題「新しい狩場に向かって」
 冒険者となった剣八は妖さんの指導の下、狩の仕方を教えてもらっていた。今は飛び跳ねるキノコや豚を狩っている。正確にはキノコに踏み潰され、豚に跳ね飛ばされながら、だが。
一方、妖さんと暁は安置で携帯を弄っている。しかし妖さんのペットになった白や天鎖はすることがない。

「なぁ、俺達なにもすることがねぇんだけど」
「んぁ?そりゃ、私が狩りをしねぇからな」
「狩り、しないの?」
「今更キノコや豚、狩ってもなぁ・・・」
白や天鎖に暇だと言われても狩る気を見せない妖さん。その時、妖さんの携帯が鳴った。
『もしもし?姫っち?』
「あー!おひさぁw」
『ねぇねぇ、一緒に狩らない?久しぶりにさ。他のメンバーもきてるし』
「行く!行く!」
妖さんの様子から狩りに行くらしいと期待する白。携帯を弄って狩場を確認する妖さん。
「って・・・ココかよ!?」
『だから、ね?おいでよ』
「私に死ねと?」
『おいで、死にに♪』
携帯での会話を聞いていた白と天鎖。どうやら仲間からの狩りの誘いらしいが・・・・
「おいで、死ににって・・・」
「すげぇ誘い方だな;」
どんな誘い方だよ、と呆れていると
「暁、母はちょっと狩りに行ってくる。海栗っ八のこと頼んだぞ?」
「うん。で?狩場どこ?」
「姐御」
「そう。頑張って死んできなよ。君達もよかったね。退屈してたんでしょ?スリリングな狩りを楽しんできなよ」
「スリリングな狩りって・・・」
一体どんな狩りをすると言うのだろう?なんとなく行きたくないと思う白と天鎖だった。




妖さんが狩りに出掛けてすぐに、狩場に数人の少年達が現れた。暁の兄弟達だ。
「よう、暁。海栗の様子はどうだ?」
「ん?あんな感じ」
ほら、と狩場で狩をする剣八をさした。
「・・・当たらないねぇ」
「・・・当たってるねぇ」
解説すると・・・当たらないのは剣八の攻撃で、当たっているのはモンスターからのダメージだ。
「おい、暁。何やってんだよ!お前は!」
「?? 何か問題でも?」
「大ありだっ!おい!海栗、こっちに来い!」
「ああ!?なんだぁ?」
いきなり怒鳴られて不機嫌にもなるが、どうやら自分のせいではないらしい。怒鳴っている少年以外は苦笑しているし、暁にいたってはきょとんとしている。
「何があったんだ?」
「いいから携帯出せ。ステータス見せてみろ」
「あ、ああ」
携帯を渡すと、少年は携帯を弄ってステータスを見た。
「なんで『力』しか上げてないんだ?」
「妖さんが『力』上げておけって言ったんだよ。ねぇ?剣八」
「ああ」
「「「はぁああああ・・・」」」
少年達は一斉に溜息をついた。

「まぁ、お母さんは基本、極(きょく)だしなぁ・・・」
「暁にしても魔だしな」
「つか、魔に初心者育成は無理なんじゃね?」
「なんだ?『力』だけ上げたんじゃまずかったのか?」
少年達の話の内容が分らずに疑問を口にする剣八。
「あんた、ステ振りについて聞いたか?」
「ああ。なんか4つあって、攻撃力とかに関係するとか言ってたな。とりあえず『力』上げとけって言われたぜ?」
「まぁ、最初はそれで良いんだけどね」
「それじゃあ駄目なのか?」
「まぁね。初心者のステ振りは基本的には戦士と同じなんだ。確かに『力』を上げれば攻撃力が上がって火力も増すけど、『素早さ』を上げないと命中率も回避率も上がらないんだ」
「モンスターもLvが上がれば命中も回避も上がっていくしね」
「同じLvでも動きの早いモンスターは更に命中も回避も高いしな」
「当たらない、避けれないじゃ狩っててもつまらないだろ?」
「この先ずっと、でんでんやキノコ狩ってるってなら話は別だけど?」
「そんなつまらねぇことする気はねぇ!俺は強い奴と戦いてぇ!」
「んじゃ、まずは装備だな」
「だな。未だに初期装備のままってどーよ?」
「初期装備?」
「冒険者成りたての0Lv装備だよ。ちょっとドロ品見せてみ?」
一護のリュックから一護が拾ったものを確認する少年達。ちなみに剣八の格好は白いTシャツに短パンにサンダル。そして剣八曰く、玩具みたいな剣だ。
「これとこれは使えるな。後は店売りだ」
「暁!ゴム靴と鉢巻の赤買って来い!あとタオルもな!」
「何で俺が・・・・」
「ステ振りも満足に出来ねぇんだ。文句言うんじゃねーよ!」
「はいはい。んじゃ、後は頼んだよ」
暁は仕方なさそうに狩場を後にしていった。


