題「その距離」

   その日は久しぶりに一護が瀞霊廷にやって来ていた。死神代行の報告書の提出のためだ。
面倒クセェと頭で思っても仕方ない、仕事なのだから・・・。
一番隊に報告を終え、その足は自然と十一番隊隊舎へと向かった。
  執務室に入ると一角が書類の前で唸っていた。初めて見る光景に思わず、
「何やってんの・・?お前・・・」
「あ”?見りゃわかんだろ、書類片付けてんだよ」
と不機嫌な感情を隠す事無く一角が言った。
「隊長も副隊長もやらないから僕らがやってるんだよ」
と諦めた様子で弓親も返した。
「ふーん、でも良いのかよ、剣八じゃなきゃ分かんねぇ事とかあんじゃねえのか?」
と一護が問うと、
「いいんだよウチは提出 出来りゃそれで。そうだ!一護お前ヒマなら手伝ってけ!なっ!」
「ハァッ!?イヤだね何時剣八に見つかるか分っかんねえのに」
(じゃあ何でお前は今ウチに来てんだよ!)
 一角は心の中で突っ込んで、
「頼む!今日中に提出なんだ、この通り!」
あの一角に頭を下げられては一護も無碍には断れない。
「しゃあねえな。俺に分かるトコあんにかよ、その範囲だぞ」
と言った一護の言葉に、一角は喜色満面の顔で、
「おう!まずは書類を日付順で分けてくれ!それから、後は隊長印が押してあるヤツと無いヤツな!イヤ〜助かるぜ一護!」
と返した。

   一護は自分の言葉に激しく後悔した。
(何だ・・・この量は。あいつ毎日ココで何やってんの?)
  ふと一護は頭を掠めた疑問を一角に聞いた。
「そういや剣八とやちるは?いねーの?」
「あぁ隊長は隊首会、副隊長は女性死神協会で夜まで帰ってこねぇ」
手元の書類から目を離さず黙々と作業する一角が答えた。
「ふーん・・・」
一護もそれきり喋らず己に与えられた仕事をこなしていった。


  数時間後漸く書類の整理が終わり、
「おっし!日付順に隊長印分、分け終わったぜ。後は?何かやれる事ねぇか?」
一護の言葉に目頭をおさえた一角が、
「そうだな後は俺らでも出来るから、悪いけどよ皆に茶ぁ淹れてくれねぇか?」
「そんな事で良いのかよ?何人分だ?ひぃ、ふぅ、みぃ・・・」
指折り数えて、
「五人分だな、俺入れて六人分か、じゃあ淹れてくる」
そう言って台所へ向かう一護の後ろ姿を見ながら、一角は隣りの弓親に、
「何だかんだ言っても隊長が気になんのかねぇ?」
と話し掛けた。
「まぁ一応恋人なんだしそりゃ、ね。自覚あるか分かんないけど」
とクスリと笑いながら弓親が言う。
 しばらくして六人分のお茶と五人分のお茶菓子を持って一護が戻ってきた。
「ワリーな遅くなっちまって、みんな疲れてるだろうから何か甘い物でもと思ってよ」
一護の持っているお盆には、香ばしい淹れたてのお茶と三色団子が人数分そろっていた。
「アレ?一護、お前の分は?」
と一角が気付くと一護は、
「イヤ俺はお茶だけでいいよ、もうやる事ねぇってさっき言ってたろ?外で飲んでくるよ」
と湯呑みを手に聞いて来たので、
「ああ、本当に助かったぜ、あんがとよ一護!」
一角が礼を言った。
「どう致しまして」
後ろ姿で手を振り出て行く一護。行き先は分っているので敢えて聞かない一角以下、他の隊士達。

 一護は剣八の部屋の庭に来ていた。縁側に腰かけて、お茶を啜っていた。
(今日は疲れたな・・・)
ほどなくして書類整理の疲れも手伝ってか眠気が襲って来て眠ってしまった。
  数十分後、剣八が隊舎に帰って来た。
「おう、帰ったぞ」
「あっ、お帰りなさい隊長。遅かったスね」
と一角が聞くと
「あ”−、山本のじいさんの話が長くてよー、疲れた。俺は寝るぞ、誰も奥に来んじゃねえぞ」
そう言って自室に向った。その場にいた全員がその後、剣八が何を目にするか分かっているので無駄に良い返事を返した。

