題「野いちごを摘みに」ちび子猫、青い豹に出会う
 今日一護は、弓親にお弁当を作ってもらって流魂街の山に野いちごを摘みに来ていた。
摘んだ苺は乱菊がお菓子にしてくれると約束してくれたので、張り切っている。

新しい青いリボンを尻尾の先に付けている一護の格好は、甚平の上にかぼちゃパンツだ。
かぼちゃパンツ姿の一護が人気になったので卯ノ花隊長がまた差し入れに持ってきた。
バスケットを持って、尻尾を振り振り、歩く姿は見る者をメロメロにした。

野苺がたくさんある所に着くと一護は見知らぬ者に出会った。
白い服を着て、寝っ転がっているそれは青い髪をしていた。興味を惹かれた一護は近付いていった。
顔を覗き込むと、不機嫌に眉間にしわを寄せていた。
「みー?」
ワシャワシャと髪を撫で回した。綺麗だと思って触ってみたくなったのだ。
「なんだテメエは・・・。耳?尻尾?」
「みゅう」
尻尾をくねくね振っている。その先には青いリボンが付いていた。
じーっと見ていると、微かに知っている霊圧だったので、
「黒崎か・・・?」
と聞いてきた。
「みい!」
その男は破面、十刃のグリムジョーだった。
「何だ、お前・・・、その姿・・・」
「みい?」
5歳の子供の身体に猫耳に尻尾。軽くめまいを感じた。
「どうでもいい、どっか行け。俺は機嫌がワリいんだよ!」
「ふみゅ?」
小首を傾げる一護。
ぐ〜、きゅるるる。と腹の虫が鳴いた。
「あう」
一護はいそいそとバスケットの中身を広げていった。
「何やってんだ?お前・・・」
ナプキンを広げて、弓親特製のお弁当を出していった。今日はサンドウィッチだ。
ハムとレタス、きゅうりのサンドウィッチと卵サンド、おかずは唐揚げと、タコさんウィンナーカニさんウィンナー、ウズラの卵で作ったゆで卵はひよこの顔を作ってくれている。野菜も食べなさいと、ブロッコリーの塩湯でと、人参のグラッセが入っていた。水筒の中身は甘いミルクティーだった。
「みぃあ」
「あん?俺にも喰えってか」
「みゃう」
サンドウィッチを一つ差し出す。ガキに怒っても仕方ないと渋々食べるグリムジョー。ソレを見てにっこり笑う一護。
パタパタと尻尾が揺れている。
おかずも半分こにして、嬉しそうに食べている。
(何なんだ?こいつ)
「甘ぇ・・・」
ミルクティーを飲んで一言洩らした。一護もこくこくと飲み干して、けぷっと満足気にしている。

その頃瀞霊廷では、破面の霊圧が感知されたと騒いでいた。隠密機動も動き出した。

お昼を食べ終わった一護は、うつらうつらし始め、グリムジョーの横で眠ってしまった。
「何だこいつ、ほんとにただの猫じゃねえか」
一護の耳を軽く引っ張ると、ぴるるっと震えて、
「ううん・・・」
ともぞもぞ動いてグリムジョーにくっ付いてしまった。
「こいつ、警戒心ねえのかよ・・・」
どうでもいいとばかりにグリムジョーも眠りの態勢に入った。

1時間ほど経った頃一護が目を覚ました。横にはまだグリムジョーが居たので、よじ登ってみた。
「おい、重いぞ、どけ、ガキ」
「いにゃ」
どこかうっとりとした目で自分の髪を見ているのに気付いた。
「何だ、髪が気になんのか」
小さな手を伸ばして、さらさらと撫でては笑う一護。
「変な奴だな・・・」
「んー?みゃあ」
と空を指差し、また髪を撫でた。
「あん?空に似てるってか」
「みい」
むくり、と起き上がると転がっていく一護。
「みああ、み!」
ふるふると頭を振ると、驚いた顔をした。グリムジョーの左腕が無かったのだ。
「あん?これか?東仙の野郎にやられたんだよ」
忌々しげに顔を歪めるグリムジョーの肩に手を伸ばした一護は音もなく涙を流した。
「なんでお前が泣く?お前は痛くねえだろ」
「み、みあ、みああ!」
「ひどいたって、俺らにゃこれが普通だ。鬱陶しいから泣くな、食うぞ!」
「みゅう」
こしこしと、目をこする一護。グリムジョーはささくれ立っていた感情が凪いでいるのが分かった。
「で、お前ここで何しようとしてたんだ?飯喰うだけじゃねえだろ」
「み!みい!」
クイクイと袖を引っ張って、こっちこっちと連れて行く。
「なんだよ」
「みい!」
ソコは天然の苺畑だった。
「これ摘みに来たってか」
「みゃあ!」
ぴん!と立った尻尾から嬉しいのだと判断できる。
カラになったバスケットに、摘んだ苺を入れていく。仕方なしに手伝うグリムジョー。
「こんなに取ってどうすんだよ」
「ん?みい、みゅあう!」
「菓子にする?ガキは甘いもんが好きだな」
少し呆れてしまった。
「みぃ、みゃあう?」
「明日?知らねえよ気が向きゃいるんじゃねえの」
ぷちぷち、と苺を摘んでいくグリムジョー。だが隠密機動がそこまでやって来ていた。
「ちっ、厄介なのが来たみてえだな」
「ん?」
とてとて。と畑から出ると隠密機動に声を掛けた。
「みゃあ!」
「これはこれは。黒崎殿、今日はお一人ですか?ここで何を?」
「みい!」
とバスケットの中身を見せる。
「ああ、苺を摘んでいたのですか。今敵が侵入しているそうなのでお早めに帰った方が良いですよ」
「み」
と、バスケットから飴を取り出すと差し出した。
「ありがとうございます。それでは」
と相好を崩し去っていった。
「おい、何勝手な事してんだ?俺を庇ったのか?あいつを庇ったのか?」
「ふん?」
こてん、と首を傾げて、また苺摘みに精を出した。
「・・・まさか、遊びの邪魔されたくなかっただけかよ・・・」
「みー」
ぴっこらぴっこら、尻尾を揺らして苺を摘む。
「変なガキだぜ・・・」

バスケットがいっぱいになると、帰る一護。
「みいあ?」
「だーから、分かんねえっつの」
「みー・・・」
一緒におやつ食べたかったのに・・・。
「大体、俺はお前らの敵だろうがよ。危機感のない奴だぜ。さっさと帰りやがれ」
「みゅー・・・」
一護は最後にすりすりと顔を擦り付けて、バイバイ、と手を振って帰っていった。
「ったく、変なガキだ・・・。俺も帰るか。胸糞ワリィけどな・・・」

翌日、乱菊に作ってもらった、苺のタルトを持って昨日の所へ言ったが、もう二度と会えなかった。
少し悲しくて、泣いてしまった一護。
「みゅう、みゅう・・・」
「何やってんだ?一護」
「剣にゃん・・・」
「何泣いてんだ・・・」
「みー・・・。みゃう、みゃう・・・」
「甘い匂いだな、菓子でも持ってんのか」
「みゅ」
と苺のタルトを出した。
「喰わねえのか?」
二つ持っていたので、一つ差し出した。
ガブッと二口で食べ終わった剣八。
「ふん、悪くねえ味だな、ほれお前もさっさと喰え」
「あむ、むんむん、んくん、あむ、むんむん、んくん」
甘酸っぱい味の苺のタルト。束の間の不思議な出会いの思い出になった。








09/07/12作 98作目です。
ワンピースにするかちょっと迷いました。グリムジョーは、ぷち家出の最中でした。



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