十一番隊隊舎の縁側に一人座っていた一護は、その日十何回目かの溜め息をついていた。 一護自身数えていた訳では無いので自覚はなかった。 たまたま近くにいたやちるに 「いっちー今日は溜め息ばっかだねぇ。どうかしたの?」 と聞かれて漸く自覚にいたった。 (溜め息?そういや、さっきから俺ずっと・・・) やちるをぼんやり見つめながら考えていると、剣八がこちらにやって来たのでやちるはいつもの特等席に飛び乗って何事か、おしゃべりを始めた。 その姿を目にした一護の胸にチリリとした痛みがはしる。 (?何だコレ?…) いつもの見慣れた光景なのに・・・? 「おう一護。調子でも悪いのかよ」 と剣八に問われてハッと我に返る。 「イヤ、何でもねぇ。何でもねぇんだ」 一護の言葉に彼は、訝しげな視線を寄越したがそれ以上は何も言ってこなかった。 「どうしたんスか隊長〜」 その時、どうやら剣八を探していたらしい一角と弓親が現れた。皆がごく自然に剣八を取り囲み、何やら楽しげに喋っている。 これもいつもと同じなのに、胸の痛みと共にまた溜め息がこぼれた。
輪から一人外れ、ほんの少しだけイラ付きを自覚する。一護は居た堪れない気分になって、 「ちょっと散歩してくるわ」 と言って隊舎を離れた。 「いっちー今日おかしいんだよ。溜め息ばっかりついてるんだから」 やちるが言えば、 「へぇ」 と弓親。 「何か悩みでもあるんスかね」 と一角。 剣八は一護が出て行った後を見て、 「さあな」 と一言。
一方、一人行くあてもなく歩いていた一護は、先程から考えても一向に答えの出ない、この胸の痛みとも疼きとも知れぬ感情を持て余していた。 やちるにだけでは無く、一角や弓親にも同じ感情を覚えた。 (何だってンだ・・・) とはいえ、あまり考え過ぎても埒があかない。 (そういや最近体も動かしてないし、鍛練場にでも顔出してスッキリするか)
一護は十一番隊に戻ると道場に足を運んだ。 剣八は居らず一角が一人、稽古をしている。何故かホッとした一護は彼に向って、 「おい一角、一本付き合えよ」 と声を掛けた。 一角は、先程出て行った理由を尋ねてくる事はせず、 「あぁ、いいぜ」 と快諾の言葉だけを返す。もやもやしたモノが溜まっていた一護にとって、それはとても有り難かった。 けれどもその日は打っても打っても、悉く打ちのめされ一護は肩で息をしながら、 「もう一本だ!」 と叫んだ。 「何ムキになってんだよ、お前今日おかしいぞ?」 「うるせぇな!ホラもう一本来いよ!!」 語気を強め木刀を握り、打ち込むと一角もそれに応戦した。 体を動かしても晴れないもやもやと答えの出ない胸の痛み。 (チクショウ何だよ。このイライラは!) その時道場の扉が勢い良く開き剣八が入って来た。 木刀を交えている二人は一瞬動きをとめたが、すぐ続きに取り掛かった。一護が剣八の背中にいるやちるを見つけた瞬間、体が強張った。 その隙をつかれ一角の木刀が一護の右の額を直撃した。間一髪後ろに跳んで衝撃はさほどではなかったが、床に仰向けに倒れた一護が急に笑い出した。 「はっ!あはははははっはぁっはぁっはぁっ・・・」 その場にいた一角が驚いて一護を見下ろしている。 「馬っ鹿みてぇ・・・」 そう呟くと漸く起き出した一護は、少しスッキリした顔で、 「悪かったな一角、付き合ってくれてスッキリしたぜ。ありがとな」 額を少し赤くしながら一護がそう言うと、 「お、おう」 と短く返事を返す一角。 「ちょっと四番隊に行ってくるわ。絆創膏でも貰ってくる」 そう笑いながら言い一護は道場を後にした。決して剣八を見ない様にして・・・。
