題「親心」
 この日、白は一護の所に遊びに行った朝月を迎えに行くついでに散歩を楽しんでいた。
すると突然、
「あなたが春水様の奥方様かしら?」
「あ?」
散歩の途中に後ろから声を掛けられ不機嫌そうに振り返る白。
そこには、着飾り数人の従者を引き連れた若い女が立っていた。貴族らしい女に白は一瞥しただけで立ち去ろうとした。
「お待ちなさい!話がまだですわ!」
「俺には無い、失せろ」
キツく睨み付けるが引かない女。
「あなたが春水様の前に現れてから、あの方はわたくしの元に来なくなったのよ!アナタなんかが春水様と釣り合う訳が無いのよ!」
「だったらなんなんだ?」
うんざりした様に言う白。
「言うまでも無い事よ、即刻春水様の元から消えなさい」

 はぁ、と溜め息を吐く白。ふと背後から、
「し〜ろ!何してるの?こんな所で?」
京楽に抱きつかれた。
「うぉ!お前な、外でそうゆうのやめろ」
「や〜だよ、で?何してたの?」
「別に?お前の昔の女が突っかかって来たんだよ」
「昔の女?」
不可解な顔をする京楽。
「春水様!お久しゅうございます!」
先程とは一変して恭しく頭を下げる女を嫌悪する白。
「・・・あぁ、え〜と、兄貴の奥さんの友達だっけ?僕の奥さんに何か用でも?」
女の顔色は真っ青になった。
「え?友達?そんな・・・!わたくしは春水様に嫁ぐつもりでお待ちしていましたのに!」
京楽は困った顔をして、
「困ったなぁ、なんでそんな話になってるの?僕もう結婚してるのに」
そう告げる京楽。
「そんな・・・!父からお聞きでは無いのですか?」
「くっ!一人相撲かよ」
ぽつりと呟く白を睨み付ける女。

「この女が!この女が春水様の傍に居るからだわ!早く消えなさいよ!この女狐!」
「おいおい、八つ当たりすんじゃねえよ。テメエはこいつに選ばれなかっただけだろうが?憐れだなぁ、貴族女!」
次第にイライラしてきた白に気付いた京楽が、
「さ、早く朝月迎えに行こう」
と言うとその女が猛然と、
「子供・・・、そうだわ!あなたなんてただの化け狐じゃないの!おぞましい!あなたもその子供も化け物じゃないの!」
その言葉を聞いた白が思い切り、手加減すること無くその女の頬をぶった。
バッチーンッ!と音がその場に響いた。
「な!な!何するのよ!野蛮ね!」
「俺が野蛮ならテメェはただの下衆だ・・・」
白は冷たい目で女を見くだす。京楽は、
「あ〜あ、言わんこっちゃない、君が悪いよ?他人(ひと)の家庭に首を突っ込むんだもん」
と傍観していた。

 女は悔しそうにぶたれた頬に手を当て唇を震わせると今度は一護まで中傷の標的にした。
「兄弟揃って隊長格を籠絡するなんて、その辺りの淫売より良い仕事するのね!」
次の瞬間には白の裏拳が反対側の頬に入っていた。勢い良く倒れる女の顔面を蹴りあげる白。
流石に京楽が止めに入った。背後から抱き竦めて動けないようにした。
「白!流石にやり過ぎだよ!落ち着きなさい!」
それでも白はまだ動く足でその女の顔を踏みつけた。メリメリと音を立てる度に悲鳴をあげる女。
「おい・・・、さっきから黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって、勘違いすんじゃねえぞ?俺がコイツを選んだんじゃねぇ。
コイツが俺を選んだんだよ・・・。この意味が分かるか?あ?俺は選ばれた、お前は選ばれなかった。それだけだ・・・。子供も一護もテメェに関係ねぇんだよ・・・」
「分かったから!足をどけなさい!白!」
「ケッ!」
足をどけた白から手を離す京楽。
まだ呻いている女の髪を掴んで顔を上げさせると、
「朝月がここに居なくて有難いと思えよ・・・、あんな汚らしい言葉を朝月に聞かせたら死ぬより酷い目に遭わせてやるよ・・・」
と冷たい、研ぎ澄まされた刃物を思わせる光をたたえた目で覗き込まれて心底震えあがる女。

「行くぞ、時間の無駄だ・・・」
「そうだね〜、早く朝月迎えに行かなきゃね」
颯爽とその場を立ち去る白の後ろ姿は、その場に居た誰よりも凛々しく、気高かった。

 十一番隊隊舎。
「朝月!帰るぞ!」
「あ!かかたま!ととたまも!」
無垢な笑顔で走り寄る我が子を抱きあげる白。
その顔は先程の殺伐とした気配はなく柔らかな母親の顔に戻っていた。
「白」
「うん?」
「今日は家族で外食にしようか?」
「あん?何だよ、いきなり?」
「ん〜?何とな〜くね。ダメ?」
「別に良いけどよ、朝月、とと様が今日は外でご馳走食べようってさ」
「お外で?寒くないの?」
「はは、違うよ、朝月。おうちじゃない、料亭で食べるってことだよ。お寿司にしようか?」
「お寿司?俺もまだ食ったことねえな」
「じゃあ、決まりね、今から行こう」
「おお・・・、じゃあな一護」
「うん、楽しんで来てね、にぃに」
手を振る一護。

