題「剣八の狩り」
 「君達、お母さんとどうやって知り合ったのさ?」
妖さんの家のリビングで寛いでいるときに、宵闇が一護達に聞いてきた。一護達がこの世界に来たときに一応の状況は聞いてはいたが詳しくは聞いていなかったからだ。
「うん、俺の体液って毒なんだ。剣八がその毒にかかっちゃって。その俺の身体の毒を消してくれるかも知れない魔女が東の海に居るって聞いて、東の海の深海に行ったんだ。そこで妖さんと会ったんだよ」
「深海で?」
「ああ・・お母さんが落ちたのが深海の狩場だったからね。それでだろ?」
「狩場ごと落ちたってか?・・・すげぇな」
「狩場の一部が繋がったままだったんじゃないかな?中途半端にさ」
「ああ、それで帰って来れなかったのか」
闇と暁が話しに加わってきた。どうやら妖さんが居た場所が一護達の世界と一部で繋がっていたらしい。
「それで、妖さんから薬を貰って剣八に飲んでもらったんだ」
「おかげで一護の毒の耐性がついて、俺は元の身体に戻ったんだ」
剣八は隣に座る一護を引き寄せて、わしわしと頭を撫でた。
「あんたがお母さんの薬を飲んだのか」
「・・・勇気あんな、あんた。俺なら間違っても飲まねぇぞ」
「というか、お母さんの薬がちゃんと効いたって所にむしろ俺は驚くね」
「確かに」
「そんなに危ねぇ薬だったのかよ?」
「ランダム変化のほうが圧倒的に高く出るからね。死にはしないけど」
命に関わるような選択肢は無いが、成功確立は殆ど意味は無いと言う暁。何のための成功確立なんだろうと思うがそこはつっ込んではいけないらしい。
「あのランダムはイヤガラセに近いよな」
「まぁ、『それ』目的で欲しがる馬鹿も居るんだけどな」
「でも、まさかパペット機能まで付くなんてな。ありゃあ虐め以外の何モンでもねぇ:」
『妖さん特製・怪しげな薬』は、失敗時のランダム変化は基本的に変身効果だ。スキル機能までもが付くとは想像だにしなかったと呆れる兄弟達。
「薬を飲んだってことは、あんたはお母さんとは会ってなかったんだな」
会っていたら飲まなかったという事か。妙に納得する剣八。
「ああ、会ったのは一護だけだ。俺は礼を言いに行ったんだがな。そん時にゃ居なかったぜ?」
「その時、一緒についてきた白と天鎖が変なお札剥がしちゃって・・」
「剥がしたのは天鎖だ!俺は関係ねーぞ!」
いきなり白が一護と剣八の間に割り込んできた。捻じ込んできたと言うべきか。確かにお札を剥がしたのは天鎖だ。白は偶々近くに居て真っ先に巻き添えを食らっただけなのだ。
「その札を剥がしたら穴が開いて、その穴に引き摺り込まれて出たのが此処だったって事だ」
剣八が一護にくっつく白を引き剥がそうとしながら説明をした。白は引き剥がされてなるものかと必死で抵抗している。
「はぁ・・・どこまで娑婆迷惑なんだ、あの人は;」
「お母さんらしいっちゃあ、らしいんだけどな」
暁の嘆きに闇が溜息交じりで答えた。
「大体、人間なんか放っときゃ良かったんだ。一護には俺が居るだろーが!」
しっかりと一護に抱きつきながら不服そうに言う白。白の尾びれはしっしっと剣八を追い払うように揺れている。
「白ったら。ところで天鎖は?」
「どっかでいじけてるんじゃねぇ?」
さっき虐めたし、と平然と言う白。一護は溜息しか出ない。



