題「学校に呼び出された日」
 今日は剣八もやちるも非番なので、俺は縁側でやちるに絵本を読んでやっていた。
ジリリリリン!と電話が鳴ったので急いで出た。
「はいもしもし、更木ですが」
グリとウルの学校からだった。内容はグリが喧嘩したとの事。
「剣八、ちょっとグリ達の学校に行ってくるわ」
「あん?何だ急に」
「んー、なんかグリが喧嘩して何にも喋んないんだって」
「そんなもんほっときゃいいじゃねえか」
「そう言う訳にもいかねえよ。じゃ行ってくるな」
「待てよ、俺も行く」
「あたしもー」
「なんで・・・」
「どんな顔さらしてんのか見たくなった」
「なんだそりゃ」
「いっちー、救急箱は?」
「あー、持ってとくか」
3人で学校へ向かった。

「ここかぁ、でかいな」
「ふ・・・ん」
「いっちー、どこに行くの?」
「多分職員室じゃないかな?」
「それってどこ?」
「わかんねぇな、誰かに聞くか」
きょろきょろと周りを見ると生徒らしき男子が居たので声を掛けた。
「あのすいません」
「はい?」
振り向いたその生徒は右目に眼帯をしていた。俺は何となく剣八みたいだなと思いながら、
「あの、ここの生徒の父兄なんだけど、職員室ってどこかな?」
「ああ、良ければ案内しますよ?」
「あ、助かる。頼めるかな」
「良いですよ」
と柔らかい物腰で案内してくれた。
「此処です」
「ありがとう。ほんとに助かったよ」
「いえ、それでは」
と言って去っていった。
「良かったね、いっちー」
「うん、ってあれ?剣八は!?」
「あれぇ?いないね」
「ったく、こんなトコで迷子になんなよ。帰る時に探すか」
「そだね」
職員室に入り、グリの父兄だと名乗ると一人の教師がこちらにやってきた。
「お待ちしておりました。私が担任のシャウロン・クーファンと申します。グリムジョーとはどういうご関係で?」
「戸籍上の母親ですが」
「そうですか。彼と被害者だと言う生徒と父兄の方は教室で待機していますので。こちらです」
と静かに淡々と喋って歩いていった。
歩きながら、
「最近は彼も大人しくなって成績も上がっていたので安心していたのですが・・・、何故急に・・・」
「あ、成績上がったんですか、良かった」
一護はそこに反応した。最近一緒に勉強していたので気にしていたのだ。
そんな一護を不思議そうに見る担任。