「ねぇ、妖さんや暁さんだと剣八は強く出来ないの?」
一護が聞いてきた。彼等の言い方だと魔術師は初心者の育成には向かないらしい。
「ステ振りがな、魔と他の攻撃職とは少し違うんだ。特にお母さんみたいな極魔とはな」
「きょくま?」
「ステータスのどれか1つだけを上げた奴のことを極(きょく)って言うんだ。普通はステータスの2つを上げるんだよ」
「戦士や海賊は『力』と『素早さ』、賊は『幸運』と『素早さ』。弓だと『素早さ』と『力』だ。魔は『魔力』と『幸運』だな。」
「何で職によって違うんだ?なんで2つ上げなきゃいけねーんだ?」
剣八も聞いてくる。攻撃力を上げるのは『力』では無かっただろうか?
「あー・・・まずはステ振りの説明からか?」
「戦士や海賊は『力』が火力に関わってくる。賊は『幸運』が、弓だと『素早さ』が火力に、魔は『魔力』が魔法攻撃力を上げるんだ。もう1つのステータスは職それぞれに、狩りに必要な命中や回避、体力増加に関わってくるんだよ」
「ただ魔だけは他のステータスが狩りに影響しないんだ。さっき言ったろ?魔は他の攻撃職とステ振りが違うって。魔が『幸運』を上げるのは装備のためだけなんだ」
「装備の為だけ?」
「ステータスを2つ上げるのは装備にも関わって来るんだよ。賊の高Lv装備は『素早さ』が高くないと装備できないし、弓は『力』が無いとね。まぁ、狩りに必要だから上げるんだけど」
「防具はともかく、武器が装備できないとね。戦士以外は火力に関わるステータス以外のステータスも上げていかないとLvに合わせた装備が出来ないんだ」
「装備にはLv制限のほかに職による制限があってな。職装備は基本的に極だと装備出来ないんだ」
「暁のは大体は魔装備だけどね。お母さんの装備はLv制限付きもあるけど武器以外は全職装備だよ」
「全職装備だと問題があるのか?」
「全職装備には高Lv装備が無いんだ。装備は高Lvになるほど付加価値が付いてくるものが多いんだ。ステータスとか命中・回避とか。他にも防御力とか体力とか。武器の攻撃力が上がるだけじゃなくてね。だから魔も狩りに影響しない『幸運』を上げるんだよ」
「極魔のお母さんの最高装備は兜の70Lv。武器に至っては極でも使える魔の64Lv武器だ。本当なら130Lv装備だって装備できるのにね」
「130・・・」
「言っとくけど、お母さんあれでも141Lvだからね?」
未だ10Lvにもならない自分のLvと比べて言葉が出ない剣八。狩りを見た事は無いが普段の様子からはそうは見えない。ぶっちゃけただのアホだ。