「おい、おまいら。狩りに行くぞ!」
妖さんがリビングに入ってくるなり話をしている白に声をかけてきた。
「どこ行くの?お母さん」
「神殿。おまいらは行けないからな、海胆とどっかで狩ってろや」
「判ったよ」
妖さんの言葉にあっさりと返事をする暁。神殿は100Lv以上でないと入れない狩り場なので他の兄弟達も付いていくとは言わなかった。
「じゃあ、俺達はボス巡りでもするか?海胆もボスは初めてだろう?」
闇が剣八にボス狩りに誘った。剣八はボスという言葉に興味を持った。が・・・
「ボスってのは俺達じゃ狩れねぇんじゃねぇのか?」
確かLv制限や前提クエがあるとか言っていなかったか?疑問に思う剣八。
「大ボスならな。でも時間湧きのボスなら問題ないぜ?」
「時間湧きのボスならピンからキリまで居るからね。Lvさえ見合えば狩ることは出来るんだよ。その時に湧いていればね」
大ボスやクエストボスは色々制限があるが、時間湧きのボスは通常の狩り場に一定時間毎に湧くのだから、その狩り場に行けさえすれば会う事は可能なのだと説明された。倒せるかどうかは別問題として。
「ボスは体力が雑魚と比べて異常に高いけどその分経験値も高い。その上稀だがレアモノ落とすからな」
「Lv上げとお金稼ぎにはもってこいなんだ」
「そうと決まったら早速行くぞ!」
「おう!」
剣八はボスと戦えるとあって嬉しそうだ。一方、一護と引き離されてぎゃあぎゃあと騒ぐ白とリビングの隅で鈴相手にイジケていた天鎖を引き摺るようにして狩りに向かった妖さん。それを心配そうに見送った一護。
「天鎖達、大丈夫かなぁ・・・」
「テンコ盛りのパペット機能か?大丈夫なんじゃね?」
「でも・・・」
「大丈夫だよ。神殿は安置もあるしそんなに湧きが良いほうでも無いから。基本安置狩りになるし。お母さんも1回使って気が済んだだろうしね」
「飽きっぽいからな、あの人」
「まぁ、元々聖魔には無いスキルだからな。忘れてるんじゃね?」
己のスキルすら使い忘れて墓を降らせるくらいだから気にすることも無いだろうと一護を慰めて、兄弟達は剣八達と狩り場へ向かうことにした。



船を乗り継いでやってきたのは、剣八が最初に狩りの仕方を教えてもらった街だった。
「此処にもボスってのが居るのかよ?」
「此処には1番弱いボスが湧くんだよ」
「弱い順から回って行こうと思ってな」
「お母さんが居ないからドアは無いからな。狩り場移動は徒歩だから覚悟しておけよ?」
「あ?暁は出せねぇのかよ?聖魔だろ?」
「ドアは3次スキルなんだよ。俺はまだ2次だから出せないよ?」
「さっさと3次しろよ。あと1Lvだろ?」
「黒水晶が無いんだよ。お母さんが間違えて全部フリマに出しちゃったから」
3次への転職試験に必要な黒水晶が無いのでどのみち3次転職出来ないのだと嘆く暁。黒水晶は手に入りにくいのだ。下手にLvも上げるわけにもいかないし、と半ば諦めモードに入っている。
「ま、暁のことはさて置き。ここから少し先の狩り場でボスが湧くから移動するぞ!」


街からいくつか離れた狩り場でボスが湧くまで狩りをする剣八達。狩るのはでんでん虫だ。最初に此処に来た時はでんでん虫1匹を倒すのにも苦労したが今では何の苦労もない。今では1撃でも余り過ぎるダメージを出している。
「海胆っ八!ボスが湧いたぞ!1番上の足場だ」
兄弟の1人の声に1番上の足場に移動した剣八。一護がボスを見て驚きの声を上げた。
「おっきいでんでん虫だね!剣八!」
「確かにでけぇな」
髭を生やし殻には苔が生えたでんでん虫は剣八ですら見上げるほどの大きさだった。
「ムダに大きいけど所詮は最弱だから。すぐに倒せるよ」
暁の言うとおり難なく倒した剣八。さすがに普通のでんでん虫よりは強いようだったが。大量に落とした殻や葉っぱを拾い集める一護。
「さ!次行くよ」
元の街には戻らずそのまま狩り場を移動しながら隣の町へと向かった。途中で出くわすでんでん虫やきのこや豚をサクサクと倒しながら進んでいく剣八。
冒険者なりたての頃はきのこや豚に跳ね飛ばされて墓を降らせたが、今ではさほどのダメージにもならない。なるほど少しは強くなったのだと実感する剣八だった。



