題「朝の情景」
じゅー、じゅー、と音を立てて目玉焼きを焼いているのは、俺、黒崎一護、この家の母親だ。性別は男。
「おっはよー!いっちー!いい匂−い、わあハムエッグだぁ!」
長女のやちる。いつも一番乗りだ。
「おはよう、やちる。剣八は?」
「さっき見たらまだ寝てたよ〜」
「しょうがねえな」
先に俺ら夫婦の分を焼く。子供らには、出来たてを食わせたいからな。
「おはようございます。お母さん」
長男のウルキオラ。大人しくてよく気がつく奴だ。
「おう、おはようウルキオラ、ちなみに聞くけどグリムジョーは?」
「知りません」
「はあ、あいつもか」
「あんな奴、放っておけばよろしいのです」
「そうもいかねえだろ?」
俺は全員のハムエッグを焼いてから、やちるに、
「やちる、剣八起こしてきてくれ、3回起こしても駄目なら俺が行くから」
「分かったー、いっちーは?」
「俺はグリムジョーんとこ!」

「起きろー!グリムジョー!朝だぞっ!」
「むー・・・、眠い、起きたくねえ・・・」
「朝メシ冷めんだろうが、お・き・ろ!」
ガバッと蒲団を引き剥がす。
「うおお!何しやがんだ!寒い・・・」
体を起こし、まだボーッとして頭を掻く次男のグリムジョー。
「ほれ、朝のご褒美、ちゃんと起きろよ」
その頬に、ちゅ。と音がした。
何・・・、したんだ今?え・・と?きす?
「うおわあぁあ!」
廊下を歩きながら笑いをかみ殺す一護。
あー面白かった。あいつのあの顔。なんつー声出してんだ。
「あ、いっちー、剣ちゃん全然起きないよ」
「あぁもう、お前ら先食べろよ、冷めちまう」
「はい、分かりました」
「はーい」
「剣八!起きろっ!遅刻だぞ」
「うるせえ・・・、知らねえ」
これが俺の旦那の剣八だ。
「ふーん、そういう態度なんだ?もう朝飯作ってやんねえし、家にも居ない!」
「・・・」
もぞもぞと漸く起きる。
「さっさと起きる!メシが冷めちまう・・・?」
グイッと後ろに引かれて倒された。
「お前、俺より先にガキんとこに行ったな?匂い付いてんぞ」
「ああ、グリ起してきた。アンタも早く起きてくれりゃあ助かるんだけどな?」
不機嫌さながらに、起きて食卓へ。
「あれ?グリは?」
「まだ起きてきません」
「あいつ、あんだけ叫んどいてまだ寝るか?」
「そう言えば、先程の声は何だったのですか?」
「んー?ふざけてほっぺたにキスしたら、なんか叫んだ」
味噌汁を温めながら答えた。
「時間ねえな。ウル、ワリィけどもっかい起してくれるか?その間にコーヒー淹れとくから」
「分かりました・・・」
「おい、一護お前本当にやったのか?」
「ん?ああ」
「ふーん・・・」
「ずるーい!あたしもー」
味噌汁を二人に渡すと、やちるにちゅっとキスしてやった。
「やったぁ、えへへー」
「俺には?」
「え?要んの?」
「当たりめえだ」
「しょうがね・・・」
隙を見せた所を思い切り口付けされた。朝から濃いいのを・・・。
「馬鹿!子供が見てんのに!」
「ああ、本当だ、皆見てんな」
振り向くとグリもウルもいつの間にか揃っていた。剣八の頭をポカリと殴りながら、トーストを焼く。
この家では何故か子供と親の朝食が別モノだ。作る身になれってんだ。3人分のトーストと2人分のご飯と味噌汁で朝飯完成!因みに交替で俺は食べる物を替える。今日トーストだから明日はご飯て言う感じ。そうしないとこいつ等険悪になるんだよな。
「ウル、起こしてきてくれてサンキューな」
「・・・いえ」
心なしか元気がないな。
「ウール?こっち来い」
「?は・・・」
ちゅ、とほっぺにキスをした。これ以上ないくらい目を丸くして驚いている。
「これで全員な」