 京楽の行きつけの高級寿司屋に行くと京楽は、白と朝月の為に完全個室を選んだ。
「何にする?」
「だから食ったことねぇって」
「朝月も!」
「ん〜じゃあ、この「雅」ってやつを二つと「あやめ」を一つと朝月に巻きずしとお稲荷さんのセット。で良いかな?」
「良いんじゃね?」
それで注文した。

 注文したものが運ばれて来た。京楽は水を水差しでくれるように頼んでおいた。
「あっ、来たね」
「なんか酸っぱい匂いがするよ?ととたま」
「うん。お酢の匂いだよ、ハイ!朝月は「あやめ」と巻きずしとお稲荷さん!」
「あい!わぁ!小っさいおむすびみたい!」
「ふふ、可愛いねぇ、ハイ、白は僕と同じ「雅」ね!白、わさびは大丈夫かい?」
「わさび?なんだそりゃ?」
「あ、やっぱ知らなかったんだ・・・、このすしネタの下に付いてる薄緑のやつなんだけど、辛いよ?」
「ふ〜ん。朝月のには?」
「入って無いよ、子ども用だからね」
「へぇ、まぁ食ったことねえけど毒じゃないんだろ?」
「うん」
「じゃぁ、いけんだろ」
とイカの握りずしを一貫、一口で食べた。
始めのうちは普通だったが、次第に涙目になってきた。
「〜〜!!」
「ああ、白!鼻抓んで飲み込んで!」
「ぷはぁ!水!」
「はい!」
コップ一杯の水を飲み干した白。
「あ”ー!何だよこれ!辛いっつーかイタイ!!鼻が馬鹿になったらどうすんだよ!」
隣りの京楽をばしばし叩く白。まだ涙目で鼻声だ。
「痛い痛い、やめなさい白」
「う〜、まさかこれ全部に入ってんのかよ?」
「そうだよ〜」
「げぇ!」
「かかたま、食べないの?朝月のあげようか?」
京楽の胡坐の中に座っている娘が声を掛けてくれる。
「優しいねぇ、朝月は。ほらどうするの?かか様」
「むう、朝月は腹一杯喰え」
「朝月のいっぱいあるからいいよ?はいあ〜ん」
とお稲荷さんをくれた。
「あーん」
と食べる白。
「あ、甘いな、これ」
「おいしい?かかたま」
「ああ、朝月があ〜んってしてくれたからな」
なでなでと頭を撫でてやった。
「うきゅ!嬉しいな!こっちの黒いのも!はい!あ〜ん」
「あーん!」
「白と朝月ばっかりイチャついてずるいなぁ、僕も混ぜてよ」
「ほれ、あーん」
と白がタコの握りを食わせた。
「ん、美味しいねぇ、白、わさびが嫌なら取るか、違うやつ注文するかい?」
「今からだと時間掛るだろ、我慢する・・・」
そう言って鼻をつまんでわさび入りの寿司を食べる白。
「うぅ〜、明日の朝、大丈夫だろうな?」
「平気だよ、そんなに心配しなさんな」
「そうかよ。朝月はどの寿司が気に入った?」
「えっとね?えっと、ノリ巻きさん!」
「ヘー、何でだ?」
「あのね、中のこうやドーフが甘くておいしい!」
「そっか、お稲荷さんは?」
「これも好き!甘いもん!後はたまご!」
「そうかそうか、朝月は好き嫌いが無くて偉いねぇ」
「そうだな、いっぱい食って一護んとこのガキくらい大きくなれよ?」
「うん!でもかかたまのおっぱいのほうがおいしいよ?」
「そうか、これは朝月だけのだもんな」
「ねー!」
「あー、ずるいねぇ、とと様にもちょうだい?朝月?」
「何言ってやがる!馬鹿春水!」
「んー、いいよ!ととたまだけ特別ね!」
「わ!嬉しいな!ありがと朝月!」
じょりじょりとヒゲを朝月の頬に擦り付ける。
「やーぁ!いちゃーい!ととたま、や!」
きゃっきゃっとはしゃぐ愛娘。その横で無言で寿司を食べる白。
「あれ?食べれるようになったんだ、白」
「あー、さっきな、お前のも食うぜ。さっさと喰え!」
「はぁーい」
食事を終え、家路に付く3人。

 満腹になったので家に着くとすぐ寝てしまった朝月。
「寝ちゃったねぇ・・・」
「ああ、腹いっぱいなんだろ」
「所でねぇ、白。さっきの話なんだけど・・・」
「あん?」
「僕にもおっぱい分けてくれるっていうヤツだよ」
「あ!あほか!てめえ毎日吸ってるクセに!」
耳まで真っ赤になって怒る白。
「そんなに照れなくてもいいじゃない、か〜わいいねえ、ウチの奥さんは」
「この馬鹿!」
そんな会話がなされていましたとさ








09/06/05作 第94作目です。京楽さんは貴族の女とは本当に関係ありません。兄嫁と仲が良いってだけです。
後、お寿司屋さんでは完全個室にしてもらってます。どうなるか多分分かってたから。
でも白は結構お寿司が気に入ります。朝月は巻寿司がお気に入りに。

06/06に加筆修正。ワサビの洗礼を受ける白でした。ちょっとだけでしたが・・・。
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