題「子猫、子供になる」黒猫ver
最近では女性死神協会のメンバーへの警戒も随分解け、秘密基地にも良く遊びに行く一護。
今日も一人、基地で遊んでいた一護はお菓子の中に青い飴を見つけた。
ガラス玉のように透き通ってとてもキレイなそれを剣八にも見せたくなって秘密基地から屋敷の廊下に出た。

陽に翳して見るとキラキラと光って水の中にいるみたいだと思った。口を開けて見入っていたのでツルッと指が滑って飴が一護の口の中へと落ち、そのまま飲みこんでしまった。
「ン”にゃあ」
けほけほ、と咳き込んでみても出せなかった。

キレイだったなぁ、ちゃんと見せたかったのに・・・。

などと考えながら廊下を歩いていると体が熱くなって動悸が大きく乱れた。
「ぐ・・・」
一声呻いて気絶した一護。
目を覚ますと周りがおかしい。大きな布に包まれ、とても広い所に居た。
物凄い不安に襲われた一護は大声を上げて泣いてしまった。
「みゃあぁ!みゃあぁ!みゃあぁ!」
その声に清家が何事かと顔を覗かせた。そこで見た物は死覇装の中からオレンジ色の頭を覗かせ、廊下で泣く子供だった。
「・・・黒崎殿ですか?」
「ふみゅ?」
べそを掻きながら振り返る一護。大きく尖っていた耳は丸みを帯び、ぺたん、と寝ていた。
「その、お姿は・・・どうされたのですか?」
「ふみぃ、みぁー」
また泣き出した一護を抱き上げ、あやしてやるとだんだん落ち付いてきた。
「ひっく、すん、すん・・・」
「お着物が・・・これでは不便ですね、若のお古ですがそれを着て下さい」
「みゅぅ・・・」
一護は清家によって白哉が子供の頃に着ていた着物を着せられた。
「さて、困りましたね、今ならまだ隊首会もやっている事でしょうから、一番隊に爺と行きましょう」
「みー」
懐いているのか大人しく付いてくる一護だが、子供の歩幅に合わせていると遅くなるので清家が抱いて一番隊まで連れていった。

一番隊。
「失礼致します。清家殿が急ぎ、面会に来ておりますがどうなさいますか?」
「清家が?珍しいの、入れてやれ」
「は、どうぞ」
「お忙しい中失礼致します」
「清家・・・、誰だ?その子供は?」
「はい、黒崎殿でございます。白哉様」
「何?」
俄かにざわつき出す周りに怯え出す一護。
「何やら、秘密基地で遊んでいた様なのですが・・・、廊下で泣いているのを見つけた時はもう・・・」
一護は清家にキュッとしがみ付いて震えている。
「また十二番隊の薬じゃないの?」
「そうだな、ありうる話だ」
そんな大人達の様子に限界を迎えた一護。ひっひっと変な声を出しているのに冬獅朗が気付いた。
「おい、危ねえんじゃないのか・・・」
とうとう大声で泣き出した一護。
「ああ〜!ぴみゃあ!ぴみゃあ!ぴみゃあ!」
清家が慌ててあやしても効き目はなかった。その内、外からドドドドドド!と何かが走ってくる音が聞こえて全員が嫌な予感がした。
ドガン!と扉が壊され、そこに居たのは猫の姿になった剣八だった。
「ぐるるるるる・・・」
牙を剥き出して威嚇している。さっきまで泣いていた一護が清家の腕からぐずるようにして自分から下りると剣八の所へと走って行った。途中で着物の裾を踏んでこけた。ベチッ!と顔からこけ、また泣くかと思われたが、起き上がると笑いながら剣八の首に抱きついた。
「みい!みああ、んぷ」
剣八が一護の顔の涙を舐め取ってやった。

「して、何があったのか?黒崎よ」
「ん?みィ、みゃあん、みゅう」
「秘密基地のお菓子の中に青い飴があってそれが口に入って飲み込んだ、そうです」
「あめ?」
「みぁ」
「ふむ・・・」
そんな話をしているうちも剣八に抱き付いて離れない一護。尻尾を巻きつけて警戒する剣八。
「大体いくつぐらいなんだろうね?」
「大きさから言って、5歳くらいかと思われますわ」
と卯ノ花が言った。

