題「捨て猫」9.放浪 | |
翌朝。 目が覚めた時、隣に居た剣八に、 「お前もうあんな真似するんじゃねえぞ」 と呆れたように溜め息と共に言われてしまった一護。 「・・・ごめんなさい」 叫び過ぎて掠れてしまった声で小さく謝った。 喜んで・・、もらえなかった。もう何をしたら良いのか分からない。 このまま誰かに奪われるのを見てるしかないんだ・・・。 一護が泣きそうになった次の瞬間、 「・・・ほれ」 ちゃり。 剣八が何か袋に入った物を差し出した。 「? なぁに?これ」 「お前こないだ根付けくれただろ。お返しだ」 「そんな!俺・・・」 「気にしてんじゃねえよ。俺もお前にやりたくて買ったんだからよ。寂しかったらそれで遊んでろ」 「おもちゃ?」 袋をひっくり返して中身を出すと出て来たのは、色とりどりのおはじきだった。 「きれい・・・」 ひとつ摘まんで光に翳して呟いた。 「気に入ったか」 「うん!ありがとう!剣八」 蒲団の上に散らばるおはじき。それを掬い取り手の中でキラキラ光るおはじきがまるで宝石の様に見えた一護。 そのおはじきは一護の宝物になった。 外に遊びに出れば一護をいじめる死神が居る。もう慣れてしまった一護は痛みが過ぎ去るのをひたすら待った。 ぼんやりと考え事をしながら、何故剣八は遊郭に行くのか?ぽつりと呟いた言葉を聞き逃さなかった一護をいじめる死神たち。 新しい遊びが見つかったと言う様に嬉々として言葉で責め立てる。 「はっ!そんなもん当たり前だろうがよ!」 「お前みたいな化け猫の相手してんだから遊女で消毒しなきゃやってらんねぇよ!」 「だよなぁ、こいつのケツの穴に突っ込んでんだろ?更木隊長も気の毒によ」 「化け猫に取り憑かれた上に糞の穴に突っ込むんだからよ」 ひゅ・・・っ!と肺から空気が漏れる様な音がした。 「う・・あ、やだ、やだぁ・・・」 聞きたくないと耳を塞ぎ、頭を振っても、髪の毛を鷲掴みにされ顔を引き上げられる。 「お前のアタマがおかしいんだよ。まともな奴は男に突っ込まれてぇなんて思わねえよ」 「ひぅ・・・っ!」 「迷惑ばっか掛けてんだよ!いい加減気付けよ、化け猫が!」 散々好きなように一護を罵り、去っていく。 この日を境に剣八が遊郭に消毒に行っている、と繰り返し聞かされる様になった。何度も、何度も・・・。まるで呪いの様に・・・。 残された一護の頭の中では投げ付けられ、叩きつけられた言葉がグルグル回っていた。 「化け猫・・・消毒・・・俺は、汚いの・・・?迷惑・・だったんだ剣八・・・。無理しなくても・・良かったのに、優しいね・・・。ごめんなさい・・・」 ごめんなさい・・・。 繰り返し謝りながら流れる涙を止める事が出来なかった一護。 身体より心の方が痛かった。何よりも剣八にとって自分が負担以外の何物でもないのだと気付かされてしまった一護。 「どうしよう・・・?どうしたら良いのかな・・・?」 どうして俺はヒトの形になってしまったんだろう・・・。 大切な人に迷惑だけを掛けて、何も出来やしない。なんて役立たずな猫・・・。 数日後、隊舎では大掃除が行われた。隊士全員が動員され隊舎を隅々まで清掃していく。 「ということで、悪いけど夕方までお外で遊んで来てくれるかな、一護君」 だが一護は外が怖くて仕方がない。 「でも俺・・・部屋でじっとしてるよ・・・?」 と言ってみるが、 「多分、その部屋もお掃除するからね」 と言われた。それでも、 「じゃあ、厠に・・・」 と頑張るが、申し訳なさそうな顔で、 「ごめんね」 と謝られてはこれ以上我儘を言う訳にもいかなかった。仕方なしに一護は寝巻きを一枚持ち出して外へ出た。 「どこに行こうかな・・・」 ふらふら歩いていると十一番隊と十番隊の間に丁度良い路地を見つけた一護は、寝巻きを頭から被るとそこに隠れた。 