題「長女、ぐずる」
 あたし最近おかしいの。
訳もなくイライラしたりしちゃう時があるの。何でか分かんない・・・。

あたしの世界は赤一色だけだった。それを剣ちゃんが斬り払って光をくれた。
そして、名前をくれた。それから剣ちゃんがあたしの一番。あたしの全て―

そんな剣ちゃんが、唯一の人を見つけた。それがいっちー。すごく強くて、すごく優しいの。剣ちゃんと同じくらい大好き。
二人が結婚して、家族になった。あたしも一緒。それから家族が増えた。
ウル兄とグリ兄の二人がそう。毎日が楽しいのに、すごくイライラするの。どうして?
いろんな色に囲まれて暮らしてるのに、もう赤い闇だけじゃないのに。
ココには、剣ちゃんも居る、橙色のいっちー、翠色のウル兄、水色のグリ兄―。たくさんの色がある。私は―?

「じゃあ、行ってくんぞ」
「行ってきまーす、いっちー!」
「行ってらっしゃい、気を付けてな二人とも」
「うん!」
毎朝、見送ってくれるいっちー。いつも笑顔。いつもの笑顔にホッとするの。なのにその日のあたしは、訳が分かんなくなっちゃったの、いっちーに嫌われちゃうのかな?

昼前に家に電話が掛って来た。ウルが出てすぐに俺を呼んだ。
「お母さん、お父さんの職場の方からお電話です」
「なんて?」
「さあ?すぐに一護に代わってくれと慌てているようですが」
すぐ受け取ると、
「もしもし?代わりました・・・」
「一護か!?俺だ、一角だ!お前今すぐこっち来れるか?大変なんだよ!」
「何だ?何があった?剣八かやちるが怪我でもしたのか?!」
「いや、怪我じゃねえが、副隊長が暴れてんだよ、何とかしてくれ!」
「は?なんで、朝は普通だったぞ?」
「知らねえよ!とにかくスゲぇんだよ!隊長の言う事も聞かねえんだよ」
「今から行くから、怪我人出てたらすぐ手当してくれ」
「分かった、頼むな」
「おう」
電話を切る。どういう事だ?朝は普通だったのに?
「お母さん?やちるがどうかしたんですか?」
「ん?ああ、なんか暴れてるらしいんだけど」
「暴れてるって、親父じゃあるまいし」
「グリ、いつの間に、まあいいや俺はすぐアッチに行く用意するから。お前らも付いてくるか?」
「良いんですか?」
「まあ、たまには父親の職場を見るのも良いんじゃね?」
俺は、バッグにやちるのお気に入りのバスタオルとこれまたお気に入りのアイボリー色のセーターを入れた。
ウルキオラに今日のおやつにと作った大量のマドレーヌをバスケットに入れて持って貰った。
「お母さん、これは?」
「ああ、多分向こうはえらい事になってるだろうから、お詫びの気持ちかな。悪いな、お前らはまた今度な」
「別に俺は構いませんが・・・」
「俺も気にしねえよ」
「よかった、早く行こう」
家を出たとこで、車の迎えが来た。
「一護!早く!どんどん機嫌悪くなってる!」
一角と弓親だ。
3人で車に乗り込む。
「剣八は?」
「何とか、抑え込んでる感じ」
「そんなにひどいのか?」
「台風どころの問題じゃねえよ・・・」

瀞霊廷に着いた。
一番隊の隊舎の隊首会を開く部屋に連れて行かれた。
「一護・・・」
「乱菊さん、大丈夫でした?」
「ええ、あたしはね、どうしたのあの子?今までこんな事無かったわよ?」
「ん〜、まあ成長してるって思って下さい。あコレ皆さんで、詰まんないもんですけどお詫びに」
「ありがと、後でいただくわ。気を付けてね、一護」
「大丈夫ですよ、それに、やちるは俺の子でもあるんだから」
笑って返すと安心してくれたようだ。

