題「日常風景」 | |
子供達がまだまだ一ヶ月で一歳くらいの大きさの頃は大変だった。 小さいのがちょこまかと動き回り、一護は目が離せなかった。 中でもお風呂が一番大変だった。 一人を入れて居てももう一人がどこかに行こうとするのだ。剣八が居てくれると二人で入れる事が出来るので楽だが仕事がある時などは一護一人でやっている。 今日も双子をお風呂に入れていると、お風呂の方から一護の叫び声が聞こえた。 「こらあ!十六夜!逃げるなー!」 何事かと弓親が見てみるとびしょ濡れの十六夜が笑いながら廊下をハイハイで逃げていた。 その後ろをエプロンを着けた一護がバスタオルを広げながら追っていた。 「捕まえた!」 バスタオルで包んで捕獲成功! 「あぷぅ〜!」 「あぷーじゃない!風邪ひいたらどうすんだ!」 「やっ!かあ、こあい」 「怖かったら怒らせないの!ほら、パウダー好きだろ?パフパフするぞ?」 「きゃぁー!パフパフ、かあ、ちゅきー」 尻尾をぶんぶん振って甘える十六夜。 「かかも十六夜が大好きだよ、次は、朔だな」 真っ白なエプロンを着けた一護はドレスでも着てるかのように綺麗だなと弓親は思った。 パウダーをはたかれている間、十六夜は大人しく、ニコニコしている。 「よし!弓親ー!悪いけど朔のお風呂終わるまで十六夜お願いできる?」 「うん、良いよ」 「ありがとう、ほら朔、お風呂だよ」 「ぷう」 朔は大人しくしている、ちゃぷちゃぷと身体を洗ってやる。 「くふう・・・」 「ふふ、朔、気持ちいい?」 「ぷぅ」 バスタオルで拭いてパウダーをはたく。 「うきゅ、パフパフ、ちゅきー」 「そうかー、朔もパフパフ好きかー、気持ちいいもんな」 「きゃぁ、かあ、も、ちゅき!」 「俺も大好き!」 朔を抱いて弓親の所へ行くと、十六夜が泣いていた。 「やあ〜!ああ〜ん!かあ〜!」 「どうしたの?」 「あ、一護君!良かった、いっちゃんがさ、君がお風呂場に行った途端泣きだしちゃって」 「ああぁん!ああぁん!かあ!かあ〜!」 「十六夜、かかはここだよ。ちゃんと居るよ」 朔と一緒に抱かれて、あやされていると、だいぶ落ち着いてきた。 「ひっく、ひっく、あぶぅ、ひゃっく」 「あう〜?いじゃ?ないない、いちゃい?」(十六夜?泣いてる、痛い?) 朔が十六夜の頭や頬に手をやる。 「うっく、にぃに、かあ、ひっく、とお」 「え?」 「何やってんだ、一護。一番隊まで聞こえてたぞ」 「うん、何か寂しかったみたい、もう落ち着いたよ」 ピスピスとその腕の中で微睡み始めた我が子に他人に分からない様に安心する剣八。 「会議は?終わったの?」 「あー、ああ。風呂に入れてたのか」 「うん、十六夜がさ、身体拭く前に脱走するから慌てちゃった」 仲睦まじいのは良いがここは隊舎だ。 「あの〜、隊長、今日の仕事は?」 「ああ、書類整理だとよ、面白くもねぇ」 「また・・、俺は楽しいよ?書類運ぶの」 「かあ、まんま」 「まんま・・・」 「あ、うん、執務室借りていい?」 「ああ、誰にも見せんなよ」 「ん・・・」 執務室の奥の衝立ての向こうで一護が子供に乳をやる。皆気を利かせて外に出る。 ポンポンとげっぷを促し、おしめを替える。 お腹も膨れ、おしめも新しくなって気持ち良くなったので、本格的におねむモードの子供たち。 中から一護の子守唄が聞こえてきた。 〜可愛い坊や、愛しい坊や、星の光のその数よりも愛おしや・・・〜 剣八が中に入ってきた。