教室に着くと、ふてぶてしい顔で椅子に座るグリと向かいには、見るからに優等生だと分かる男子とその母親が座っていた。
「よう、グリ男前があがったな」
「うるせえ・・・、何しに来たんだよ?」
「呼ばれたからなぁ。で、この子がお前の相手?」
と向かいに座った生徒を見る一護。
「・・・・・」
無言になるグリムジョー。
「ふ、ん。まあいいや、取り敢えず、脱げ」
「はあ?」
「怪我してんだろ、怪我見る方が先だ。やちる、救急箱貸して」
「はーい!」
「いいよ!後で良いだろ!」
一護は声を低くして、
「グリムジョー・・・、脱げ・・・」
と眉間のしわを深めて告げた。ちっ、と舌打ちして制服を脱いでいくグリムジョー。
「あ〜あ〜、結構な人数相手にしたんだなぁ。鉄パイプと木刀と角材にガタイの良いのが一人で4対1か、それでこの程度なら立派立派!」
カラカラ笑いながら治療していく一護。
「な、なんで分かんだよ、そんなこと・・・」
「はん?怪我の状態見りゃ分かるだろ、この肩が木刀だろ、この背中が鉄パイプで、腹と顔が拳、そんで止めが角材。だろ?」
グリムジョーは驚いて目を見開き、口をぱくつかせた。
「んふふー、当たってるみたいだよ、いっちー」
「だろうなー、ついでに犯人も分かるぜ?」
「なっ!」
「そこの生徒が犯人だろ?」
と目だけで見ると横にいた母親がいきり立った。
「いきなり何を言うかと思えば!うちの子がこんな不良に殴りかかるとでも?言いがかりはよしなさい!」
「何もその子一人でやった訳じゃないみたいですがね、首謀者がその子で止めも刺したってだけで」
「何を証拠に!」
「証拠ねぇ・・・、乱闘はさっきあって、すぐここに?」
担任のシャウロンに聞く。
「ええ、でもその場にはこの生徒しかいませんでした」
「それがおかしいんですよね・・・、こいつが自分より弱い人間相手にするはずがないんだから、まぁ売られたケンカは買うみたいですけどね。自分で売る喧嘩は自分より強い相手にですよ、そこは向上心があるみたいですから」
と笑った。
顔の擦り傷や痣に軟膏を塗ってやり、
「ハイ、お終い!服着ろ」
むすっとした顔で服を着るグリムジョー。
「で、証拠ですけど、君、なんで袖口に血が付いてんの?後、木くずも付いてるよ。証拠隠滅計るならちゃんとしないと」
指摘された生徒は慌てて袖口と手の平を確かめた。
「たっ、確かに血が付いてるけどうちの子のかも知れないじゃないの!」
「じゃあ、DNA鑑定してもらいますか?知り合いに関係者が居ますから簡単ですよ?」
にっこり笑いながら提案する一護。その目は笑っていない。次の瞬間、
ドゴォン!と音と共に扉とデカイ男が飛んできた。
「何?何なの!?」
「あー、剣八だ・・・」
「親父も来てんのかよ・・・」
ぬっ、と大男が入ってきた。
「おう、やっと着いたぜ。手間ぁ掛けさせやがって、くそガキが」
「うっせえよ」
「ハッ!どんな時化ヅラ晒してると思やぁ元気じゃねえか」
「ケッ!」
「おう、手間掛けさせたな」
と教室の外に声を掛けた。
「いえ・・・」
そこには先程一護達を案内してくれた生徒がいた。
「あ!さっきの!わりぃな夫婦揃って迷惑掛けて」
後ろの方には背の高い長髪の男が立ってこちらを興味深そうに見ていた。
「で、そいつ何?」
「ああ、なんかそいつがやったみたいだな、何人かでたむろして笑ってたから小突いてやったらこうなった」
「お前と子供じゃ力の差があんだから気を付けろよ。さてと、証人が出たねぇ・・・」
ちらりと向かいの生徒を見る。顔面蒼白になっていた。母親の方も何も言えなくなっていた。
「さてどうしましょうか?暴行事件で起訴しようか?グリ?」
「めんどくせえよ、取り敢えず解放されてえよ」
「そか、先生としてはどうですか?」
「そうですね、公平に見てもそちらに非は無さそうですが、あるとすれば喧嘩を買ったという点だけです」
「そうですか、ではこちらとしては、そっちの子が何もして来なければどうでもいいんですけど、どうしますか?お母さん?」
「ひ!こ、こちらこそ!あ、あの・・・」
「何もなかったって事で?」
「ええ、ええ、いいです、それで!」
「じゃあ。帰るか。あ、そだ、お前頭は殴られてないだろうな?」
「ねえよ、そこまで馬鹿じゃねえみたいだぜ」
「だな、帰るぜ剣八、やちるも御苦労さん」
「別に良いよ!グリ兄の学校見たかったし!」
「やちるらしいな、ウルは?」
「知らねえよ」
席を立ちあがり、ぞろぞろと廊下に出ていく一護達。
「ふーん、晩飯何にするかな。お前成績上がったんだってな、好きなもん作ってやるぞ」
「あー、血ぃ流したから肉が良い」
「じゃあ、焼き肉でもするか、野菜も喰えよ」
「へいへい」
「あ、やちる救急箱貸せよ、重いだろ?」
「へーき!」
剣八が一緒に肩に乗せた。
「仲良いなあ」

廊下を歩いていると先程の生徒が居たので改めて礼を言った。隣りにいた長髪の男子は何故か剣八をずっと見ていた。
「あの子にゃ世話になったなぁ、でも横に居た奴なんでお前のこと睨んでたんだ?」
「さあな、さっきのガキ小突いた時傍にいたな」
「ふうん、あ!ウルだ、おーい!」
振り向いたウルが驚いた顔をしている。
「どうしたんですか?お母さん。こんな所で」
「ちょっと野暮用だよ、今帰りか?」
「はい」
「丁度良いや、一緒に買いもんして帰ろうぜ」
「そうですね・・・」
「良かった!今日焼き肉な」
「はぁ、明日が休みで良かったですね」
「なー、あ、そうだ今日さ、眼帯した子に職員室まで案内してもらったんだけど名前分かるか?」
「あぁ、恐らくは、テスラとノイトラでしょう」
そう言えば、長髪も眼帯してたなと思いだした一護。

