題「すれ違う気持ち」後半
点滴の針を腕に刺して、すう、すう、と寝息を立てている子供はいつもは自分の腕の中に居るはずだ。
穏やかだが熱っぽい寝息。
最後に会ってから2週間経っている。
久し振りに見る顔はやや窶れている。会ってしまえば抱きたいという欲求が生まれる。

ここに来る数時間前。一番隊にて。
「おい、黒崎一護はまだか?」
「ああ、彼なら来れないと、朽木女史から連絡が来まして・・・」
「来れない?なんでだ?」
「さあ、詳しくは・・・。朽木女史なら詳しいのでは?」
と言われ十三番隊へ行き、呼び出した。
「一護ですか?あ奴なら熱を出して倒れたそうで、伝令神機にメールがきました」
「熱だぁ?」
「はあ、かれこれ五日前になりますか、よほどの高熱らしくこのような短い文だけで終わっています」
確かに短い。
「ふぅん。手間とらしたな・・・」
「いいえ」
隊舎に帰り一言「出掛ける」と弓親に言い置きここまで来た。

子供・一護の顔を見ながらわざわざ現世まで来た剣八は今までの一護を思い返す。

この子供は抱く度に、己に向かって囁き続けるのだ。好きだと、愛してると。
そんなものは知らない。何故己にぶつけてくる?返す言葉などありはしない。代わりに手酷い言葉を投げ付ける。

淫乱な子供、イヤラシイ子供と。こんな己に抱かれて善いはずが無い。なら手放してやれば良いのにそれも出来ない。
この子供が泣いているのを知っている。己が傷つけた。泣かせているのは自分。
だが、あの日、最後に会った日は違った。この子供は自分の名前を呼ばなかった。
いつも言う、好きだとも、愛してるとも、一度も口にしなかった。

「一護・・・」
ふわりと前髪を撫でると、うっすらと目を開けた。一瞬ドキリとしたが、ぼんやりとして己を見ていない様だった。
「ん・・・」
目が合った。ふんわりと優しく笑う。先程の妹とは違う笑みを向けてきた。

「けんぱち・・・?なんで俺の部屋に居るんだ?・・・ああ・・・そっか夢だ、居る訳ないもんな・・・」
悲しげに伏せられた睫毛は震えていた。
「でも夢でも、嬉しいな・・・、夢の一つが叶った・・・」
「ゆめ・・・?」
「あ、声まで聞こえるんだ、まぁいっか。うん、いつか俺の部屋に呼びたかったんだ、他にもあるんだけどさ・・・」
「・・・何だよ・・・」
手を伸ばして剣八の手を取ると、手の平を重ねた。
「こう・・・、したかったんだ。やっぱり大きいな、それに硬いや・・・」
自分と違うカサカサした手の平の感触を味わっていた。その手を胸にあて、
「手を重ねたかった・・・、心を重ねたかった・・・」
「・・・・・・」
「ふふ、身体も重なった、手も重なった、でも最後まで・・・、心は重ならなかったね・・・」
すぅっと手を離し剣八を見ると、
「夢の中だけど、言わせてくれな?好きだったよ。愛してたよ。もう・・・さよならだね・・・」
「・・・」
「ごめんな、俺の気持ちばっか押し付けて、苦しかったろ?重かったろ?もう重くないからな」

「手を、握って欲しかったな・・・、心を重ねたかったけど俺の我が儘だから・・・、夢でも伝えられたらいいや・・・」
そう言うと目を閉じて再び眠りに落ちた。瞼が閉じられると涙が伝い落ちた。

「ちがう、違う、一護、俺は・・分かんねえだけだ。知らねえんだよ・・・!好きだの、愛だのなんて・・・!」

「起きろよ・・・!夢じゃねえ!俺はここにいんだよ!ちゃんと起きて言えよ・・・」

散々傷付けておいてなんて虫のいい事だ。まだ縛り付けるつもりか?

初めて見た時から、この鮮やかな髪に、意志の強い目に惹かれていた。
自分のモノにしたい。自分だけのモノにしたい。その思いに囚われて、気が付けば自分の下に組み敷いて、泣かせていた。

そんな始まりだというのに・・・、好きだと、愛してると囁き続けた子供は、もう自分の手を擦りぬけた。

どうすればいい?どうすれば繋ぎとめられる?
ああ・・・!分からねえ!なんだ?この沸き上がる感情はよ?チクショウ!