子供達を両腕に抱き、満ち足りた顔で笑う一護が居た。 「あ、剣八、静かにね?今、寝たとこなんだ」 一護の隣りに寝転ぶと、朔を自分の腕に抱いた。 「ん、むにゅ、とお・・・?」 「とと様だよ、よかったな朔」 「ん〜、うん」 幸せそうに眠る朔。 「なんか妬けるな・・・」 「ば〜か、そんなん俺もじゃねえか」 「ホントに?」 「ああ・・・」 どちらともなく近付いて口付ける二人。 「ふふふ、ねえ、夕飯何が食べたい?」 「何でも良いけどよ、何が作れるようになった?」 「えっとね、煮物に入ったよ、肉じゃが作れるようになったし、カボチャの煮物も作れるようになったよ」 「じゃあ、肉じゃがにしろ、それと味噌汁な」 「うん!分かった。美味しいの作るからね!」 「ああ、楽しみにしてるぜ」 夕飯の支度をする時は危ないので子供達はやちるに見てもらっている。台所の框の所で一護を見て待っている。 「あぶう!かか!」 「はぁい、なんだ十六夜」 「こち、こち!」 「こっち来てって言ってるみたいだよ」 「ん〜?どうした?十六夜」 刃物を置いて近くに行くとエプロンを掴んで放さなくなった。 「こぉら、とと様のご飯作ってるんだから、ちょっと我慢な」 「うう〜、や〜あ!」 一護は小さい手にキスをすると、 「後ちょっとなんだよ、包丁使わなくなったら、おんぶしてあげるから、ね?」 「むう〜」 「いじゃ、らめよ?かか、あぅ、え、まうの!」(十六夜、だめよ?かか様、待つの!) 「すぐだからな」 と料理に取り掛かる。 後は、味が染みるまで煮るだけ、味噌汁も出来た。 「お待たせ!やちる、今日もありがとう」 「ううん!あたしの弟妹でもあるもん!」 「助かってるよ、いつも」 よじよじと膝によじ登ってくる十六夜と朔。 「よしよし、朔もありがとうな」 「帰ったぞ、一護」 「とと様だよ!お帰りなさいしに行こう!」 「ぷう!」 「んぷう!」 「お帰りなさい!とと様!」 「おきゃーいなーい!とと!」 「おきゃえ、ない!とと!」 「おう、元気だな」 「すぐご飯?」 「いっちー、お鍋大丈夫?」 「あっ!火に掛けっぱなしだ!」 子供を剣八に預け、鍋を見に行く。 「熱!良かった、焦げてないや」 丁度、味が染みて食べごろの様だ。 「美味そうだな、先に飯喰うか」 「うん!じゃあ持っていくね」 「あたしも手伝うー!」 3人がご飯を食べている間、双子は剣八の胡坐の間に納められていた。 ふさふさと尻尾がくすぐったいが、楽しそうにきゃっきゃっと遊んでいる。 就寝。ココからは夫婦の時間。 「来いよ、一護」 「うん、剣八」 この日も気絶するまで続いた。 翌朝、起きると剣八は既に隊首会に行った後だった。 蒲団を片付け子供に乳をやろうと、隣りの部屋のベビーベッドを見ると十六夜が居なかった。 「は?十六夜?どこ、いった?」 朔はまだ寝ている。 一護は部屋中を探しまわったが居なかった。 どくん、どくんと頭の中で血が流れている音がうるさく響いていた。 「わあぁー!弓親ぁ!十六夜が!十六夜が居ない!」 その声で朔が目を覚ました。母の只ならぬ様子に泣き出してしまった。 「どうしよう?どうしよう?あいつに何かあったら、俺、俺・・・!」 「取り敢えず僕らは隊舎中を探すから、隊長に報せておいで」 「うん!うん!朔!一緒に行くぞ」 おぶい紐でおんぶして、隊首会の開かれている一番隊隊舎の部屋に飛び込んだ。 「剣八!」 「一護?何してんだ、こんなとこで」 「十六夜が、十六夜が居なくなったんだ!」 