題「黒猫、子猫の看病する」
一護の朝は、弓親に起こされて始まる。その日もそうだった。
「一護君、朝だよ〜。もう起きよ」
と弓親が中に入って呼び掛けても返事をしなかった。いつもなら、うにゃうにゃ言いながらも返事はするのに・・・。
「一護君?まだ寝てるの?」
蒲団を少し捲ると、カタカタ小刻みに震えている一護が居た。髪は汗で貼り付き、耳は寝てしまっていた。
おでこに手を乗せてみると、ひどい熱だった。
「熱いっ!大丈夫?誰か!卯ノ花隊長呼んで!早く!」
はっ、はっ、と浅く乱れた呼吸とひどい汗。卯ノ花隊長が来るまでの間、いつの間にか部屋にいた剣八が枕元に座って絶えず汗を舐めとっていた。ぺろぺろ舐められるのが気持ちいいのか、安心するのか徐々に落ち着いてくる。
「な、なあう・・・」
掠れた声で鳴き、手を伸ばして剣八に触る。
「ぐるる・・・」
その手もぺろりと舐め、顔を擦り付ける。卯ノ花隊長が到着した。
「失礼しますね」
勇音も来ていた。
「どうですか?一護君」
「みぁ・・・」
「まあ、すごい汗ですね。熱はどうですか?」
・・・39度。
「解熱剤を出しておきますね、それから注射をしましょう、大丈夫、すぐ楽になりますよ」
「み、みィ・・・」
怯えたように耳を寝かせる一護を見た剣八が、
「ぐるああぅ」
と威嚇するように吠えた。勇音がびくっとした。
「更木隊長、治療の邪魔をなさらないで下さいな」
一護の肘の内側を消毒しながら、注射の用意をした。バシンッ!と尻尾を畳に叩き付けた。
ぐるるる、と眉間に皺を寄せてまだ威嚇してくる。卯ノ花隊長はハァ・・・と息を吐くと、
「勇音、更木隊長に縛道を」
「は、はい!」
縛道を掛けられ動けなくなった剣八。
「さっ、一護君早く済ませてしまいましょう」
注射が刺さった。
「ぴっ!」
「はい、お終いです。頑張りましたね、いい子ですね一護君は」
涙目になっている一護の頭を撫でた。すぐ後ろで剣八が唸っていた。
「勇音、もう解いても良いですよ」
注射の後に、絆創膏を貼って言った。縛道を解かれた剣八は、たたっと一護に駆け寄った。唇を噛みしめて我慢している。
卯ノ花隊長達が出て行くと、
「みゃぁ、みゃぁ」
と剣八に甘えた。剣八も涙の浮かんだ目元を舐め、髪の生え際を舐め続けた。
すんすんと泣きやむと薬が効いてきたのか、うとうとしだした一護。剣八がごそごそと蒲団の中に入って来た。
「んにゃあ?」
大きな黒猫が背中を包む様に添い寝してくれる。
あったかくて、気持ちいい。
「ふにゃあ・・・」
身体の向きを変えて、剣八の方を向く。ふわふわの毛皮にすりすりしながら眠る一護。
尻尾で背中をさすってやる剣八。
「一護君、お粥持ってきたけど、入っても良い?」
弓親が控え目に聞いてきた。
「にゃあ」
と返事をすると入ってきた。
「隊長・・・・、見ないと思ったらここだったんですね・・・」
ふんっと鼻を鳴らした。
「まあいいや、二人分はあるから。先に一護君からね」
と一護を起こして、お粥を食べさせた。もぐもぐと食べたが半分残した。
「もう入らない?じゃあお薬飲もうか」
いやいやと首を振る。
「でも、飲まないとまた注射されちゃうよ?」
「あう・・・」
眉尻を下げ、手をもじもじとさせている。
「それにほら、粉でも、錠剤でもないよ?お湯に溶かして飲むやつだから、はちみつで甘く出来るよ」
そう言うと漸く飲んでくれた。
剣八は勝手に粥を食べ終えていた。蒲団に戻ると一護が弓親に脱がされていた。
「ぐるあ!」
「汗で濡れたままだとまた具合悪くなるでしょ!まったく・・・」
ぶつぶつ言いながら着替えさせていった。はふ、と息をつくと蒲団に入る一護。剣八の首筋やお腹にぐりぐりすり寄っていった。
「なあう・・・」
ウトウトしながらも、剣八を抱き締めて離さない一護と、離れず汗を舐めとる剣八が居た。

一護が治るまで、一護の部屋から必要最低限、出ようとしない剣八が見られたとさ。







09/01/09作 第54作目です。でか猫の看病、どうでしょうか?次は人間一護を看病するでか猫を書こうかと思ってます。
相変わらず、舐めてるだけかも・・・。




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