次の狩り場へは隣町までタクシーで移動した剣八達。次の狩り場は街から比較的近かったからだ。そこは緑が少ない荒野の中の街だった。
「幽霊の依頼できたところに似てるな」
「そりゃあ同じエリアだからね」
「だから回りの景色が似てるのか」
狩場は僅かに枯れ木がそびえる岩山の狩り場をいくつか過ぎた所だった。そこには一つ目の切り株がうようよと歩き回っていた。その中に一際大きな古木のモンスターがいた。
「ラッキー!もう湧いてるじゃん!」
「さ!此処もサクっといくよ!」
切り株を蹴散らしながら1人が剣八に声をかけてきた。兄弟達は狩場に散らばり、切り株を片っ端から倒している。倒されればその分湧いてくる切り株。
「ち・・・雑魚が多くてうざいな」
「ここは湧きが多いから人気の狩場でもあるんだよ。ボスも湧くしね」
連打や纏め狩りが出来ない剣八にとってうじゃうじゃと沸いてくるモンスターははっきり言ってうざい。初心者である剣八は1体づつただ殴るしか出来ないのだ。
「雑魚は俺達が遊んでやるから、海胆はアレ叩いてろよ」
アレ、とボスを指差してボスは任せたと宵闇が笑った。その気遣いに剣八はにぃと笑って応えた。
「剣八、嬉しそう」
「ああ。強い奴と戦えるんだ、嬉しいぜ!」
雑魚は兄弟達に任せて古木に挑む剣八。しかしなかなか思うようにはいかなかった。どれだけ叩いても一向に倒れる気配が無い。
「こいつ、なかなかしぶてぇな!」
「このボスは途中で回復するからね」
「なんだとぉ!?」
「ボスもLvが上がると雑魚の召還や回復してくるからね」
「うぜぇな!」
「そりゃあボスだからね、雑魚とは違うさ」
「でもまぁ、いつまでもコイツばかりに構ってもいられないよな」
そう言うと兄弟達は雑魚狩りの合間に古木にも攻撃を仕掛けていった。剣八が止めの一撃を入れると大量の枝や板や葉っぱを落として古木のモンスターが消えた。それらを集める一護。
「うーん、流石に書は出なかったか」
「書?」
「ああ。ボスってのは経験値も高いけど、たまにレアアイテムを落とすんだよ。こいつは結構良い書を落とすんだ」
「捨て書のほうが出やすいけどね」
「同じ高額書を雑魚で出そうと思ったら、かなり高Lvのモンスターを狩らないといけないからね。ここでの高額書1枚で海胆の装備なら鬼強化した奴が2つや3つは買えるぜ?」
「物によっちゃあ神装備が買える」
「神装備は流石に無理だろ・・・」
「体力盾とか体力兜とか?」
「使えんのか?それ?」
「体力の神強化品なんて魔くらいしか使わないだろ」
「魔でもいらねぇだろ。それならクソ強化でも知力強化品使うって」
「魔の知力神強化品なんていくらすると思ってるんだよ・・・まぁ体力神装備は魅力的だけど」
魔術師の体力は全職でも最弱と言っても良い。体力が上がればそれだけ死ににくくはなる。回復魔法も体力に合わせて高くなるので回復によるアンテッド狩りには有効なのだ。それでもやはり知力強化のほうが有効なのだが、知力強化装備は半端無く高価なのだ。
書にも種類や強化の度合いや成功率によって価格に差があり、同じように強化された装備にも強化の内容によって価格差があると教えてもらう剣八。確かに不要な強化など意味は無い。