そうこうしているうちに暁が買い物を済ませて帰ってきた。
「よし、海栗っ八。これつけろ」
渡されたのは赤い鉢巻。
「僅かだが命中補正が付いてるからな、さっきよりは攻撃が当たるはずだ。Lvが上がったら良いと言うまで『素早さ』だけ上げろ。いいな!」
「お、おぅ」
言われるままに鉢巻を付け、再び狩場に戻る剣八。微妙だが空振りの回数が減ったように思う。Lvが上がると空振りも少なくなってきた。踏み潰されたり跳ね飛ばされる回数も減ってきた。命中率と回避率が上がったせいだろう。
「おーし、次はこれに変えろ」
なんLvか上がった所でまた声が掛かった。暁が買ってきたゴム靴と先にモンスターが落とした青いスノーボードだ。
「やっと装備できるLvになったからな。ゴム靴は僅かだが移動補正がある。スノボは鉾だから剣よりはリーチが長い。火力も倍近くになるから狩り易くなるはずだ」
「ついでに狩場も変えるからな。付いて来い」
少年達に案内をされて狩り場を移動する。飛び石のような足場を飛び移り、梯子やロープを伝い上に上り、そして飛び降りたり。途中モンスターは少年達が倒していた。職が違うのだろう、武器や戦い方が違っていた。

草原を抜け、着いた先はうっそうとした大きな森だった。その中の大きな木の洞に入った。
「ここは緑のキノコとスライムしか居ない。暫くはここで狩ってろ」
「なんでココなんだ?」
「緑のキノコは豚よりLvが高いんだ。とりあえず25Lvになるまで狩れ」
「それだけ狩れば要る物も出るだろうしね」
「要る物?」
「武器装備だよ。出るかどうかは運次第だけどね?まぁ頑張ってよ」
「ここで25Lvまで上げられるのか?まだ10Lv以上あんだぜ?」
「大丈夫だよ。お母さんは50Lvから70Lvくらいまで大概此処で狩ってたんだからね」
「マジかよ」
「まぁ・・・・普通はやらねーけどな」
「幾ら聖魔がナマモノ相手に戦えないって言っても、普通はもっと高Lvのアンデッドに行くからな」
「ま、お母さんでも普通ならこんな所では狩らないけどね」
「・・・なんかあったのか?」
「ん〜〜、イベント。つか、お金絡み?」
きょとんと返されれば返す言葉も無い剣八。10Lvを少し超えた自分でも狩れる様なモンスターを50Lv越えてから狩っていたと言うのか。しかも70Lvまで?理由がイベントで金絡みと言われれば納得できる。納得できてしまうんだ、アイツは・・・!
「剣八?何かあった?」
「・・・いや、何でもねぇ」
心配そうに剣八を覗き込む一護。しかし、目先の物に夢中になれば周りが見えなくなるのは自分も同じなんだろうと、あのアホと同類なのかも知れないと思い当たってしまい、軽く落ち込んだとは流石に言えない剣八だった。
「そう?でも頑張ってね!俺も頑張るからさ!」
「おう!さっさとLv上げるぞ!」
「うん!」



一護に励まされ、ひたすら緑のキノコを狩る剣八。武器の攻撃力も上がり先程までとは違いサクサク狩っていく。緑のキノコの傘や薬、服や帽子などもたまに落としていた。それをせっせと集める一護。20Lvを少し越えたあたりで倒したキノコが赤い浮き輪を落とした。
「あ!何か出たよ?」
「んぁ?何だ、これは?浮き輪・・?」
「お!出たか!」
一護と剣八の会話に少年の1人が気がついて近づいてきた。浮き輪をまじまじと見ている。
「うん。まぁまぁだな。後は槍だな」
「なぁ、これがさっき言ってた武器なのか?」
「そうだよ。全職装備の片手鈍器で、移動補正が高いからな。結構人気があるんだ」
「タオルと浮き輪は移動の必須アイテムなんだよ」
「槍ってのは?」
「これも全職装備でかなりの命中補正があるんだ。低Lvの戦士が好んで使うぜ?」
「ここで出る浮き輪も槍も店売りしてないから、そこそこ高値で売れるんだ」
「ふぅん」
「槍が出たら狩場変えるからな、もう少し頑張れよ!」
「おう!」
少年達の応援を受けて狩りを再開する剣八、Lvに合わせたステ振りも教えてもらった。25Lvになったところで目的の槍が出た。槍の先に顔を彫ったかぼちゃが刺さっている。
「よーし、目的の物も出たし移動するぞ!」
「海栗っ八。これつけてみな?」
渡されたのはタオルと赤い浮き輪。Tシャツと短パンを脱いでタオルを腰に巻き、浮き輪を腰につける。かなり間抜けな格好だ。が、見れば少年の中にも同じ格好をしたやつが居る。
「タオルは全職装備の全身鎧だからね。恥ずかしいなんて思うなよ?」
「タオルと赤浮き輪は移動補正が高いからな。移動時はこれで行くといいよ。ちなみに女はバスタオルだ」
妖さんがバスタオルなのはこのせいか・・・・なんとなく分かったような気がした。



