題「子猫」第2話 | |
「い〜ちご〜、降りてきなさいよ〜」 乱菊が木の上に向って声を掛ける。そこには、中身が猫になった一護が居た。(耳&尻尾付き) 散々追いかけ回して怖がられたが,最近は何とか触らせてくれる様になった。なのに今日に限って木の上から降りて来ないのだ。 「変ねぇ、機嫌でも悪いのかしら?」 「でも、こっちを見ようともしませんよ?」 まるで何も聞こえない、何も居ないとばかりに一護の顔は遠くの空ばかり見ている。 「鬼道でも掛けてみます?」 「あんた更木隊長に殺されるわよ」 呆れ顔の乱菊。 「じょ、冗談ですよ!」 「あたし剣ちゃん呼んでくる」 やちるが剣八を呼びに行った。その間彼女らは、一護の様子を眺めていた。 耳がピクッと動いたかと思うと、 「なんだよ、めんどくせえな、なんの用だって?」 剣八とやちる、後ろに一角、弓親が現れた。 「だから、いっちーが変なの!呼んでも反応しないんだよ」 「あ?機嫌でも悪いんじゃねぇのか」 「でもいつもなら尻尾ぐらい揺らして返事してくれるよ?なのに今日はこっち見てもくれない」 やちるの説明に良く見てるな、と思いながら剣八も上に居る一護を見ると、なるほどこれほど騒いでるのに微動だにしていない。 「おい一護」 漸く尻尾で返事を返す。 「あ、やっと動いた。さっきから空ばかり見てるから、目ぇ開けたまま寝てるのかと思っちゃったわ」 乱菊が言うと、 「空?」 剣八が訊く。 「はい、ずーっと見てるんですよ」 「あぁ、もうすぐ雨か・・・」 剣八の声に反応した一護が冷めた目でこちらを見降ろしていた。 「おいお前ら、もう良いだろ今日はほっといてやれ」 乱菊達の方を見て言ってるうちに一護が降りてきた。 「あ、隊長後ろ・・・」 弓親が言うと、一護が剣八の首に髪と同じ色の尻尾を巻き付かせ、引き寄せると耳朶を舐めた。 呆気に取られる周りの人間には目もくれず、ふわりと地面に降りるとどこかへ行ってしまった。 「なんだよ、あいつ・・・?」 「さあ?でもどこ行ったんだろ?」 「ほっとけ、静かなとこにでも行ったんだろ」 剣八はそう言い残して帰って行った。そこに居る者に暗に探すなと言っているようだ。 一護は雨乾堂に居た。うるさい人間から離れるように歩いていると、寝心地の良さそうな縁側を見つけた。 池の上に建ったそこは涼しそうだ。早速そこに上がって寝ようとすると中から、 「誰かそこに居るのか?」 と声を掛けられ驚いた一護の尻尾は倍に膨れ上がった。御簾を上げ、縁側を確かめて、 「なんだ、一護君か、どうしたんだい?ここに来るなんて珍しいね」 柔和な笑顔で話しかける浮竹がそこにいた。一護は逃げるかどうか考えたが、次の瞬間、 「一護君、お菓子食べるかい?最近外に出れなくて誰ともお茶してないんだよ」 と言われてしまい、こっくり頷いた。 「やぁ、嬉しいなぁ、何を食べる?お饅頭かい?団子もあるよ」 いそいそとお茶の用意をする浮竹を不思議そうに眺めた。 「お茶は温めにしたから、大丈夫だよ」 自分の前にある菓子の多さに驚きながらも、フンフン鼻を鳴らして匂いを嗅いでから、そば饅頭を口にした。 耳はぴこぴこ動いて、尻尾をゆらゆら揺らしながらお茶で流し込んだ。 「おいしかい?」 にこにこ笑いながら訊ねてくる。一護は滅多に見せない笑顔で応えた。 「そうかそうか」 頭をくしゃくしゃ撫でられた。悪い気はしなかった。剣八以外の手は嫌なのに・・・。 お菓子でお腹が膨れると欠伸を一つして、縁側の日当たりの良い場所に移り丸くなって寝た。 「ほんとに猫になったんだなぁ」 その様子をのほほんと眺めていたが、しばらくして空が曇り始め、雷鳴が轟いた。