家族で肉屋に寄って、買出しをして、野菜も買った。
「ちゃんと野菜も喰えよ、特にそこの二人!」
と剣八とグリムジョーを指差した。
「へいへい」
「わあってるよ」
家に帰ると早速ご飯を炊く用意をした。その日の晩御飯は、いつもより賑やかなものになった。
ギャーギャーと肉の取り合いでうるさいぐらいだった。食事の後グリに、
「グリ、今日は風呂に入るなよ。後で傷冷やしてやるからな」
と言って打撲をアイシングしてやった。

日曜日の朝。
一護は日曜日の朝は自作のパンを焼くので何時もより起きるのが早い。
「さ〜てと!今日はどんなパンにしようかな?」
と考えながら小麦粉を練っている。剣八は基本パンはあまり食べないが子供達が休みで一護自身は好きなので日曜だけ作っている。
「よし!ロールパンとクロワッサンにしよっと!」
熟成を終え、形成し、焼いていく。いい香りが漂っていく。焼いている内におかずを用意していく。
「おう、今日もまた早えな」
「あ、おはよう剣八、お前も早いな」
「そうでもねえよ・・・」
椅子に座ると一護のやることを見ている。
「焼けたな、剣八ほら・・・」
焼きたてのロールパンにバターを塗って口元へ持っていってやった。
「熱いな・・・」
「美味くないか?」
「いいや、美味えよ」
一護の指をぺろりと舐めた。
「あっ!」
「くく!顔が赤いぞ」
「雨戸開けてくる!」
パタパタと走って雨戸を開け、ついでに換気のためにガラス戸をあけておく。
「ん?」
庭に誰か立っていた。
「あ、この間の・・・。何やってんの?二人して。グリとウルの友達?」
「いえあの・・・」
「まあいいや、この間のお礼に朝飯食ってくか?」
「は?」
「ああ、喰ってくぜ」
と長髪の男が言ったので、
「で、どっちがテスラでノイトラ?」
「僕がテスラでこちらがノイトラ様です」
「様?まあいいや、あがんなよ」
と二人を招き入れた。

「誰だ?そいつらは」
「一昨日会ってんだろ、職員室まで案内しくれたし、お前はグリの教室まで案内してもらっただろ?」
「ああ、あん時のガキか」
「ったく、好きなとこ座って。子供ら起こしてくる」

ウルとやちるはすぐに起きてキッチンへと向かう中、グリだけが寝ぼけて一護と一緒にキッチンに向かう。
キッチンに入るといつもより不機嫌な顔をしたウルが居た。
「どうした?ウル。機嫌悪いな」
「いえ・・・」
「ん?な!なんでテメエらがここにいんだよ!」
テスラとノイトラを見てグリが叫んだ。
「ああ、俺があげたんだけど、友達じゃないのか?」
「ちげーよ!テメエらさっさと帰れよ!」
「うるさい、早く座れ。で、あんたら卵は何がいい?目玉かスクランブルか?」
「・・・別に何でも」
「あ、僕も何でも良いです」
「ふうん、お前らは?」
「あたし、チーズオムレツがいい!」
「んー、グリとウルは?」
「同じもので」
「俺も」
「じゃあ全員同じのでいいな。剣八は?」
「飯に合うのかよ」
「じゃあ、卵焼きな」
ちゃちゃっと六人分のチーズオムレツと剣八の卵焼きを作った。
「後は、ソーセージとサラダとコーヒーか」
ウルが食器を出して手伝う。
「お、ありがとウル」
「いえ、今朝は人が多いので大変かと思いましたので」
「はは、別に大変でもないよ、ハイ、やちるは牛乳な」
「うん、ありがと」
そんなやりとりを見ている二人の珍客。