部屋の中に入ると各隊長と総隊長がピリピリしていた。
「失礼します。黒崎です」
「一護!」
「いっちー!」
目に飛び込んできたのは、総隊長の横で黒い装束の男に抑えつけられてるやちるの姿だった。
「手前等!俺の子供に何しやがる!」
傍に居た一角の斬魄刀を奪うと瞬歩で男の目の前の床に刃を突き立て男を睨みながら、
「やちるから、手を離せ・・・」
静かに告げた。
そっと手が離れると、やちるは一護に抱き付いた。
「ふん!」
やちるを抱えると男を見降ろして剣八の所まで行った。
「どういう事だ?何があってやちるがあんな目に遭ってた?」
「知らねえよ、いきなりこいつが暴れ出したんだよ、何言っても聞きゃしねえし、訳も言わねえ。他の隊の連中にも被害が出たからって捕まったって今聞いたんだよ!」
怒鳴り返してきた。
「そうかよ・・・」
腕の中の桃色の髪をした女の子は、震えて泣きそうになっていた。
「やちる?何があったんだ?嫌な事でもあったのか?」
一護が優しく問うと消え入りそうな小さな声で、
「わかんない・・・」
と返ってきた。
「てめえの事だろうが、何でわかんねえんだ?」
「剣八・・・、言い過ぎだ」
一護がポンポンと優しく背中を叩いた。あやす様に優しく、優しく・・・。
「うう、うわあ〜ん!いっち〜、怖いよう、何だか分かんないの〜!」
「うん・・、うん・・・、いい子だな、やちる、もう大丈夫だ、よく我慢してたな、強い子だ・・・」
「ふええ〜ん、嫌いになっちゃやだあ!いっちー!ずっと傍にいてよぅ、こわいよぅ」
「嫌いになんかならない、ずっと一緒だよ。やちるも居てくれるんだろ?」
頭を撫でながら言い聞かせるように言う。
「俺が笑っていられるようにずっと傍にいてくれるんだろ?お兄ちゃん達と一緒に」
「・・・居ても良いの?嫌いにならない?あたし悪い事した悪い子だよ?」
「悪い事?暴れて建物壊したか?怪我人でも出したか?」
「両方・・・」
「そっか・・・、それは悪い事だな。でも壊れた建物は直せるし、怪我人ならまだ生きてるんなら治る。ちゃんと謝って、何でこうなったか考えなくちゃな?出来るか?」
「うん・・・、怖いけど、あたしどうしちゃったの?なんでいきなりこうなっちゃったの?」
「やちる。本当にいきなりなのか?」
「え?」
「なんかイライラ溜まってたり、抑え込んでなかったか?俺、最近お前のこと構えて無かったから分かんねえけど」
「あ・・・、イライラはしてたの、でもその理由も分かんないの・・・、ごめんなさい・・・」
「うん、後で皆に謝るとして、今はそれを考えるか」
一護はその場に座り込むと胡坐をかいて、やちるを乗せるとウルを呼んだ。
「ウル、そこのバッグ取ってくれ」
「はい」
「あんがと、ちょっとごめんな」
一護は上を脱いでアイボリー色のセーターに着替えた。それから、やちるをお気に入りのバスタオルにくるんでやった。
「きもちいい・・・、ありがとう、いっちー」
「うん、なあやちる?もしかして、お前寂しかったのか?最近俺やお兄ちゃんが倒れたり、お客さんが来たりで、ばたばたしてただろ?無意識で感情抑え込んでたんじゃねえか?」
「そうかな?分かんないけど、いっちーが遊んでくんなかった日はさみしかった・・・」
「ごめんな、まだ小さいのに我慢させて。寂しくさせて・・・」
ギュッとやちるを抱き締める一護。
「・・・お歌」
「ん?なんだ、やちる?」
「お歌、歌っていっちー。あたしいっちーのお歌が好き・・・」
「ここでか?」
「隊舎でもいいよ?」
「そうか、じゃ隊舎に行こうぜ」
立ち上がり掛けた時、総隊長に声を掛けられた。
「まあ、待て黒崎、草鹿の気持ちも分かるがあれだけ被害が出てしもうた、お咎めなしというわけにはいかんのぅ」
「だからって小さい子に取る行動じゃないです・・・、何が言いたいんですか?」
険のある言い方で聞く。
「ふむ、まぁ儂らも行きすぎがあったのは認めよう。そこでじゃ、親の監督不行き届きという事でじゃ、お主らの言う歌をここに居る者に聞かせることでチャラということにしようではないか」
「・・・・・。はあ?」
思いっきり眉を歪めて、素っ頓狂な声を出した。
「何言ってんだ?あのじいさん・・・」
とグリ。
「珍しいな、今俺も同じ事が頭に浮かんだぞ・・・」
とウル。
「何言ってんですか?嫌がらせ?」
「いやいや、至極真面目じゃよ?のう?」
とそこに居る隊長達に聞いた。皆が頷く。
「そんなんでいいの?何考えてんの?あんたら」
「え〜別に良いじゃない、一護君の歌で済むなら安いもんでしょ?剣八さん」
「何で俺に振るんだよ・・・」
「だって旦那様でしょ?」
「私も聞きたいですわ、そんなにもやちるちゃんがお強請りするなんて珍しいことですもの」
と卯ノ花隊長。
「変だ、変だとは思ってましたけど、相当なもんですね、あんたら」
と一護。はあっと息を吐くと、やちるに、
