こっちを向いて





歓声が

僕達の全てを隠してくれる。


「カズさん、早く表彰式、行こう?」

戸惑った表情のをピットの中の応接室に閉じ込めたのはついさっきの事。

そんな顔をしてもダメ。
の体を引き寄せて、強く抱きしめた。

「カ、カズさん…、どうしたの?」

自分でも分からないよ。

「…怒ってる?私…何かしちゃった?」

聞こえちゃったんだ。
さっきとカリナちゃんが話しているの。

「ねぇ…、カズ…さん?」

僕達が付き合っていることを嬉しそうに話していたよね。
それは別にかまわないんだ、むしろ嬉しい。
ただ、…問題はそのあとの事。

『カズさんって優しいけど、男としてはど〜お?』と笑顔のカリナちゃん。
『とても優しくて素敵ですよ』と笑い返す
『でも、優しいだけじゃねぇ…。たまには強引な事もされたくないの?』
カリナちゃんの言葉に困った表情で『そうですね』と苦笑するを見て

僕はいたたまれなかった。

は悪くない。
けれど、にとって僕はいったいどんな存在なんだろうと不安に思えた。

は、僕を知らなすぎる。

近くのソファーに彼女を押し付けると、小さな悲鳴が漏れた。


「こっちを向いて。」


僕はそう言って片方の手でを自分の方へ向かせる。
君を失いたくない。
その為なら、僕はどんなことだって出来る。
教えてあげる、僕の隠れた部分も。

みっともないくらい不必要な嫉妬、それは分かってはいるけれど
理性という最後の砦は、この状況によっていとも簡単に破られた。


唇を重ねた途端、張りつめた糸が切れたように
僕は、夢中でに愛を注ぐ。

互いの乱れた呼吸に、切なさが増して
唇を離すと、不安で揺れた瞳が僕を必死に捉えていた。

愛しくて、愛しくて
僕は、つい笑顔をこぼしてしまう。
敵わないな……。


”優勝は、チームオングストローム!!”


もう一度、今度は優しく唇に触れた瞬間
そうアナウンスが流れてきて、外の歓声がより一層盛大になった。

さすがにそろそろ姿を見せないとマズイかな…。
そう思って僕は、ソファーに沈めたを解放する。

訳が分からない。
上気した顔にそんな疑問がのせられたに、手をさしのべて体を起こすのを手伝う。


やっぱり、説明しないと納得してもらえないかな?
でも、何て言えばいいんだろう?
きっと呆れられちゃうだろうなぁ。

今更頭をよぎる自分の考えに思わず苦笑する。


とりあえず、今に伝えたい事はひとつだけ


「ねぇ、僕が男だって、……思い知ってくれた?」









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