移動したのは荒野の中にあるレンガ造りの建設中の街だった。
「此処の病院に女の幽霊が居るから、そいつに話しかけて依頼を受けて来い」
「椅子を作ったときとおんなじか?」
「そうだよ。この依頼でしかもらえないマントが手に入る。回避補正があるからな。取っておいたほうがいい」
「解かった。で?その幽霊はどこだって?」
「此処だよ!」
一人が建物の入り口で手を振っていた。

依頼を受け狩場を移動する。狩場は街からかなり離れていた。たてがみの燃える猪が走り回り、斧が刺さった切り株が歩き回っていた。必要なのは猪が落とす鏡の欠片。
「さてと、海栗は槍に持ち替えて?当たらないと意味無いからね。それと依頼品が集まるまで結構時間が掛かるから俺達も手伝うよ」
「さっさと済ませて色んな狩場回ろうぜ!」
「すまねぇな」
「いいって!んじゃ、改めて自己紹介な?」
少年達が自己紹介を始めた。
「まずは暁。お母さんと同じ聖魔だ。俺が斬り賊の闇。コイツは英雄・鉾士の宵闇と・・・投げ賊の青龍。全員2次職だ」
「英雄ってのは何だ?聞いてねぇぞ?」
「英雄ってのは戦士の特化型だな。戦士は転職に従って武器の特性を決めていくけど、英雄は最初から使う武器が決まってるんだ。その分高Lvスキルが早くから使えるんだよ。ただし4次職は無いけどね」
「へぇ・・」
「ま、色んな狩り方の参考にでもしなよ!」
「初心者に参考もへったくれも無いと思うがな。グループ狩りの参考にはなるだろうが」
「暁は援助魔法と回復を頼む。どうせマトモに狩れないんだからな」
「分かってるよ」
暁はそう答えながらステータスアップや防御強化など援助魔法をかけている。賊の一人が移動速度上昇のスキルをかけていた。
「暁さんは狩りしないの?」
「聖魔は基本的にアンデッド狩りが中心なんだよ。ナマモノ相手じゃ単体攻撃しかないし火力は全職最弱だからね」
一護の質問に苦笑して暁が答える。4次になればアンデッド以外にも使える攻撃スキルもあるのだというが。
「その代わりアンデッド相手だといやらしいもんがあるけどな」
「とりあえず狩りますか!」

一斉に狩場に散る兄弟達。
「君達も行こうか」
暁に促されて一護達も狩場に降りた。切り株を叩いてみるが結構硬い。叩いている内に猪が突進してきた。豚とは違いこちらも受けるダメージが大きく叩いてもすぐには死ななかった。叩き捲くっているうちに切り株や猪に囲まれてしまった暁と一護達。
「回復するから、とにかく叩いて!」
「うおおおおおぅ!」
ばこんばこん叩くが寄ってきた数が多いのでなかなか全部は倒せない。そこに斬り賊の闇が駆けつけた。スパパパパァンと短剣で斬り付け猪を倒していく。
「すげぇな」
「斬りの技の1つだよ。単体攻撃だけど1度に最高6回攻撃するんだ」
回復を掛け続けながら暁が説明してくれた。今度は英雄の宵闇が鉾でモンスターを一気に押しやり纏まった所で鉾で薙ぎ倒した。一斉に倒れるモンスター。
「戦士は単体攻撃の1撃も強力だけど、ああやって纏めて倒すことも出来るんだよ」
遠くでは投げ賊の青龍がジャンプしながら手裏剣を投げている。囲まれればジャンプでモンスターとの距離をとっていく。
「投げは遠距離攻撃職でね。一定の距離が無いと投げられないんだ。近距離だと殴るしか出来ないからね。ああやってジャンプで離れるか・・・盗賊は姿を消すことも出来るからそれで距離をとるんだよ」
回復しながら杖を振り、魔法攻撃でモンスターに攻撃しつつ説明をする暁。
「おめぇも弱いって言いながら結構強ぇじゃねーか」
「そりゃ、この中で1番Lvが高いからね。でも70Lvに近くても所詮はこの程度なんだよ」
自分より高いダメージを出してはいるが、暁より遥かにLvの低い他の兄弟達に比べればかなり弱い。火力が最弱というのは本当らしい。ただ回復し続けているので死ぬことは無さそうだった。
「苺君。落ちてるものを拾って?鏡の欠片が集まったら一旦戻るから」
「あ、わかったー」
「一護!気をつけるんだぞ!」
「分かってるよ、剣八ー」
せっせと落ちている物を拾う一護。鏡の欠片は兄弟達が倒したモンスターからも落ちていた。一護がモンスターに襲われないかと心配する剣八だったが、モンスターは一護を無視して走り回って一護がダメージを受けることはなかった。




