軌跡を描く













カーテン越しの窓から差し込む朝日の眩しさに、俺は眠気から這い出るように目を開けた。

いつもとは違う天井

いつもとは違うベッド

寝ぼけた頭で辺りを見回せば、なんてまあ女の子らしい部屋。
体を起こそうと思ってみたものの、左の腕に何かが乗ってて動かせない事に気がついた。





……………やばい


やばいって


俺の顔、にやけ過ぎだって



腕にかかる心地よい重みに、柔らかな髪。
の体、のベッド、…の部屋。

ああ、マズイ、凄すぎるよお前。
てゆーか、寝顔メチャクチャ可愛い。
昨日、散々あんな事やこんな事したくせに、元気になっちゃったじゃんか。

と出逢って、惹かれ合い、想い合って、結ばれて。
会えない日々と、遠い距離に、寂しさも苦しさももう嫌だってくらい味わって。
とうとうというか、やっとというか、とにかくここまでたどり着いたんだ。


体に沁み込んだ音楽は、もうの関わらないものはない。
どんな曲にも片隅にがいて…いや、ほとんど真ん中にいるかもしれないけどさ、とにかく俺を包み込んでくれる。

記憶に刻まれたメロディーのように、いつの間にか何気なく口ずさんでいたり
を知った俺の体はもう後戻りなんか出来ないくらい、なんていうか酔っ払っちゃってる。


「可愛い顔して寝ちゃって〜」


指先でサラリとした髪を梳きながら、そこへ口づけを落とす。
『…ん』って少しくすぐったそうに身を捩る姿が、悩殺的だっつーの、ちゃん。


「…そんな顔、俺以外の奴に見せんなよ〜?」


眠ったままのにそう冗談っぽく呟くと、身を捩るプラスα眉間にしわ。
俺のにやけた顔は、もうこれ以上崩れねーよってくらい崩れて、それが可笑しくて口からフフッて笑いが漏れる。

次の瞬間ふといい事が頭によぎる。
俺の『いい事』は、にとっては意地悪だとかよくは怒るけど
俺にとっては、やっぱりいい事はいい事で、やめられないんだよね、これが。

俺はそっとを起こさないように、メチャクチャ細心の注意を払っての頭から腕を引き抜いた。
ヘッドボードに置いておいた自分の携帯へ手を伸ばして、邪魔されたくなくて切っていた電源を入れる。


パシャ


そして、ボタンの操作と同時に小気味いいカメラのシャッター音。
ディスプレーに映るの可愛い寝顔。

万が一他の野郎に見られてもいいように(絶対に見せるつもりはないけど)
いや、本当はそっちの方も取りたかったけど、さすがにそれはまだ早い気がして
何も身につけてない綺麗な体は毛布で隠したから安心してね?


の瞼が動いて、小さく唸る。
ゆっくりと瞼を開けると目が合って、恥ずかしそうにはにかんでくる。

あんまりそういう態度とらない方がいいよ?
なんてったって今、俺メチャクチャ幸せ噛みしめちゃってるし、元気になっちゃってるし。


「おはよう、

「……おは、よう」


「体、大丈夫?へーき?眠かったらまだ休んでていいよ」

「だ、大丈夫だよ。…あれ、琉、電話?」


「……え?」

「携帯持ってるから、…もしかして仕事?」

「……コラ」

「へ?…っきゃっ…ちょっ…りゅ…う…んんっ」


心配そうな寂しそうなその表情に、もう俺の中の何かがプツンと音を立てて弾け飛んだ。
毛布を引き剥がして、の上に伸し掛かって唇を塞げば
吸いつく肌に、柔らかな唇に、甘いの香りに目の前がクラクラする。


「俺と離れたくないんだ?」

「〜〜っ…琉、寒いから毛布…返して」

「いいよ、そんなのいらない。俺が温めてあげるから」

「恥ずかしいよ、んっ…ねぇ、琉ってば」


「フフッ、俺しか見てないって大丈夫〜」


嬉しすぎて折れそうな体をギュッと抱き締めてそう意地悪を言ってみせると、諦めたようにの体から抵抗が消える。
それをいい事に頬に額に唇に沢山の口づけをして、俺はの全てをひとつひとつを噛みしめる。


「そうだ、携帯で何してたか知りたい?」

「…うん、そりゃ教えてくれるなら」

「カメラでね、すっごく綺麗なもの撮ったんだよ、もうね俺の一生の宝物。……見せてあげよっか?」



不思議そうな顔のに携帯をヒラヒラと揺らすと、誘惑にひかれは首を縦に振る。



お前のくるくる変わる表情が大好きで、俺は色んな表情を見続けたくて、これからもどんどん悪戯しちゃうからね?

俺は誇らしげに携帯を開いてその『宝物』をの目の前で表示する。

見る見る赤くなる顔がもう愛しくて、やっぱり携帯の中のより現物が最高だと思いながら

俺はまた、を腕の中に閉じ込めた。



メロディーを引き出す歌詞のように

歌詞を引き出すメロディーのように


これからも体と心に二人を刻み込んでいこう。


そして、終わりのない軌跡をずっとずっとこうやって描き続けていこう。






あとがき
歌詞って凄いな。
短い言葉の中で想いを込めてそれをメロディーに乗せて誰かの心を永遠に動かし続ける。
メロディーって不思議だな。
どんなに歌詞を忘れても体のどこかに沁みつたメロディーはいつの間にか口ずさんでしまう。
と、日々常々思っている事をネタにしたいなと思い、半ば強引にお題SSとして書いちゃいました。
琉がちゃんのお家でお泊り会をした翌朝の出来事です(笑)。
拍手ありがとうございましたー^^

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