コーヒーを淹れて、本日のメニューはハムエッグ、トースト、グリーンサラダ。欲しけりゃ味噌汁だ。
「ああ、そうだ。弁当、お前らはサンドウィッチと紅茶な。剣八はこっちのおにぎりとおかずのお重。忘れんなよ!」
それぞれ、緑、浅葱色のナプキンと紫の風呂敷に包まれた弁当を指差す。
「おお」
「分かりました」
「わーったよ」
「むー、ねぇいっちー、あたしもサンドウィッチ食べたい!」
「お前じゃ腹にたまんねよ。おやつに持ってってやるから」
「本当!やったあ」
「おい、あんまり、甘やかすな」
「ん、晩飯は?何が良い?」
「なんでも良いけどよ」
「お前らは?」
「肉が良い」
「お前肉ばっかじゃ駄目だぞ」
「・・・鍋が・・・」
「ん?ウル、鍋が良いのか?」
「は、水炊きが・・・」
「よし!じゃあ今日の晩飯は水炊きに決まりなっ!」
コーヒーを飲みながら頷く。
「肉は?」
「鶏肉入ってんじゃねーか。野菜も取れるしな、あんがとなウル」
くしゃくしゃ頭を撫でた。
「・・・はい、お母さん」
「あー、ウル兄、赤くなってるー」
「けっ!」
「ほら、用意しねえと遅れるぞ。そこの2人!」
剣八とグリを追い立てる。
「へーへー」
「一護、今日は遅くなるかもな」
「あ〜、討伐?」
「ああ・・・」
「ちゃんと残しとくから。気を付けてな?」
「ん」
テーブルの上を片付けてると、
「手伝います」
「良いよ。制服濡れるだろ、ありがと。お前は良く気がつくよな、夕飯のリクエストも結構助かってんだぜ?」
「?何故ですか?」
「何でも良いって言われてもこっちは悩むし、食べたくない物だったら嫌だしな」
「そうですか、ならもっと言った方が良いですか?」
「言わないよりはな、あくまで決めるのは俺だけど」
好き嫌い無いのは、嬉しいよ。と笑ってくれた母が眩しかった。
「はい、お母さん」
ふと目に入った母の手は水仕事で荒れていた。あまり我が儘は言わないでおこうと思ったウルキオラ。
ピンポーン!呼び鈴が鳴った。
「うわ、もうそんな時間か。剣八!迎えが来てんぞ!グリ!遅刻すんなよ!」
自分たちより早く起きて、最後に寝る。知っている。父が帰るまで起きている母を。
どうか、あの人に幸せを・・・。あの笑顔が消えませんように・・・。
「ウル兄?どうしたの?」
「いや、どうすれば、あの人は幸せになるのだろうかと思ってな・・・」
「そんなの簡単じゃん!あたし達がずっと一緒に居ればいいんだよ!剣ちゃんもウル兄も、グリ兄も!傍に居るの」
「そんな事で良いのか?」
「良いんだよ!」
突然後ろから声を掛けられた。
「お前は考え過ぎ!お前らが元気で笑ってりゃ良いんだよ」
そっと頬に触れた手はカサついていたけれど、心地よかった。
「はい。すいません」
「分かればいい。後、そんな事で謝んな」
「はい、お母さん」
目頭が熱くなった。
「ほら遅刻する前に、弁当持って学校に行って来い」
「はい、お母さん」
「ちっ、分かったよ」
「ほら、剣八!やちるは用意済ませてんぞ」
迎えの一角と弓親が待っている。
「おう、待たせたな」
お重を渡して全員を見送る。
「じゃあ、今日も一日頑張って、仕事と勉強に励めよ!お前ら!」
俺は100点満点の笑顔で送り出す。そうすると皆、笑顔で返してくれるからだ。剣八もやちるも。普段は仏頂面のグリも、能面の様なウルも。それが嬉しい。


「いってらっしゃい!」



08/11/16作 第33作目にしてパラレル。いかがでしょうか?
続きはそれぞれのお昼ご飯の情景ですよ。



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