鏡の欠片を幽霊に渡すとそこそこ多い経験値が貰えた。そして次は腐ったキノコのお札を持ってこいと言う。
「さーて、今度は暁の出番だな。頼んだぜ?聖魔様!」
「はいはい。途中のナマモノは任せたからな」
「分かってるよ」
「次は何を狩るんだ?」
先程は殆ど狩りになっていなかった暁に狩りを任せるという兄弟達に剣八が聞いた。
「次はアンデッド狩りだよ。聖魔の本領発揮ってところだな」
「聖魔も相手を選べば強いってことが解かるぜ?」
「へぇ・・・」
「そうだ。あそこは移動が面倒だからこれ使うぞ?」
「何だ?」
なにやら古ぼけた紙を渡された。
「これは街への帰還書だ。これを使えばここに書かれた街へ行くことが出来るんだよ」
「あそこは遠い上にタクシーが無いからね。面倒くさいんだよ」
帰還書を使うと瞬時に地下深くにある街に着いた。
「此処から狩場まで一気に行くよ?遅れないで付いて来てね?」
暁の宣言どおり一気に狩場を走り抜ける兄弟達。途中のモンスターを無視して走り抜けていった。

「クソ!なんて速さだ!」
「剣八。大丈夫?」
「大丈夫だ。薬だけ頼むぜ、一護」
「うん」
モンスターにぶつかっても無視して兄弟たちの後を追う剣八。ダメージは一護に薬を飲んでもらって回復し、必死で後を追いかけた。途中宵闇が来て、行く手の邪魔なモンスターを倒してくれた。戦士も初心者並みに足が遅いのだという。
やがて目的の狩場に着き、狩場の手前で椅子を出して皆で休んだ。
「剣八〜、大丈夫?」
「ああ、一護が薬飲んでくれてたからな」
「だって、俺はそれくらいしか出来ないもん」
「それで十分だ。アリガトな、一護」
「剣八・・・」
「君等、随分と仲が良いねぇ・・・」
寄り添う2人を兄弟達が呆れるように見ていた。


