題「誕生日プレゼント」子猫バージョン
今日は朝からばたばたと周りがうるさくて一護は良く眠れなくてご機嫌ナナメだ。
「一護君、起きてる?入るよ」
弓親が入って来た。
「にゃあう・・・」
「ご機嫌ナナメだね、御免ね、朝からうるさくて」
一護の着替えを手伝いながら話をする。
「さっ、朝ごはん食べよ」
「にゃあ」
こしこし目を擦りながらも付いて行く。弓親にお粥を食べさせてもらいながら、慌ただしい雰囲気に慣れない一護。
「今日はね、隊長の誕生日なんだ。みんなでお祝いするからその準備でバタバタしてるんだ」
と説明してくれた。あむあむと食事をしながらも耳が忙しく動いてしまう。
「宴会は夕方からだから、一護君はそれまで外に居た方がいいかな?」
「んに?」
「隊舎の中じゃ落ち着かないでしょ?」
「ん〜、にゃあ」
こくんと頷いて残りを平らげて、顔を洗う。
 誕生日・・・。そうか、剣八は今日生まれたのか・・・。当り前のことなのに何故か不思議な感じがした。草履を履かせてもらい外へ行く。自分が居ても邪魔になるだけだろう。一人でふらふら歩きながらふと、ああ、プレゼントいるなぁと思い付いた。
何が良いだろう?お金はないし、お酒も食べ物もきっと皆が用意している。じゃあ俺は?どうしよう・・・?
うんうん唸って考えついたのは、ココに来て自分が目にして綺麗だなぁと思った物をあげよう。
じゃあ、急いで集めないと、日暮れまでには帰らないと駄目なのだ。一護は七番隊の狛村隊長の所を訪れた。
「んにゃーう」
「ん?黒崎か?」
「その様です」
中に入れてもらう。狛村以外に言葉が通じないので、お願いに来た。
「どうした?何か用か?」
「にゃあう」
「うん?紙と筆が欲しい?」
「にゃ」
「紙てなぁ何でもええんか?一護」
「うにゃ」
「字が書ければ何でも良いと言われてもな。何に使うのだ?」
「にゃあ、うにゃう」
「ほう、更木の生誕を祝うためのモノを集める為の筆談用にか」
「んに!」
「まあ、良いだろう。鉄左衛門、何ぞ失敗した書類なぞ無かったか」
「へい、今すぐに!」
誰が読んでも問題ない書類を集めてすぐ戻ってきた鉄左衛門。
「にゃあう」
一護が礼を言う。その頭を撫でながら、
「良い、簡単な事だ。して何をやるのだ」
「ん〜、にゃあう。んなう?」
「ふむ、綺麗だと思った物をなぁ、どんぐりは分からんが喜ぶのではないか?」
「そおじゃのぉ、大事な人からの贈りもんは何でも嬉しいじゃろ」
一護の顔に太陽の様な笑みが乗り、耳はピコピコ、尻尾は先がくねくね動いて嬉しさを隠し切れていない。
「にゃあう!」
「うむ、気を付けるのだぞ」
「それじゃあの、一護」
「にゃう!」
一護が去った後、鉄左衛門が、
「一護はドングリをやる気やったんですか?」
「うむ、あとは紅葉も混ぜるようだったがな。まるで幼子よな」
「かわいいもんですなぁ」
「ふむ、あの様な笑い方も、出来たのだな」
年相応の、無邪気な笑顔。いつもは何かを気にしている様に笑うのに・・・。
「そうですなぁ、何やらこっちまで楽しゅうなる顔してましたな」
「うむ、さて仕事に戻るか」
「へい」