「何の歌が聞きたい?やちる?」
「いいの?嫌じゃないの?」
「いいよ、俺の下手な歌でチャラになるんだろ?安いもんだよ」
良い子良い子とやちるの頭を撫でた。
「で、何が聞きたい?」
「え、え〜とね、え〜とねいつも寝る時に歌ってくれるお歌が良い」
「子守唄か、いいよ。グリ」
後ろを振り返ってちょいちょいと手招く。
「何だ?お袋」
「俺の後ろに座れ」
「?。こうか?」
「そう、足広げとけよ?」
そう言うと一護はグリの胸板に凭れかかった。
「なっ!」
「ほ〜ら、やちる。お兄ちゃん座椅子だぞ〜、良かったなぁ」
固まって動けないグリムジョー。冷やかな目で見てくるウルキオラ。気付かない一護。剣八は?
ちりちりと鈴を鳴らすほどに霊圧を上げている。
「剣ちゃんは?」
「ん?お父さん座椅子は家専用だ」
「ふ〜ん、よかったぁ」
「ほら、こっち向いてろ?」
やちるを抱き直して寝やすいようにしてやる。背中をさすりながら歌い始めた。
「あのね、次は、お花の歌がいい」
「花?どれだ?」
「大好きな人に花束をあげるやつ」
「ああ、あれか」
一護は乞われるままに歌い続けた。髪を梳いてやったり、撫でてやったりしながら・・・。
いつの間にか寝息が前と後ろから聞こえてきた。前はやちる。後ろはグリだ。一護はクスッと笑うとグリの頭を撫でてやった。
「可愛いな・・・、おい剣八」
「何だよ・・・」
「何不機嫌になってんだよ、あんたは暴れんなよ?」
くすくす笑いながら言ってきた。
「ほら、起こさない様に抱いてくれ」
とやちるを渡す。剣八に抱かれて寝続けるやちる。
「可愛いな・・・、俺の娘だ・・・」
誇らしげに笑って髪を梳いてやる。
「ウル、おいで」
「はい、お母さん」
「俺の子、俺の息子、長男、次男」
交互に頭を撫でてやる。剣八に向かって、
「俺の、夫、俺の旦那。俺の家族だ、護るモノが増えたなぁ」
困ったなあ、簡単にくたばれない。と、ちっとも困って無い顔で笑った。
「俺もお前もまだまだ死ねない。まだ死なない」
「ああ、そうだな」
「起きろー。グリ」
「んあ?」
「早く起きてそこから退け!カスが」
ズビシッと脳天に手刀が落とされた。
「グッ!イッテぇな!何しやがんだ!ウルキオラ!」
「早く退けと言っている。お母さんが疲れるだろう」
「良いよ、ウル。背もたれに使ったのは俺なんだしよ」
「うわっ!ワリィ寝ちまったのか?俺」
「ああ、気持ち良さそうだったぞ」
「ん〜、いっちー?」
「ここにいるよ。起きたのか?」
「うん・・・、ごめんね?あのね、一個だけ思い出した事があるの・・・」
「うん?」
「あたし、いっちーの橙色が大好きなの。剣ちゃんに会うまであたしは、赤い闇の中に居たの。そこから連れ出して、あたしに色んな物をくれたのが剣ちゃんなの。いろんな色をくれたんだよ。いっちーの橙色でしょ?ウル兄の翠色でしょ?グリ兄の水色でしょ?今のあたしの周りにはいろんな色がある。キレイな色がたくさんある。じゃああたしは?あたしは何色?あたしだけ赤い闇のままなのかなって、怖くなったの・・・。ねぇいっちー、あたしは何色?」
不安気に揺れる目で見つめてくるやちる。
「やちる。あのなお前にあげる物がある」
一護がバッグから取り出したのは桃色のマフラーだ。
「お前はこの色。可愛い桃色だ」
「ホント!?ホントにホント?あれ?端っこの色が違うよ?」
「うん、此処の翠と水色のマーブルはお兄ちゃんのマフラーの毛糸、こっちは俺と剣八のマフラーの毛糸なんだ」
「なんで?」
「何となく。お前が一番小さいだろ?お守りにならないかなって思ったんだけど、気に入らねえか?」
「ううん!すごく嬉しい!みんな一緒だ!剣ちゃんも!いっちー!ウル兄も!グリ兄も!ありがとう!いっちー、あたしコレ宝物にするね!」
「大袈裟だなあ、今度は帽子も作ってやるよ。頭のてっぺんにはマーブルの毛糸でポンポン付けてやるよ」
「ホントに!やったぁ、いっちー大好き!」
「俺もお前が大好きだよ」
「えへへ、嬉しいな、剣ちゃんありがとう、大好きだよ、ウル兄もグリ兄も大好き!」
「そうかよ」
ぽんぽんと頭を叩いてあやす剣八。
「じゃ、皆で帰りますかね?今回の騒動の請求書はチャラになったしな、どっかでメシ喰って帰るか。用意してねえよ」
「待て、請求書は別じゃぞ、黒崎」
「はあ?聞こえませんねー、チャラにするって言ったでしょ?チャラにするって言うのは全部をチャラにするって意味でしょ?」
「いや、じゃから」
「じゃあ何をもってしてチャラにするって言葉を使ったんですか?お咎めなしなんでしょ?御自分の言葉に責任は持たないと、総隊長」
「うぐ、しょうがないの。今回だけじゃぞ」
「こっちももうない様にしますよ」
マフラーを巻いて、はしゃぐ娘の手を取って帰る一護一行。
「じゃあな、じいさん俺も帰るぜ。今日は定時なんでな」
「好きにせい」

