題「四月の愚者〜吐いて良い嘘、悪い嘘〜」8
 やや時間は遡り、一護が四番隊に戻った頃。
自分の病室に戻った一護はベッドに倒れ込んだ。
「あ〜、腰が痛ぇ・・・、あんな事言った俺も俺だけど、あいつも手加減ぐらいしろよな・・・」
とぶつぶつ文句を言っていると斬月に声を掛けられた。
(一護・・・。記憶の方は大丈夫なのか・・・?)
「斬月・・・、心配掛けてワリィな。なんか良く分かんねえけど今のところ昨日の事は覚えてるよ・・・」
頬を染める一護。
(そうか。他の者達の事はどうだ?なにか思い出したか?)
「会ってみねぇと分かんねえな」
(そうか、丁度卯ノ花が来たぞ)
「え、あ、ほんとだ」
「おはようございます。一護君、今朝の調子はどうですか?」
「良い、と思います。卯ノ花さん」
「え?一護君?思い出したんですか?」
「多分・・・、ですけど。でも会わないと分かんないです」
「そうですね、焦りは禁物です。でも回復の兆しが見えて良かったこと」
まるで我が事の様に喜んでくれる卯ノ花に一護は心から感謝した。

それから、一護は朝食を食べ、見舞いにきた人たちを思い出していった。
「なんで、急に思い出せるようになったんだろ?」
「恐らくは更木隊長のおかげでしょうね。でも原因もあの方ですからね、プラスマイナスはゼロですね」
と結構辛辣な事を言う卯ノ花隊長。
「そうですね」
笑いながら返す一護。忘れていた人達を思い出す度に心の穴が塞がっていく一護。
まだ大きな穴は残っているが・・・。
「ちょっと疲れましたね・・・」
「では、お昼寝でもなさいますか?まだ怖いですが・・・」
「俺もですよ。でも眠いです・・・」
そして一護は眠った。

昼時に、剣八が四番隊に訪れた。
「これはこれは、更木隊長。どうなさいました?」
卯ノ花隊長が対応すると、
「一護は?ここに帰ってるか?」
「ええ、今お昼寝中ですわ」
そう聞くと一護の病室へと向かった。その手には青い花が握られていた。
「止めなくて良かったんですか?隊長」
「一護君が許しているようですからね。周りが口出しすることでは無い事でしょう、今回は」

一護の病室に入ると、枕元に一輪挿しに同じ花を見つけた。

剣八は自分ではどうしようもない感情が溢れるのを感じた。

「一護・・・」
愛おしそうに一護の髪を撫でる剣八。
「ん、うんん・・・」
一護が目を覚ました。
「起きたか一護。・・・覚えてるか・・・?」
一瞬、ふんわりと笑う一護だったが次の瞬間には顔を真っ赤にして蒲団に潜る一護に安心する剣八。

ああ、覚えている、と。

「おい、顔出せよ・・・」
「・・・やだ」
「なんでだよ・・・」
幾分むっとした剣八。
「だって・・・、恥ずかしい・・・」
「何が?」
「何がって!馬鹿!」
「昨日の事言ってんのか?まぁ確かに、いつになく素直で積極的だったがな」
「うっせぇ!エロ親父!」
「ふん、じゃあお前はエロガキじゃねえか、一護?」
「お前が仕込んだんだろうが!」
あまりの言い草に勢い余って蒲団から出てきた一護を抱き締める剣八。
「ああ、そうだ。お前は俺だけのもんだからな・・・」
「な、な・・・」
「誰にもやんねえよ。離してもやらねえ、覚悟しやがれ」
「ふっ、うわ、うわあぁああん!わあぁあああ!」
一護は剣八の着物にしがみ付いて大泣きし始めた。
「けっ!剣八!の阿呆!ひっ!馬鹿!うっく!スケベ!」
言いたいだけ言わせる剣八。優しく髪を撫でる剣八の手に新たに涙が溢れてくる一護。
「うう!うっ!うっ!もっ!もう、冗談でもあんな事言うなよ!」
「ああ・・・。お前もな、俺もお前と同じ思いはしたくねえんだよ・・・」
その言葉に一護は過去に何度か自分から別れを告げた事を思い出した。
「ご、ごめん、剣八・・・」
「もう良い・・・」
「ごめぇん・・・」
「ああもう、いいから泣き止め・・・」
「だって俺もお前を傷付けたんだ・・・」
「良いつってんだ!」
「ひん!」
怒鳴られて、竦んでしまった一護の顔を上向けると口付けた剣八。
「ん、あ、ふぅ・・ん」
緩やかな優しい口付けだった。
「あ、ん・・・、剣八、ずっと一緒に居られる?」
「ああ、お前が望む望まないは関係ねえ、俺がお前を縛りつけてやるよ」
「ふふ!あんたらしいよ・・・」
「そうかよ」

一護の心に開いた大きな穴は、開けた本人によって埋められた。

泣き止んで目の腫れが引いた頃、二人で十一番隊へ戻る。
やちるに謝る一護。自覚は無くともひどく傷付けたのは確かなのだから。
「もう良いよ!だっていっちー、ちゃんと思い出してくれたし、謝ってくれたもん!」
快く許してくれた。
一角と弓親が、一護に頭を下げてきた。
「ちょ!なにやってんだよ!」
「悪かった!一護!興味本位であんな事やっちまって」
「本当にゴメン!」
「も、もう良いって!お、俺だって剣八にやってんだ。おあいこって事にしようぜ」
「でも・・・!」
一護には癒えない傷があるのだと知ってしまった。だがそれを口にするほど無神経でも無い二人は黙るしか無かった。

いつもの様に笑っている一護、きっと剣八に支えられているのだろう。剣八もまた一護を必要としているのだ。
二人にはその事実があれば良かった。








09/06/09作 第91作目でした。あー難しかった!後半あっけなかったような気が・・・。記憶取り戻す所がなー。
まあ、一護にとって初めて他人で甘えられる相手だから心の支えになってたんだと思います。

勿忘草の花言葉:私を忘れないで。真実の愛。
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