回復も済んで全員で狩場に入る。
「此処は暁に任せて、俺達は見ていようぜ?」
「大丈夫なのかよ?」
先程は殆ど回復しかしていなかった暁にどんな狩りが出来るというのだろう?
「まぁ見てなって」
安置が無いので、暁以外がロープに捕まって様子を見ることになった。
「じゃぁ、狩るね?」
暁が回復しながら狩場を駆けた。回復でダメージを受けた腐ったキノコは暁を追って集まってくる。囲まれた瞬間、瞬間移動でモンスターから距離をとり、回復魔法でダメージを与えながらモンスターを倒していく。それを繰り返す暁。
「あれが聖魔のアンデッド狩りだ」
斬り族の闇が眼を細めて言った。
「モンスターはダメージを受けるとずっと追いかけてくるんだ。それを利用して集めて纏めて狩る。複数攻撃の基本だが、聖魔のアンデッド狩りはいやらしいからな」
「何でだ?」
「俺達の複数攻撃が同じ足場のモンスターにしか出来ないのに対して、回復は範囲攻撃の複数攻撃なんだ」
「そしてアンデッドは聖属性弱点だから回復魔法はダメージが倍増するんだよ。しかも攻撃が回復だから自分が死ぬ危険も少ないしな」
「その上、魔力も吸収するから上手くいけば薬もいらねぇ」
「そう言われてみれば・・・」
一護と剣八が暁の狩りを観察する。回復でダメージを与えながら集めて距離をとって更にダメージを与えている。移動は殆どが瞬間移動だ。常にモンスターと距離をとる暁は殆どダメージを受けてはいない。受けた所で回復しているのだが。
しかもダメージは上下の足場にまで及んでいる。射程はあるようだが上手く行けば上下の足場のモンスターまでも狩ることが出来る。そして何よりその攻撃力だ。先程とは比べ物にならないダメージを与えている。
「同じLvならアンデッド狩りで聖魔に勝てるやつは居ねぇよ・・・」
今までの狩場より断然多いモンスターの数がいるが、暁はいとも簡単にそれらを倒していく。暁のLvが高いといっても流石に圧巻だった。
「ねぇ、もう十分集まったから帰っていいかな?」
さほど時間も掛かっていないうちに暁から声が掛かった。
「もう終わったのか?」
「とっくにね。君達の話が終わるのを待ってたんだよ」
にっこりと笑う暁を見て、なるほど、いやらしいな、と思う剣八だった。何に対してかは敢えて言わないが。



再び幽霊に逢ってお札を渡すと、経験値と共にボロボロのマントを渡された。
「なんかすげぇボロだな」
「でも性能は良いよ?性能付きマント自体が少ないんだから」
「そんなもんか」
「装備も揃ってきたし、次行こうか」
「次は何処だ?」
「ん〜・・神社でも行く?」
「鴉?」
「その前に狐と狸は?ドロ品楽しむならあそこの方が面白いよ?」
「でも、海栗が耐えられるか?」
「何とかなるんじゃない?上手くいけば装備も揃うし」
う〜んと悩む兄弟達。やがて暁が剣八に聞いてきた。
「海栗っ八は楽しむ狩りと、スリリングな狩りのどっちが良い?」
「スリリングな狩りって、強いモンスターを狩るってコト?」
一護が聞いてきた。
「まぁ、そんなところかな?」
「俺は強いヤツと戦いてぇ」
「んじゃ、狐と狸だな」
「じゃぁ、これ飲んで」
渡されたのはいちご牛乳。
「大陸間は普通は船で移動するんだけどね」
「これは大陸を越えても大抵の場所から神社へ行けるものなんだ」
「へぇ・・・」
「結構便利だから後で買っておくと良いよw」
「・・・ああ、そうする」
「剣八。これは移動に使うものだからね?」
「・・・わかってるよ」
剣八が何を思ったか想像して、釘を刺しておく一護だった。




いちご牛乳を飲んで着いた先は、一面桜が満開の場所だった。
「うわぁ・・・・・すごい・・・綺麗」
「ああ、確かにすげぇな」
見たことも無い満開の桜に感動する一護。剣八も同じように桜に見とれた。これほど見事な満開の桜風景など見たことが無い。何処を見回しても満開の桜が咲き誇っている。
「綺麗な花・・・・・何ていう花?」
「桜っつーんだ。綺麗だろ?」
剣八は一護抱き寄せると、咲き誇る桜を見上げた。
「此処にもそこそこの狩場が在るからね、楽しめると思うよ?」
「こんな綺麗なところにもモンスターが居るの?」
「そりゃね。モンスターだけじゃないけど」
「それって、どういう・・・」
一護が疑問を口にした時・・・・・

