこ座れ」
素直に座る。
「春水」
「はいはい」
京楽が三方を持って入って来た。それには盃が一つと徳利が乗っていた。
「??」
「お前は今からこの家で暮らす」
「はい」
「俺はな、他人と暮らす気はこれっぽちもない」
「!!」
「他人と暮らすのは居候ッて云うんだってよ。だからな・・・俺はお前と親子の盃を交わす」
「親子の盃・・・」
「ん!この盃に入ってる酒を交互に飲むんだ。作法なんて俺の知らねえからな。要は『親子になった』って分かれば良いんだよ」
と言いながら盃に舐める程度の酒を入れた。
「これを飲むんですか?」
「ああ、ま、お前はまだ子供だし俺も乳やらなきゃダメだからな。舐めるくらいで良いんだ、ほれ!」
「あ、はい」
くっ!と呷ると元の所に置いた。
「次はお前が俺に注ぐんだ。さっきと同じくらいで良いぞ」
「は、はい」
ちょろ、と注がれる酒をくい!と呷る白。
「これで俺達は親子だ。母親だろうが父親だろうが好きなように思え。俺だって人の生活始めて短いしな。俺が教えられる事は教えてやる」
「分かりました」
そしてウルの為に用意した部屋へ案内した白。そして新しい家族がまた一人増えた。

 それから数日が過ぎた。最近京楽の身体から知らない女の匂いがする事にイライラしている白。
夜二人で抱き合っていると、白の鼻を知らない女の匂いが掠めた。今まで溜めていた感情が一気に溢れ出た。
「俺を捨てたら喰い殺してやる・・・!お前は俺と朝月と夕月のだ!他の女にも男にも渡さねえ!」
背中に爪を立てながらしがみ付く白は泣いてる事にも気付いていない
浮気なんかしてないのにそんな事言われて、うーうーと泣いてる白を一生懸命あやす京楽。
「何があったの?僕が君以外を選ぶはずないでしょう?ね?泣きやんで、奇麗なお顔が台無しだ」
と目の端の涙を唇で吸い取った。
「だって、だぁってぇ・・・、最近ずっとお前の身体から女の匂いしてるじゃねえか、いつも違う匂いだし・・・、なんでだよ、嫌だよ・・・春水のばかぁ・・・!」
「女の人の匂い?」
ちょっとびっくりした顔をした京楽。すんすんと自分の腕を匂ってみる。
「浮、浮気、した、ら!く、食いちぎってやる!」
「怖いなぁもう。それに浮気じゃないよ。多分四番隊の子の匂いだよ。色々聞きに行ってたんだよ」
「何を・・・?」
「ん・・・、夕月の目ね、色が薄いだろう?太陽の光に弱いんじゃないかなって聞きに行ったり、(丸薬とドリンクとかね)君の体の事とかさ、皆で温泉に行こうと思ってね。温泉行くのもう大丈夫だって言ってたよ」
「ホントか・・?」
「うん。信じて?僕の世界は君が居ないと何にも無いんだよ。色も音も匂いも。だから・・・」
「ん・・・分かった。信じる、ごめん、な」
「僕こそ!君に一言言ってたら良かったのに」
深く深く口付ける二人。
「ん・・・ンァ、温泉、ウルも・・・?」
「もちろん。一護君達もね・・・」
「良かった・・・、あん!」
そして夜が更ける。

 翌朝。
食事の時間になっても白も京楽も現れないので朝月に聞いてみるウル。
「ああ、この時間ならまだ寝てるんじゃない?ほっといたら起きてくるわよ」
ふわ、と欠伸した。
お手伝いさんにも聞くと、
「そうだねぇ、そろそろ起こしてみても良いんじゃないですか?」
と言われたので寝室に行った。
ポスポスと障子を叩き声を掛ける。
「あの、おはようございます」
と障子を開けると朝日を浴びながら眠る白が居た。
白い髪が朝日に照らされキラキラと光りとても美しく思わず見惚れてしまったウル。
白を腕に抱きながら寝ていた京楽が気付いて起きた。
「何か用かい?」
と訊ねると、
「あの、朝ごはんの用意が出来たと・・」
「ああ、ありがとう、白、起きて?朝だよ」
「・・・ん〜〜・・・ねむい・・・」
「しょうがないなぁ、先に食べててくれるかい?朝月も分かってると思うから」
「はい・・・」
障子を閉め、今に行くと朝月が、
「言ったでしょ?勝手に起きてくるわよ。今日は仕事だし」
「そうなのか・・・」

 一時間後。二人揃って食卓に着く。顔色の冴えない京楽とツヤてかの白。その首筋に赤い跡が付いていた。
「あ?何だ、何か付いてるか?ウル」
「え、いえ。なにも・・・」
「ふうん」
首筋の赤い跡について何も言えないウルだった。

