題「君影草」
藍染の反乱の後から、兄様との間にあった溝は無くなりつつあった。それでも、すぐ話掛けたり、慣れるのは難しかった・・・。
「はぁ」
一人の時に思わず溜め息が零れ落ちた。本当は話がしたかった。
「よー!ルキア、久し振りだな!」
死神代行の定期報告に一護がやって来ていた。
「おお、一護か。元気なようだな」
笑って返す。
「そういうお前は、どうなんだよ?白哉と上手くいってんのか?」
相変わらず、自分以外の誰かを気に掛けるこの少年に思わず心中を吐露していた。
黙って聞いていた一護が、おもむろに、
「ルキア、花屋に案内してくれよ」
と言ってきた。
「花屋?兄様に花でも贈るのか?」
そんな事で解決できるとは思えなかった。
「いいから、早く案内してくれよ」

 瀞霊廷にある花屋に一護を連れて来たルキア。
「ん〜と、あるかな?」
一護が、何かの花を探していた。
「あっ!あったあった!良かった!」
まるで我が事の様に嬉しそうな顔をしていた。
「すいません、この花の鉢植え一つください」
勘定を終え、ルキアの元へ駆け寄る。
「いいか?この花持って、白哉にこう言えよ」
『可愛らしくてつい、この花を買ってきたのですが、どうやら花言葉がある様なのです。兄様一緒に調べて頂けませんか?』
「しかし兄様はご多忙の身だ。そんなつまらない事に・・・」
「大丈夫だって白哉だって何か話のきっかけがいるだろ?」
軽く頭をぽんと叩いて、
「ちゃんと言うこと覚えたか?」
「ああ、花言葉を一緒に調べてもらうのだな」
「そう、少しは近付ける様になると思うぜ」
じゃあな、と言って一護は、その場を去っていた。ルキアは一抹の不安を胸に屋敷に帰った。
「ただいま帰りました。兄様」
「うむ」
相変わらず空気が重い気がしたが、せっかくの一護の厚意を無駄にする事は出来ない。
「あ、あの兄様・・・、その、」
「どうした、ルキア?」
「はい、この花が、可愛らしくてつい、買って来たのですが、花言葉があるそうで、もし宜しければ、一緒に調べて頂けませんか?」
ルキアが、こんなにも自分と話をする事はなかった。
「花言葉を調べるのか?どんな花だ?」
「はい、こちらです」
そこには、小さな白い鐘の様な形をした花があった。
「ほう、可愛らしいな。君影草か・・・」
「ご存知なのですか?」
「名前はな、花言葉までは・・・、ルキア一緒に調べるか?」
「は、はい!」
二人で書庫にむかい、花言葉を調べた。
「兄様!ありました!」
ルキアが笑顔で白哉に告げる。
「この本に名前が載っています」
少し興奮気味のルキアは白哉が嬉しげに目を細めている事には気付かなかった。
「そうか、こちらへ」
「はい」
二人で花の名前があるページをめくる。
そこには、花言葉が、二つ、三つあったが、二人の目に留まったのは、
『幸せがもどる』
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人とも、しばらく黙って、花言葉と花を見つめていた。
不意に、頭を撫でられたルキアは白哉を見上げる。
「兄様・・・」
「戻るぞ、ルキア。埃まみれではないか」
「兄様も、」
ルキアが白哉の肩に乗った埃を払った。書庫を出た二人は、何を話す訳でもなかったが、何か満ち溢れた気持ちだった。
「ルキア、良い買い物をしたな」
小さい声ではあったけれども、ルキアの耳には届いていた。斜め後ろから見た白哉の顔は微かに笑みを称えていた。
「ありがとうございます、兄様」
本当だ・・・、幸せは戻って来た。一護に礼を言わなければ、いつも自分を助けてくれるあの太陽の様な少年に・・・。
今度は私だけでなく、兄様も助けてくれた。次は私が彼を助けよう。固く心に誓うルキア。
 翌日、上機嫌な白哉に恋次は、ルキアと何かあったらしいな、と察したが黙っていた。
隊首室には、花の鉢植えが誇らしげに鎮座していた。




08/06/07作 剣一以外では第一作目です。
ふたつさんのサイトのお祝いに捧げました。受け取って下さってありがとうございます。
君影草はスズランの別名です。




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