題「子猫」第5話
その日の一護は朝からご機嫌だった。弓親が着替えさせてる間も嬉しそうに尻尾を揺らしていた。
「ご機嫌だね、一護君」
「にゃあー」
にこにこと笑いながら返事を返す。
実は今日、剣八が非番なので一日中一緒で遊んでくれると昨日約束してくれたのだ。
連れて行きたい所があったのでとても嬉しかった。
「さっ、朝ごはん食べちゃおうか」
今日は非番だから剣八が居るはずなのに何故弓親が手伝うのか?首を傾げる。
「隊長はちょっとした書類を片付けてるから、僕がお相手するね」
「・・・にゃあ」
何か隠してるなと思ったが早く食べて剣八の所へ行けば済む話だ。大人しく食事をして、顔を洗ってから、隊首室へ
向かった。
「にゃー」
隊首室に顔を覗かせると、なるほど書類に判を押していた。
「一護か。野暮用だ、ちっと待ってろ」
「にゃあ」
ソファに座って大人しく待った。そこへ地獄蝶が飛んできて剣八の周りを飛び回った。
「一護、悪いな急に討伐が舞い込んだ。遊ぶなぁ、また今度だ」
「にゃー!」
「しゃあねえだろうが、仕事なんだからよ」
ぷうと頬を膨らます一護に苦笑しながらも宥めた。落ち着きかけた所へ余計な事を言った奴が居た。
「でも隊長、今日の休み潰れたらまた暫らく取れないんじゃ無いんですか?」
目を剥いて一護が剣八を振り返る。バツが悪そうにしている。余計な事をと弓親に小突かれていた。
「・・・にゃあー・・・」

 楽しみにしてたのに・・・。

「にゃー!」

 約束したのに!

隊首席の前に立つ一護。
「しょうがねえだろ。虚が出たんだからよ」
頭で分かっても感情が言う事を聞かない。
「うう、やーっ!にゃああぁっ!」
一護は机の上の書類を全部薙ぎ払った。処理が済んだ物、済んでない物が一緒になって床に散らばった。
ふーっ、ふーっ、と肩で息をする一護に剣八が、ドンッ!と机を殴って、
「一護!!」
と怒鳴った。びくっとして尻尾を膨らませ、
「ウ、ウウウウー・・・」
と傷ついた眼をして睨んできた。ぴりぴりした空気の中、勢い良く扉が開き一角が、
「隊長!討伐の用意が済みました。いつでも出れます!」
入ってきた。弓親が顔を押さえて上を向く。ギッと一角の方を睨みつけ走って出て行く一護。
「一護君!」
「ほっとけ!ただの我儘だ」
今日は全員が出ていく、そういう訳にもいかない。後を追いかける弓親。

一護は自分の部屋に居た。感情のままに部屋中をしっちゃかめっちゃかにしていた。
「入るよ、一護君」
弓親が声を掛け中に入る。
「うわっ、どうしたの?これ、ひどいなぁ」
「うぅー・・・」
「一護君、怒んないで、今日僕達全員出払うから、これお昼に。おにぎりだけど・・・」
弓親の手の包みを受け取った。
「・・・にゃあー・・・」
漸く落ち着いた一護。耳がぺたんこに寝てしまっている。
「ごめんね。今日は隊長と約束があったんだね」
「みゅう・・・」
今にも泣きそうな顔をしている。
「弓親ー、もう出るぞー」
一角が呼んでいる。
「いけない、もう行かなきゃ。じゃ行ってくるね一護君」
「にゃあ」
縁側までついていく。そこから先はなんだか怖くて行けなかった。そこから皆を見送った。
やちるも行くのか剣八の肩に乗っている。本当に全員出払ったようで耳が痛いほどシンと静まり返っている。
居た堪れなくなった一護は、部屋に戻って飴を探しだした。個別包装された飴を袖に入れると隊舎を後にした。
一人で居るのは嫌いじゃないけど今日はなんだかひどく寂しかった。

向かった先は朽木邸。池の鯉でも見せて貰おうかと思った。少しは気が紛れるかもしれない。
「にゃー」
門が開き、中から年寄りが出てきた。白哉付きの従者、清家だった。
「これはこれは、黒崎殿。今日は何用ですかな?」
柔らかな物腰で尋ねられ、一護は池の方を指差した。
「ああ。鯉が見たかったのですね。申し訳ありませんが、只今清掃中で池には何も入っておりません。
また今度、見に来て頂けますかな」
「にゃー・・・」
残念そうに一声鳴くと袂(たもと)から飴を取り出し差し出した。
「私にですか?ありがとうございます。頂戴いたします」
清家が飴を貰ってくれたので少し嬉しくなった一護。手を振りその場を去っていく。清家はその後ろ姿を見ながら、
なにやら心が温かくなったが、尻尾を引きずりながら歩く一護に少し胸が痛んだ。

