題「寝顔」
side.k
今、剣八の腕の中には一護が眠っている。
気絶するまで、一護の身体を貪った剣八は、いつもの様に、その寝顔を眺めていた。

自分にだけ見る事が許された特権。
剣八はこの時間が秘かな楽しみだった。いつもは皺が刻まれている眉間も寝ている今は、穏やかだ。
彼のこんな顔を見れるのは、自分だけと思うと何やら胸のあたりをくすぐる物がある。
起きている時も、くるくると忙しく表情を変えるが、今のように穏やかな顔はない。常に眉間に皺を作り、年相応には見えない。
自分の腕を枕に安心しきって眠る年の離れた恋人の、いつもの情事の最中の悩ましげな顔も、達する時の顔も、同じ人物なのに、あんなにも煽情的になるのが不思議でならない。

・・・コイツを誰かに盗られたら俺がソイツを殺すのは、間違いないな。そう思った。


コイツは時々変になる。自分では気が付かないのか、いつもと違う空虚な霊圧になっていたり、不安定だったりする。
そんな日は距離を取るか、片時も離れないか極端になる。

最初は鬱陶しかったがもう慣れたし、やちるも何も言わない。雨の日に多いと朽木の妹が言っていた。
普段は話もしないが一護が心配なのだろう、やちるが居ない時に、そう教えてくれた。

そんな時は、眉間の皺は消えず、代わりに涙を流す事があった。剣八は起こさないようその涙も全部愛しげに、拭ってやった。
起きた時、一護は泣いていた事に気付いてないようだ。それで良いと思う。いつも、そうやって踏ん張って泣きもしないのだったら、寝てる時ぐらいは、良いじゃねぇか、泣ける内は泣けば良い、泣けなくなる前に。剣八は心の中で呟いた。
剣八にも眠気が訪れた。
運動したしな、と欠伸を一つして一護の肩まで蒲団を掛け、隣りで眠った。コイツの横は、落ち着くな・・・、そう思いながら
眠りに落ちていった。

side.i

「ん・・・」
一護が目覚めると、剣八の腕を枕に、胸に抱き寄せられる形になっていた。身じろぐと腕に力が込められた。規則正しい呼吸で眠っていると分かる。
なのにまるで一護を逃がさないように、力を込めて来た。
くすり、と笑うと一護は剣八の腕を撫でた。すると力が抜けていく。一護は剣八の寝顔を眺める。
朝、目覚めると隣りに剣八はいない。

自分より早く起きて、一人残されている事が多いから、こういう時に剣八の寝顔を眺める。
なんだかとても幸せな気持ちになる。起きている時は良く見れない剣八の顔・・・。
薄い唇に、左目の上を縦に走る傷を指でなぞっていく。寝ていると表情が和む事をコイツは知っているだろうか?

一護は剣八の寝顔も好きだが、髪も好きだ。起きていると触れないから、眠っている今の内に触る。
指で梳いたり、顔に貼り付いた髪を梳くのが好きだ。頭に鼻を当てくんくんと匂いを嗅ぐ。
石鹸の匂いと汗に混じって剣八の匂いがする。自然と口許が弛むのが分かる。胸一杯に吸い込む。

ああ・・・、この匂いが俺に染み付けば良いのに・・・。そしたら現世に帰っても、剣八を近くに感じていられるのに・・・。
髪を梳きながらそう思った。

また一週間逢えないのか・・・、剣八の寝顔を見て朝が来なきゃいいのに、そんな事を考えて自分が子供だと思い知らされる。
今は、剣八の腕の中にいるのだから、それで良いと思おう。一護は再び剣八の腕を枕に胸に頭を押し付けて、また眠りに入った。
今度は朝まで、目覚めなかった。







08/04/23作 第7作目です。08/05/31に剣一同盟にてup していただきました。涼市さん代理投稿ありがとうございます。

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