起きない一護を置いて、瀞霊廷に戻る剣八。答えは出掛かっているのにその正体が分からない剣八だった。

週末、体調が良くなったので報告に行くと色々心配された。申し訳なかったけど嬉しかった。
さて、どうしようかな?この間夢に剣八が出てきて、何だか顔を合わせ辛い。
四番隊の前を通りかかった時、声を掛けられた。
「一護君、熱を出されていたそうですが大丈夫ですか?」
「卯ノ花さん、ええ、もう大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「そうですか。良かったこと。今日はこの後何か用は?」
「え?別に無いですよ」
「そうですか、申し訳ありませんがコレを浮竹隊長の雨乾堂に届けてもらえませんか?」
「何ですかそれ?」
「お薬です。お身体があまり丈夫な方では無いですから・・・」
「良いですよ、そんなことぐらい。俺で良ければ」
「ありがとうございます、助かりましたわ」
薬を受け取り、雨乾堂に向かう一護。

「あの〜、すいません。浮竹さん居ますか?」
「あれ?一護君かい?どうしたんだい、倒れたんじゃなかったかい」
「もう治りましたよ。で、これお見舞いも兼ねたお使いです。卯ノ花さんから薬だって」
「ああ、ありがとう。お菓子でも食べて行きなさい」
「え、いや・・、疲れるんじゃ・・・」
「子供が気を使うもんじゃないよ。甘いものは嫌いかな?」
「そうじゃないですけど、じゃ、いただきます」
「うん、今お茶入れて貰うね」
「ありがとうございます・・・」
お菓子とお茶を出され一時そこで過ごした一護は、暇乞いをした。
「またおいで」
「はい・・・」
曖昧に笑って雨乾堂を後にする一護。
「・・・帰るか・・・」
「どこへだ?」
「家に・・・?」
バッ!と後ろを振り向くとそこには剣八が立っていた。
「い、いつから!」
「あん?今さっきだよ。それよりうちにゃ寄んねえのか?」
「用がねえだろ・・・」
「ハッ!用ならあるさ、俺に組み敷かれてろ」
何を言うかと思えば・・・。こいつにとって自分はその程度なんだと再確認させられた一護。
「なぁ・・・。もう終わりにしようぜ・・・」
「何をだ」
「この関係だよ・・・。意味ねえし、疲れたよ・・・」
「それを決めるのはお前じゃねえな、俺だ」
「なんでだよ?誰でも良いんだろ?じゃあ他の奴のトコに行けよ。男でも女でも!俺以外の所に!」
「・・・・・・・・」
剣八は無言で一護を担ぎあげ、隊舎まで連れて帰った。当然騒ぐ一護だが気にしない。

