題「子狐の恋」17
 子供が生まれて一ヶ月たった。子供達の尻尾はもうまんまるく、ふわふわしている。

 あれから二人で子供を連れて卯ノ花隊長の所へ行った。
「まあ、どうかされましたか?」
「あ、あの、子供が、さっき喋ったんだけど・・・」
「・・・どういう風にですか?」
「まんま、って・・・、その後でかー、とーって、早すぎないですか?」
「成長が早いようですね、例外がいくつも重なって生まれた命ですから、こういう事もあるのでしょう」
「でも・・・」
「心配いりませんよ、誰しも奇跡と幸運の上、産まれてきたのですから」
優しく微笑むと一護の頭を撫でた。
「良かったな一護、卯ノ花のお墨付きが出たんだ。安心じゃねえか」
「うん、うん、良かった、良かったぁ」
「一護君、お乳は良く出ますか?」
「あ、はい、たくさん。さっきもいっぱい出ましたよ」
「そうですか、良かったこと、お乳をたくさん飲むことで成長も早くなります。慌てず、どっしり構えていてくださいね」
「はい!」
「更木隊長も頑張ってくださいね」
「ああ・・・」

 それが一ヶ月前。
今、子供達は、一歳児並みの大きさに成長している。でもまだお乳を飲んでいる。
言葉は拙いながらも喋っている。
「かあ、まんま!」
「かあ、まんま」
「はいはい、今行くよ」
剣八の腕の中から出て、子供達の方へ行き、乳をやる。
その様子を、肩肘をついて見ている。視線に気付いて、
「なあに?剣八」
「いや・・・、慣れたもんだなと思ってよ」
「そうかな、まだ一月だし・・・」
「おむつ替えんだろ、手伝うぞ」
「ありがと」
おむつも無事替え終わり、手を洗いに行く二人。
「この調子だと、一年で十歳にはなるんじゃねえのか?」
くっくっと笑いながら部屋に戻る。
「そうだね、でも楽しみだよ、元気でまっすぐに育ってくれれば・・・」
「手前の子だ、そうなるさ」
「剣八の子でもあるよ、優しくなるね」

 半年後。春。
五歳にはなっていた。もうお乳は飲んでいない。一護達と同じものを食べている。一護も元の身体に戻った。
十一番隊のみんなも、他の隊のみんなも可愛がってくれている。
十六夜は性格も剣八に似てきたが、女の子らしいところもある。
朔は、一護にべったりで泣き虫だ。
剣八は、二人に稽古をつけさせている。十六夜は負けん気が強く、何本取られようが向かっていくが、朔はすぐ泣いてしまう。
今日も今日とて、泣いていた。
「わぁあん!」
「あ〜あ、また泣いちゃったよ」
「どうすんのかね、隊長」
「朔兄!泣いてばっかじゃ強くなんないよ!」
「だって、だって、こわいし、痛いもん・・・」
「双子とは言え、真逆だねぇ」
そこへ、一護が現れた。
「おーい、朔、十六夜いる?」
「かか様!」
朔が勢いよく飛び付いた。
「なによ、さっきまであんなに泣いてたのに」
「泣いたカラスがもう笑ってら」
「一護、何か用か?」
「ああ、うん、十六夜の髪、切ろうかと思って」
十六夜は伸ばし放題の髪を後ろに束ねているだけだ。
「折角、剣八に似て綺麗なのに勿体ないよ」
なでなでと十六夜の頭を撫でる。
「ふうん、ほれ、行って来い十六夜」
「は〜い、どこで切るの?」
「ん?卯ノ花さんが切ってくれるって」
「へ〜、色々出来るんだ、あの人」

 四番隊。
「卯ノ花さん、連れてきました、お願いします」
「はい、さ、十六夜ちゃん、こちらへ」
「はーい、ねえ、あたしかか様より短い感じがいい」
「そうですか?折角ですから女の子らしく少し長めにおかっぱぐらいにしては?」
「え〜!や、だ・・・」
「ね?」
無言の圧力を感じた十六夜は黙って従った。

「本当に綺麗な髪ですね、真っ直ぐで」
「ね、それに切れ長の目も似てるでしょ?大人になったらすごい美人になると思うんです」
朔を膝に抱いて一護が言っている。
「そうですね、きっと美人になるでしょうね。さ、終わりましたよ」
「わあ、いっちゃん可愛い!」
「そう?」
「おかっぱは嫌だそうですから、眉の上を真っ直ぐに切り揃えて、後ろを短く、前を長めにしましたが、どうですか?」
鏡を見せられる十六夜。
「わぁ、あたしじゃないみたい!思ってたのと違う!」
「現世では、ボブカットと言うそうですよ」
「かっこいいな、十六夜。とと様に見せておいでよ」
「はあい!朔兄、一緒に行こ!」
「うん!かか様、行ってきます!」
「気を付けてな」
「「はあい!」」
「ありがとうございます、卯ノ花さん」
どうしても耳を傷けそうで怖くて切れない一護。
「いえいえ、楽しかったですよ。また何時でもどうぞ」
にこやかに言う卯ノ花。

 道場。
「とと様ー!」
「とと様ー!」
「おう、もう済んだのか?」
「うん!どう?カッコいいでしょ?」
「ほう、似合ってんじゃねえか」
「うん!あたしこれ気に入っちゃった、ずっとこれでいく!」
「良く似合ってるよ、十六夜ちゃん。その髪型って美人しか似合わないんだよ」
「ありがと!弓親」
「将来、心配っすね、隊長」
「けっ!」
「朔兄、遊びに行こ!」
「うん!今日はどこに行こうか?」
「かか様が、一緒に花畑に連れってってくれるって!」
「早く行こ!」
「行ってきます!とと様!」
「とと様、行ってきます!」
「あー、飯時には帰れよ」
「「はーい!」」
手を繋いで走って出ていく二人。

