一緒に帰ろう







突然私の前に現れた恋人の加賀見琉は、今満足そうな表情を浮かべてハンドルを握っている。
自らキスをした感触が今でも残っていて、まだ顔が熱い。
それなのに、仕向けた張本人は口元に笑みを浮かべて楽しそうに鼻歌を歌っていて
チラリと横目で様子をうかがう私と目が合うと、悪びれる風もなく口を開いた。


「ねぇ、今日、俺んちでお泊り会しない?」

「…はい?」


「そうそう、そういえばお土産がいくつかあるんだ。」

「…えーと。…話が、飛んだよね、今。」


信号が赤になって、琉が静かに車を停止させる。


「後ろのカバンに入ってるんだけどさ見てみる?」

「…う、うん。」


最初の言葉は何処へ飛んでしまったのか分からなかったけれど
つい"お土産"という甘い誘いにカバンを取って開けてしまう。
開いたカバンに琉の手が差し入れられる。


「ほら、これはね限定のフレバーティー。、好きそうだなと思って。」

「わぁ、ありがとう。」

「あとは、…うおっと。」


琉はごそごそとカバンの中に手を入れていたけれど
信号が青に変わったことに気がついて再びハンドルに手を戻す。

そして、見せたくて我慢できないと言う表情で楽しそうに喋り出した。


「あのね、あとはね、どこにでも売ってそうなチョコレートの詰め合わせでしょ〜。」


カバンの中をまさぐると、琉の言う通り箱に入ったチョコレートを見つけた。
どこにでも売っていそうなチョコレートをわざわざ買ってくるところが琉らしいなと思い吹き出してしまう。


「あ、でもいろんな種類のがあるんだね。ナッツとかフルーツとかお酒の入ったのとか。」


「そうそう、あとで食べさせてあげるね、口移しで。」


琉がこちらをチラリと見て悪戯っぽくウインクをしてくる。


「……ひっ、ひとりで食べられます!」

「遠慮しなくていいって!」


ケラケラと笑う琉は、本当にそんな事してきそうで…。
私は、想像するだけで顔から火が出そうなくらい恥ずかしいのに。


『あと、これもね』そう付け足して指さす先には白いシャツ。
これもお土産?首をかしげながら取り出して、少しだけ広げてみるとそれはどう見ても男物。


「…これ?なんか…ちょっと大きくない?」

「それは男のロ…、っじゃなくて、サイズがぁ、分からなかったしぃ〜。」


一体何なの?
彼の事だから、何かあるに違いない。
疑い深くシャツを見つめると、胸ポケットの中に何かが入っていることに気がついた。

見てみると、それは白い半透明のケースに入ったMD。
手にしたそれと琉の横顔を交互に見て悩んでいると、琉が再び口を開く。


「それもお土産。というか、向こうで作った新しい曲だよ。」

「えぇ!?」

に聞いてもらおうと思ってさ。」

「いっ、いいいいのっ!?って、ていうか…こんなに…。」


どうしよう、嬉しすぎる。
ファンの人達には申し訳ないけど、これは恋人の特権って事で許してくれるかな?くれるよね?


「あはは、もちろん。ねぇ、聞きたい?聞きたくない?」

「…物凄く聞きたい!」

「よかった、じゃ、このまま俺んち向かっちゃうから。」


あー、もう本当に幸せ。
会えなかった時間も悲しみも辛さも、全て吹き飛んでしまう。

ニッコリと微笑む琉に笑顔を返して『うん』と返事をすると


「そんでもって、今日は帰すつもりないから。」


優しい微笑が、『引っかかったね』と言っているような意地悪な笑顔に豹変した。





「あ、でもほら…えーと。あ!着替えとかないし。」


まるで蜘蛛の巣に引っかかってしまったような


「ああっ!そのお土産に買ったシャツがあるじゃん!ちょうど良かった、ね?」


「…あの、下が…無いでしょ。」


もがけばもがくほど絡み付いてくる琉の罠に


「いや〜、ホント運命だよね。その大きさだったら問題ないよ、うんうん。」


今頃ジタバタしても、もう遅いのかもしれない。
なんて、そんな琉に掻き乱されるのも嬉しく感じる私は、もう重症みたいだ。




「琉、…最初からこうなるように企んでたでしょ?」


「あ〜!ちゃん、ざんね〜ん!時間切れだよ〜。質問の受付はただ今終了しちゃいました〜。」



私の問いかけにそう言って意地悪く笑って、楽しそうに前方を見つめハンドルを握る琉は







「一緒に帰ろう。」





そう優しく呟いて、再び鼻歌を歌い始めた――。













拍手お礼SS『HIDE AND SEEK』の続きです。
琉は男のロマンを実現したかったんです(笑)。

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