「一護君、怒ってたね」
「そりゃ、娘があんな目にあってんの見たらなあ・・・」
「怖いな、母親って・・・」
総隊長に向かって、啖呵切ってたよ?
この後で、一護が持ってきたマドレーヌでお茶になった方々。まっ、いいかという事になりました。
「おいしいねぇ。このお菓子」
「ほんと、一護ってばまた腕をあげたわね」
「えっ、これって一護君の手作りなのかい?」
「そうですよー、最近凝ってるんですって、あの子の淹れる紅茶も美味しいのよねー」
「ですよね、更木隊長ってば、良い嫁貰いましたよね」
「恋次、何故、貴様が一護の入れた茶の味を知っている?」
「え?何回か飲みましたから。ジャムも美味いんですよね」
「そうなの?初耳だわ」
「ええ、こないだルキアと木イチゴ取りまくって、あいつン家に行ったら作ってくれましたよ。腐っちまうって」
「へえ〜、まだある?」
「えーと確か最後のひと瓶が。持って来ましょうか?」
「当たり前よぉ。早くね!」
「ハイハイ」

でん!と置かれたジャムの瓶。
「で、どうやって食べるのよ?」
「え?このまま食ったりとか、パンに付けたりとかですけど?」
そう言いながら恋次はジャムをマドレーヌに付けて食べ始めた。
「ん、うま」
「じゃ、あたしも」
スプーンですくって付ける乱菊。
ぱくっと一口食べると、
「ん〜、美味しい!ちょっとマドレーヌとはアレだけどジャムはすごく美味しいわ」
我も我もと食べ出す。
「ほんとだねぇ。美味しい美味しい」
「む。存外悪くないな」
「朽木隊長がそんなこと言うなんて珍しいですね」
「後、紅茶に入れたりもするって言ってましたよ。ろしあんてぃーとかって言ってましたけど」
「ふーん、あらもう無いわ、残念。いいの?恋次」
「持ってくるって言った時から分かってた展開ですから・・・」
「あっそ、あー美味しかった!」
「そうだねぇ、あれの片づけどうしようか?」
「ま、なんとかなるでしょ」
「でも、なんで一護ってば、やちるの事、成長って言ったのかしら?」
「ああ、きっと感情を外に出すことが出来るようになってきたって意味じゃないかな?」
「今まで、笑ってるとこしか見た事無いもんねぇ?」
「なるほどねぇ。一護ってば大変ね」
みんな久し振りにまったり、のんびりとしていた。

