題「バレンタイン」
その日は朝飯が終わってから、キッチンで何かごちゃごちゃしている一護が居た。
甘い匂いが漂っていた。
「お袋?何やってんだ?」
「内緒だよ、お昼まで入っちゃダーメ」
エプロンを着けて笑いながらグリを追い出す。
「昼飯は?」
「それまでには終わるから」
そう言ってキッチンに籠ってしまった。

チーン!
オーブンが音を立てた。いそいそと一護が扉を開けると中には、チョコのカップケーキが焼きあがっていた。
「中まで焼けたかな?」
串を刺してみる。
「よし!成功!後は包むだけだな」
ひとつひとつ丁寧に包んでいった。

お昼時。
既に片付けを終え、お昼ご飯を作っていると息子たちが姿を現した。
一緒にご飯を食べ、他愛無い話をして徐に一護が二人に包みを手渡した。
「ウル、グリ、はいコレ」
「何ですか?可愛いですね」
「なんだ?」
リボンを解いて開けると中から出てきた物に顔をあげる二人。
「今日、バレンタインだろ?だから焼いてみたんだ」
「ありがとうございます、お母さん」
「あんがと、お袋」
「まあ、お前らだったら、嫌って言うほど貰ってるから嬉しくもないだろうけど」
「そんなことねえ!」
「そんなことありません!」
「お?」
「食べてもいいのか?」
「当たり前だろ、お茶にしよう」
「おう」
「はい」
3人で、和やかにお茶を飲んだ。
「美味いか?」
「ああ!」
「はい、とても」
「良かった!」

剣八とやちるが帰ってきた。
「ただいまー!いっちー」
「おう、帰ったぞ」
「お帰り、お疲れさん」
「なんだぁ、甘ったるい匂いだな」
「ああ、ちょっとな」
「また何か菓子でも作ったな」
「当たり」
「ほら、飯喰おうぜ」
「おう」
夕飯も済んで、やちるに、
「やちる、はい」
「なぁに?」
「今日はバレンタインだからな。チョコケーキだ、小さいけど」
「わーい!ありがと、いっちー!」
「なんだ?俺には無いのか」
「お前甘いの苦手だろ?」
耳元で、
「後で、やるよ」
と囁いた。
「ふうん・・・」

一護が風呂からあがると剣八が蒲団の真ん中で座っていた。
「何やってんだ?お前」
「・・・」
隣りにちょこんと座ると、
「剣八、目ぇ閉じろよ・・・」
「あん?」
「いいから!」
渋々閉じる剣八。
「ちょっと口開けて?」
「あ」
「開けすぎ」
くすくす笑う。
「ん・・・」
一護からキスをした。
「んん?」
ちゅっと離れると、悪戯っぽく笑っていた。
「ビターチョコ、なんだけど・・・、美味しくないか?」
一護の手の中には小さなハート型のチョコレートが入ったガラスケースがあった。
「いいや、美味いけどよ」
「けど?」
「お前のが美味いな」
押し倒された。
「わっ!こぼれるだろ?いちご味もあるけど?」
「一護味か?」
くっくっと笑う剣八に、
「ばか・・・」
枕元にチョコを置き、剣八の首に腕を絡めて顔を埋めた。

その日は甘〜い夜でしたとさ








09/02/14作 第66話でした。短めで寸止めて・・・。



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