題「子猫のお散歩」 | |
一護の一日は、弓親に起こされて始まる。 「ほら、一護君起きて、着替えてご飯食べなきゃ」 「むー・・・」 朝食の時間=隊首会の時間なので急いで済ませたい弓親。剣八が帰ってきたら仕事が始まるからだ。 うつらうつらしながら着替えさせてもらう。 「さっ、顔洗ってご飯食べよ」 「んにー・・・」 目をこしこし擦りながら弓親の袖を持って廊下を歩く。 可愛いなぁ、弓親はそう思いながら洗面所まで連れて行く。歯を磨いて、顔を洗うと漸く目が覚める。 「んんにー」 と伸びをして居間の方へ行くと朝ご飯のお粥が用意されていた。弓親の食べさせてもらう。食べ終わったらまた歯を洗う。 現世での習慣のようだ。もうすぐ剣八が帰ってくる時間だ。 剣八がやちると帰ってきた。 「お帰りなさい、隊長。今日は討伐の方はありますか?」 「いや、ねえってよ。つまんねぇ話だぜ、ったく」 「んにゃーう」 「おう、一護起きてたのか」 「んにー」 トテトテと傍に行くと腕を伸ばして剣八の顔を下げるとすりすりと自分の顔を擦り付けた。 朝の挨拶をして縁側に行く。そこで少し昼寝をするのが日課になっているので、最近は誰も邪魔しに来ない。 丸くなってスピスピ寝ている一護はとても可愛くて誘拐されるんじゃないかと乱菊が冗談交じりに言っていた。 一時間ほどで起きると今度は散歩に出掛ける。 「んにぃ」 弓親の袖をくいくい引っ張って草履を強請る。 「はいはい、待っててね、今行くから。そうだ一護君、今日はお菓子を持って行くんだよね」 「にゃあ」 「これ、良かったらあげる。可愛かったから、名前も付いてるからね」 大きめの巾着袋に一護の名前と猫のアップリケが付いていた。首から下げれるように太く長い紐が付いていた。 「にゃあん」 余程嬉しかったのか何度も顔を擦り付けて来た。中にそば饅頭を入れて首から下げる。 縁側で草履を履かせてもらい外に行く。 今日は、朽木邸の鯉を見る。清家にいつもお菓子を貰っているので一護は自分から持って行った。 自分から渡せば一緒に食べれるんじゃないかと思ってわくわくした。 「んにゃーう」 「おや、これはこれは、一護殿。ようこそ」 「にゃあ」 中に入れてもらう。いつものように池に行って鯉を見る。いつ見ても大きくて、綺麗。尻尾がふよふよ揺れる。 そんな様子を目を細めて見ていた清家が声を掛ける。 「一護殿、お茶が入りましたよ」 ぴくっと耳が動き返事をする。 「にゃあ」 縁側に行き、座るとにこにこ笑って巾着から饅頭を出して清家に差し出した。 「私にですか?ありがとうございます」 「んにい」 にこおっと笑うと一緒に食べた。今日出して貰ったおやつは、巾着に入れてくれた。清家はこの時間が楽しみになっていた。 次はどこに行こうかな?ぽてぽて歩いていると後ろから声を掛けられた。 「い〜ち〜ごっ!」 「んに?」 くるっと振り向くと、タプンっと顔が柔らかい物に埋まった。乱菊だ。 「んんー!ぷはあっ!」 「何やってんの?散歩?」 「んにぃ」 「あら、可愛い巾着ね。よく似合ってるわよ」 と褒められると小首を傾げて嬉しそうに笑った。ズキューンと胸を撃ち抜かれたかのような衝撃を受けた。 「一護、あんたって可愛過ぎるわ!暇ならうちの隊舎でお茶でも飲んでく?」 「にゃあ」 特に行くところも無かったのでついて行った。 「たーい長、一護連れてきました。お茶入れますね」 「おい、松本お前仕事は?」 「そんなの後、後、今は一護とのお茶が大事ですよ」 「お前は・・・」 「ふにい?」 「別にお前が悪い訳じゃねえよ。ったく」 3人分のお茶を入れて乱菊が戻ってきた。 いそいそとソファに座り、一護にお菓子を進めながら、 「ねえ、その巾着の中、何が入ってんの?」 一護がバサバサと中身をテーブルに出す。そば饅頭に、清家に貰った栗饅頭が出てきた。 「可愛いわぁ、あんたうちの子になりなさいよ」 冗談めかして乱菊が言うと、ふるふると横に首を振られた。 「あらあ、振られちゃったわね。更木隊長がいるもんねえ?」 「にゃあ」 至極当たり前だと言わんばかりに返事が返された。ぱくりと饅頭を齧り、お茶を飲む一護。 「ん?」 二人が自分の顔を見てくる。なあに?と小首を傾げると、日番谷が少し赤くなった。 「可愛いでしょ?隊長。もうこの子アイドルですよ」 訳が分かんないのでぱくぱく饅頭を食べる一護。こくこくとお茶を飲み終えると、 「にゃー」 「あら、帰るの?もっとゆっくりして行きなさいよ」 「んーにゃ」 一護は日番谷の机を指差した。 「あー、はいはい、仕事やれって言いたいのね」 「にゃあ」 「じゃあまたね。一護」 「またな、黒崎」 「にゃあ」 巾着の中はもう一杯になっていた。