たどりついたのは2番目に来た街だった。此処の狩り場で初めて墓を降らせたのだ。あの時は一護を泣かせてしまった。出来れば思い出したくはない剣八だった。
「で?今度はどこまで移動するんだ?」
「此処。街の入り口にある門の影に隠し入り口があってな、そこから行くんだ」
「まぁ中に入ってから移動はするんだけどね」
通常、街や狩り場にははっきりとわかる入り口がある。ところが狩り場の中にはこうした隠れた入り口しかない狩り場もあるのだ。分かりづらい入り口を何とか入ってボスの湧く狩り場へと向かう。途中に罠があって落とし穴に何度か落ちた剣八。走り回る豚に後ろから突き飛ばされたり、飛び越えて着地の瞬間に接触して突き落とされたり。
「なんで穴の手前にしか出れねぇんだよ!?」
「そういう仕様なんだからしかたないだろ?ちゃんとタイミングみないと、また豚に落とされっぞ?」
「くっそー!」
「剣八、頑張って!・・・・あ!」
やっとのことで穴から出たとたん豚に再び穴に突き落とされた時にはさすがにキレた。
「いい加減にしやがれっ!豚共めぇっ!!」
「けんぱちぃ〜・・・」
何とか落とし穴を超えどうにかこうにか目的地に着いた一行。小さな庵の前を鎧を着た豚が走り回っていた。
「此処にはどんなボスがいるんだ?」
「きのこ」
「きのこだぁ?」
「そう」
「見ればわかるよ」
しばらく様子を見ていると巨大なきのこが現れた。
「剣八!あれ!きのこ!おっきいねぇ!」
一護が指差す先には巨大なきのこ。オレンジ色の傘には白い水玉模様。なかなかに愛嬌のある顔をしていた。
「ずいぶんと可愛らしいボスだな。なんか一護に似てるな」
「どこがだよ!?」
きのこと一緒だと言われて怒る一護だったが、剣八は気にしていない。巨大なきのこは楽しそうにピョンピョンと跳ねている。
「暁。回復と補助を頼む。俺達は雑魚をやるから」
「判ったよ。行くよ、海胆っ八」
「おう!」
鎧の豚を兄弟達が狩り、ボスのきのこを剣八が攻撃する。きのこはこれといった攻撃はしないが体当たりはそこそこダメージを与えてくる。暁はジャンプしながら回復をかけ続けている。不意にきのこの目が光り、きのこが大きくジャンプした。
ズウウゥゥン・・・
凄まじい地響きとともに衝撃波が襲い剣八はかなりのダメージを受けた。
「すげぇ威力だな」
「地震攻撃だよ。目が光ったらジャンプして避けて。ジャンプで避けられるから」
「お、おう」
しかし『斬り合い』をモットーとする剣八が相手の攻撃を避けるはずもなく・・・・攻撃をモロに食らいながらもなんとかきのこを倒した。
「お前なぁ、攻撃は避けろつーたろうが。何モロ食らいしてんだよ」
「あー、悪りぃな」
「ったく。次行くぞ」
きのこが落としたラーメン1つを拾って街へと戻った。


街に戻って椅子を出して休憩を取る一行。次の狩場への相談をする兄弟達。剣八も椅子を出して一護を膝に乗せて話を聞いていた。
「さてと、次どうする?」
「Lv的に行けば次は猿だな」
「猿はパス。行く気は無えよ」
「だよなぁ。あそこはパスするか」
「パス?なんでだ?」
弱い順から回ると行っていたのに、いきなり次のボスはパスするという兄弟達に疑問を持つ剣八。
「次のボスは周りの雑魚がウザいんだよ」
「ボスが召還する猿が投げるバナナの皮は痛いし回避不可なんだ」
「雑魚のババァはボスよりLv高いし、状態異常も仕掛けてくるから面倒臭いんだよ」
「ババァは毒と氷結を使い撒くってくるし、しかも湧きが多いときてる」
「しかも飛んでるから足場関係無しに寄ってくるんだよ」
「俺、前に行ったときババァにフルボッコにされた。で、墓った・・・」
うんざりと遠い目をして話す兄弟に、よほどひどい目に合ったんだな。と柄にも無く思わず同情する剣八だった。ちなみにババァとは箒に乗った老魔女だ。
「状態異常は万病・・・万病治療薬使えば良いけど。万病は店売りしてないんだ」
「万病はフリマ行けば売ってるけどな。雑魚相手に使い捲くりたくは無ぇよな」
「あそこは大ボス戦の練習みたいなもんかな。大ボスは召還はもちろんのこと回復・ガード・無敵化・状態異常当たり前だからな」
「大ボス戦つか、3次転職試験の戦闘試験だろ?ウザいくらい召還と状態異常とか使ってくるらしいからな」
「だな。でも猿は態々行くほどレアアイテムも落とさないからなぁ。人気は無いよ、何時行っても狩場は空いてるくらいだし」
「確かにな」
「となると次はロボットか宇宙人?」
「それもパス。めちゃくちゃ遠いし、レアモノ落とさないからな。経験値もさほど高く無いからぶっちゃけ時間と薬の無駄だ」
「となると貝か鰐?」
「先に鰐にするか?近いし雑魚も足が遅いし。Lv的にはかなりキツイかも知れないけど何とかなるだろ」
「あれもレア書落とすんだよな。確か古木より多かったろ?」
「ああ。じゃあ早速行くか!」
全員椅子を仕舞い、タクシーで次の街へと移動した。



