題「家族でバースデーを」
洗い物を終えた一護が不意に、
「ん?やちる、今日は何日だ?」
「ん〜とね、17日だよ」
「ああ、明後日か」
「あ、そうだね」
「?」
「?」
二人の会話についていけない息子が二人。
「何の話ですか?お母さん」
「ああ、剣八の誕生日の話だよ」
「げっ、あいつに誕生日なんてあんのかよ」
「当たり前だろ、そうかお前らは初めてだな」
「そうですね。何かするんですか?」
「まあ毎年やってるけどな。剣八だけじゃないからな、やちるも俺も祝ってるし。今年は家族が増えたし賑やかになりそうだな」
うきうきと嬉しそうにしている一護とやちる。
正直、興味無かったウルキオラと祝う気のないグリムジョーだったが、あまりにも一護が楽しそうにしているので家には居てやろうと思った。
「おまえらのも盛大に祝おうな!俺のは終わったし、次はやちるだな!」
「うん!」
一護は、やちるを抱っこしてその場でくるくる回りながら言った。何時に無くはしゃいでいる。
「俺らの・・・?」
「何をですか・・・?」
まさかとは思うが、 た ん じ ょ う び を ?
「何をって誕生日に決まってんだろ!ちゃんと教えろよ〜」
「!!」
「!!」
「ん?どうした?二人とも変な顔して」
「なんで?何でだよ!俺らのなんかどうでも良いじゃねえかよ!」
「良かないだろ。家族の誕生日ぐらいちゃんと祝うもんだぞ。まあ、そんな訳だ、剣八の誕生日の準備はお前らも手伝ってくれよな〜」
エプロンを外しながら言う一護に何も言えない二人だった。一護はやちると一緒に寝室に帰っていった。
「何、考えてんだよ・・・」
「・・・理解・・・、出来ん」
唐突な事に理解不能に陥っている二人はそう呟いた。祝う?何の為に・・・。分からなかった。

一方一護は、縫いものを初めていた。
「もうすぐ?いっちー?」
「ああ、もうすぐ出来あがるぜ。間に合って良かった・・・!」
「剣ちゃん、きっと喜ぶよ」
「うん。だと嬉しいな」
ちくちくと針を進める。剣八は残業で遅い。19日を空ける為だ。さあ、今年から家族が増えた。アイツはどんな顔をするだろうか?知らずにニヤけてしまった。
「よし!出来た!っあ〜、肩凝った〜」
糸を切り、針を片して、出来栄えを確かめる。
「どうだ?やちる、変な所とか無いか?」
「うん!大丈夫だよ、綺麗に出来てる!」
「そ、そっか。後はちゃんと着れるかが問題だな」
「どうゆうこと?」
「ん?着た途端にほつれないかってことだよ」
「大丈夫だよ!あんなに頑張って縫ってたじゃん」
「そ、うだよな。じゃ、後はラッピングだけだな」
出来たての着物を畳みながら、綺麗に包装してリボンを掛けた。
「明日はやちるが渡すプレゼント見に行くんだよな」
「うん!」
「何にしたんだ?」
「あのねぇ、隊舎で使う湯呑みだよ。カッコいいのがあったんだ」
「へえ、じゃあそれと後は宴会の用意だな。酒と料理と、アイツ等はジュースだろ」
「後、ケーキ!おっきいのにしようよ」
「そうだなぁ、去年みたいに失敗したくねえもんなあ」
去年は自分たちで焼いて失敗した。外は焦げてるのに、中は生のままで食べれた物じゃなかった。それでも一口食べてくれたのが嬉しかった。どっちが祝ってるんだか・・・。
「なあ、やちる?ケーキなんだけどさ、名前とかメッセージとか俺らで書かないか?飾り付けはお店の方でしてもらってさ」
「あっ!それ良いよ!それならウル兄もグリ兄もプレゼントに出来る!」
「あ、ほんとだ。やちるお前すげぇな!よし!そうしよう!」
いつもの店に掛け合ってみよう。

翌朝、元気が無いように見えた二人の息子に一護が声を掛ける。
「どうした?二人とも具合でも悪いのか?」
「いえ・・・、大丈夫です」
「何でもねえよ・・」
「そうか?しんどかったら、学校休めよ?」
交互に額に手を当てて熱を測る一護。思わずびくりとする二人。こんなのは慣れてない。今までは放っておかれるだけだった。
「う・・、あ・・」
「ん?やっぱ変だな。お前ら二人共、今日は休んで寝ろ」
「大丈夫です。平気ですから、お母さん」
「何でもねえって・・・」
「寝・て・ろ!」
ぐいぐいとそれぞれの部屋まで押しやって着替えさせた。
「食欲は?」
「普通です」
「・・・俺も」
「じゃあ、昼に起こすから、きちんと寝てろよ?」
「はい・・・」
「ん・・・」
パタンとドアが閉じられた。パタパタと足音が遠ざかる。ウルは言われた通りにベッドに横になった。暫くするとウトウトしだした。