やっと気づいたコレは嫉妬だ。どうして・・・?今まで抱いた事もなかった感情。あいつの周りに居る奴に嫉妬を覚えるなんて・・・。やちるに至っては妬いてもどうしようもない相手だ、 一角も弓親もそうだ。その他の部下に至っては論外だ。 (本当馬鹿みたいだ、やっと気付くなんて・・・) 四番隊で絆創膏を貼ってもらい、帰るその道すがら、つらつら思い返すに剣八と深い仲になる前は普通だったと思う。額の絆創膏を擦りながら歩いていると、十一番隊の隊舎前に来ていた。 隊舎に着くと剣八が一人縁側に座っっていた。湯上りなのか髪は下ろされ、浴衣を着ていた。 「よう怪我ぁ治ったみてぇだな」 「あぁ軽かったからな」 「で?手前ぇは何をそんなに悩んでんだ?一護」 射竦める様な視線がこちらに向けられる。 「な、何をって別に・・・」 思わず目を逸らす。 「ウソつけよ、じゃあ何でこんなドジ踏んだ?」 いつの間にか目の前に立っていた剣八に額の絆創膏を触られる。ツキリとした痛みが走って一護は肩を竦めた。 「うるせぇな俺だって考え事ぐらいあるんだよ」 そう言って剣八の手を振り払おうと手を上げると逆に捕まってしまった。尚も逃げようと顔を上げると、絆創膏を勢いよく剥がされた。
「イッテェ!何すんだよ!」 一護が文句を言い終わるが早いか剣八は額の傷を舐めていた。 「んっ!」 思わず声をこぼした一護を剣八は、笑って見ていた。そして一護の耳元に顔を寄せると、良く通る低い声で、 「言えよ一護、俺以外誰も聞いてねぇよ・・・」 と囁いた。 一護は思わず身震いした。自分はこの声に弱い事を知っている。何度も体を重ね何度も耳に流し込まれた。 だけど今日は言えない、自分がこんなにも嫉妬深いなんて知られたくなくて・・・、だから精一杯虚勢を張った。 「何でもねぇって言ってんだろ、いい加減にしろよな。俺も風呂入ってくる」 そう言って剣八の手から逃れると一護は縁側から隊舎に入ろうとした。その時いきなり背後から抱きすくめられた。 「言えって言ってんだ。何意地張ってんだ餓鬼が・・・」 明らかにイラつきを孕んだその声は有無を言わせない迫力があった。 「イヤだっつってんだろ!離せこの馬鹿力!」 剣八の腕から逃げようともがくと、より一層の力が込められた。 「くうっ」 呻く一護を軽々と持ち上げると足で障子を開けて中に敷いてあった蒲団に一護を組み敷いた。また足で障子を閉じると己が体重を一護にまかせた。 「ぐっ」 剣八の重さに閉口していると、 「気に入らねぇな」 と言う呟きが降ってきた。何が、と問う前に腕に更なる力が込められた。骨の軋む音が聞こえても、それは弛められる事はなかった。 「痛ぇよ、離・・せよ剣八」 身を捩って後ろを向くと口を塞がれた。 「っん!んんぅっ!」 噛み付く様な口付けに息が苦しくなって唇を少し開くと今度は舌が入って来た。歯列をなぞり、舌を探り出し絡めとり、吸い上げた。 「くふぅ、んァ、あふっ、んあっんぅ」 ぷちゅっと音を立てて剣八が唇を離すとお互いの唾液で濡れそぼった自身の唇を舐め、一護の身体をこちらに向けた。 まだ呼吸の整わない一護はされるがままだった。両手を頭の上で握り込められ、腰紐が解かれていくのを朱に染まった目で追っていた。 「何だ、抵抗しねぇのか一護」 クックッと喉の奥で笑いを押し殺して聞いてきた。 「うるせぇ勝手にしろよ」 半ば自棄気味に一護が言うと、 「本当ガキだな手前ぇはよ、何に意地張ってんだ」 一護は剣八を睨みつけ、そっぽを向いて下唇を噛んだ。
(誰が言えるかよ、お前の周りに居る奴に嫉妬してるなんて、その事に今さっき気付いたばかりだって・・・。何で俺はこんなにお前に惚れてるんだろう・・・。お前は?どれ位俺が好きなんだ?わかんねぇよ・・・) 不意に下顎を掴まれ顔の向きを変えさせられた。目の前に剣八の顔があった。笑っていると思っていたが真剣な眼をしていた。 それがゆっくり近づいてきて一護の下唇を舐めた。その後少し離れて額の傷に口付けし、ゆっくり舐め始めた。 「なっ何してんだよっ剣八!」 驚いた一護はその行為を止めさせようと、押し退けようとするがビクともしなかった。 