「ここなら誰にも見つからないよね・・・」 としゃがみ込み数時間が経過した。 「ん?あれは・・・」 路地の隙間に誰かが居る。近付いてみるとそれが一護だとすぐに分かった。 「なーにやってんだ?お前」 と声を掛けるとビクッ!と肩を揺らし顔を上げた一護。 「あ、剣八だ・・・。今日お掃除だからって、だから出て来たの」 「なんでここなんだよ」 いつもならどっか他の隊にでも遊びに行ってるだろうに・・・。すると、 「だって、他に行くトコ無いもん・・・。外歩くと笑われるしさ・・・。だからお外行きたく無かったのに・・・」 ブツブツと文句を言っている一護。 「笑われる?」 「うん。何かね、この頃そうなの。俺が歩いてると男の人が俺を見て笑うんだよ。俺おかしい格好してるのかな?」 「してねえよ。気のせいだろ、ホレ帰るぞ」 「うん!」 二人で隊舎へと帰って行った。 次の日、十一番隊に討伐の仕事が来た。隊長、副隊長を含む上位席官十名での三日間の討伐だ。 「そう言う訳で、この討伐の間は一護君は卯ノ花隊長の所に居てね?」 「ままの?・・・分かった。早めに帰ってきてね?」 と不安げに見送る一護。 三日後、剣八達が無事に帰って来た。すぐに一護を迎えに四番隊へと向かう剣八。そこには・・・。 何やら一護の顔がキツくなっている。まるでこちらを睨んでるようだ。話掛けるとなんと言おうか、子供の様にぐずり出す。 「おい。一護?」 剣八が撫でようとすると、 「んんーっ!やあ!」 その手を叩き返す。 「おい卯ノ花、コイツどうしたんだ?」 と傍に居た卯ノ花隊長に聞けば、 「貴方が居なくて寂しかったようですね。甘えさせてあげて下さい」 そう言われた。 十一番隊に帰り、二人の部屋に戻ってもふーっ!ふーっ!と息も荒く、しばらくすると落ち着いたのかしょんぼりと項垂れる。そんな一護の頭を撫でてやると、今度は素直に撫でられる一護。 暫く撫でていると、すりすりと擦り寄りながら寝たので、剣八も昼寝と決め込んだ。 数日後、今度は一週間の討伐が来た。この間の事があるので少し心配だが仕事だから仕方がない。 「ちゃんと帰って来るからよ。お前もちゃんと待ってろ。今度は拗ねんなよ?」 「もう!大丈夫だよ!でも、怪我しないでよ?」 「わーった、わーった!」 と出掛けて行った。 剣八達が居ない間、卯ノ花隊長に可愛がられ、四番隊の敷地から出なかった為、平和な時を過ごした一護。 明日にも剣八達が帰って来ると言う日。京楽と浮竹に夕飯を食べに行こうと誘われた一護。 「卯ノ花さんにも言ってあるし、最近お外で遊んでないんだって?」 「それじゃ詰まらないだろう?俺達とお寿司屋さんに行こう」 「でも・・・」 「行ってらっしゃいな、一護君。お寿司、食べた事は?」 「ない・・・」 「じゃあ尚更だよ!美味しいからさ!」 と熱心に誘われ、付いていく事にした一護。 店に着くと物珍しそうに店内を見回す一護。 「一護君はこう言うお店は初めてかな?」 「え、うん。ご飯はいつも剣八と一緒だから・・・」 三人でカウンター席に座ると色々頼んでいく。 活きの良いネタで握られた寿司はとても美味しくて一護はどんどん食べていく。 「美味しいねぇ。俺、お魚大好きだよ」 「そうかい、それは良かった!」 「次はどれにする?」 「えーと、えーと、まぐろ!」 「親爺さん、マグロちょうだい」 「へい!」 この時、京楽から声が掛かったので店の親爺はワサビを抜き忘れてしまった。 「どうぞ!」 「ありがと。はい、一護君」 「わ、ありがと!」 大きく口を開けてパクッと食べる一護。 「〜〜!ん〜!ん〜!」 急に顔を真っ赤にさせ、鼻を押さえる一護に驚く二人。 