さて次はどこへ行こう?ぽてぽて自分の爪先を見ながら歩いていると誰かにぶつかった。
「にっ!」
「痛えな、何やってんだお前?」
恋次と白哉だ。
「にゃー」
今来た道を指し示した。
「池が見たかったのだな。・・・残念だったな、今日は清掃中だったろう」
「にい・・・」
耳が寝てしまった一護。
「分かるんすか?隊長」
「うむ、最近こやつは我が邸の池の鯉が気に入ったようでな。よく訪れるのだ」
「へえ・・・」
「しかし、今日はどうしたのだ?更木が非番ゆえ一緒ではないのか?」
ぴくっと耳が動いて眉尻が下がった。
「隊長、確か十一番隊は急に討伐が入ったとかで出払ってますよ。一角さんから聞きましたから」
「そうか、災難だったな」
白哉が頭を撫でてくれた。恋次が少し驚いている。最近の白哉は猫になった一護に優しい。
「じゃ、わりぃけど俺らも仕事だからよ。またな」
「にゃあー」
一護は袂から二つ飴を取り出した。赤い飴と白い飴。味はいちご味と薄荷味だ。
「何だ?くれんのか?」
「にゃあ」
「ふーん、あんがとよ」
「む、いただこう」
2人の手に乗せる。
「隊長があんまり甘いの好きじゃないから、薄荷味なんすね」
「そのようだな・・・」
尻尾を引きずる後ろ姿に、恋次が、
「おーい、尻尾が擦りきれんぞー!」
と声を掛けた。一護が尻尾の砂埃を払い、手で持ちながら心許無い笑顔で手を振ってきた。
二人も振り返す。珍しい様子に少しばかり心配になった。尻尾は手に持っても耳は寝たままで肩も項垂れていた。
まさにとぼとぼと言う形容詞が当てはまる様子だった。
「そんなにも、寂しいのか・・・」
ぽつりと白哉が呟いた。
「そうみたいっすね」
そのまま隊舎に戻った二人。

一護は浮竹の居る雨乾堂にも大きな鯉がいる事を思い出した。少し軽くなった足どりで雨乾堂に向う一護。
雨乾堂に着き、池を覗き込むとやはり大きな鯉がいた。嬉しくなった一護はそこでお昼を食べる事にした。
いそいそと池の畔(ほとり)に座り、弓親に貰ったおにぎりを食べ始めた。もぐもぐとおにぎりを頬張り食べ終えると、
雨乾堂の方から何やら声が聞こえた。そうだ、いつもお菓子を貰っているから今日はお返しに飴をあげようと近づいた。
「どうして駄目なんだ?」
「どうしてもです!一護君と居たら隊長の身体の調子が良くならないでしょう!寝てなきゃいけないのに構うんだから」
「でもねぇ・・・、折角遊びに来てくれてるのにさ」
「京楽隊長は黙ってて下さい」

「・・・・・・・」
そうなのか。気を遣わせていただけだったんだ・・・。中に4人いるみたいだから4つの飴を、そうっと置いて離れた。
「ん?あれ、一護君じゃない?来たんなら入れば・・・、ん?」
京楽隊長が一護の姿を見つけ、置いてあった飴にも気が付いた。
「浮竹、今の会話、一護君に聞かれたみたいだよ・・・」
「ええ!そんなつもりじゃ・・・。何だその飴は?」
「一護君からのお見舞いとお詫び、じゃないかな?」
手の平の飴を浮竹に渡す。
「朽木は?どうした?」
「朽木さんなら、仕事で離れてますけど・・・」
「なら戻り次第、一護君を探してくれるよう言ってくれ。可哀相にきっと傷ついただろうに」
「そうだねぇ、間の悪い事に今日、剣八との約束が反故になっちゃったからねぇ」