ややあって、六番隊にやって来た一護。
「んにゃーう」
「ん?」
「む」
「にゃあう」
「何だよ一護、仕事中だ、用事か?」
恋次が問う。一護が紙に用件を書く。
『鯉のウロコが欲しい。家を訪ねても?』
「ウロコ?我が邸の鯉のか?」
「んに」
「別に構わんが、鯉から剥がすのではあるまいな?」
「うにゃう!」
「む、違うのならば良い、暫し待て。今文を書く、それを爺に見せよ」
「にゃあう」
ペコリと頭を下げる。
「今のお前は素直だな」
「ふに?」
「いや・・・、そら、これを渡すがよい」
「にゃあ」
笑って受け取る。
一護が出て行った後、
「何ゆえ、鯉のウロコが欲しいなどと言い出したのだ?」
「さあ?でも今日は更木隊長の誕生日ですから、何か関係あんのかも」
「ほう、あやつにやるのか」
やちるに鯉を取られている事に気付いている白哉は少し複雑だ。
朽木邸に来た一護は呼びかける。
「んにゃーう」
ギイィと扉が開き、清家が現れた。
「これはこれは、黒崎殿、今日は何用ですかな?」
仲は良い方なので、笑顔で白哉の手紙を渡す。
「これは、若の・・・、失礼致します」
と中身を読む。少し心配そうに見つめてくる一護が可愛かった。
「どうぞ、お入りください。黒崎殿」
「にゃっ!」
中に入ると池の側に行き、早速探し始める一護。だがやはり陸には無かった。
「ん〜〜。んにっ!」
袖を捲くり、水の中に腕を入れた。11月も半ば、水はかなり冷たい。
「うう〜、うにぃ」
出しては、さすっては温めてまた探す。何度も繰り返し漸く手に触れた。取れたのは2枚。それでも一護は嬉しかった。
右腕は真っ赤になっていた。見かねた清家が、
「黒崎殿、お湯がございます故、それでお手をお洗い下さい」
「ふに」
痺れていたので大人しくそうした。
「はふう〜」
袖には土と池の水が少し。膝は土だらけだ。
「お茶とお菓子がございますが、よろしければどうぞ」
「にっ!」
縁側でウロコを光に透かしてはニコニコしている一護を優しい目で見る清家。
「そのウロコをどうなさるので?」
一護の説明文:剣八の誕生日プレゼント。綺麗だから。
「そうですか。なら、何か箱がいりますな、しばしお待ちを」
と言うと奥に消えた。何かすごく静かになった。一護は、白哉も、ルキアも、清家もこんなに静かで淋しくないのかな?と思った。
「お待たせしました・・、どうかなさいましたか?」
寂しそうな顔をした一護に問い掛ける。
「ふに?」
ふるふると首を振る一護。
「そうですか。この様に小さな物ですが、気に入って頂ければ貰って下さい」
それは和紙の千代紙で出来た、とても綺麗な小箱。嬉しかった。
「うにゃあー・・・」
溜め息と共に眺めた。
「お茶が冷めましたかな」
「ん〜ん」
:ありがとう。すごくキレイ。いっしょにおかしたべよ?
「私もですか?ありがとうございます、ですがお客様の分ですので・・・」
一護が饅頭を半分に分けて渡す。
「に?」
「ありがとうございます、いただきます」
一護が笑う。つられて清家も笑った。
:こんなに静かで淋しくないの?
「大丈夫ですよ。若も、ルキア様もいらっしゃいますから」
一護の口が大きな弧を描いた。
:よかった。また来てもいい?
「ええ。いつでも、歓迎いたします」
:うれしい。もう行かなきゃ。また来るね
「はい、ではそこまで」
清家は門まで来てくれた。
「にゃーう」
手を振って別れる。
「可愛らしいお子ですな。それに優しい」
ポツリと呟いた。