乱菊の所でも甘納豆を貰った。 次はどこに行こうかな?ぽてぽて歩いているといつの間にか三番隊の前に来ていた。 あまり喋った事はないが、イヅルという副隊長が疲れた顔をしていたなと思いだした。 「んにゃーう」 扉が開けられた。 「何か御用ですか?」 隊士に尋ねられ、巾着から饅頭と甘納豆を出して渡した。 「?誰にですか?」 「んー、にゃあ」 片目を髪で隠すと、 「ああ、吉良副隊長ですね」 と言われた。 「なんならご自分で渡しますか?黒崎さん。きっと喜ばれますよ」 「ふうん?」 お菓子を手に執務室について行く。 「吉良副隊長、お客様です」 「どうぞ・・・」 「にゃあ」 「やあ、一護君、どうしたんだい」 「んにー、にゃあ」 お菓子を見せる。 「お菓子?僕と?」 「にゃあ」 「嬉しいなぁ、じゃあお言葉に甘えて一緒にお茶にしようか」 「んに」 運ばれたお茶と一護のお菓子で一休み。 「ふう〜、結構疲れてるんだなぁ。甘い物が美味しいよ、ありがとう一護君」 「にゃあ」 その後、他愛もない話をして帰ろうとする一護に、 「今日はありがとうね、一護君、これお返しに」 大福をくれた。なんだか行きよりお菓子が増えてる気がする。 「にゃー」 なでなでとイヅルの頭を撫でて帰る。ちょっとびっくりした顔になったが柔らかく笑ったので安心した一護。 次はどこに行こうかな?七番隊に行こう。狛村隊長にもお裾分け。 「んにゃーう」 「おお、どうした?一護」 「にゃー」 お菓子を見せて笑う。 「おお、ちっとまっとれよ。今隊長に言うけん」 「にゃあ」 「一護、もうえぇぞ」 縁側に座ると狛村隊長が奥からやってきた。 「黒崎?どうした、大荷物だな」 と言って少し笑った。一護は今日あった事をたくさん喋った。 「なるほどな、行く先々で貰って増えてしまった訳だ」 「ふにー」 「良いではないか、それだけお主が慕われておるという事だ」 ぽんぽんと頭を撫でられた。 「それで儂にお裾分けか、遠慮なく頂こう」 「にゃー」 もうすぐお昼だ、帰らなきゃ。 「んにー」 「ん?そうだな、またおいで」 「にゃー」 十一番隊への道すがら、恋次に会ったので、半分お菓子をあげたらすごく喜んでくれた。 朽木隊長は甘い物好きじゃないって言ってパクパク食べてた。 「じゃーな、あんがとよ一護」 と言って別れた。 「おう、一護あんまり遅いから迎えに来てやったぞ」 一角だ。 「にゃあ」 「隊長が待ってんぞ、早く飯喰おうぜ」 「んに」 「只今帰りました」 「んにゃーう」 「おかえり、一角、一護君」 一護は手洗い、うがいを済ませて剣八の所に行った。 「遅えぞ、一護」 「にゃあう」 すぐに胡坐の中に納まる一護。弓親が、 「一護君、巾着は役に立ったかい?」 「にゃあ!」 嬉しそうに笑った。 「ふふっ、それは良かった。さ、お昼にしよう」 弓親お手製の雑炊だった。一護のお気に入りで、耳がぴくぴく動いている。 「そんなに気に入ってもらえて嬉しいな。はい」 剣八に渡す。昼と夕は剣八が食べさせる。 「ほれ、ヤケドすんなよ」 「ん、むんむん、にゃぁ」 本当に美味しそうに食べる。剣八に食べさせて貰うのもあるんだろうな、と弓親は思ったがやっぱり嬉しかった。 小さい土鍋にあった雑炊は全部一護に食べられた。 「けぷっ、んにゃ」 すりすりと剣八に身体を擦り付ける一護。くいっと顔をあげられ頬を舐められた。 「口の端に付いてたぞ」 「にぃー」 えへらと笑った。今度は弓親にすりすりした。頭をなでなでしてやった。一護は歯を洗いに行った。 「隊長、そんな怖い顔で睨まないで下さいよ」 「睨んでねえよ、なんだこりゃ」 「ああ、僕が朝にあげたんですよ。何かお菓子持って行くみたいだったんで」 「ふーん」 中を覗くと、大量の菓子が入っていた。 「どんだけ持っていったんだ?あいつ」 「そば饅頭を5〜6個でしたよ」 「これがか?」 どちゃどちゃと中から出て来たのは、そば饅頭、栗饅頭、甘納豆、大福だった。 「もしかして行く先々で貰ったんじゃないですかね。とんだわらしべ長者だ」 くすくす笑う弓親に苦い顔の剣八。やちるが食うんだろうが貰いすぎだ。 「んに?」 終 08/12/12作 第41作目です。子猫の一日を書きたかったんですが半日です。ほのぼのです。 この後確実に浮竹さんとこ行って倍返しはされてると思って下さい。 「一護君、君はなんて優しい子だ。もっと食べなさい」とかなんとか、重じいんとこにも行けばいい。抹茶出されて、 ぺーって舌出しちゃうの。可愛いな。 |
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