「だぁあああああっ!あんた一体何考えてるんだよッ!?」
聞き慣れた声の、怒鳴り声が聞こえた。
「白!?妖さん!天鎖!」
「おー、海胆も苺も此処に居たか」
爽やかな笑顔で現れた妖さん。だが、一緒に居る白や天鎖がボロボロなのは何故だろう?疑問に思っていると・・・
「わああぁぁぁ〜ん!いちごぉ〜、怖かったよぉ〜〜!」
天鎖が一護に抱きついてきた。飛び付いたと言ったほうがいいのか。
「てめぇ!どさくさに紛れて俺の一護に抱き付いてんじゃねぇっ!ウロコ剥がすぞっ!」
「うえぇぇ〜〜〜ん;」
天鎖を引き剥がそうとする白。天鎖は必死で一護にしがみついている。
「一体何があったんだ?」
ペットの2人がなんでボロボロになっているんだと疑問に思う剣八。ペットは回避率100%の筈では無かったのか。
「随分とスリリングな狩りをしてきたみたいだね?」
暁が可笑しそうに白に声を掛けた。
「スリリングってもんじゃねーだろっ!鉄砲撃ち捲くってくるし、刀で斬りかかってくるし!女はナイフ投げてくるしっ!」
「ペットは回避100%だから当たらなかっただろう?」
「当たらなくても襲われたら普通避けるだろーがっ!」
この世界での初めての狩りで、いきなり攻撃してくる狩場に出て思わず逃げ惑ってしまったのだろう。回避率100%と言われても身体は反応してしまう。怖いものは怖いのだ。ボロボロなのは逃げ惑っているうちに身体をあちこちにぶつけたからだろう。強気な白ですら天鎖程ではないが鱗が剥がれ尾びれが擦り切れていた。

「大体!他の聖魔は回復しかしてねぇのに、なんであんたは突っ込んでいくんだよっ!?」
「あー・・・やっぱり特攻したんだ・・・」
「敵が居たら突っ込まんでどーするっ!?」
「いや、それって聖魔の狩り方じゃ無いから;」
「むしろ戦士の狩り方だから・・・」
妖さんの反論に思わず突っ込む兄弟達。
「それに!あのオバンは何なんだよ!?めちゃくちゃ怖かったぞ!」
「姐御に特攻したのか、それは怖いだろうな・・・」
「姐御って?」
「隣町の時間湧きのボスだよ。130Lvだったかな?下手すれば戦士でも即死するよ」
「下手しなくても半端なLvだと死ぬんじゃね?」
「いや、普通に死ぬから」
姐御のダメージは半端無いのだ。姐御のビンタは高Lv戦士ですら耐えがたい。
「周りの雑魚の幹部にしたってまだ俺達でも狩れねぇもんな」
「何でだ?」
「Lvが足りてねぇからな。俺達、まだ40Lv台だし?幹部は60台だ」
「女のほうは70Lvだったろ?」
「・・・・72」
「どっちにしても俺達の狩場じゃねーわ」
強いと思っていた彼等ですら行けない狩場だったのか。
「それとっ!1回死んだら懲りろよ!なんで何回も突っ込むんだーっ!!」
未だに喚いている白。すでに涙目だ。どうやら姐御に特攻を繰り返していたらしい。
「で?久々のグル狩りはどうだった?」
暁が妖さんに聞いてきた。こちらは慣れているのだろう、平然としている。
「楽しかったぜ?『おお!潔い死にっぷり』って言われた♪」
満面の笑顔で答える妖さん。何か違うだろう・・・・



「狩りはここらで止めにして、銭湯行かない?このままじゃ彼等が可哀想だよ」
宵闇が白と天鎖をさして提案してきた。天鎖は元より喚き疲れた白もぐったりしている。
「銭湯?そんなもんがあるのか?」
「隣町にあるんだよ。回復が早いからね、どう?皆も行く?」
「そうだな。海胆のLvもそこそこ上がったしな」
「ん?そう言えば随分とLvが上がったな。んじゃ行くか!」
全員にフルーツ牛乳を渡す妖さん。いちご牛乳と同じらしい。これで銭湯のある街へ移動した。