一護は一人で剣八と来るはずだった場所に来ていた。そこは他の者からしたら何の変哲も無いシロツメクサの花畑だった。
そこで一護は座り込むと袂の飴を舐めながら、花を摘み編んでいった。子供の頃母から教わった花冠・・・。
(大丈夫だもん。一人でも平気だもん。帰ってくるまでの我慢・・・。帰って・・・来て・・くれるのかな)
急に不安になってきた。帰って来てくれても、怒ってたらどうしよう・・・。嫌われてたら・・・。
どんどん怖くなって涙が込み上げてきた。ぐすぐす泣きながら編んでいると後ろから声を掛けられた。
「黒崎?何を泣いておるのだ?」
狛村隊長だった。後ろには副隊長の射場が居た。ぐずぐずいっていると、手の中の冠に気付いて、
「器用だな。花冠か、誰に教わったのだ?」
その場に座って聞いてきた。
「ひっく、にゃー」
「そうか、母上にか。優しい母上なのだな」
と言われ、こっくり頷いた。狛村隊長と話していると、
「一護!」
と呼ばれ、ルキアが居た。
「探したぞ一護。浮竹隊長が先程の事を謝りたいと仰っておる。来てくれ」
ふるふると首を横に振る一護。
「何故だ?怒っておるのか?ならば・・・」
「にゃあー」
「怒ってはいない。向こうが正しいと言っておるが。何があったのだ?」
ルキアが掻い摘んで説明している間もぐすぐす言いながら冠を編んでいた。
「なるほどな。とりあえず泣き止ませた方が良いのではないか?さっきからずっと泣いておるが・・・」
「そうですね。一護、浮竹隊長はお前と遊ぶのを楽しみにしておられる。最近の楽しそうな隊長はお前のお陰なのだ」
ルキアの方を見て、袂から飴を取り出し差し出す。紫色の葡萄味。
「くれるのか?ありがとう」
飴に気を取られてる間にルキアの頭に冠を乗せた。少しびっくりしたがそのままにした。一護が微かに笑った。
狛村隊長と射場にも飴を差し出す。礼を言って受け取る2人。やっと泣き止みかけた時、白哉と恋次が通りがかった。
「何やってんだ?ルキア。そんなとこで」
「兄様、恋次。どうしてここに?」
「仕事帰りだよ。お前こそ、頭に何乗っけてんだ」
「これは、一護がくれたのだ」
「ふーん、何だ、あいつまだふらふらしてんのか?てか何であいつそんなモン作れんだ?」
「母上に教わったそうだ、先程聞いた」
狛村隊長が教えた。
「母上に・・・」
神妙な顔をするルキア。一護の頭を撫で、
「そうか、ありがとう一護」
「・・・みゃあ」
「へえ、こいつの母親の話なんて初めて聞いたな」
「まあ、な」
歯切れが悪いルキア。
「まさか、母親恋しで泣いてんのか?意外とガキだな」
「恋次!!」
いきなりルキアに怒鳴られた恋次は驚いた。
「何だよいきなり。びっくりするだろうがよ!」
ますます落ち込んでいく一護に射場も励ます。
「ただ母親の話しただけだろうがよ。ったく何なんだ、そんなに恋しけりゃ帰りゃいいだろ?」
消え入りそうな声で、
「にゃあ」
「もう、居ないそうだ」
「みゃあう、みゅう・・・」
「自分を庇って、虚に殺された・・・、そうだ・・・」
唇を噛みしめて泣くのを耐える一護。バツが悪い恋次。ルキアが、
「粗忽者」
と言って怒って恋次の頭を叩いていた。白哉も冷やかな目で見ている。その喧噪は今の一護の緊張の糸を切るには
充分だったようで一護の中で何かがプツリと音を立てて切れた。
「ひっ、ひっ、うあーーー」
子供の様に泣きだした。
「うあぁあん。うあああーー」
せっかく宥めていたのに、とうとう泣かせてしまった。しかも母親の話で・・・。
今度は何を言っても泣きやまなかった。白哉も宥めてみたが駄目だった。
「取りあえず更木が戻るまで儂の所で預かろう」
狛村隊長が提案した。それに白哉が、
「何故、兄の所なのだ?私の屋敷でも良いのではないか?ルキアもいる」
珍しく饒舌になり、執着している。
「今の黒崎の言葉が分かるのは儂だけであろう?それだけだが。気になるのなら貴公も来ればよい」
そう言うと、
「むう、いや遠慮しよう。大勢いては、こ奴が落ち着かんだろう」
涙を手の甲で拭いながらまだ泣いている一護を見る。こんな一護は初めて見た。いつもは気丈に振る舞っていても
心の中では自責の念が渦巻いていたのだろうか?
「いつ頃の話なのだ?それは」
白哉がつと口にした。
「一護が9歳の時です。その時から自分を責めております・・・、自分が殺してしまったと・・・」
ルキアが説明した。9歳の子供がずっと自分を責め続けて来たのか・・・。
「黒崎よ、更木が戻るまで儂の隊で休んで参れ。鉄左衛門悪いが十一番隊へ行って来てくれぬか」
何やら紙に書いて渡した。
「分かりやした。ほんなら一護、大人しゅう待っとれよ」
「にゃあ・・・」
嗚咽を漏らしながら、手にした二つの冠を射場に渡す。
「更木と草鹿にと申しておる。隊首室の机にでも置いておけば良いだろう」
「分かりやした。では」
射場は瞬歩でその場から消えた。
「一護、あまりこするな。赤くなっておるぞ」
ルキアが手拭いで顔を拭い、鼻水も拭ってやった。
「んん、みゅう」
漸く落ち着きを取り戻した一護はルキアの膝に甘えた。すんすん言いながら縮こまっている。
射場が戻ってきたので、隊舎に行くことになった。
「歩けるか?黒崎」
コクンと頷き付いて行く。狛村の隊長羽織を握りしめている。後ろを振り向いてルキア達に、
「にゃー」
と一言鳴いていった。