寝室に連れ込まれて、性急に脱がされる。
「や!嫌だ!離せよ!この!」
「暴れんなよ・・・」
ちっ!と舌打ちをすると一護の袴の腰紐で腕を一纏めにして頭上に縫い止めた。
「う、あ、イテェ!解けよテメエ!」
「暴れるお前が悪いんだろうが・・・」
一護は既に裸にされていた。
「くっそ・・・!早く終わらせろよ」
「ふん・・・、案外テメエも乗り気じゃねえかよ」
「淫乱なもんでね・・・、案外誰でもいいんじゃねえの?俺も」
「!ふうん・・・」
自虐的なセリフを口にした時、一護の目が揺れていたのを見逃さなかった剣八。
一護の身体を反転させるとローションを蕾に流した。
「冷てっ!なんだ?」
「潤滑剤だとよ・・・」
いきなり指を三本も入れてきた。
「うあ!ぃ、た・・・」
「すぐなじむだろ・・・」
ぐちゅぐちゅと音を響かせ慣らしていく剣八。
「う、ぐ、ふ、うう・・・」
「これぐらいか?」
グチュッと奥まで指を突っ込んだ。
「ああ!」
「感じてんだな・・・・」
「あ、あ、くそ・・・」
「さてと・・・」
剣八は一護の腰を押さえつけ、蒲団に押し付けたまま自身を入れていった。
「あ、ああ、いやだ、いや・・・!やめ・・・」
「全部入っちまったよ・・・」
「うあ、あ、ああ・・・」
ぴたりと背に張り付きながら、微動だにしない剣八。
「・・・?、なに、やってんだ?」
「なあ、どんな気分だ?好きな奴にこんな目に遭わされるのは・・・」
「な、んで!いきなり・・・」
「気持ち良いのか?ちょっと奥突いただけでも声上げるし、今だって、ココ、蒲団に擦り付けて濡らしてるもんなぁ・・・」
きゅっと、一護の中心を握り込む剣八。
「ひっ!」
強張る一護の身体。
「やらしいな、お前は・・・」
「やだっ!もういやだ!離せよ・・・、好きでもねえクセに・・・、俺に触んなよ・・・、苦しいよ、そんなに馬鹿にして楽しいかよ?」
「一護・・・」
「離せよ・・・!もうはなしてくれ・・・」
震えながら、泣きながら言う一護に剣八は中から抜き取ると、向かい合って座った。
「なあ・・・、一護・・・、聞きてぇんだけどよ・・・」
「あ・・・?」
「お前は俺のどこが好きだったんだ?何が好きだだったんだ?好きってなんだ、愛してるってなんだ?俺はそんなもん知らねぇ・・・」
「剣八?本気で言ってんのか?それ・・・」
「ああ」
「どこって、分かんねえよ・・・、気がついたら好きになってたし・・・、いつも剣八の事ばっか考えてた・・・、あ、愛は正直俺も良く分かんねえけど・・・、その、お前に、抱かれてる時、勝手に出る・・・ごめんな・・・」
「何がだ・・・」
「俺の気持ちばっか押し付けて、お前の気持ち無視してたな・・・」
「馬鹿か?無視してたのは俺の方じゃねえか・・・、俺はお前を俺だけのモノにしたいだけで組み敷いて泣かせ続けたんだぞ」
「泣いてって・・・、知ってたのか・・・」
「当たり前だ・・・、それでも離せそうにねえんだ。愛なんて俺にゃあ・・・分かんねえ・・・」
「でも、お前はやちるを立派に育てたじゃねえか・・・。本能的な愛つーか、情愛は知ってんじゃねえのか?」
「あいつとお前は違うだろ」
「違うよ、でも俺はやちるも好きだ。お前と意味は違う。けど好きだ。お前は?やちるが好きか?」
「ああ・・・」
「俺は?」
「だからよ・・・」
「どんな気持ちになるんだ?俺と居るとさ・・・」
「・・・なんかよ、ざわざわして落ち着かねえけど・・・、こうやって二人だけだと落ち着く・・・」
ふう・・・と息を吐いて一護が、
「お前俺の事好きなんじゃねえか。バーカ」
「うるせえ・・・、知らねえんだからしょうがねえだろ・・・」
「剣八・・・、俺は剣八が好きだ・・・」
「・・・俺も、好き、だ・・・」
「これ、解け・・・」
両手を差し出した一護。黙って解く剣八。
剣八の手を握る一護。
「やっぱり大きいな・・・」
笑う一護を抱きよせる剣八。
「後よ・・・、こうしたいのもお前だけだ・・・」
そろそろと蕾に指を這わす剣八。
「はん!ばかぁ・・・」
「流魂街でも、ここでも抱いたのは娼婦だけだ・・・。それも欲を吐き出すだけで面白くもねえんだ・・・。なのによ・・・、お前はよ、違うんだ・・・。なんか渇いた喉が・・・、満たされる感じがすんだ・・・」
なんでだ・・・。と呟いて一護の肩口に顔を埋めてきた。
「さあな、俺にも分かんねえよ・・・、剣八・・・」
剣八の長い髪を梳く一護。突然抱きつく剣八。
「うわ!」
「一護、一護、抱きてぇ、抱かせてくれ・・・頼む・・・」
「良いよ・・・、俺もお前にしか抱かれたくないから・・・」
「一護・・・!」
深く口付け合う二人。今日初めての口付け・・・。
「んん、あ、ふぅん、剣八・・・」
「一護、もっと俺のこと呼べよ・・・」
「うん、剣八・・・剣八、愛してる・・・」
「一護、愛してる・・・」
「は・・・、ああ、ああ、嬉しい・・・、やっと重なった・・・」
「泣くな・・・」
「やだ、嬉し泣きだもん・・・」
「じゃ、違うコトで鳴け・・・」
と攻撃を開始する剣八。この日から一護を、淫乱だと、いやらしいと言わなくなった剣八。


後日、隊首室にて・・・。
「来てたのか。一護」
「うん」
「ちょっとこっち来い」
「なんだ?」
グイッと顔を掴まれて皆の前でキスされた一護。

隙を見せるとされるので違う意味で疲れる一護。楽しげな剣八。慣れた隊士。

笑うは剣八とやちる。






09/04/26作 第84話でした。
色々中途半端感が否めない気が・・・。すいません。


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