少し体調を崩していたのかもしれないな・・・と思いながら、夢のふちで歌が聞こえた。
グリは着替えるとすぐベッドに横になって目を閉じた。正直一護が何を考えているのか分からなかった。
ウルとグリは、同じ孤児院に居た。そこでは誕生日なんて無かったし、身体の心配なんてされた事も無かった。
「分かんねえ・・・」
そう呟くと微かに歌が聞こえてきた。
「なんだ?」
部屋を出るとウルが庭を見つめていた。そこからか?グリも目をやるとそこには、洗濯物を干す一護と縁側にやちるが居た。
歌を口ずさみながら、大きなシーツを広げて干していた。なんだかすごく眩しく感じた。
「・・・あ?」
口から声が出た。その声にウルがこちらを振り向いた。ぎょっとした顔をしている。
「・・・何を泣いている・・・?」
「はあ?」
「貴様は自分が泣いているのも気が付いて無いのか?」
「・・・てめえこそ・・・」
「なっ・・・」
二人で顔を触って確かめると濡れていた。なんだこれは?こんなモノ知らない。
「止まんねえ」
「俺のもだ、何だこれは?」
「こらー!何起きてんだ!ちゃんと寝てろぉ」
怒る一護の横に笑うやちる。また溢れてくる。止め方が分からなくてイライラしてきた。
「何してんのー?いっちーに怒られるよ?」
「や、やちる!なんだコレ、止まんねえんだ。気味わりい」
「それねえ、涙だよ。やっぱ二人もそうなったねぇ」
「やっぱ?二人も?」
「うん、あたしもねぇ、いっちーに会ってから出るようになったの。怖くなっていっちーに言ったらね、『大丈夫だよ。それはやちるがちゃんとした感情があるって証拠だから。良いことだよ』って言ってずっと抱っこしてくれたの」
「ちゃんとした感情・・・」
ウルが反芻する。
「うん、あたしずっと剣ちゃんと一緒に居て怖いとも寂しいとも感じなかったの。でもいっちーと一緒にいるとね、たくさんの気持ちが溢れて来るの。剣ちゃんもそうみたい、前よりたくさんの顔が見れるもん」
「・・・親父が?」
「うん、皆には分かんないのに、いっちーには分かる顔があるの・・・、そういう時は二人きりになりたがる」
「「・・・」」
いつの間にか一護が後ろに居た。
「お〜ま〜え〜ら〜な〜、って何泣いてんだ!どっか痛いのか?」
首を横に振るしかない。
「歌を・・・、聞いて、いたら、こうなりました・・・」
「歌を・・・?お前ら、ついて来い」
「「?」」
後をついて行く。居間に行くと蒲団を敷きだした。掛け布団は2枚出ている。
「ほれ、寝ろ」
「なっ、やなこった!なんでこいつと!」
「それはこちらのセリフだ」
「パジャマ姿で言ってもな、それにお前らだけとは言ってねえぞ?」
「はあ?」
真ん中に一護が座った。左右を叩いて、
「両側空いてるぜ?」
「ぐ・・・」
「むぅ・・・」
「わーい、あたしもー」
やちるが一護の膝枕を奪った。
「ん?」
「しょうがなくだからなっ」
「はいはい」
「失礼します」
左右に寝転んで一護の足を枕にする二人。ぽんぽんと背中を叩きながら今度は子守唄を歌い出した一護。
「ちくしょう、止まんねえ・・・」
「・・・・・・」
「良いんだよ、それで。お前らの中に溜まってたモンが出てんだ。出しちまえよ」
「くそっ・・・」
両側から伝わる震えが一護は愛おしく感じられた。いつしか寝息に変わった頃、一護は洗濯物をどうやって取り込むか考えていた。するとやちるが、
「良かったねぇ、いっちー。ウル兄とグリ兄がちゃんと泣けて」
「うん、嬉しいよ。祝い事が増えたな」
「剣ちゃんに教えるの?」
「いや、やめとく。そっとしとくよ」
二人の髪を梳きながら言った。
「ふ〜ん?分かった」
「やちる、悪いんだけどさ洗濯物取り込んでくんねえか?」
「いいよ!今日はいっちー取られちゃったけど明日はお買いもの付き合ってね」
「おお」
そう言えばやちるのプレゼントを買いに行く予定だった。
「ん・・、なんだ・・」
「む・・」
「お、起きたか二人共」
「お、お袋!」
「なっ!何を!」
二人してガバッと起きて互いの顔を見るとバツの悪そうな顔をした。
「やぁーっと起きた。ったく気持ち良さそうに寝てたぞ、二人共」
「あ、起きたの?二人共。ねぇ、ねぇ二人共剣ちゃんにあげる物決まってる?」
「いや・・・」
「ねえよ・・・」
「じゃあね!昨日いっちーと話したんだけど、ケーキにメッセージ書いて渡すのってどうかなぁ?4人からのプレゼントにもなるし、
2人からの初めてのプレゼントにもなる!」
どう?と二人を覗き込む妹。一護は笑いながら洗濯物を畳む。ちょっと湿気たかな?