・・・剣八はいま自分の目を疑っていた。

  何だこりゃ・・・?何で一護がココにいやがんだ。
剣八は自室に戻ると誰かの気配を感じて障子を開けた。そこには縁側で丸まって眠っている一護の姿が、目に飛び込んで来た。
(・・まるで猫だな・・・)
そう思いなるだけ静かに一護の後ろに腰を下ろして頭を撫でた。
柔らかなオレンジ色の和毛が手に心地良かった。
「剣八か・・・?」
不意に声を掛けられ一瞬手を止めるがまた撫ではじめ、
「ああ」
と答えた。
  一護はゆっくりした動きで、剣八の手を取ると手の平に口付けし、残った指一本一本に至るまで丁寧に唇を這わせた。
「どうした一護?やけに大人しいじゃねぇか、煽ってんのか?」
「分かんねぇアンタこそ今日は追いかけ回さねぇじゃねぇか」
一護が問うと剣八は
「ああ、俺ぁ今日疲れてんだよ、鬼事する気分じゃねぇよ」
と答えた。
剣八の話を聞いている間も一護は手指への愛撫を止めなかった。慈しむ様に愛おしそうに、包み込む様なソレは続けられ遂に剣八が、
「くすぐってぇから止めろ」
と言い手を引っ込めると
「あ・・」
と呟き名残惜しそうに手を伸ばすと、その手を剣八に掴まれた。
「やっぱおかしいぞ?何かあったのか一護」
剣八の問いに一護は、
「何も無い、でも来た時アンタがいなかった」
とそう言うと一護はおきあがり向かい合って剣八の顔を上目遣いで見た。
剣八は口の端をくっと持ち上げ、
「えらく可愛い事言うじゃねぇか」
一護を引き寄せて、触れるだけのキスをして、
「手前ぇが煽るから火がついちまった。責任取れよ」
耳元に低い声で囁き一護を抱え上げ、自室の蒲団の上に押し倒した。
今度はさっきよりも深い口付けを交わす。角度を変え、舌を絡ませ、互いの口腔内を味わった。
「ん・・・ふぅ、ん」
一護は鼻に掛かった吐息をもらしトロンとした熱っぽい目で剣八を見つめ返した。これだけの事で、一護の身体は簡単に火が熾きる様になった。
剣八が一護の死覇装を脱がせていった。腰紐を解き、袴を脱がせると胸が肌蹴られ、剣八に見られているという羞恥で顔だけなく首まで赤くした。
「一護、お前今すげぇ興奮してるだろ・・・外、明るいもんなぁ」
首筋に舌を這わせていた剣八が急にそんな事を言ってきた。
「そ、んな事」
否定しようとした瞬間、一護の中心を握り込んだ。そこは熱を持ち固くなり始めていた。
「やっ、あぁん」
「そら見ろ」
そう言うとまた一護の身体を攻めはじめた。熱い舌が首筋から胸まで辿り、小さな突起を舐め口に含んだり、指で捏ねたりするたびに剣八の身体の下の一護が艶かしく身体をくねらせ、声を上げていた。
「おい、いいのか一護、そんな大声出してよ。外に聞こえるぜ?」
わざと意地悪く言いながらも、手を休めることはしなかった。
「あぁっ!だって、剣八がっ、うっくっ」
「俺が何だ?ん?」
一護の身体を愛撫しながら、器用に服を脱がせ、自身も着ている物を脱いでいき、一糸纏わぬ姿になった二人。
 一護が伸ばした腕を剣八の首に絡めて、身体を密着させて来た。 今まで逢えなかった距離。それを埋めるかの様に。