後は何が良いかな?箱とウロコだけじゃ寂しいしな。ビー玉とかあるかな?でもお金ない・・・。
「あら!一護何やってんの?」
「にゃあ」
乱菊だ。相談してみよう。
:剣八の誕生日プレゼント集めてるの。まだ箱とウロコだけだから。どうしようかと
「なんって可愛いの!あんたってばあたしを悩殺する気?」
「んーんんー!」
「お前は黒崎を窒息させる気か?松本」
「あら、隊長でも可愛いじゃないですか。他には何あげる気だったの?ん?」
:ドングリとか、紅葉とかキレイな物
「か〜わ〜い〜い〜!隊長!一緒に探してあげましょうよ」
「仕事はやらねえクセにこういうのはやるんだな」
「あら、隊長は手伝ってあげないんですか?」
「そうは言ってない、もう仕事も終わったしな」
:ありがとう
「いいのよ!あたしも宴会行きたいし」
「松本・・・」
「ほら一護、ここにドングリいっぱいあるわよ〜」
「うにゃあ」
「ほお、すげえな」
「競争しましょ!誰がたくさん取れるか」
「おい、目的変えんなよ」
一護は黙々とドングリを探していた。なるだけ大きくて綺麗な物。帽子を被ってる物や艶々光っている物。
それらを更に袖で磨いては箱に入れた。宝物のように・・・。
「ほんと、可愛いですね。隊長?」
「そうだな、えらく必死だな」
「ねえ、一護、ビー玉とか欲しくない?隊長結構持ってんのよ」
ぴくっと耳が動いた。
「松本!てめえ!」
なんで知ってる?
「欲しいでしょ?ビー玉と後は、花でもあげれば良いんじゃない?」
ぴくぴくと耳は動いて、目はきらきら輝いている。
「う・・・、隊首室だ。来い」
「にい!」
嬉しそうな声で返事されてはこっちの負けだ。
十番隊隊首室。引き出しの中から箱が出されて蓋が開けられた。
「ふにゃあー」
色とりどりのビー玉がたくさんあった。赤、青、緑、透明なガラスに虹がかかった様な物、中に何か模様が入った物。
見惚れていると、日番谷が、
「欲しいもんやるから、早く選べよ。時間ねえんだろ?」
窓の外は暗くなり掛けていた。
「うにゃあ・・・」
どれも綺麗でかなり迷う。業を煮やした日番谷が箱ごと押し付けた。
「やる!全部持ってけ!」
それは出来ない。大切にしていると分かる。だから一護は、一つずつ選んで、貰った。途端にカラフルになった箱の中。
ビー玉とドングリ、一番上に割れない様にウロコ。
満面の笑みを浮かべる一護に満更でもない日番谷隊長。
:ありがとう。すごくうれしい。とうしろうも来ない?
「日番谷隊長だ。俺はいい。松本連れてけ」
「いいんですか?やった!行きましょ、一護。あんた着替えなきゃ駄目ね」
振りかえって、
「にゃあう」
礼を言ったのだろう。
「ふん」
後は花だ。この季節に咲く花はあまり多くはないがそれでも探した。乱菊が綺麗に包んでくれた。
隊舎に戻って一先ず風呂に入って着替えた。乱菊は既に宴会場の道場に行っていた。
一護も箱と花を持って急いで道場に行く。すでにかなり酔っている者が多数いた。鼻に酒の匂いがきつく感じた。
「ふにゅ」
「あ、一護君。遅かったね、心配してたんだよ」
「にゃう」
プレゼントを探して遅くなったとは言えないし、曖昧に笑って誤魔化した。
「おっ!一護ぉ!お前それ隊長への祝いかぁ?見せろよ」
酔った隊士が近付いて来た。
「にゃっ」
見せまいと避けた事が癇に触ったのか、無理矢理奪うと剣八より先に中を開けた。
「何だこりゃ。ビー玉とドングリに魚のウロコォ?それに花だぁ?馬鹿じゃねえの?お前」
一護は赤くなって俯いてしまった。耳はペタンコに寝てしまい震えている。
このままでは泣くのではないかと誰もが思ったが持ちあげた顔には笑みが貼りついていた。耳は寝たまま、尻尾も垂れているのに笑っている。その隊士から箱を取り返すと、中身を確かめた。
「にぃ・・・」
「おい、一護」
一角が声を掛けた。ピクッと震え、じりじり後ろに下がって行った。怖くて剣八の顔が見れない。呆れているかも知れないと思うと怖くて仕方なかった・・・。遂には走って出て行った。
恥ずかしかった・・・。こんなの誰も欲しがるはず無いじゃないか・・・。隊舎の外まで走った。
走って、走って、一人になりたかった。

「あのウロコって朽木隊長のトコの鯉のウロコなのよねえ・・・」
乱菊がつぶやいた。
「あの子、この寒い中、何十分も冷たい水に手を突っ込んで取ったんだって。腕が真っ赤になっても諦めないで、漸く2枚取れて嬉しそうにしてたって、お爺さん言ってたわ」
「お爺さんて清家じい?」
やちるが聞いた。
「そ!珍しくニコニコしてるから声掛けたらそう言ってたわ。静かすぎて淋しくないかって自分の心配までしてくれたって。その後あたしとうちの隊長とドングリ取ってさ、自分の袖で磨いて、ビー玉は隊長から進呈。花はあたしの提案。嬉しい、嬉しいって何度も紙に書いて笑ってたのにねぇ・・・」
ハァッと溜め息を吐くと、
「やちる、悪いけどあたし帰るわ。結果的には一護を傷付けちゃったもの」
「う・・・ん、いっちー、帰ってくるかな?」
「さあね。皆が寝た頃に戻ってくるでしょ」
「なんで?」
「だって、あの子泣いてたもの、そんな顔見られたくないんでしょ。じゃね」
「じゃーね・・・」
乱菊が去った後にはしんと静まった場が残され、原因の隊士は四番隊へ・・・。

