題「子猫、看病する」
一護はガラス戸を閉めた縁側で空を眺めていた。
鈍色の空からは、ふわりふわりと風花が降ってはすぐに消えていった。そんな様子に見惚れている一護。
ふと、剣八の部屋から喧噪が聞こえた。
「ん?」
と振り返り、障子を開けて中に入る。
「もうっ!いい加減にして下さい!そんなんじゃ何時まで経っても風邪が治りませんよ!」
珍しく弓親が怒っている。
「うるせえな、風邪なんざ酒飲んで寝てりゃあ治んだよ!」
剣八を見ると、寝間着に手酌で酒を飲んでいた。
「そう言って3日もそうしてるじゃないですか!僕もう知りませんからね!」
ぷりぷり怒って出て行った。
「ふん、せいせいしたぜ、なんだ一護?」
静かに近付いて剣八の様子を見る。
顔が赤い、汗がすごい、薬は枕元にある。が飲んでる様子はない。
「にゃーん・・・」
「いいんだよ、風邪ぐらいで騒ぎすぎなんだよ、ったく」
クイッと杯を空けると最後の一杯だったらしく、チッと舌打ちすると、
「一護、酒持ってこい、つまみはお前にやるからよ」
と言って来たので、そこらに転がってる銚子を盆に乗せる。剣八も手伝ったが、熱のためか震えていた。
「・・・にゃー」
と鳴いて両手で剣八の頬を触ってみる、かなり熱い。
「気持ちいいな・・・」
と一護の手を握ってきた。
「に、にゃう・・・」
ふるるっと震える一護、
「ほら、早く酒貰ってきてくれ」
一護は弓親のところに行って、盆の銚子を渡す。
「ああ、一護君、ありがとう。まさかまた持ってこいとか?」
控え目にコクと頷いた。目に見えてイラつき出す弓親。
『きゅるるる〜』
「あう・・・」
一護のお腹が鳴った。くすっと笑って弓親が、
「お昼まだだったね、雑炊だけどいいかな?」
「にゃう」
温めた雑炊と水を盆に用意して貰い一護は、剣八の部屋に行った。
「おう、遅かったなって、何持ってんだ?」
剣八の横に行くと土鍋に入った雑炊を茶碗に入れ、匙に掬って口許に持っていく。
「な〜ん」
渋々食べる剣八。茶碗一杯分を食べ終わると、『きゅるるる』と一護のお腹がまた鳴った。
慌てて自分のお腹を押さえた。
「おい、まさかこれお前のメシじゃねえのか?」
「・・・」
「一護?」
ごそごそと薬を差し出した。
「飲めってか」
「にゃあ」
チッと舌打ちして、薬を飲む。
「飲んだぞ、お前もメシ喰え」
土鍋に残った雑炊を食べる一護。えぷっと満足そうにすると片付け出した。
「一護、酒は?」
ちらっと見てから出て行った。
「どっちなんだ・・・?」

一護は弓親に手伝ってもらって、替えの寝間着や手拭いを2〜3枚と手桶の水を用意して貰った。
んしょ、んしょと一人で抱えて剣八の部屋に入る。
「何、やってんだ・・・、一護」
「んにゃあう」
トサトサッと持っていた寝間着と手拭いを置くと水の入った手桶を床に置いた。
「一護?」
剣八の寝間着の帯を解いて脱がせると手拭いで背中の汗を拭いていった。剣八も自分で拭き始めた。
「・・・弓親に頼まれたか?」
「ん〜にゃ」
自分からか・・・。ごしごしと自分の背中を拭く一護、脇の下や、膝裏も拭いてきた。渡された新しい下着を身につけ、
寝間着も替えると蒲団に寝かされた。洗濯物を掻き集めて、部屋を出て、すぐ戻ってきた一護。
「おい、一護酒・・・」
「にゃっ!」
厳しい声で鳴かれた。
「薬も飲んだ、大丈夫だ、寄こせ」
身体を起こそうとする剣八を制して、額の汗を舐めとった。
「一護・・・」
「んにゃう・・・」
眉尻を下げて、情けない顔で見つめて来た。とさっと寝転がると一護が上から剣八の頭を抱えて、ペロペロ舐め始めた。
こめかみから、髪の生え際を舐め、冷たい水で絞った手拭いを額に乗せた。髪を梳きながら、首筋の汗も舐めとっていった。
「もういい、それ以上やると我慢効かねえぞ。ちゃんと寝るから」
大きな手で頭を撫でられた。その言葉通りすぐに眠った剣八。その横でこまめに手拭いを替える一護。
手桶の水がぬるくなったので、替えにいった。外はまだ風花が舞っていた。白い息をはきながら、井戸から水を汲む一護。
急いで部屋に戻りたいが、水が零れそうでゆっくり歩いた。漸く部屋に辿り着く。ガラス戸を閉めて、障子を静かに開ける。
額の手拭いはぬるくなっていた。新しい手拭いを絞って額に乗せる。
「ん・・・、一護か、何してる?」
「ん?」
手拭いを裏向ける。ひやりとして気持ち良い。
「まさかずっとやってたのか?」
一護の手を見ると真っ赤になっていた。それでもニコニコ笑って隣りに座っていた。じゃぶじゃぶと新しい手拭いを絞る一護。
ぬるくなった手拭いと替える。頬に張り付いた髪を梳いた。その手はきっと痛いくらいに冷たいのだろう。
「一護、ほれ、入れ」
剣八が、蒲団を半分開けた。
「にゃ、にゃあう・・・」
「いいから来い!身体冷えてんだろうが」
ぐいっと引き寄せると、着物も身体も冷え切っていた。
「ったく、俺の為にこんなにするこたねんだよ」
「にゃあう・・・」
「寝るぞ、お前も寝ろ」
「にい・・・」
「冷たくて気持ち良いな・・・」
すりすりと顔をすりつける一護。
「悪かったよ、心配させて・・・」
「にゃう」
剣八の隣りで眠る一護。冷えた身体を擦りながら眠る剣八。

様子を見に来た弓親が、余りにも微笑ましくてくすりと、笑って部屋を後にした。

次の日には、全快した剣八。一護を甘やかす剣八が見られた。






09/01/09作 第53作目です。看病シリーズ?次は、子猫が風邪ひいて、猫剣に看病?される話書こうかな。



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