現世とこの世界の距離。近くて遠い、まるで自分達の様だ。剣八も一護を両腕で抱き締め口付けた。
息継ぎも許さないほどの激しさ・・・、酸素を欲して口を開けば熱く長い舌が入って来た。歯列をなぞり、舌を絡ませお互いを貪る様な口付け。
剣八が口を離すと互いの唾液が糸を引いていた。一護は息が乱れて何も喋れない。急に身体への刺激が再開された、
「んあっ!」
剣八が一護自身を握り、激しくけれど優しく、扱いて一護を追い詰める。
「あっあっやだっもうイッ・・く」
四肢を震わせ、一護が吐精したのを見て、
「早いな…よっぽど溜ってたのか?」
人の悪い顔で笑いながら聞いて来た。
「〜〜っ剣八が触るから・・!剣八だから・・・!」
その言葉を聞いて剣八は、裂けるほど大きく口の端を引き上げて笑った。
「くくっ、そんな事言っていいのかよ、歯止めが利かなくなるぜ」
「い、いよ。今日はいくらでも・・・」
「はっ、それじゃあ御言葉に甘えるぜ」
そう言うと先程の一護の名残を後庭に塗り込め、解していった。指が増えるにしたがって一護の口からは、止める事が出来ない嬌声が零れ落ち、
また一護自身も固さを取り戻していった。
「そろそろ良いか・・・?」
剣八の問い掛けも一護の耳には届かなかったらしく、身体を小刻みに震わせ、涙を零していた。
「ハァ、ハァ、ハ・剣八ぃ、も、来て」
一護から強請ると、剣八は指を抜き、自身をあてがい、ゆっくり侵入した。
「あっあぁん、剣八っ!剣八ぃ」
「く、おい一護締め付け過ぎだ、喰いちぎる気か?」
「あ・・ん、だってぇ剣八のがおっきいんだもん」
「は、嬉しい事言うじゃねぇか」
そう言うと腰を動かし始めた。
「あぁっ、やぁん」
やけに甘い鼻に掛かった声を上げ、一護は自らも腰を振り快楽に溺れていった。
「いいぜ一護、すげぇいい・・・!」
一段と動きを激しくした剣八が一護の最奥に熱い精を吐き出した。己の内に熱い脈動を感じて一護は
「んあぁっ」
と小さな叫びと共に剣八の身体に己が精を解き放った。
「おい一護、手前ぇから誘ったんだ、これぐらいでへばってんじゃねえぞ」
精を解き放った後もまだ固さを維持したままの、剣八のモノを受け入れたままの一護の身体を抱きかかえ、胡坐をかいた剣八と向かい合う形になった。
「あぁん」
達した後の敏感な身体の中を擦り、更に奥を突いてきた。
「あん、剣八ぃ、もっと・・・」
「くくっ、もっと良い声で啼けよ、一護」
剣八は、一護の腰を掴み、楔を打ち込んだ。
「あっ!ああん!剣八!剣八!」
仰け反らせた首に軽く歯を当て縦に滑らせ、肩に噛み付いた。
「あうっ!ヤッ痛、い」
そんな一護の訴えなど意に介さず、もっと多くのキスマークや情事の跡を付けていった。
「はぁっん!剣八、や、も、イッちゃう」
自分の内にある剣八を締め付けて、一段と大きく感じた一護は、
「はぁあん!」
一際大きく声を上げ先に吐精した。ビクビクと痙攣する一護の中に吐き出し、剣八は自分のモノを引き抜いた。
「あんっ」
引き抜く時に敏感な所を抉られ声が上がるがもう身体が付いて行かない。
「なんだもう終いか一護、だらしねぇな」
「うる、せぇ絶倫親父・・・」
息も絶え絶えにそれだけ返して、意識を手放した。


「ん・・・?」
一護は目覚めると、風呂に入っていた。気を失っている間に運ばれた様だ。目が覚めるにしたがって状況を把握していると、
「気が付いたか?」
後ろから声がした。後ろを振り向くと、髪を下ろした剣八が、後ろから抱きかかえる様に一緒に湯船に入っていた。
「一護、お前ぇやっぱりおかしな、何かあっただろ?」
「・・・何もねぇよ。ただ無性に、あんたに逢いたかっただけだ」
「あ?何だそりゃ、えらく殊勝な事言うじゃねぇか」
一護の背中に口付けを落としながら言った。
「んっ!だって、あ・・」
一護の背後で剣八の欲望がもたげてきた。
「ちょっ、剣八まだ?」
「当たり前だ、そんな事言われりゃ、もっと喰いたくて仕方がねぇよ」
 喰わせろよ、一護・・・と囁き一護の身体を弄ると快感の余韻がまだ残る一護の身体が過敏な反応を示した。
「あ、ん!」
簡単な愛撫で背を反らせた、一護の肩口に顔を埋め、胸の突起を弄りながら剣八は、
「俺も手前ぇに逢いたかったぜ、一護・・・」
と甘い声音呟いた。一護は両手を後ろの剣八の首に絡ませ、仰け反る様に顔を向け口付けた。
目の縁が少し赤くなって涙が溜まっていた。
「のぼせるから、上がろうぜ」
と言い、出ようとする一護の腕を掴み、湯船に引き戻す。
「せっかくだ。此処で一発ヤッてこうぜ」
「ばっ、馬鹿何言って・・・!」
その言葉も空しく、一護は翌日、腰痛で動けなくなるまで、可愛がられた。
「くそっ、手加減ぐらいしろよな」
「ハッ!手前ぇで誘っておいて泣き言ぬかすな」
蒲団の中では、可愛い気の無い睦言が聞こえていた。





08/04/09に出来た4作目です。08/04/20に剣一同盟にup していただきました。涼市さん、代理投稿ありがとうございます。
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