「別に・・・、構わねえよ」
「俺も良いです」
「だって!良かったね、いっちー!」
「ああ、これで家族全員の分が揃ったな」
にっこり笑って二人の頭を撫でる。蒲団を片付けて夕飯の支度をする。
その後ろを離れようとしない二人が居た。
「あのよ・・・。お袋、聞きたい事あんだけどよ・・・」
「んー?」
「・・・なんで祝うんだ?誕生日って何の意味があるんだ?俺、分かんねえよ・・・」
ウルが少し驚いた顔をしていたが同じ気持ちだったのだろう、何も言わなかった。
「ふん?」
首を傾げる一護。
「だ、って今まで居たとこじゃ、何もしなかったし、何も言われなかった!それに病気か?なんて心配された事もねえ!」
「・・・ウルもか?」
こくりと頷いた。
「う〜ん、難しい事聞くなあ。他は知らねえけど俺の解釈で良いなら説明するけど?どうする」
「それで良い。今の俺、らのお袋はアンタだ」
「俺もです」
「そうだなあ、まず一つにこの世に生まれてくれて嬉しいってのがある。そんで今日まで生きてくれた事。俺と出会ってくれた事。
色んな事を知って成長してくれる事。幸せになってくれる事。誰かを幸せにしてくれる事。それらを全部ひっくるめて、お祝いしたいんだよ。俺はな。どうだ?納得したか」
「・・・ああ!出来る。俺も祝ってもらえるんだな」
「俺も・・・、ですか?」
「当たり前だ!何回でも言ってやるし、祝ってやる!安心しろ!ちゃんと誕生日教えろよ!」
「分かった!」
「はい!」
「ったく、手の掛かる息子どもだよ。明日は当日だ。ケーキ選びに行くからお前らも付き合え」
「おう」
「買い物の荷物持ちもな」
「はい」

 いつものケーキ屋で話をする一護。良いよと快諾の返事を貰った。4人でどのケーキにするか選ぶ。あーだこーだと兄弟げんかを始めそうになり、最終的にやちるが選んだ。一番大きくて苺もたくさん乗ったやつがいい!と言ったのが効いたらしい。
次にやちるの言っていた、隊舎で使う湯呑み。
「ここだよ〜」
と言って瀬戸物屋に入るやちる。
「これ!これが良いの!」
「でけ・・・」
「・・・」
「寿司屋の湯呑みぐらいあんじゃねえのか?」
「うん!剣ちゃんにぴったりでしょ?」
「まあ、あってるちゃあ、あってるわな」
「絵も綺麗でしょ?虎がカッコいいの!」
「分かったって。早く買えよ。ちゃんとプレゼントだって言えよ」
「うん!」
きれいに包装して貰いニコニコ顔のやちる。
「一休みしてお茶でも飲むか?」
「いえ、大丈夫です、次は何ですか?」
「え〜と、宴会用の食材と飲み物だな」
「重いもんばっかじゃねえか。客とか来んのか?」
「来ても一角と弓親ぐらいだよ」
「ふうん・・・」
「何だ?」
「いや、ちょっと来たら嫌だと思ったから」
「何で?」
「さあ?なんだ?」
「グリ兄、照れてるんじゃないの?」
「?あ、そうか、ワリィ」
「んだあ?」
「お前も恥ずかしいという感情があったのだな」
「喧嘩売ってんのか!てめえ!」
「別に」
「む、で何買うんだよ」
「鍋の材料と、鶏のモモ肉とかだな」
「野菜が重そうだな」
「だからお前らに来てもらったんじゃねえか」
買い物を終わらせ家に帰る。
「ッダー!疲れたー。お前何気に俺に重いもんばっか渡しただろ?」
「さあな」
「はいはい、ケンカしない。お疲れさん!助かったぜ、紅茶淹れたから飲むか?」