「ど、どうしたの!一護君!」 「いたい!鼻痛い!んん〜!」 「あ、もしかしてワサビかな?」 「あ、ほんとだ」 ネタを剥がすとそこにはワサビが乗っていた。 「さ、お茶でも飲んで落ち着きなさい」 「う、うん・・・」 (おや・・・) 涙目で湯呑のお茶を飲む一護の頭にはオレンジ色の耳がちょこんと出てしまっていた。もしかしてと下を見れば尻尾も勿論出ていた。 (か〜わいいねぇ〜) (気付いてないみたいだな) すんすん鼻を鳴らす一護を店に居た客がチラチラと盗み見てくる。 「?」 (なんだろ?見られてる?) 「あ、お手洗い行ってくる」 「はいはい」 用を足し終えから手を洗い、ふと目の前にある鏡を見るとそこには猫の耳と尻尾が飛び出た自分の姿が映し出されていた。 「ひっ!や、やぁあああーー!」 悲鳴を上げ、着ていた死覇装の上着を脱ぐと頭から被って店を飛び出した一護。 「って、ちょっと今の一護君じゃないの?」 「え!どこに行く気だい!」 京楽と浮竹は支払いを済ませる為、席を立った。 店を飛び出した一護は闇雲に走り、気付けば林の中で座り込んでいた。 「ハッ!はぁ!はぁ!う、うう・・・!」 左手で自分の尻尾を握り締める一護。 「こんな物があるから!無くなれ!なくなれ!」 一護は尻尾を石で打ち付けた。何度も何度も・・・。けれど骨が折れるばかりで千切れる様子は無かった。 ガツ!ガツ!と辺りには耳触りの悪い音と悲鳴、そして血の匂いが漂っていた。 「痛いよぅ・・・痛いよぅ・・・なんで取れないのぉ・・・!」 ひっくひっくと泣きながら尻尾を打ち付ける一護。 「何をしている!一護!」 「狛さん・・・」 「悲鳴と血の匂いを辿って来てみれば・・・何故このような・・・!」 大きな手で一護の腕を止める狛村。 「これがあるから・・・、取らなきゃ!取らなきゃ・・・!」 狛村の腕を振り払い、石を打ち下ろす一護。 「こんなのがあったらまた嗤われる!馬鹿にされる!剣八が悪く言われる!」 それでも千切れない尻尾に、 「なんで?なんでぇ?こんなに痛いのに、取れないの・・・」 と狛村の腕の中で気絶した一護。 「おーい!一護君!」 「どこだーい、一護くーん」 一護を追い掛けて来た京楽と浮竹が一護と狛村を見つけたが、一護の手の中には血まみれの石が握られていた。 「一護君!」 「早く四番隊に行かないと!」 四番隊で治療された一護は目が覚めるとその部屋から飛び出し、十一番隊の剣八の部屋に閉じ籠ってしまった。 (嫌われちゃう!こんな、こんな姿じゃ皆に!剣八に嫌われちゃうよぅ!) 診察室では京楽隊長と浮竹隊長が卯ノ花隊長に叱られていた。そこへ、 「失礼します!卯ノ花隊長!」 「どうしました?勇音」 「い、一護君が居ません!」 「なんですって?・・・どうやら十一番隊に帰ってしまった様ですわね」 一護の霊圧を辿り無事を確認すると勇音に浮竹の薬の成分を指示すると一護の元へ向かった。 その頃の一護は頭から蒲団を被って震えていた。 (どうしよう、どうしよう!剣八が帰って来るまでに治らなかったらどうしよう!) 「一護君、一護君・・・」 たすたすと襖を叩く音と卯ノ花隊長の声が聞こえた。 「まま・・・」 「入っても良いですか?」 「ぃゃ・・・みないで・・・」 「一護君・・・大丈夫ですよ。今はしっかり眠っておきなさい。では、明日」 これ以上一護を刺激しない様に卯ノ花隊長はそれだけ言って帰って行った。 「ゴメンね・・・まま」 その日の昼過ぎに漸く剣八達が帰ってきても一護は部屋から出て来なかった。 「あん?一護のヤツ、まだ卯ノ花んとこか?」 「え?部屋に居る気配がありますけど・・・」 弓親が言うと、 「なんでぇ寝てやがんのか」 どすどすと部屋へと向かう剣八。