 七番隊隊舎に着いた一護は、縁側で丸くなっていた。
「黒崎?眠っておるのか」
パタンと尻尾が揺れて床に落ちた。その横に腰を下ろした狛村。
「もうそろそろ帰ってくる頃だ。安心せい」
「みい・・・」
しばらくして、一角と弓親が迎えに来た。
「おら、迎えにきたぞ一護」
「帰ろう?一護君」
一護はちらと二人を見ると、目を逸らし尻尾を使ってまで丸くなった。
「てめぇ、いい加減にしろよ」
一角が一護の腕を掴んで体を持ち上げる。
「やめよ、斑目・・・」
「何をしちょる、一角」
射場もその場に居合わせ、行為を諌める。一護の身体には力が入ってなくてだらりと項垂れていた。
その顔を音もなく涙が伝っていた。一角がギクッとした。
「おい、一護?」
「一角、手を離しちゃれ」
腕を離して床に下ろすと、もそもそと狛村の傍に行き、また丸くなって指を吸い始めた。
「更木はどうした?」
「帰ってますが・・・、それより一護君どうしたんですか?変ですよ」
「うむ、先程まで泣きじゃくっていたのでな・・・。恐らく更木が迎えに来れば帰るだろう」
二人はすぐに剣八を呼びに行った。