「おう」
「はい」
「あたしはー?」
「やちるもいいよ。これ飲んだらケーキにメッセージ書くぞ」
「お、おう」
「は、い・・」
「何、キンチョ―してんだよ。書くこと決めとけよ」
「な、なんて書けばいいんだ!」
「誕生日おめでとう、お父さん。でも良いじゃねえか」
「お、おう」
「ウル?」
「はい」
「大丈夫か?」
「はい」
「でもお前、シュガーポットにお茶注いでんぞ?」
「え?」
「ぶはははは!なにやってんだ!お前!」
「黙れ、カス」
ウルがその紅茶をどうしようか迷っていると、つと手が伸びて一護が片付けた。
「ウール?口悪いぞ、グリも笑いすぎだ」
「「うっ」」
「ほら、さっさと書いちまえよ?」
ケーキにメッセージを書くべく、箱を開けて中身を取り出した。純白の生クリームにつやつやした赤いストロベリーが、たくさん散りばめられていた。真ん中上あたりに、ブルーベリーや、他ミックスベリーが飾られていた。
「ほう、今年も気合入れてくれたなあ。お前らの時が楽しみだな、こりゃ」
「ねえ、早く書こうよ!いっちーが最初ね!」
「ええ!俺かよ、しゃあねえな。『おめでとう、剣八』っと」
「はい、次ウルな」
「えっ!あ、はい」
『おめでとうございます、お父さん』
「ん、次グリな」
「お、おお!」
『おめでとう、親父』
「ん、やちる、お待ちどう様」
「うん!」
『ハッピーバースディ、けんちゃん。みんな大好き!』
「やちる、それはお前の気持ちじゃ?」
「うん!」
「まっ、いいか」
後は主役が帰るのを待つだけだ。今日は定時であがるから、いつもの時間だろう。
ウルも手伝って料理を作る。今日はグリも大人しく手伝っている。がららら、と玄関が開く音がした。
「剣ちゃんだ!おっかえりー!待ってたんだよー!ウル兄もグリ兄も!いっちーも!」
「ああ、ワリィワリィ。おい、一護、客増えたぞ」
「今晩は!一護久し振りー!」
「乱菊さん、恋次も。久し振り」
「あんたってば、結婚してからこっち全然来ないんだもん!寂しいじゃないのよ!」
「あはは、すいません」
「こんな所じゃなんですから、どうぞあがって下さい」
「で、その二人があんたの息子?」
「え?あ、いつの間に。そうですよ、黒髪の方が長男のウルキオラで、浅葱色の髪の方が次男のグリムジョーです。可愛いでしょ?」
「そうね、生意気そうなとこが、あんたにそっくりよ」
「そうですか?どっちかつうと更木隊長でしょ」
「どっちでも俺には嬉しいですけど。料理冷めますよ」
「いっけない!」
「一護、酒は?」
「用意してるに決まってんじゃん。こいつらが手伝ってくれたんだ。心して飲めよ!」
「へえ?こいつらが?珍しいな」
「良い事だろ?」
「ああ・・・」
ぽんと二人の頭に手を置いた。
「早く着替えろよ、あんたが主役なんだからよ」
「おう」
漸く現れた剣八に、まず恋次が挨拶して、乱菊がお祝いの言葉と酒をくれた。次にやちるが渡す。
「はい!剣ちゃんコレあたしから!大事に使ってね!」
「おう」
次に一護が、
「おめでとう、剣八。これ似合えば良いけど」
包みを渡す。
「おう、でガキ共からは?」
一護とやちるがお互いの顔を見合せて、ニイ〜と笑う。
「なんだ?」
「ちょっと待ってろよ」
「ウル、グリ、手伝ってくれよ」
「はい、お母さん」
「ん・・・」
なんだ?いつもと様子が違うな?