「さてとどこに行く?」
「どこでもいいだろ?」
「お前らはどこが良い?」
「俺は別にどこでも・・・」
「俺も特にねえな」
「こいつ結構金持ってんだから遠慮すんなよ?やちるはどこがいい?」
「いっちーが居ればどこでもいい!」
「嬉しいけども。困ったな、剣八はファースト・フードなんか喰わねえよな?」
「なんだそりゃ?カレー以外なら良いぞ」
「まだ言ってる。ハンバーガーは?」
「なあにそれ?どんなの?」
「ハンバーグを野菜と一緒にパンに挟んだ食べモノだ」
と説明するウル。
「へえー、美味しそう、そこ行こう!ねっ!剣ちゃん」
「あー、好きにしろ」
「やったあ」

店に入る、一護達3人は大体決まったモノを食べるのでさっさと決めた。
問題は剣八とやちるだ。やっぱりあれやこれやと楽しげに迷っているやちる。
「ねーねー、これってどんなの?」
「ああ、2段重ねになってんだよ、こっちは鶏だな」
「ふ〜ん美味しそう!ねえ!全部頼んでみたい!」
「あ〜あ〜、さっさと頼め。俺は腹減ってんだよ」
「そうする!いっちーお願い!」
「はいはい。すいません、メニューに載ってるの全部下さい」
「え・・・?全部ですか?」
「はい。そうです。あ、飲み物はウーロン茶のLを二つでポテトも同じでそれとさっき頼んだやつでお願いします」
「は、はい!お時間掛りますがよろしいでしょうか?」
「出来たものから出してくださったら結構ですから。取りに行きますし」
「では、お席の方でお待ちください・・・」
「おい、行くぞ」
「んー」
ぞろぞろと連れ立っていく。
「テーブルくっ付けた方がいいな。大量にくるんだし」
「そうだなー。やちるはこういうトコに来るの初めてか?」
とグリ。
「うん!初めて!剣ちゃんもだよ」
「あー、家に帰りゃ飯出来てるからな、護廷でも食堂なりあるからな」
「ふうん、じゃあ、また色んなとこに連れてってやるよ」
「良かったな、やちる」
「うん!」
「やちる、食べる時はマフラー外せ。汚れちまう」
「うん、バッグに入れといて」
「はいはい」
先に俺達3人の分が出来た。ややあってやちるが注文した大量のメニューが出てきた。気を使ってくれたらしい。
二人が食べ始める。
「おい、どうやって食うんだ?」
「包み紙を剥がして、そうそう、でそのままかぶりつく」
バクッと豪快に食べた。もぐもぐ喰って、
「悪かねえな」
俺は笑って、
「そうかよ、良かったな」
「ん」
がつがつ食べていった。やちるも気に入った様でぱくぱく食べていった。
「いっちー、この唐揚げみたいなやつは?」
「これは、ナゲットだ、このソースに付けて食べる。ん?」
俺がやってみせるとマネして食べるやちると剣八。
「甘くておいしい!」
「甘ぇ・・」
「ほら、ポテト」
一本口に持って行ってやった。
「ん・・・、しょっぺえ」
「そら、塩掛ってるし」
「ほら、やちる、手にソース付いてるぞ」
俺は手を拭ってやる。
「ありがと!いっちー」
「どういたしまして、もう全部食べたのか、早いな」
「おいしかったよ!また来たい!」
「そうかそうか、良かったなー、やちる」
「おい、一護足りねえぞ」
「やっぱりな・・・」
ちらっとカウンターのお姉さんを見ると首を横に振っていた。やっぱな・・・。
「んじゃ、別んとこに行こうぜ」
「別のとこ?」
「回転寿司でも良いだろ?それとも普通の寿司屋にするか?あんたの金だから俺は構わねえぞ」
「回転寿司?んだそりゃ」
「行きゃ分かるよ」
「あたし、行きたい」
「まだ食うのか?良く入るな」
「・・・・・」
「お前ら先に帰っとくか?」
「いや、どうなるか見たいから」
「まあ分かるけどな。ウルは?」
「ご一緒に」
「じゃあ、全員で行くか。片付けるか」
「何だ、自分でやンのかよ」
「そうだよ、食堂だって似たようなもんだろ」
「まあな」
片付けて回転寿司に行った。