 お昼過ぎ、暇つぶしに夕月と散歩に出る白。今日は朝月が白哉のうちで遊ぶとか言ってたなと思い出し、屋敷に向かった。
「おい、うちの朝月来てるか?」
と声を掛ければすぐに門が開けられ中に通された。
「かか様!どうしたの?」
「暇だから遊びに来た」
「白か、丁度良い所へ来たな。子供達に菓子を出そうとしていた所だ」
「ふうん」
十六夜や朔、幾望、朝月、やちるが慣れたように縁側に集まる。
「白、座布団を用意した。ここへ座れ」
「おー」
出されたお菓子は落雁だった。
パクリと一つ食べるとほろほろと上品な甘さのその菓子は茶とともに溶けてなくなり白はそれが気に入った。

 その帰り道、乱菊に掴まり首筋の跡の事でからかわれた白。からかわれて初めて首筋の跡に気付いた白だった。
その夜。
「おい、あんま見えるトコに跡付けんな」
「なんで?白は僕のなんだから良いじゃない・・・」
「乱菊にからかわれんだよ!何なんだ、最近・・・?」
「・・う〜、最近白は僕を構ってくれないじゃない・・・」
「はあ?」
「あの子が来てから僕は後回しだよ?気付いてる?」
「はぁ・・・、馬鹿春水、こっち来い・・・」
「なに・・・?」
近付いて来た所を思い切りデコピンされた。
「いたぁ!なにする・・・ん!」
白から口付けされ驚く京楽。
「ガキ二人もこさえて泣きごと言うんじゃねえよ、お前が俺を選んで、俺もお前を選んだんだから良いじゃねえかよ」
「白、・・・・うん、ごめ〜んね」
「うっせ・・・」
グリグリ甘える京楽だった。


 数日後。
「一護に聞いたけどお前辛いモン好きなんだってな」
「うむ」
「これやる。こないだの美味かった」
「なんだ・・・?」
「春水に辛い菓子出せって言ったらそれ寄越したぞ」
それは生姜の使われた辛味の強い菓子だった。
「気にせんで良かったのだぞ。・・・だが有り難く頂戴しよう」
「ふん・・・」
その日は黄身時雨が出され、子供たちと共に食べた白。
「京楽は徳利最中を持って帰ってくるか?」
「ああ、あの変な形の・・・。いやぁ、最近はねえな。なんでだ?」
「そなたはまだ夕月に乳をやらねばいかんからな。酒の類は悪影響を及ぼす。気を付けよ」
「へえ・・・。あんがとよ」
まふっ!と菓子を口に入れ、
「そういや朝月ん時も飲まなかったな、匂いもしなかったしよ」
「ふ・・・、あやつもそなたと子がこの世で一番大切なのだろう」
白は隣の白哉を見て目を細めた。
「そんなん俺もだ」
ふん、とそっぽを向いた白の耳が若干赤くなっていたのを白哉は見逃さなかった。

 家族それぞれに柄に絵柄の入ったスプーンのセットを誂えている京楽。
「春水、お前夕月のスプーンとか作るんだろ!?だったらウルの分も作れよ」
「え〜・・・嫌だよ、何言い出すの?白」
「一緒に暮らしてんだから良いだろうがよ、作れ!」
いじいじし出す京楽にキレる白。
「作んないならヤラせてやんねえからな!」
「ええ!そんなぁ!夕月のお乳はどうするのさ!」
「白哉がいるし!剣八も居るぜ!あいつらも霊力デケえし、垂れ流しにしてる横に座ってたら乳が張るかもな!」
「うう〜!」
「どうする?新しいスプーン作るか、娘に他の男の霊力で出た乳飲ますか?」
強気な言葉とは裏腹に眉根を寄せ、眉尻が下がっている白。
「解ったよ、どんなデザインが良いの?」
次の瞬間にはパァッと明るい顔を見せ、
「あのな!黒猫!猫が良い!あいつの髪、猫みたいなんだ!そいふぉんの所の黒猫触った時気持ちよかった!」
「ハイハイ、黒猫ね・・・」
若干項垂れる京楽の首に腕を絡ませ、
「春水」
「ん?」
「あんがとな、俺だって他の男の霊力で出した乳やりたくねえ。春水だから、春水の子だから・・・」
と上目遣いで言うと力強く抱きしめられた。
「白ったら!もう!僕だって!僕だって!」
「ん・・・ごめんな、あんなこと言って」
「僕こそ、子供みたいな事言って・・・」
チュッチュッとリップノイズを響かせ白を蒲団に押し倒す京楽。

新しい銀のスプーンセットが二組届き、新しい家族が増えたことを白は喜んだ。







10/11/07作 もうちょっと長くなる予定でした。アレは温泉編で入れるか・・・。入るのか?
スプーンセットは、フォークとスプーンのセットです。ケーキとか食べる時はこれを使う白ちゃんち。

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