題「黒猫と女の子」 | |
― 俺の身体が女になった・・・。 原因は、やちるに貰った赤い飴玉。それを食ったらこうなった。イライラが頂点に達して隊首室で怒鳴っちまった・・・。 「いっちー・・・、ごめんね・・・」 翌日、起きて来た俺に、申し訳なさそうに謝って来た。ふうっと息を吐くと、 「もう良いよ・・・、なっちまったもんはしょうがねえ、解毒剤はあんのか?」 「あのね、その、ね・・・」 「無いんだな・・・、いいよ、その内戻んだろ・・・」 「ごめんね、ごめんね、あたしの事、嫌いになっちゃった?」 「ならねえよ、ただし、もうこうゆうのやめてくれ」 「うん、ホントにゴメン!」 ポンポンと頭を撫でて別れた。剣八の部屋に戻ると居なかった。 「剣八?あれもう起きたのか?」 「ぐるる・・・」 背後で声が聞こえた。 「なんだ、居るんじゃ・・・、ね、え、か」 ・・・・・・・振り返った俺が見た物は。 巨大な黒猫に戻った(?)剣八だった・・・。 「あぁあぁあぁあ!」 またしても叫び声をあげた俺、 「どうしたの!一護君!って隊長?!」 弓親も驚いている。 in 隊首室。 「どうするの・・・?」 「どうって・・・?」 「どうにもなんねえだろ?」 はあぁ・・・、3人の溜め息が重なった。一護の背中には剣八が張り付いている。何故か離れない。 「おい」 「・・・」 「重い、どけ・・・」 すっ、と退いたと思ったら膝に頭を乗せてきた。 「なるしかねえよ・・・、俺の身体もいつ治るか分かんねえしな・・・」 「うん、でも討伐とかどうしようか?」 「山本のじいちゃんが何とかするだろ」 部屋で鬱々してたってしょうがない。 「剣八、毛づくろいしてやるから、縁側で待ってろよ」 「ぐるる」 大人しく言う事を聞く剣八。何か変だな・・・。部屋で死覇装に着替えて縁側に行くと座って待っていた。 「待たせたな、寒かっただろ?」 「ぐるる」 一護が座ると、背中を預けてきた。最初はひやりとしていたが、毛皮に櫛を通す度に暖かくなっていった。 「ほら、剣八、次は腹側出せ」 ごろんと、俺の膝に頭を乗せ、仰向けになった剣八の腹を撫で、櫛を通す。ふわふわした感触で気持ち良い。 「ほら、終わったぞ」 俺は抜けた毛を集めて袋に入れて捨てた。まだ縁側に居る剣八に、 「日向ぼっこか?座布団持って来てやろうか?」 と言うと袴を噛んでクイクイ引っ張られた。 「何だよ、俺も一緒に居ろってか?」 「ぐるる・・・」 ホントにでかい子供になったみてぇに甘えてくるな。とりあえず俺の分の座布団は要るな。 ガラス戸を閉めてるから、日差しが入ってるとそんなに寒くない。黒い色同士、熱は集めやすいみたいだ。 「あったかいな、それに静かだ・・・」 膝の上を占領している剣八の頭を撫でながら呟いた。もぞもぞ動いて今度は俺の胸に顔を埋めてきた。 座ってた方が良いのか、寝転がった方がいいのか分からん。ただ、満足そうなので放っておいた。 背中を撫でる度に、ぱたりぱたりと尻尾が揺れて、眼は瞑っていた。顔をぐりぐりマッサージしてやったら喉をゴロゴロ鳴らして喜んだ。 パチッと音を立てて目が開かれた。 「ん?どうした、剣八」 「一護君、隊長、お昼御飯だよ」 弓親が誘ってくれた。 「あ、おう、今行くー。ほら飯喰いに行こうぜ」 何故か嫌そうな剣八。グリグリ頭を押し付けては、むにむにと胸を揉んできた。 「お前な、そんなトコ揉んでもなんも出ねえよ。ホラ行くぞ」 俺が立ち上がると渋々と言った感じでついてきた。 お昼は、雑炊だった。そしてやっぱり二人っきり。冷ましてから俺が喰わせる。何様だ、こいつは? それでも至極満足そうだ。次は俺が食べる番だ。