その足音で剣八が帰ったと知った一護は会いたいけれど見られたくない気持ちのまま、襖を押さえた。 剣八が無理矢理襖を開けようとすると、中から一護の悲鳴のような声が聞こえた。 「いや!来ないで!入って来ないで!」 その声に顔を見合わせる弓親達。しかし、力で剣八に勝てる訳も無く襖はすぐに開けられた。 「や・・・っ!」 「なにやってんだ、お前は・・・」 そこに居たのは蒲団を頭から被った一護だった。部屋の隅まで下がり泣いている。 「見ないで・・・。見ないで、今の俺を見ないで・・・」 「あん?どうかしたのか?」 頭から蒲団を取ろうとしても一護の手が白くなるほど握られているため中々取れない。 「・・・お前らは出てろ」 襖の外で待っていた一角、弓親、やちるに声を掛け人払いした。 二人きりになって、無理矢理一護を胡坐に収める剣八。ぽんぽん背中を撫でて宥めて漸く蒲団を取る。 「・・・やっと顔出しやがったな」 「やだ!みないで・・・。き、嫌いにならないで・・・」 「耳?なんだこれ、どうしたんだ」 「わ、わかんない・・・!剣八居なくなってから出て来たの・・・。き、嫌いになる?俺の事いや?」 「んな訳ねえだろ。なんだ?血が付いてんぞ。ついでだ、風呂に入るぞ」 「う、うん・・・」 一護を抱き上げて風呂へと向かう剣八。 風呂から上がり、久し振りに一護を抱く剣八。 「ん・・・ふ、あ」 深い口付けに翻弄されながら剣八を貪る一護。 「一護・・・」 「ん、剣八・・・」 猫の耳と尻尾の生えた一護が倒錯的でいつもより興奮している自分に気付く。後ろから一護を貫きながら尻尾を触る。 「あ!や!さ、触んないで!尻尾ダメ!」 「触るなつってもよ、こんな顔の前でフラフラされちゃあな?」 ガジ、と先を噛んでやる。 「やう!あ、あ・・・」 「ッとぉ!齧られて感じんなよ」 「ご、ごめん・・・ああっ!」 突然奥を突かれ声を上げる一護。はぁ、はぁと息を荒げる一護の項を舐め上げるとガップリと噛み付いた。 「なぁああん!あ!あ!ああ!あう!ああう!あ、あ、あ、あーーっ!」 「くぅ!」 同時に達し、腹の奥で剣八の熱い精が弾けるのを感じ、満たされていく一護。 「ふ、ふあぁ・・・剣八の・・、奥、あつい・・・」 「もう満足か?」 「や・・・・、もっとちょうだい・・・」 「上等だ・・・」 翌朝には一護の耳も尻尾も綺麗さっぱり消えていた。代わりに歯形と紅い跡が増えていた。 非番の日。剣八の膝の上で甘えていると隊士が数人やってきた。 「隊長、これからアッチ行きませんか?!」 「おい一護、非番の時ぐらい離してやれよ」 と言われて、しゅんと落ち込んだ一護。剣八の首にきゅっと抱き付いてから、 「こないだ買ってくれたおはじきで遊んでるね・・・」 と部屋を出て行った。 「余計な事言ってんじゃねえよ・・・」 とその隊士は殴られていた。 一護は部屋で歌を歌いながらおはじきで遊んでいた。 〜おはじきはじき、あの子どこの子、キレイな子。 欲しけりゃ当てて手に入れろ。おはじきはじき。 おはじきはじき、あの子どこの子、要らない子。 要らぬ子ならば弾いて遠くに売り飛ばせ、おはじきはじき・・・〜 「一護君・・・?」 弓親が部屋を覗くと泣きながら一人でおはじきで遊んでいた。 剣八は色々知ってる・・・。女の人も。けど俺は剣八しか知らない・・・。 俺で良いの?本当は女の人が良いんじゃないの?やちるも居るし、弓親も一角も居るし・・・。 俺は違うのに・・・。俺だけ違うのに。俺は此処に居てもいいの・・・? そのうち一護はやちるに嫉妬を覚えるようになった。 良いなぁ。やちるは良いな、いつも一緒。いつも剣八の肩の上・・・。 良いなぁ。弓親も一角もずっと一緒。お仕事も一緒。こういうのなんて言うんだろ? 