題「子猫と非番の日」 | |
今日は剣八の非番の日。 朝から寝巻き姿で一護は、剣八の膝でご飯を食べさせてもらっている。 「ほれ、一護」 「なぁーんっ!」 むぐむぐと雑炊を頬張っている。 余程嬉しいのか、尻尾はピーンと伸び、耳はぴこぴこ動いて顔はニコニコしている。 この間の非番は潰れてしまったので今日はとことん甘えるつもりの一護。 一口食べる毎にゴロゴロとすり寄っている。 「こら、行儀が悪いぞ」 「んにゃあう」 それでも最後の一口を食べ終えるまで繰り返した。 食べ終わって二人でいちゃついていると、浮竹隊長と京楽隊長がやって来た。 「やあ、剣八ちょっと良いかい?」 「嫌だね」 「即答だねぇ、まぁ、可愛い一護君と遊んでる最中に悪いんだけどさぁ、さらに悪いお知らせなんだよねぇ・・・」 剣八の胡坐の中できょとん、と二人を見上げている一護。 「何だよ・・・」 「討伐、入ったよ剣八さん」 「断る」 きっぱりと言い切った。 「あれ珍しい、戦い好きの剣八さんが」 「京楽・・・!」 二人の視線が一護に落とされた。討伐と聞いた瞬間から表情が無くなっている。 「い、一護君?」 ぴくっと揺れる耳。 「そう言うこった。出直せ」 フンッと鼻を鳴らして二人に背を向ける剣八。 「でも剣八さん、仕事だよ・・・。仕方がないよ・・・」 申し訳なさそうに言う京楽。 その言葉に自分は異分子なのだと言われた気がした一護は、膝立ちで剣八の首に抱き付いた。 「一護・・・?」 剣八から一護の表情は見えなかったが、浮竹、京楽の二人には見えていた。 苦しそうな、泣きだしそうな顔・・・。最後に諦めたかの様な笑みを口許に浮かべ身体を離した。 にっこりと綺麗に笑って、 「にゃあう」 と鳴いた一護は部屋から出て行った。 暫くしてから、斬魄刀と隊長羽織りを持って、帰ってきた。 「おい、一護どういうつもりだ」 一護はその手に持った斬魄刀と羽織りを剣八に押し付けた。その手は羽織りごしでも分かるほど震えていた。 「行って来いってか・・・」 一護は指をもじもじとさせて、剣八を見た。 「わぁったよ、すぐ済ませるからちゃんと待ってろよ」 「にゃあ」 頭をわしわしと撫でられ嬉しそうに笑った一護。 剣八は急に入った仕事に、一角とやちるを連れていった。弓親に一護を頼んで・・・。 「一護君、着替えようか?」 「ん〜ん・・・」 「そう・・・、残念だったね今度こそ休みだったのにね」 「にぃ・・・」 先程二人で食事をしていた居間で弓親が一護を慰めていた。浮竹と京楽はまだ居た。 「まだ居らしたんですか?お二人とも」 少し棘がある言い方だ。それもその筈、今の一護は後ろ姿でも分かるほど落ち込んでいるのだ。 耳は完全に寝ているし、首はこてんと傾げられている。 「もう用がお済みでしたら、どうぞお帰り下さいな」 にっこりとそれはもう綺麗な笑顔だった。 一護が立ちあがって、部屋を出る。二人と目が合い、ヘラッと笑う。力のない心許無い笑みで通り過ぎる一護。 目でそれを追う二人。とある一室に入る一護。どうやら寝室の様だ、蒲団が見えた。 パタンと障子が閉められた。 「帰ろうか、浮竹」 「あ、ああ・・・、そうだな、邪魔して悪かったね」 「いいえ、こちらこそお構いもしませんで・・・」 二人の隊長を見送る弓親。 一護は敷きっぱなしの蒲団に潜り込んで、剣八の残り香を探していた。 もう帰って来ない訳じゃない。帰って来ないかもしれない。二つの気持ちがぐるぐる回って怖くなった。 「なぁう・・・、なぁう、なぁう、なぁ・・う・・・」 ひっく、ひっく、と泣いていたが、その内眠ってしまった。 「帰ったぞ、一護はどうした?」 予定外の討伐を速攻で片付けた剣八は昼過ぎに帰って来た。出迎えた弓親に聞けば、 「部屋で寝てると思いますよ、あの後すぐ部屋に行きましたから」 と帰って来た。 「ふーん・・・」 「早くお風呂入っちゃった方がいいんじゃないですか?」 と促されさっさと湯浴みして泥と血を洗い流した。 風呂から上がり、さっぱりした剣八が部屋に入ると蒲団が膨らんでいた。 「一護?」 返事も無く、ぴくりとも動かない。 そっと蒲団をのけると、丸くなって眠っている一護が居た。 まだ涙が残る頬を撫で、その涙を拭い取る。蒲団を剥がされた寒さで身震いすると目を覚ました一護。 「・・・ん、にゃあぅ」 剣八の姿を目にすると嬉しそうに目を細め、自分の頬を撫でる剣八の指を舐めた。 そのまま一護の頬を撫で、髪を梳くと、 「腹減っただろう。もう昼だ、飯食って出掛けるぞ」 と言うと一護を抱き起こした。 「にゃう!」 びっくりして剣八に抱き付くとそのまま姫抱きにされ、居間へと連れて行かれる一護。 お昼ごはんを食べた後、二人は一緒に散歩をしたり、おやつの時間になると甘味処に行ったりと楽しい時間を過ごした。 甘味処を後にした一護と剣八が歩いていると京楽隊長が声を掛けて来た。 「やあ、今日はごめんねぇ。これでお詫びって訳じゃあないんだけど一護君にって」 と差し出してきたのは久里屋の徳利最中だった。以前、これを食べて酔った一護はその後剣八にナニをされたか思い出して真っ赤になってその場から走り去った。 その後ろ姿を見送りながら、 「え?え?」 困惑する京楽隊長。 「クック・・・えらい嫌われたなぁ?京楽」 と意地悪く笑う剣八は徳利最中を受け取った。 「え〜・・・?」 と納得できない京楽隊長を置いて十一番隊に帰ったであろう一護の後を追いかける剣八。 その後、美味しく食べた徳利最中で酔った一護を美味しく食べた剣八だった。 終 14/03/03作 第70作目。2009年から放置(つーか見失ってた)してた物です。 「子猫・第5話」の続きっぽい感じです。 |
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