その瞬間、 「ウニャアアッ!」 縁側の一護が大声を上げ、部屋に転がり込んできた。 さっきまでご機嫌に動いていた耳はぺたんこに寝て、尻尾は倍以上膨らんでいた。 「にゃあ・・・」 今にも泣きそうな顔と声に浮竹は、おいでおいですると一護は傍に近づいたが、蒲団の横で座ると丸くなった。 「更木を呼ぶか・・」 浮竹は地獄蝶を呼ぶと伝言を載せ十一番隊隊舎に飛ばした。外は雨が降り出していた。 一護はじっと雨を見つめていた。浮竹が話しかけても尻尾で返事するだけで、あからさまに元気が無かった。 一方、十一番隊では地獄蝶を受け取った剣八が無言で立ち上がり雨乾堂に向かった。 「邪魔すんぜ」 御簾を上げ、中に入ってきた剣八の目に入ったのは、丸くなって、耳を寝かせた一護だった。剣八の声に反応した一護は、 「みゃあ・・・」 一声鳴いて顔を上げた。一護の横に座った剣八はガシガシと少し乱暴に一護の頭を掻き交ぜた。 「にゃあ」 「おいおい、もっと優しく扱ってやれよ」 一護の尻尾は、ぱたんぱたんと嬉しそうに畳を叩いていた。 「邪魔したな、帰るぞ一護」 「ああ、久し振りに楽しかったよ」 手を振り、送り出した。 外は本降りの雨になっていた。一護は無意識に剣八の袖を指が白くなるほど強く握り締めていた。その様子に苦笑した剣八は、その指に自分の薄い唇を押しあてた。 「にゃ、にゃあ」 少し力が抜けた。剣八は一護を担ぐと瞬歩で隊舎に戻った。 隊舎に戻ると少し濡れた袴が気持ち悪いと着流しに着替えた剣八。 傍から離れようとしない一護は隊首室のソファに横になって剣八をずっと見つめている。 「隊長、今日はもう仕事もないですし、一護君の傍に就いててあげたほうがいいんじゃ?」 弓親がそう言ってきた。 「あ?なんだいきなり」 「だって、一護君ずっと隊長の事見てますよ?やっぱ心細いんじゃないんですか?」 一護に目をやると握った手を口に当ててこちらを見ていた。ふぅと息をつくと、 「しょうがねぇな、おら来い、一護」 やっと許しを得た子供のように、剣八の膝に座り頭を擦り付けている。剣八が一護の口に指を持っていくと吸い付いた。 チュッチュッと吸い付く一護の髪を梳いた。小さく舌を出しぺロペロ舐めてきた。それを見た剣八はぞくっとした。 「一護・・・」 呼ぶと顔を上げ、指から舌を離す。そこから銀色の糸が光って途切れた。剣八の中で何かが音を立てて切れた。 一護を抱いて隊首室から出て行った。 「やっぱこうなったね。お風呂の用意しなきゃね」 弓親がいつものように呟いた。 「しょうがねぇんじゃねえの?あんなんされたらなぁ・・」 一角が遠い目をした。 剣八は部屋に着くと一護の口に吸い付いた。歯列をなぞりながら、息苦しさに口を開いた瞬間に舌を滑り込ませた。 一護はそれに吸い付いた。チュウチュウと音を立てて吸い上げた。 珍しい事もあるもんだ、と思い好きにさせてたが剣八も反撃に移った。舌を絡め取り、軽く噛み、舐めあげた。 「んん、ふう、くふん」 顔を見るときゅっと目を瞑り、眦に涙を溜めていた。くちゅっと音を立てて唇を離すと目を開けてこちらを見てきた。 剣八は、くっと口の端を引き上げて笑う。 誘ってやがる・・・。覚悟しろよ、一護。お前の今の身体の弱い所も分かってんだぜ。 首筋に顔を埋め、跡を付ける。それだけでも甘い声を出す一護。 さあ、楽しもうぜ、一護。 終 08/09/08作 第17作目です。 いかがでしょうか?甘めな感じです。もうちょっと続きます。 |
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