運ばれて来たのは、バースデーケーキ。そこには家族全員の字でメッセージが書かれてあった。
「これが、ウルとグリからのプレゼントだよ」
「これを、こいつらが?」
「ああ!」
「ふ〜ん」
まじまじとケーキを見ながら、 口の端を持ち上げて笑って息子達の方を見た。
「初めてのプレゼントにしちゃあ、上出来だ」
「へえ。初めてのプレゼントなの?粋な事するわね」
「そっすねえ。それに綺麗なケーキっすね」
「で?他のは何なんだ?開けるぞ」
「あ、うん」
やちるの湯呑みに、一護の着流し。
「ほう、これ、てめえが縫ったのか?一護」
「う、うん。だからちょっと不安なんだけど・・・」
「どれどれ、失礼しますねぇ。大丈夫よ!一護、これ外で着てもいけるくらい丈夫に縫えてるわ」
「ほ、ほんとですか?」
「あんた、あたしが着道楽って知ってるでしょ?」
「あ、まあ」
「で、この湯呑みはなんだ?」
「それね〜、隊舎で使う奴だよ!カッコいいでしょ」
「おお、あんがとよ」
「さっ、食べて下さいよ。一角、弓親もなにやってんだよ」
「お、おう」
「うん」
すすっと二人の息子の傍に寄ると小声で、
「良かったな。かなり喜んでるぞ、アレ」
「そうなのですか?あまり分かりません」
「俺も」
「見てりゃ分かるよ。ほらお前らも食べろよ、腹減ってるだろ」
その日は、二人共よく食べた。最後のケーキに移る頃には眠そうだった。
「ほら、ケーキ争奪戦を前に倒れる奴があるかぁ。起きろぉ、わはははは!」
恋次が酔っぱらってる。
「何だ、アイツまだ食えるのかよ」
「信じられん・・・」
「何だよ、ギブアップか?折角のケーキだ、一切れでも食えよ」
「う・・」
「少しなら」
「だってよ。良かったな、お父さん?」
「ふん」
ふふっと一護が笑った。
「お前らに一番食べてもらいたいんだよ・・・、あいつ」
「そういうことならよ」
「分かりました」
「でも、無理はするなよ?一口でも良いんだからな?」
「「はあ」」
お茶の用意をする一護。
「ん〜、相変わらずあんたの淹れるお茶って美味しいわ」
「ありがとう、乱菊さんも食べて下さいよ?」
「大丈夫よ、あたしの分はちゃんと食べるし、残る心配も無いわよ、やちると恋次が全部食べちゃうもの」
「確かに」

 お客がみんな帰って家族だけになった。嵐でも来たのかっていうくらい散らかった部屋で眠るやちると剣八。
「ったく、良くこんなとこで寝れるな」
「大丈夫ですか?お母さん」
「何か、手伝うぜ?」
「良いよ、お前らはもう寝な。明日は学校だろ、ちゃんと用意しとけよ」
「はい」
「おお・・・」
「・・・胃薬要るか?」
「いただきます・・・」
「俺も・・・」
「無理すんなって言ったろ?」
薬と水を渡しながら言うと二人から、意外な言葉が返ってきた。
「いえ、何故が嬉しそうに見えたので、つい食べてしまいました」
「あ、俺も。何かよ、俺らが食ってんの見ては酒飲んでんだけど、嬉しそうでよ」
それを聞いた一護はくしゃくしゃと二人の頭を撫でた。
「ほら、分かるだろ?さ、もう寝ろ。子供は寝る時間だ」
「ん・・・、おやすみ」
「おやすみなさい、お母さん」
「おやすみ、ウル、グリ」
部屋に帰った二人。やちるを部屋に連れてって、蒲団に寝かせた。
部屋を片付ける。かちゃかちゃと静かな音が響く。手早く洗いものを済ませた。明日の朝食と弁当の用意をして、客間に戻る。
「起きてんだろ、剣八」
「ふん・・・。なんだバレてたのかよ」
「当たり前、部屋で寝てくれ。風邪ひく」
「そうだな、ここじゃガキ共に聞こえるか」
「は?うおわぁ!」
「おっと、声が響くと子供が起きるぜ?」
「ばっ!明日も早いつーの!んな余裕ねえよ!」
「誕生日だぜ?言う事聞けよ」
「いつもこうじゃねえか」
「安心しろ、優しくしてやるよ。今の俺は気分が良い」
確かにいつもより柔らかい雰囲気だ。蒲団の上で、
「どうしたんだ?なんかあったのか?」
「こっちのセリフだ。ガキ共の顔つきが変わってたぞ」
「ん、良いことがあった」
「教えねえのか?」
「ん〜、多分聞かれたくないだろうから、ごめん」
「ふん、まあいい、その代わりお前の声、聞かせてもらうぜ?」
「え!や、ばか!」
「なんとでも言え」

次の日、ぎりぎりに起きた一護。諸事情により、全員のご飯は和食。味噌汁と目玉焼きと漬物。弁当のおかずは作ってあったので間に合った。アスパラのベーコン巻き、卵焼き、昨日の残りの唐揚げ。それとおにぎり。
上機嫌の剣八。忘れずに隊舎に湯呑みを持っていった。





08/11/21作 第36作目です。ネタ提供元、柚木さんです。エ、エロが無い・・・!珍しい。
まあ、世のお父さんて、隠し事されますよね。しょうがないよ、剣八父さん。



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