一護の耳がピクッと動き、尻尾が揺れた。
「邪魔すんぞ、おら帰んぞ一護」
剣八が迎えに現れた。一護は少し躊躇(ためら)っている。耳を寝かせて剣八を見上げる。
「何だ?お前目ぇ真っ赤じゃねえか」
「更木よ、黒崎は先程まで泣きじゃくっていたのだ。心細かったのだろう・・・」
「あ?何がだよ?」
「今日、お主は本来なら非番であったろう?黒崎は連れて行きたい場所があったのだ」
「連れて行きたい場所?」
「うむ、亡き母上との思い出の場所によく似た花畑だ。そこで一人泣きながら冠を編んでおった。
机の上に置いてあっただろう?」
「ああ、あれか」
「母上の事を思い出して心細くなったがお主が居なかった。それで大泣きしてな・・・、
お主が帰ってくるまでここで預かっておったのだ・・・」
「ふうん・・・」
剣八が一護を抱き上げた。一護がおずおずと腕を首に回すと肩口に顔を埋めた。
「みぁー・・・」
また泣きだした。
「邪魔したな。こいつ連れて帰るぜ」
「うむ、ずっとお主を待っておったからな」
ぎゅううと抱き付く力が強くなった。剣八は瞬歩で隊舎に戻ると一護を風呂場に連れて行った。
「俺ぁまだ風呂に入ってねえんでな。ついでにお前も入れ」
「みい・・・」
床に下ろされ死覇装を脱がされた。
「お前、袴に草ばっか付いてんじゃねえか」
ばさばさとはたいた。
「うにゃあ」
耳が寝てしまった。
「怒ってねえよ、ほれ早く中入れ」
着ているものを全部脱がされ湯殿に入る様に言われた。自分の死覇装を脱いでいる剣八を見つつ中で待つ一護。
椅子に座ってぼーっとしてると、
「何やってんだ?風邪ひくぞ」
後ろから声を掛けられ、びくっと身体を震わせた。
「洗ってやるからこっち来い」
剣八が一護の頭にお湯を掛け洗ってやる。動かない一護、次に身体を洗ってやる。背中を流し手拭いを渡してやる。
のろのろと身体を洗う一護。尻尾が揺れているのを目にした剣八が、石鹸を泡立て尻尾に塗りつける。
「っ、な、やぁああん」
やけに艶めいた声を上げた。ぷるぷる震えている。面白くなった剣八が何度も手を根元から先まで往復させた。
「あっ、あっ、いやっ、ああん!」
ぴくっぴくっと身体を震わせ、息を荒くさせた。
「イッタのか?一護?」
耳まで赤くなって俯く一護にお湯を掛け泡を落とす。
「どうなんだ?んん?」
耳元で囁きながら、尻尾を撫でる。
「はぁあん、なぁあん」
背を反らせながら喘ぐ一護。ハッハッと呼吸を荒げながら剣八を見上げるその目は、不安に揺らいでいた。
「いにゃあ」
剣八の腕から逃げると湯船に浸かった。剣八が髪と身体をさっさと洗うと湯船に浸かり一護を捕まえた。
「や、いにゃあ」
怯えた様に逃げようとする一護を抱き締め、
「悪かったな、一人にして」
ピタッと動きを止め、一護が身体の力を抜いた。じーっと剣八を見つめる。
「そんなに見てんじゃねえよ。煽られんだろうがよ?」
また尻尾を撫で上げる。
「は・・、ふうん」
もじもじと身体を揺らして剣八に抱き付いて、唇の傷跡を舐め始めた。ぺろぺろ舐めては顔を擦り付けた。
「一護・・・」
剣八が一護の胸に手を這わす。微かに震えている、そんなに心細かったのか?
「出るぞ、一護」
一護を腕に抱いたまま湯船から出ると一護を着替えさせる。髪を乾かしそのまま自室に連れて行く。
蒲団の上に一護を乗せるとそのまま抱き締めて寝ようとした。
落ち着かないのか一護がもそもそ動いている。
「寝ろ一護、襲うぞ」
一応、我慢しているみたいだ。
一護が剣八の胸に耳を押し当てた。とくん、とくん、と聞こえる心臓の音と体温に安心する一護。
「ふにゃあ・・・」
寝巻きが邪魔だなぁと思い、少し肌蹴て直接耳を押し当てた。ふわりと鼻を掠めた剣八の匂いに誘われて一護は、
ぺろぺろと剣八の胸を舐め始めた。身体もすりすりと擦り付ける。まるで誘っているかの様だ。
「一護・・・」
ん?と一護が上を向くと、
「俺は警告しといたぞ」
一護の顎を掴むと深く口付けた。
「ん、んふ、くふぅん、んあ・・・、あ、はぁ、はぁ」
「くそ、今日は勘弁してやろうかと思ってたのによ・・・」
「んん、なああん」
一護は剣八に身体を擦り寄せ、もっととせがんだ。一人で寂しかった。怖かった。だから隙間を埋めてほしかった。
剣八の首筋に吸い付き、跡を付けて鎖骨を噛んでは舐めた。
「んっ、んっ、あっ!」
「一護、寂しかったか・・・?」
「あうん・・・」
突然抱き締められて聞かれた。素直に答える。剣八は、
「そうか・・・」
と呟き、一護の寝巻きの袷から手を入れると胸に手を這わせた。
「は、ああ・・・」
剣八の大きくて熱い手が自分の身体を触っているというだけで落ち着く。胸の飾りに指が触れる。