剣八はイラついてきたのか、一護の首の後ろを噛んで銜えるとさっさと帰っていった。
「あ、いいの?あれ」
「命に別状はあるまい?のう?」
「ないネ、馬鹿馬鹿しい・・・、暫くしたら元に戻るヨ」
「なら良いじゃろう」
何故か全員が納得している。

十一番隊。
子供になった一護を見て、ああ、十二番隊だなと納得する隊士達。いつも以上に誰も寄せつけようとしない剣八。
やちる、弓親、一角だけは特別の様だ。
縁側で自分の尻尾で遊んでやる剣八。
「みゃっ!うっ!うう〜、やっ!みゅう」
あっちへころころ、こっちへころころ、尻尾を追いかけて遊んでいる。疲れたのか欠伸をする一護。
「くあ・・・」
こしこしと目をこすり、剣八の腹に納まり脚の間で昼寝を始めた。剣八も眠くなったので寝た。

「ん・・・」
ふと、腹に違和感を覚えた剣八が目覚めた。見てみると一護が自分の役にも立たない乳首に吸い付いていた。
ちゅ、ちゅ、と吸いながら腹を揉んでいる。腹が減っているのか?
「ぐるる・・・」
「んちゅ、みゅう、みゅう」
よじよじと上に登って来て、鼻先を舐め、首に顔を埋めまた眠った。
剣八は前脚で自分に抱き寄せると眠った。

次に目が覚めると一護が居なかった。あたりを見回すと池のあたりで何かしていた。
「ぐるるる」
「ん?」
と振り向きざまに池に落ちた一護。
「うみゃぁ!みゃあ!みゃあ!」
バシャバシャと暴れる一護。剣八が慌てもせず、一護を助け上げ、風呂まで連れていくと弓親を呼んだ。
「ぐるああ!」
「はい!今すぐ!」
弓親が慌てて出てきて、一護を受け取り風呂に入れるべく服を脱がせた。
「隊長もどうぞ、風邪を引いてしまいます」
「・・・ぐるる」
「みい?」
くちゃん!と可愛いくしゃみをした一護。渋々入る剣八。

風呂から出て、夕飯を済ませ、一緒の蒲団で眠る。
「ふみゅう、みぃ・・・」
子供特有の高い体温にすぐ眠くなった剣八。朝まで起きなかった。

朝、一護の様子がおかしかった。息が早く、大汗を掻いている。
「み、ぃ、みあぁ・・・」
「ぐるああ!」
すぐさま弓親を呼び、卯ノ花隊長を呼んだ。

「風邪ですね、子供用の解熱剤を打ちました。後はこまめに着替えと水分補給を心がけて下さい」
「はい!」
小さな身体になった一護はいっそ哀れなほどの弱りようだった。
その傍を離れようとしない剣八。
「みぃ、みぁぁ?みィ」
「ぐるる」
ぺろぺろと汗を舐めとり、安心させる剣八。
カタカタ震えだしたので蒲団の中に入り、添い寝をしながら舐める。額から、首筋の汗を舐めとり、髪を整えてやった。
「ふぅん・・・」
気持ち良さそうな吐息を漏らす一護。
小さな手で、剣八の毛皮を掴んで離さないまま眠った。
「隊長、入りますよ」
「ぐるる」
水とお粥を持って弓親が入って来た。
「お薬です、起こしますね」
一護を起こして、お粥を食べさせる。半分ほど食べて顔を背けるので、シロップの風邪薬を飲ませ、水も飲ませた。
着替えも済ませ、
「では、水もここに置いて行きますので、何かありましたら呼んでください」
「ぐるる」
「みゅぅ・・・」
甘えるように自分に擦り付く一護が可愛かった。
元気になったらまた尻尾で遊んでやると言いながら、寝かしつける剣八。

翌日には回復した一護が縁側で、尻尾で遊んでいるのが見られ、皆の顔が綻んだ。






09/04/04作 第80作目です。朝比奈麻衣さんからのネタ提供で出来ました。よろしかったらお持ち帰り下さい。


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