「ねえ弓親。誰かを良いなぁって思うのってなんて言うの?」 と訊いた。 「良いなぁ?どういう風に?」 「えっとね、誰かの事をね、良いなぁって思うの、俺がその人になれたらなって」 「羨ましい、のかな?」 「うらやましい?そう言うの?」 「多分ね。何?何かあったの?」 「う、ううん!何でもない!これは悪い気持ちなの?」 「ううん・・・難しいな。妬みとかなら、そうだろうけど、誰でも思う事だしね」 「弓親も分からない事あるんだ」 「そりゃそうさ。きっと一護君と同じくらいにね」 「ホントに・・・?」 そう言われて少し楽になった様に思えた一護だった。 いつもの様に剣八に抱かれ、気を失った一護。 目が覚めた時、また剣八は居なかった・・・。一護は胸が苦しくて、喉の奥が熱くなって水が飲みたくなった。 よろよろと台所に行くと湯呑みに水を汲んで飲もうとしたが、手が震えて落としてしまった。 ガチャン!と音が響いて割れる湯呑み。地面に染み込んでいく水。 水を吸い、色が濃くなっていく床を見ていると息苦しくなって、どうしようもなくなって蹲る一護。 音を聞きつけた弓親がやって来た。 「どうしたの!大丈夫?一護君!」 「弓、親・・・」 「どうしたんだい?こんな所で、隊長は?」 「剣八居ないの。いつも居ないの。でも何処に居るか知ってるの」 ひく!ひく!と嗚咽を漏らす一護。 「胸が苦しいよ!息が出来ないの!喉の奥に!ひっく!熱い石の塊みたいのがあるの!どうして?目が熱くなって水が出てくるの!」 「一護君・・・」 弓親が新しい湯呑みに水を入れてやり手渡した。ふるふる震える手の上から支えてやり、ゆっくりと飲ませてやった。 「ごめ、んね。迷惑ばっかりかけて・・・」 「何も迷惑な事なんて無いさ。気にしないで」 落ち着いた一護は部屋に帰って剣八の匂いのする蒲団に包まって眠った。 ふと、目を覚ますと遊廓から帰った剣八が隣で寝ていた。そっとその手に触れる一護。 (綺麗な手、綺麗な髪、綺麗な目・・・、全部が綺麗な剣八。俺は違う。ここに居られない、居ちゃいけない・・・) もうこれ以上剣八に迷惑を掛けたくないと一護は静かに動き始めた。 まず一護は宝物を一つの場所に集めた。人になって一ヶ月経った日に貰った大切な品々。 やちるに貰った金平糖の瓶にそれぞれ詰めて行く。初めて貰った首輪、一角に貰った毬、剣八が買ってくれたおはじき、弓親が買ってくれた櫛、やちるがくれた金平糖、そして剣八の目と同じ色をしたビー玉・・・。 日記帳やお絵描き帳も持って行きたかったけど大きくて瓶には入らなかった。でも誰かに見られるのは嫌だったからこっそりと執務室の本棚の後ろに隠してきた。 「ここなら誰にも見つからないよね・・・」 そして一護は遊びに行くと言って流魂街に出ては林の奥へと進んでいった。 「あ、ここが良い・・・」 立ち止まった所は岩がたくさんある場所で上の方にほら穴の様な物があった。岩をよじ登り、中を見て行く。 「わぁ、結構広い。ここ寝床にしよ」 一護は何日も掛けてそこを住み良くしていった。 干し草で寝床を整え、宝物の入った瓶を置いた。 「後は蒲団・・・」 まさか本物の蒲団を持ってくる訳にはいかないので自分の寝巻きを一枚と剣八の着物を一枚持ち出した。 そして一護は護廷から姿を消した。 第10話へ続く 11/07〜13/11/18作 ここの一護は生まれてから1年も経っていません。無垢ゆえに何でも信じてしまうんです。 死神達の罵詈雑言を洗脳されたかの様に頑なに信じ込んでしまってどんどんすれ違っていく。 着替え用に後2,3着の着物も持って出てます。 |
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