少し冷めてるけどまあいいか。 食べ終わって、片付ける。食器を洗って散歩にでも行こうかなと剣八を誘う。 意外にもついて来なかった。寒いからかな? 一人でゆっくり歩いていると、乱菊さん達に声を掛けられた。 「一護!何やってんの?」 「散歩ですよ、ただの」 「一人?更木隊長は?」 「隊舎に居ますけど?」 「ふうん、ねえ今からお菓子食べに行かない?奢るわよ?」 「いえ、遠慮します。もう帰らないと・・・」 「ああ〜・・・、なるほどね、頑張って一護」 「はは、そうですね」 この身体になって良く声を掛けられる。乱菊さん達や、恋次、白哉、他の男も何かにつけ、誘ってくる。正直鬱陶しい。 めんどくせえ・・・。一人呟いた。 隊舎に着くと剣八の姿がなかった。弓親に聞いても知らないという。散歩か?行き違いか?まあ帰ってくるだろ。 俺は自分の部屋で横になると眠くなってきて、眠ってしまった。 身体に違和感を感じて目が覚めた。 「・・・おい」 剣八がいつの間にか帰って来ていた。そして、当然の様に俺の胸に吸い付いている。 「離れろ。何も出ねえだろうが、ふにふにフニフニ揉んでんじゃねえよ!」 引っぺがそうとすると、歯を立てて嫌がった。 「あっ!いったぁ!てめえ・・・」 「うるぁぁ・・・」 やっと口を離したと思ったらこんな鳴き方しやがって・・・。汚ねえの・・・。何も言えねえじゃん・・・。 「ったく、お前といい、最近の男どもといい、何なんだよ」 ピクッと耳が動いた。血が滲んだそこをペロペロ舐めてたのに、じぃっと見てくる。 「あ?何か最近他所の隊の男の隊士がお茶でもって誘ってくんだよ。黒崎だって言っても知ってるつってよ。 あ〜あ、めんどくせえの、疲れたから寝る。蒲団敷くから退けよ」 のそりと、退くと敷き終わるまで待っていた。 「お前も寝んのか?」 「ぐるる」 あんな事を聞いては一人でなど置いておけない、いそいそと真横に陣取った。 「お前な、少しは遠慮しろよ・・・、まぁいいや」 一護も蒲団に潜り込んで目を瞑った。相変わらず吸い付いてくる剣八。 「・・・なあ・・・、なんか楽しいか?そんなトコ吸って・・・。何も出ねえだろ?お前だって、その、ヒトの時にソコ吸ったら嫌がんじゃん・・・?」 一護は剣八の肉球をぷにぷに触りながら訊いてみた。 チュッと口を離すと剣八は一護を見上げて来た。 「だって・・・、前にお前が風邪引いた時に使った哺乳瓶みたくミルクが出る訳じゃないし・・・」 ぷにぷに、プニュプニュと肉球を揉んだまま続ける。一護は泣きそうな顔になって、 「その、さ、安心するのか?なんか上手く言えないんだけどよ・・・、俺、お前の事甘やかしてやれないしさ・・・、 いつも俺ばっかり甘えてるから・・・、い、今の身体のうちに甘えても、い、良いぞ・・・?」 耳まで赤くなってそう言うと、きゅっと剣八の頭を抱いた。 それを聞いた剣八は、目を細めて初めて、 「にゃあう・・・」 と鳴いた。一護はちょっとびっくりしたが、敢えて剣八の顔は見なかった。 剣八は、ちゅっちゅっと、繰り返し乳房に軽く吸い付いて、胸に顔を埋めて安心しきって眠った。 一護は、ずっと剣八の頭や、背中を撫で続けた。 翌日から、一護の傍から片時も離れない剣八の姿が見られた。 一護をお茶に誘う男を片っ端から、蹴散らす剣八と、鬱陶しい見知らぬ男が消えて清々している一護が居た。 縁側で、ぴったり寄り添いながら、昼寝する二人。 二人きりになると、剣八を甘やかす一護、素直に甘える剣八が居たのは誰も知らない二人の秘密。 終 09/01/13作 第57作目です。さて、お次は、子猫に女の子になって貰いましょう。 |
|
文章倉庫へ戻る |