やってきたのはマントを貰った病院のある街だった。
「ここの地下道にボスが湧くんだ。鰐は足が遅いけど一緒に湧く蛇は足が速いからな。気をつけろ」
「ボスが湧くまで安置狩りしても良いよ。寄せてから安置に移れば良いからさ」
「・・・ああ」
安全な場所からの狩りなどする気など無かった剣八だが・・・
「無駄に体力削ってペットに負担かけない様にね。薬代だってかかるんだから」
あからさまに一護に負担を掛けるなと言われてしまえばぐうの音も出ない。思うように狩りを楽しみたいが、一護に負担を掛ける気はさらさら無いのだ。
「剣八?俺なら大丈夫だから好きにやって良いよ?」
「バーカ。俺は強い奴だけやれりゃあ良いんだよ」
心配そうに見上げる一護の頭を撫でると、剣八は気にするなと笑って見せた。
下水口から地下道に入ると湿地のような空間が広がっていた。さらに進むと鰐がいる沼地に出た。
「もう少し先の沼地でボスの鰐が湧きが湧くからね」
ボスが湧くという沼地でひたすら安置で鰐を叩く剣八。周りでは兄弟達が思い思いに狩りを楽しんでいた。同じように安置で鰐を叩いているのは聖魔の暁くらいだ。
「あれ?海胆っ八、随分と大人しいね?なんかあった?」
「どうもしねぇよ。つか、どういう意味だ?」
「ん?お母さんと似たタイプだと思ってたからね。無駄に特攻かけてるんじゃないかと思ってたよ」
「そりゃあ生憎だったな。いくら俺でもあそこまでのバカじねぇ。たまにゃ良いだろ、あいつも安置から狩ってるしな」
「ああ、青龍だね」
安置狩りは本位ではないが、投げ賊の青龍も安置から狩っている。投げ賊は至近距離からでは手裏剣を投げられないからであって剣八や暁のようにダメージ回避のためではない。賊の回避率は他職のそれとは次元が違うのだ。それでも独りだけ安置で狩っているのとは気持ちが違う。
「おーい、移動するぞ!隣で湧いた!」
「あっちかよ!?」
「どういうことだ?ここで湧くんじゃなかったのか?」
「時間湧きのボスは湧く狩場が決まってるんだけど、此処の鰐だけは2箇所の狩場でランダムに湧くんだ」
「どっちに湧くかは運次第か?」
「大抵、交互に湧くんだけどな」
「説明は良いから移動しろ!誰かに取られるぞ!」
此処のボスは高額書を落とすから人気あんだぞ!?と急かされて狩り場を移動した。移動した先には巨大な鰐。鰐の背中には輿に乗った目つきの悪い赤い鳥が棒の先にぶら下げた魚で鰐を操っている。
「・・・・・・・・・・」
「?」
「どうした?」
「どうしたの?剣八?」
「海胆っ八?」
「いや、なんでもねぇ・・・」
「そう?」
鰐を見た瞬間、何か考え込んだ風の剣八に疑問を持った一護達が剣八に尋ねるが、剣八はなんでもないとはぐらかした。
「(なんかに似てると思ったら・・・・六番隊のアイツ等か)」
別に鯛焼きで釣られている訳でもないだろうが、無表情な隊長に良いように振り回されている赤毛のコトを思い出したのだった。
「(色は逆だけどな)」
なんとなく。なんとなく鰐に哀れみを感じながらも攻撃を仕掛ける剣八。が・・・・
「当たらないな、流石に」
どれだけ攻撃を仕掛けても、剣八の攻撃が当たらないのだった。
「流石にLv的に無理があったか;」
「補助魔法と強化装備とドーピングで何とかならないかねぇ」
「となると火力無視で素早さ・命中装備と命中の丸薬か?」
「丸薬よりコッチの薬のほうが良いよ」
「これって制作の奴じゃん。良いのかよ?つか作ってたんだ?」
「どうせ売れないからね、この際使ってしまおうよ」
「あー・・・もしもし巫女?海胆が装備できる命中装備とジャンボたこ焼き、大至急持ってきてよ。鰐に居るから」
兄弟達がなんとか剣八の討伐成功のためにとあれこれと手を回していた。手持ちの装備や薬では足りない分は携帯電話で巫女に調達を頼んでいた。