「銭湯は男湯と女湯に分かれているからな。おまいらは男湯に入れ」
「わかったよ」
暁達と共に一護達も男湯の暖簾を潜ろうとした。
「んじゃ、俺達も・・」
一護達について白と天鎖も男湯に行こうとした。が・・・
「ペットは主人と一緒だ。おまいらはコッチ!」
「ええええええええええぇっ!?」
「待てえぇっ!俺達は男だぁ!」
「そんなもん、関係ないよ!ほれ、行くぞ!」
「うえぇぇっ、いちごぉ〜・・・」
「は〜な〜せぇ〜〜〜っ!」
半ば強引に女湯に連れ込まれた白と天鎖。
「おい、良いのか。あれ」
「ペットは常に主人と一緒だからね。構わないよ」
「さ、俺達も入ろうぜ」
「・・・おう」
なんとなく白と天鎖の安否が気になった剣八。あくまで、なんとなくだが。

中に入ると広い浴場に檜作りの大きな浴槽がある。洗い場には鏡が並びシャワーも完備されていた。壁面にはタイルで富士山と波と跳ねる魚が描かれている。和風の大浴場のようだ。
「へぇ・・・結構良い造りだな」
「銭湯は此処だけだからね。気に入って貰えて嬉しいよ」
「ああ、気に入ったぜ」
湯船に浸かって疲れを癒す剣八。一護はその傍に寄り添っていた。
「一護、おめぇはどうする?海に居たんじゃお湯は熱いんじゃねぇか?」
「うん。でもこうしているだけでも結構疲れは取れるよ?」
「ふん」
桶に湯をすくい、手で少しづつ一護に掛けてやる剣八。
「どうだ?熱くねーか?」
「ん、大丈夫だよ。剣八。ありがとう」
「これくらい、どうってことねーよ」
兄弟達はそんな2人に目もくれず身体を洗ったり、床にヘッドスライディングをして滑っては遊んでいた。
「楽しそう、俺もやりたい!」
「あ?鱗剥がれんじゃねえのか、大丈夫か?」
「へーき!きゃーv」
と子供の様にはしゃいで遊ぶ一護が居た。兄弟達と床を滑って遊んで大喜びだ。
ひとしきり遊ぶと一護は剣八の背中を洗ってやったり、剣八に髪を洗ってもらったりしていた。


一方、女湯のほうでは・・・・・


「さぁ!風呂に入って傷を治せ!」
妖さんがじたばたもがく白と天鎖を掴むと、ぶん!と湯船に放り投げた。

どっぼ〜〜〜ん!

「ぎゃあああああぁぁぁぁ!」
「あ、熱いよぉ〜〜〜!」
「煩い!此処の湯は回復には1番なんだ!」
「たっ助けて!しろぉ〜!」
「俺だって助かりたいっ!」
「あはははっ!元気になったじゃないかw」
「ばかやろうっ!死ぬわっ!」
「しろぉ〜〜〜;」
湯船から逃げようとする2人を捕まえて湯に沈める妖さん。
「しろぉ・・・死んじゃう・・・」
「・・・誰か助けてくれ・・・」
「そうそう。ゆっくり浸かれ?」
3人で湯に浸かってご満悦の妖さんだった。


暫くして、ぐったりと意識を飛ばした白と天鎖を担いで、妖さんが銭湯から出てきた。2人とも傷はすっかり治ってはいたが、何故入る前より弱っているのだろうか・・・というか死に掛けていないか?
ほんのりとピンクに染まった一護と比べ、白と天鎖はピンクを通り越してむしろ真っ赤、と言っても良いくらいだ。白など鱗までピンクになっていた。
流石に哀れだと思ったが、その理由を考えたくも無い剣八だった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あとがき

海胆のLv上げでございます
今回も説明ばかりだぉ・・・・(死
海胆はともかく!銭湯のシーンを書きたかったね!
うん、楽しかった!!

『おいで、死にに♪』『おお!潔い死にっぷり』
かつて実際にメイポをやってたときに言われた台詞
あの時は幹部狩りでしたが・・・・いやぁ、懐かすいww
メイポは1年以上前の設定を更に捏造しています
今はわけわかめな程、様変わりしましたからね・・・


                     (H23.4.18)

by妖  



11/04/18に頂きました。

毎回楽しい話をありがとうございますvv まだまだ続くぜィ!



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