やちるがえらくはしゃいだ。回ってるのがおかしいらしい。
「どうやって食べるの?」
「こうやって、回ってくるから食べたいやつを取ってから、食べる」
はい、とやちるの好きな玉子を取ってやった。
「へー、面白いね、剣ちゃん」
「ふん」
「取ったやつは戻すなよ」
やちるはどんどん取るのに剣八はあんまり食べない。
「どうした?腹減ってんじゃないのか?」
とマグロを取ってやると食った。
「次は?」
「なんでもいい」
「はいはい」
言いながら目で追ってるウニを取ってやるとすぐ食べた。
ほいほいと取って置くとほいほい食べる。取れないんだな。
「あたし、おなか一杯になったよ、剣ちゃんは?」
「ああ、じゃあ出るか。勘定は?」
「すいませーん、お会計お願いします」
「はい、ありがとうございます・・・!」
あまりの皿の量に驚く店員。
「あの、この紙をレジに持って行って下さい」
「はいどうも」
「いくらだ?」
「3万チョイだな」
「安いな」
「まあな、採算取れるんかね?」
「家に帰るか」
「そうだな、やちる、マフラー」
「うん!」
「剣八もマフラー家にあるけど、どうする?」
「どうとは?あるんなら使う」
「そ、そうか!」
「そうだよ」
「初めて、ですね」
「ん?なにが?」
「家族で外食は・・・」
「あ、そういやそうだな。いつも家だ、楽しかったか?」
「はい・・・!とても」
「おー、回転寿司が特に」
「ほおお、どういう意味だ?」
「こらこら、子供相手に」
「んふふー、ウル兄もグリ兄も楽しそう」
「そうだなー」
白い息を吐きながら剣八とグリが追いかけっこ?を始めた。

「やれやれ・・・仲が良くなったのかね」
「恐らくは・・・」
「冬休みに温泉にでも行きたいな、みんなでさ」
「そうですね・・・」
「行きたい!ねーねー!剣ちゃん!いっちーがみんなで温泉に行こうってー!」
「まだ決まって無いって」
向こうでグリを捕まえた剣八が、
「おお、良いじゃねえか。休みぐらいいつでも取ってやるぜ?ガキ共の休みはいつからだ?」
「12月半ばだから、あと何日もないよ。正月に行こうか?」
「いや、その辺は無理っぽいな年末の手前ぐらいか?丁度良いのは」
担がれたグリが、降ろせと暴れる。
「グリ?温泉行くって話聞いてたか?」
「ああ?温泉?いつ?」
「多分、冬休み入ってすぐ」
「ふーん、どこの?」
「まだ決めてない、行きたいとこあるか?」
「知らねえ、行ったことねえもん」
「そうか、浦原さんに聞いてみるか?」
「そうだな・・・」
「楽しくなりそうだな、2泊3日ってとこだな、正月の用意もあるし」
「そんなトコか」
「決まりな!じゃ家でどんなトコが良いか決めようぜ」
「いい加減降ろせよ!」
「忘れてたぜ」
「仲良くなったなあ」
「さっさと帰ろうぜ、寒い!」
「ハイハイ」

どんなトコにしようかな。
「なあ部屋は大部屋で良いよな?」
「あん?」
「みんなで寝るの初めてじゃん」
「お前がいいなら、良いけどよ」
「やちるが真ん中でさ、その両脇にウルとグリで次が俺と剣八」
「楽しそうだな、お前」
「へへ、家族で旅行かあ、楽しみだな」
家路を急ぐ一護達。途中で温泉宿の雑誌を買って帰った。

楽しみが増えた冬休み。







09/01/18作 第60作目です。温泉編に続きます。



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