食卓が全部そろって食事を始める。
「そういやあ、なんか用でもあったのか?あんたら」
一護がテスラに話しかける。
「あのですね」
「用があんのはそっちのおっさんにだ」
「あん?俺にゃねえがな」
「俺にはあんだよ、俺と闘り合えよ」
「ああ、そう言う用事か、飯の後にでも相手してやれよ剣八」
「めんどくせえ、ガキの相手なんかしてらんねえよ」
「誰がガキだ!」
テーブルを叩いて怒鳴るノイトラ。
「おい、飯は静かに食えよ・・・」
「やちる、口の端についてる」
「んー」
「なぁ、そのパン美味いか?」
とやちるの口を拭いながら一護が聞いてきた。
「ああ?まあまあな」
「あ、美味しいです」
「そか良かった」
「良かったねぇ、いっちー。早起きして焼いた甲斐があるね」
「うん」
「え?これ貴方が焼いたんですか?」
「うんそう、日曜だけなー」
コーヒーを飲みながら答える。
「で、なんで剣八と喧嘩したいんだ?怪我じゃ済まねえぞ」
「分かんねえじゃねえか」
自信に満ちた声で言いきるノイトラ。
「あー、グリと似てんなー」
「「似てねえ!」」
「あはは、ちゃんと食えよ、あんなトコで突っ立てたんだ、冷えてるし腹減ってんだろ」
「ちっ!」
舌打ちしてクロワッサンに齧り付くノイトラ。
「でも悪いけどさ、今日こいつ仕事なんだよ」
「関係ねえよ」
「だってさ」
「しょうがねえな、迎えが来るまでだぞ」
味噌汁を飲み終えて茶を啜る剣八。
「やるの良いけど家壊すなよ」
「へいへい」
食事休憩の後、庭に出る剣八とノイトラ。
「あの、いいんですか?」
とテスラが聞いてきた。
「って、その為に来たんだろ?ほっときゃいいんだよ、ああいうタイプはやるまでうるさいから」
後片付けを終え、コーヒーを飲みながら答える一護。
「おかわりは?」
「あ、いただきます・・・」
「お母さん、あまり他人を引っ張り込むのは感心しません・・・」
「俺もそう思うぜ」
「珍しいな、二人が同じ事言うなんて」
「そう言う問題ではありません」
ドゴォン!と音を立てて壁が煙を立てていた。
「終わったなー」
「終わったぞ」
「ノイトラ様!」
「ったく朝っぱらからよぉ」
かすり傷一つない剣八がぼやきながらこちらに来る。
「御苦労さん、お茶でも飲むか?」
「おう」
「待ちやがれ!まだ終わってねえぞ!」
「時間だ、諦めろ」
「んだとぉ!」
迎えの一角達が来ていた。
「隊長、朝から何やってんです?」
「ガキが喧嘩売ってくるから買ってやっただけだ」
「楽しめましたか?」
「まあな」
「へえ、珍しいですね、隊長がそこまで言うなんて」
「そうかよ」
羽織りを着て、お重を持たせて見送る一護の耳元で、
「そんな顔すんなよ、浮気はしねえよ・・・」
と囁いた。
「ばっ!さっさと行って来い!」
「くくっ!行ってくんぞ」
「行ってきまーす!いっちー!」
「行ってらっしゃい!」
「くそ!勝ち逃げかよ!」
「怪我は?」
「ねえよ!」
噛み付くような返事が返ってきた。
「ま、そんだけ元気なら大丈夫か。また来れば?剣八も気に入ったみてえだし」
「お母さん!」
「お袋!」
「何?」
「何じゃねえよ!考えなしもいい加減にしろよ!」
「考えなしってひでえな」
「いいえ、そいつは負けたんですから、もうこれで終わりにすべきです」
「そうかもな、まあ決めるのは剣八だしな。洗濯するから洗いもん出せよ」
といつもの調子で言う一護。
ノイトラは立ち上がり、
「飯、美味かった。また来る」
と言って帰っていった。
「あ、では失礼します。美味しい食事ありがとうございます」
とテスラも帰っていった。
「可愛いとこあんのな」
と笑う一護。

それから時折訪れる二人に苦い顔をする二人が居た。






09/05/19作 第89作目です。来るたびに剣八と喧嘩するノイトラと心配するテスラ。
どうでもいい一護と剣八とやちる。慣れてくるグリとウル。




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