その頃ひとりぽてぽて歩いていた一護は、まだ筆を返してなかったと気付いて七番隊へ向かった。
「・・・んにゃ〜う・・・」
「黒崎?どうした?祝いの品が集まらなかったのか?」
自嘲気味な笑みを浮かべて首を横に振る。
「んにー・・・」
「迷惑など掛けられた覚えはないが?どうした」
「にゃー、うにゃあう・・・」
たくさんの人に掛けたの、でも喜んでもらえないの、ごめんなさい・・・。
ぽろぽろ涙を零して言うと筆を差し出した。
「んにー・・・」
ありがとう・・・
「黒崎。まあ、座って茶でも飲んで落ち着いた方が良かろう。誰か茶を淹れてくれ」
ぶんぶんと首を振ると、涙も零れた。
「うにゃう・・・」
「だから、迷惑ではない。何があったか喋ってみてはどうだ?楽になるかもしれんぞ」
「う、うう、うにゃあー、うっく、うっく、ひっく、うう」
揺れる霊圧に恋次と白哉も現れた。どうしたと尋ねても泣くばかりだ。ふと白哉が小箱に目をやった。
「兄、それは爺の・・・」
ぴくんと耳が揺れた。
「にい・・・」
「ウロコを入れるのに丁度良いからと、くれたそうだ」
「そうか、なら何故まだ持っているのだ?早く渡せば良かろう?」
「・・・にー・・・」
「誰も欲しがらない、喜ばないから・・・」
「うっく、ひっ、ひっ」
「一護?更木隊長に言われたのかよ?」
ふるふると首だけで返す。
「じゃあ、誰に言われた?」
「んにゃあ、にゃあう、うにゃああ・・・」
「他の隊士に笑われたと、白哉にも、清家のじいちゃんにも、儂にも、松本にも、日番谷にも迷惑掛けたのにゴメン・・・」
近付く霊圧に苦笑いを浮かべて狛村が、
「黒崎よ、迎えが来たぞ」
「にい?」
「一護」
びくっと硬直した。すぐ後ろで、
「帰るぞ、とその前にそれ寄こせ」
手の中の小箱を指差される。いやいやと首を振る。
「俺はまだ見てねえんだよ、いいから寄こせ」
取り上げた。
「みゃう・・・」
「ふうん、箱は上等だな、中身は?」
蓋が開けられた。ギュッと目を瞑る。笑われるかも・・・。呆れてるかも・・・。
「・・・・・・」
「?」
「一護、あんがとよ」
「にい?」
「嬉しいぜ、お前今日泥だらけになって集めてくれたんだってな。こんな寒みぃのに水に腕突っ込んで取ったんだろ?コレ」
ウロコを光に翳す。光を反射して虹色に光っている。
「松本が言ってたぜ。まるで宝物みたいに抱えてたってな」
「ふえ・・・」
「おっと、泣くならこっちに来いよ、お前さっきから狛村の傍から離れてねえぞ」
「ふにぃ・・・」
手を伸ばすと引き寄せられて抱き締められた。
「帰んぞ、世話掛けたな」
「いいや、それよりも部下の躾を気にした方が良いぞ」
「む、そうだな、そのような子供を傷付ける輩は、厳しくした方が良い」
「ふん、そいつはどうも。もう四番隊に行ってるがな・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
やっぱりな。
肩に担がれて隊舎に帰る一護と剣八。
残された3人は、まあ良いかと笑っていた。


剣八の自室。
「にゃあう」
「何だよ、嘘は言ってねえぞ?」
一護は、ふわりと笑うと剣八に抱き付いた。
「にゃあん」
「さてと、これからお前を頂くかね」
「にい?」
「散々焦らされた上に他所の男んとこで泣きやがって」
「ううー、にゃあう」
「にゃーじゃねえよ、お前が居りゃあそんだけでも良いんだよ、贈り物なんてガラか?俺がよ」
「ふみぃ」
一護は背伸びして自分から剣八にキスを贈った。
「う、お、一護」
「にゃあう」
にこりと笑う一護に毒気を抜かれた剣八。その日は大人しく二人で眠った。
一護が眠った後、箱の中身を見ながら剣八は、
「綺麗なモンばっかだな、こん中にお前も入っちまうか?」
一護の髪を梳きながら呟いた。




08/11/14作 第31作目、剣ちゃんハピバ作品第2弾。ハピバなのにちょっと切なくて、エロが無いのはなぜ?
まあいっか!



文章倉庫へ戻る