「くそ!当たらねぇ!」
「剣八!がんばって!」
空振りを繰り返しながらも攻撃の手を休めない剣八。必死に応援しながら薬を飲んで回復に努める一護。
「おーい!そのままじゃどうしようもないから一旦コッチに来い!」
闇が剣八を呼んだ。見れば何時の間にか装備を手にした巫女が不機嫌そうに立っていた。
「まったく・・・・己のLvも考えずに狩りをするか?普通・・・」
「そう言うなって。で?装備は?」
「一応持ってきたが、軍手とタオルとマントはお前達の方が強化してある。貸してやれ」
「判ったよ。コレで当たらなかったら諦めろよ?海胆ッ八」
「ああ、すまねぇな」
装備を替え強化薬を飲む剣八。後の薬は一護に渡された。再び鰐に挑む剣八。
「おー・・・なんとか当たったな」
「なんとか、な」
かなりの低確率ではあったが攻撃が当たるようになった。当たるようにはなったが殆どダメージは無い。かなりの時間剣八一人で狩っていたが、鰐は無敵化と回復を使ってくるため剣八一人では倒せるはずも無かった。
「しゃーない、途中まで削ってやるか」
「削りすぎて倒すなよ?」
「んなヘマしねぇよ!」
なんとか剣八に止めを刺してやることが出来て鰐の討伐を終えた一行。流石の剣八も少し息が上がっていた。
「海胆も随分と粘ったよな、疲れてね?」
「いや、久々に手ごたえのある狩りが出来て楽しかったぜ?」
Lv的には決して高いとは言えないモンスターではあったが、己のLvから言えばかなりの手ごたえがあった。剣八は久々に楽しめたとスッキリした気分だった。
「ドロップ品は帰ってから確認するとして、そろそろ帰るぞ」
巫女の言い分に承諾をして、神社の銭湯で疲れと傷を癒して剣八達は本拠地のリビングへと帰って行った。




リビングでは既に帰っていた妖さん達がまったりとお茶をしていた。
「おー!おきゃえり〜!ボスはどうだった?楽しめたか?海胆ッ八」
「ああ。おかげさんでな」
「そりゃあ、何よりだ♪」
我が事のように楽しそうにお茶を啜る妖さん。剣八も兄弟達もお茶を飲んで寛ぐことにした。
「白、天鎖。今日は大丈夫だった?」
一護が心配そうに白に声をかけた。
「ああ。今日は特別何も無かったぜ?落ちたもん拾っただけだ」
天鎖も投げ飛ばされなかったし?と一護の腰に抱きついてくる白。天鎖は相変わらず鈴と戯れていた。
「だから言ったろ?大丈夫だって。お母さんは面白好きだけど、基本的にドSなワケじゃないからな」
「どっちかーつうとドMなほうだよな」
「まぁ、あれだけ独り墓ドロ祭りが出来るくらいだからね」
「基本的に自分が楽しければ良いんだから」
墓ドロ祭りの何処が楽しいのか。しかしそこは突っ込んではいけないのだろう。ただ単に強さを求めるだけではないのが、この世界の楽しみ方なのだろうとぼんやりと思う一護と白だった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あとがき

初心者・剣八のボス巡りでしたw

剣八のLvはあえて設定していません
初心者の手持ちキャラが居ないんで何処まで狩れるのかサッパリ判らん
とりあえずは楽しめたかな、とwwww

                     (H23.12.9)

by妖 



12/01/26にアップしました。
題名が無かったのでコッチで勝手に決めました。良いですかね?
いつも楽しいお話をありがとうございます!




ギャラリーへ戻る