「何・・・?」 「さっき起きて、ベッド見たら居なくて、部屋中探したけど居なくて、今、弓親達が隊舎中を探してくれてるけど・・・」 どうして良いか分かんないよう。と泣きだしそうになった時狛村が、 「更木よ・・・」 「ああ?!なんだ!こんな時に!」 「その、貴公の背中の膨らみは、もしかして十六夜ではないのか?」 「はあ?」 バサッと脱ぐと羽織にくっついたまま眠る十六夜が居た。 「何やってんだ、こいつ・・・」 一護はその場にへたり込んでしまった。 「良かった、良かったよう〜」 「うああ〜!いじゃ〜!かか〜」 背中の朔も一護と一緒に泣いてしまった。 「恐らく、朝にでも遊んでそのまま寝てしまったのだろう、しかし気付かん貴公もどうかと思うぞ?更木」 「うるせえ。やちる!」 「な〜に〜」 「弓親に見つかったって教えて来い」 「は〜い」 「一護や、落ち着け、子供も大きくなったの」 「う、はい・・・、邪魔してごめんなさい・・・」 「良い良い、お主たちには一大事じゃからの」 すんすんと鼻をすすると帰るというと皆が子供をあやそうとした。 「か〜わいいねぇ、一護君そっくりだね」 すんすんと泣き止み始めた朔を囲んでいる。 「あ、あの・・・」 「てめえらな」 「んん、かか!とと!」 「十六夜!馬鹿!心配したんだからな!勝手に居なくなるな!」 「ふぇ?かか、こあい、こあいの、やあ〜!」 「怒ってんだから怖い!」 「やあ〜、ととぉ、かか、こあい」 「お前が悪い、謝っとけ」 「いじゃ〜!うあ〜、かあ、ないないなの〜!らめなの〜!」 「ふえ、ごめんしゃい、ごめ、にゃしゃいー」 「どこに行ったかと思ったんだからな!」 子供達の耳はぺたんこに寝てしまっていた。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を拭ってやりながら、 「帰るぞ?まんまの時間だ」 「あう、まんま・・・」 「ひっく、まんま・・・」 「あの、そう言う事なんで帰ります。お邪魔しました」 ぺこっとお辞儀して帰った一護。 「おい、じいさん俺も帰んぞ」 「うむ、安心させてやれ」 「・・・あぁ」 十一番隊。 「一護君!見つかったって?」 「うん!剣八の背中に貼り付いてた」 「何でまたそんなトコに?」 「さあ?」 報告を済ませ、部屋に帰ってお乳をやる一護。 「んっく、んっく!んっちゅう!んっちゅう!」 「んく!んく!んっちゅう!んっちゅう!」 「ほう・・・!無事で良かった・・・!」 「おい、入るぞ一護」 「あ、うん」 「ったく、ガキは何考えてんのか分かんねえなぁ」 「うん、びっくりした・・・」 「まっ、どうせこれから嫌でも増えてくぜ、悪戯やら喧嘩やらがな」 「そうやって大人になるんでしょ?」 「ま〜な」 「大変だね、とと様」 「お前もな、かか様」 「んぷっ!」 「んぷっ!」 「あ、ゲップさせなきゃ」 とんとん、げぷっ! とんとん、げぷっ! おしめも替えて、今日も一日の始まり。 次はどんな事件が起こるの? 終 09/03/06作 第72作目です。お風呂の騒ぎが書きたくて。一護のエプロンは長いですよ。パッと見、ロングスカート?って言うくらい。フリルがあるのと無いのとどっちがいいかな? 剣八は秘かに誰にも見せたくないとか思ってます。(笑) |
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