「気に入らねえ」 漸く口を開いたら、またそのセリフ。 「だから、何がだよ」 「手前ぇの身体に俺以外の死神が傷を付けた事だ」 (ハァ?今…何て言った…コイツ) 憮然としたまま一護の袷を肌蹴ていく剣八、胸に手を這わせ小さな突起に長い指で悪戯を仕掛ける。 「あっやめっ剣八」 すぐに紅く色付き食べ頃になったソレを口に含み、舌で転がす様にすると一護の身体がビクリと跳ね、艶めいた声を出し身をくねらせた。 「はっ、あんっ、ヤメッ剣、んン」 湿った音を立てて口を離すと剣八は、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべ、 「本当にヤメて良いのかよ?此処は欲しがってんのによ」 一護の袴を下着毎脱がせ、その中心に指を絡ませる。そこはまだ直接触れた訳でもないのに自己を主張していた。 「やだっ見んなっ触んな!」 耳まで赤くなった一護は身を捩って逃げようとしたが両手を握り込められているため叶わなかった。剣八は一護の耳に唇を寄せて熱い吐息と共に、 「大人しくしろよ一護、もうすぐ良い思いさせてやるよ・・・」 と囁きそまま耳朶を舐め犯し始めた。 「ハッあぁっふっン」 耳の中に舌を入れられ耳朶を味わい尽くされ軽く噛まれた。それだけで身体に電流が走る。 剣八が一護自身に絡めていた指を動かす。上下に扱くとすぐに溢れ出る体液によって滑りが良くなったソコから淫猥な水音が響いた。 「んっふぁっ、あぁっうっくっ畜生・・・」 剣八の細く長い指で感じる所を擦られあっけなく吐精した一護は乱れた呼吸を整えようとしていた所へ剣八から容赦のない口付けが降ってきて翻弄される。 先程よりも時間をかけて続けられる深い口付け、長い舌は熱く送られてくる呼気も熱かった。一護は酒に酔ったかの様に男の舌を貪った。
ーこの男の全てを手に入れたい。
ー誰にも渡したくない。
ー何処か誰も居ない所に閉じ込めたい。
そう思った。そんな事は出来ないのだと身に染みて分かっているのに。 やがて唇が離れ、飲み込みきれなかった唾液が一筋零れ落ちた。 「オイ一護、今度は俺を満足させろよ」 そう言って剣八は先程吐精された一護の名残を指で掬い後庭に塗り込め指を入れてきた。 「あ・・あ剣八!も、う、んぁ!」 剣八のが欲しい、指だけじゃもう収まらない、そう身体は造り換えられた。 「欲しいか?一護、だったら教えろ。何をグダグダ考えてんだ言わなきゃやらねぇぞ?」 指を増やしながら剣八は、もう一方の手で一護の根元を握り、達せない様にした。 「んっあ!ヤメッ」 一護は襲い来る快感を前にイケない苦しみに悶え、遂に白状した。 「それ・・は、ァ、俺がっお前の周りに居る奴っらに、んぁ嫉妬してるから・・・。だから、も、お願い・・・っ」 小刻みに身を震わせ涙を零し懇願する一護。 「くくっいいぜ。一護いくらでもくれてやる」 指を抜くと剣八は熱く滾った自身をあてがい押し進めた。 「あっあああー!」 一護は堪らず嬌声を上げ腰を振っていた。 「一護、一護、堪らねえ!」 (そんな殺し文句があるかよ、馬鹿野郎が) 剣八は自分が一護に抱いている独占欲が自分だけでは無かった事に言い知れぬ興奮を覚えた。 いつもはそんな素振りも見せない癖に急にこんな事を言う。 剣八は自分の欲望のまま一護を抱きつくした。彼が気を失うまで・・・。
剣八の腕の中で寝息を立てている一護、その髪を梳きながら剣八は、 「俺も手前ぇの周りに居る奴らが邪魔でしょうがねぇよ・・・」 と呟いた。
終
08/03/29に加筆修正 08/03/29に剣一同盟さんに代理投稿という形でupしていただきました。涼市さん、ありがとうございます。
初めて書いた剣一です。というか初めての二次作品です。はずかしっ・・・。
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