「あんっ、ああっ」
一護の背が反り返る。その胸に吸い付く剣八。小さな突起に舌を這わせる。
「なぁあん、ああん」
熱くぬるつく感覚に身を捩る一護。次の瞬間カリッと歯を立てられた。
「あうんっ!」
思わず声を上げる。また舐められては、歯を立てられた。その度に一護の口からは嬌声が零れおちた。
「あ、ああ、はああ、あんっ!」
剣八の手が一護の中心に触れてきた。
「もうこんなになってんな・・・、俺もだけどよ」
剣八が自身の昂ぶりを一護に押し当てた。
「あ、ああ・・・」
着ている物を脱がせ、自身も脱いでいった。
「一護・・・」
名前を呼びながら身体中に口付け、下肢へと近付いた。腰骨の薄い皮膚に吸い付き跡を付け、チロチロと舐める。
「やあん、ああう、ああっ!」
一護自身を口に含むと一気に追い上げた。
「ああっ!ああんっ!あくっ!んああっ」
ぴくぴくと震える一護。剣八は一護の名残を吐き出すと蕾に塗り込めていった。
「あっ、ああん」
一護は縋るように腕を剣八の首に伸ばし、口付けた。それに応じながら指の動きは休めなかった。
「ん、んん、あふ、んあッ、んっ、んっ」
ずるりと指を抜くと自身を宛がいながら、
「いくぞ、一護」
と言うと、こくこく頷く一護。
「可愛いな、お前はよ」
一護の髪を梳きながら、腰を押し進めた。
「あぁ、んなぁああん」
抱き付く腕の力を込め、腰に足を絡めた。
「動けねえよ、一護。力緩めろ」
いやいやをする様に首を横に振る一護。
「しゃあねえな・・・」
剣八は一護の腰をかかえると、胡坐をかいた足の間に納めた。
「あ、ああ・・・」
ずずっとさらに奥まで入ってきて、思わず締め付ける。一護の腰を掴んで持ち上げた剣八が、
「もっと奥まで入れてやるよ」
そう呟いて力強く奥を穿った。
「んあっあっー!」
ガクガク震える一護の耳元で、
「気持ち良いか?一護、ほら」
殊更ゆっくり抜いては、深く奥を穿った。
「ああんっ!ああっ!んあっ!ああっ!あんっ!ひいっん!ああんッ!」
それでも腕の力も腰に回した足も離す様子が無い。
「あっ、あっ、ひっ、ひいん!んあっあっー!」
一護が果てた。ヒクつく中に熱を放つ剣八。
「んああ・・・」
くたりと力が抜けた一護の身体を反転させると、後ろから覆い被さった。
「ああう・・・、ああ・・・」
さらりと剣八の髪が背中をくすぐる。それだけで中の剣八を締め付けてしまう。
「く・・、いいんだけどよ、もちっと楽しもうぜ・・・」
耳に流し込まれた熱い息と言葉に震える一護。
「あ、あ、ん、んあっ!ああっ!やああんっ!」
耳朶を舐めあげられ、耳穴に舌を這わされた。意識がそちらに集中した瞬間に奥を穿った。
「ひいんっ!ああっん!ああっ!やあんっ!ああん!あぐうっ!ううっ!うああんっ!ああん!んああっ!あ?」
もう少しでイク所で前を握られ、せき止められる。
「ふああ、あ、あ、やあん・・・」
涙に濡れた顔で振り向くと、剣八が、
「もっと俺を感じてろ、お前ん中、埋め尽くしてやるからよ・・・!」
と言ってドクリと熱の塊を最奥に放った。
「んあ、はあぁ・・・」
まだ硬さを維持している剣八が動く度に、髪が背中を撫でていき、後ろからは、卑猥な音が響いていた。
「あ、ああん!なぁああん!やあっ!やぁんっ!」
「限界か?一護。イキたいか?」
握り込んでいる手を一護が外そうと躍起になっていると、その手ごと掴んで上下に扱いて、奥を穿った。
「んなああんっ!ああっ!ああっ!んああぁああーっ!」
「くう!」
ドクンと同時にイき、一護は意識を手放した。

 剣八は気絶した一護を風呂に連れて行き、身を清めた後、同じ蒲団に入って一緒に寝た。
ふと、目が覚めた一護は、剣八の腕の中にいるのだと分かった。剣八の匂いと心音と温かさが嬉しかった。
ついと、綺麗な黒髪に手を伸ばした。濡れている。風呂にでも入ったのか。気付くと自分の髪も濡れていた。
はむ、と髪を口に入れた。
「何やってんだ、早く寝ろ」
「んにゃ」
起きていたのか、口から髪を離すときつく剣八に抱き付いた。
「また今度休み取ってやるから、ちゃんと俺を連れてけよ・・・」
「にゃあう・・・」
顔を擦り付け甘えた一護は今度こそ眠りに落ちた。

 次の日、十三番隊と六番隊から、山のようなお菓子が贈られてきた。
困った一護が、狛村の所にもお裾分けしに行った。




08/10/28作 第26作目です。今回は結構、時間が掛かりました。その割にこんな感じになりました。

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