組み合わせた指 「これは、どういう事だ。」 怒った口調でそう責め立てる慧に、責められている本人はのんきな声で笑い声をあげていた。 私はそんな二人を前におろおろするしかなくて。 「琉、笑ってないでどうにかしろ。」 そう、事の発端は、琉が持ってきた"お土産"。 知り合いの研究者が開発したという相性診断ができるという液体。 互いの手に塗ってしばらく重ね合わせていると色が変化し相性が解るという…。 「最初から怪しいと思っていたんだ…琉、聞いているのか?」 気の進まない慧をこんな事に巻き込んでしまったのは…私。 悪戯に違いないと疑う慧に、相性診断という甘い響きにやってみたいと言いだしたのは…私です。 琉に言われた通り私と慧は、手のひらにその液体を塗りそっと重ね合わせた。 さて結果は?と手を離そうとしたところ、重ね合わせた手はくっついたまま離れなくなってしまったのだ。 「くっ…、診断結果はきっと相思相愛ってやつだよ、うん。」 「…そうみたいだな。」 「ぶっ…っく、あっはっはっは!兄貴、ちゃんごめーん!」 私と慧の前で目に涙をためながら笑う琉は両手を顔の前で合わせて本当の事を教えてくれた。 研究者が開発したのは相性診断薬ではなくてただの接着剤。 ただの、といってもくっついたままでいろというのも無理な話で、 でもやりたいと言った私自身軽率だった事から責めることもできない。 むしろ慧に申し訳ない。 「で、どうしたら効果が消える?」 「それは〜、二人でお風呂に入ると離れるよ。」 にやにやと私と慧を見比べて楽しそうにそう告げると琉は突然立ち上がる。 そして風のように素早く部屋から出ていくと顔だけひょっこりと出して 「ちゃん、今度は俺と相性診断しようね〜!じゃあね〜!」 と言い残し帰ってしまった。 まるで嵐のような出来事に唖然とするばかり。 って待って。 この手は二人でお風呂に入らないと離れない? お風呂…お風呂…お風呂…お風呂…お風呂… 玄関の扉が閉まる音と同時に静まり返る部屋。 私は、恐る恐る慧に視線を向けると、空いた片方の手を眉間につけて彼はため息を吐いていた。 「……慧、ごめんね?」 「え?ああ、は悪くないよ。」 「でも…。」 「琉のやつ、まで悪戯の対象にし始めたから呆れてただけ。」 困ったように笑う慧は、私の頭を優しく撫でてくれる。 慧の手から伝わる熱は優しくて、温かくて少し得した気分になる。 「…さて、どうしようか。」 「……うん。」 「お湯は…沸いているんだけど。」 「やっぱり…二人で入るしかないのかな?」 「…僕とじゃ、嫌?」 「ち、ちがうよ…。恥ずかしくて…。」 「でも、ずっとこのままでいるわけにはいかないし…ね?」 「…そうだよね。」 「取り敢えず試してみようか。」 私は、慧の後を追って浴室に入る。 この際洋服がどうのなんて言ってられない。 というか、脱げない状態で良かった。 ただでさえ、慧と二人でお風呂に入るなんて有り得ない事なのに。 私と慧は、向かい合って湯船に浸かる。 服に染み込んでくるお湯の所為で、体が重く感じて妙な感じだ。 その瞬間、くっついた手が少し動きを見せて離れそうになった。 私は嬉しくて慧を見つめながら話しかけようと口を開こうとした。 のだけれど、私を見つめ返す慧は、飄々とした面持ちで私の手に指を絡めてくる。 そして私はそのまま慧へと引き寄せられて 狭い浴槽の中、彼の胸へ体を預ける形になってしまった。 体勢を直そうとしても、慧のもう片方の手に腰を押さえられ身動きが取れない。 「…おかしいな。お湯につけても離れないね。」 わざとらしくそう言う慧は、私の手をより強くギュッと握ってきて離してくれない。 「けっ…慧。ふざけないで?」 「ん?ふざけてなんかないよ。」 「…ねえ、そもそもお風呂に入る必要ってあったのかな?」 「…なんで?」 「だって、手だけお湯につければよかったんじゃない?」 「ああ、気づかなかったな。」 明らかに気づいていた口調の慧。 冷静に物事を判断できる慧が、そもそも気がつかないはずがないんだ。 それなのにどうしてなのか、私には理解できない。 琉がお風呂に入れと言ったから? 服を水浸しにするリスクを背負うほどのメリットがあるの? 「ねぇ、…手、離して。」 「離れないんだ。」 クスリと笑ってサラリと嘘をつく慧は、組み合わせた指に再びギュッと力を込めるてくる。 「……嘘つき。」 「どうとでも?それより…、服はどうしようか。」 「見ての通りずぶ濡れだけど…?」 「…乾くには、かなり時間がかかりそうだね。…今日は泊まっていく?」 私の額に慧が口付けを落とす。 もしかして、それが慧の目的だった? こんな事しなくても、慧のお願いだったらいつでも聞くのに。 「着替え、貸してくれるなら。」 「必要ないよ。」 私が愛しい恋人にそう言って笑いかけると、意地悪い言葉と優しい口付けが私の唇におりてきた。 「……意地悪。」 私を抱き締める慧の腕と、体にしみるお湯にのぼせそうになりながら 私は、体中に響く慧の声に幸せを感じていた。 「君に悪戯していいのは…僕だけ。」 耳元で囁く慧の言葉に聞こえないふりをしてみたけれど 当分、組み合わせた指はほどけそうにない――。 あとがき 長らく拍手お礼に置かれていた作品です^^; 慧様とお付き合いをすると、もれなく琉ちゃんの悪戯がついてくる。 そんな感じです(笑)。 ←BACK |