「かか様ー!」
「かか様ー!」
「ああ、来た来た」
体当たりで母にぶつかる子供たちを受けとめる一護。
「どうだった?褒めてくれたか?」
「うん!とと様も、弓親も似合うって言ってくれた」
「良かったな、さ、行こう」

 連れて行かれた場所には、白い花がたくさん咲いていた。
「かか様ぁ、これなんて言うお花?」
「シロツメクサって言うんだよ、葉っぱ見てごらん」
「なあに?」
「なぁに?」
「みんな、三つ葉だろう?」
「うん」
「うん」
「すごーく少ないけど、四つ葉もあるんだ、それを四つ葉のクローバーって言って幸運のお守りになるんだって」
「へ〜、でもかか様、全然見つかんないよ?」
「それだけ数が少ないんだって、さ、今日は花冠作ろう?とと様や、やちる姉にも作って帰ろ」
「一角と弓親にも!」
「そうだな、じゃあ俺がとと様とやちる姉の分作るから、お前ら一角と弓親の分作るか?」
「うん!あたし弓親の分作るー!」
「じゃあ、僕一角の分作る!」
「じゃあ、教えるぞ?」
親子3人で花冠を編んでいった。
「かか様、出来たー!」
「ん?早いな十六夜」
「えへへ、どう?上手く作れた?」
まじまじと見て、
「うん、上手い上手い」
「かか様、出来ました」
「お、朔も出来たのか」
「どうですか?」
「うん、上手い上手い、お前ら二人とも器用だな」
笑いながら二人の頭の上に、いつの間に作ったのか花冠を乗せた一護。
「似合う似合う、お姫様と王子様みたいだ」
にっこり笑う一護を見て朔も十六夜もにこっと笑った。
「ねえ、かか様、早く帰ろ?早くとと様や皆に見せたい!」
ねっ!と兄に向って言うと、頷く朔。
「そうだな、もうすぐ夕御飯だし・・・。帰ろっか」
「「はあい!」」
「あっ!ちょっと待って!かか様の分が無い!すぐ作るから待ってて」
朔と十六夜が二人で作り始めた。その姿を優しい目で見つめる一護。
「出来たよー!かか様」
「ありがとう、朔、十六夜」
「うん、今度こそ帰ろ」
一護の両側から手を繋いで歩く姿は微笑ましくて、道行く人々は知らず微笑んでいた。

「ただいまー!とと様、皆居るー?」
「お帰りなさい、皆居ますよ」
「ただいま、弓親!コレあげる!」
「わぁ、かわいいね、嬉しいよありがとう」
「おう、帰ったのかよ、お転婆娘」
「ただいま、一角」
「なんだ、それ」
「今日、かか様に教えて貰った花冠だよ」
「ただいま!一角、コレあげる!」
「あんがとよ」
「む〜、つるりんとゆみちーずるい!」
「何言ってんですか、似合うかい?」
「うん!とっても!弓親綺麗だから何でも似合うー」
「ただいま、剣八、やちる、居る?」
「いっちー!お帰りなさい!」
「ただいま、ハイ、コレあげる」
ふわりと頭に乗せられたのは、欲しがった花冠。
「わあい!ありがと!いっちー!」
「剣八は?」
「すぐ戻るよ、これ僕らの分は誰が作ったの?」
「俺が剣八とやちる、朔が一角で、十六夜が弓親の分。で、俺のは二人が作ってくれたんだ」
はにかみながら、頭に手をやった。
「良かったね」
「おう、帰ったか」
「とと様ー!」
「とと様ー!見て見て!可愛いでしょ?かか様に作って貰ったのー!」
「とと様のもあるよー」
「あん?俺の分?」
「うん、作ったんだけど・・・」
「ふうん、後でな、この頭じゃ無理だろ。お前が乗せてろ」
「二つも?」
くすくす笑っている。
「腕輪にすれば良いかな?」
「それよか、飯喰いに行くぞ」
「はーい!」
「はーい!」

 食堂。
「何食べる?」
「「ハンバーグ!」」
「剣八は?」
「天ぷら盛り合わせ」
「じゃあ、俺もそれ。やちるは?」
「ん〜と、あたしもハンバーグにする」
5人で一緒に食べていると、乱菊に話しかけられた。
「あらぁ、可愛い王女様と、お姫様、それに王子様が居るわ」
「あ、乱菊さん」
「今晩は、一護可愛いわね、更木隊長ってば、両手に花を三つも持って。羨ましいわぁ」
「阿呆か」
そんな話をしながら食事を終え、隊舎に帰った。

 蒲団を敷いていると、その上でじゃれて遊ぶ子供達。
「こぉら、邪魔しない」
「「はあい、かか様」」
剣八が寝室に入ってきた。
「あん?一緒に寝るのか?」
「そうみたい」
「ふーん、いいけどよ」
いつもは、子供達だけで別の部屋で寝ている。
こっくり、こっくり、ともう船を漕いでいる。
「ふふ、もうお眠みたい・・・」
「朝から暴れてるからな・・・」
「俺達も寝よ?」
「ああ・・・」
子供達を間に挟んで、眠る一護と剣八。子供達を撫でる一護の髪を梳く剣八。
「幸せか?一護・・・」
「うん・・・、剣八は?」
「お前とこいつ等が居るからな・・・」
「うれしい・・・」
見つめ合い、優しい口付けを交わす二人。

一人ぼっちの子狐は、もう一人じゃない。

子狐の恋は、愛へと姿を変えた。








09/02/24作 一応、完結です。番外編で色んなお話書いていきます。



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