HIDE AND SEEK





が勤める会社の前。
俺は車の中で待ち伏せして、彼女の姿が見えたと同時にそこから飛び出した。


なんで、ここにいるの!?


まさにそんな顔だった。
捕まえた腕を引っ張って自分のもとへ引き寄せ

「ねぇ、デートしようよ。」と一言。

久々に感じる恋人の温もりに、緩む顔はおさえられそうにない。
サングラス越しに映るの口が何か言いたげだったけど
さすがにこれ以上この場にいると目立ってしょうがない。

さっきまで隠れ家にしていた自分の車へ、の腕をつかんだまま歩く。

「乗って。」

俺を見たまま驚いて身体をカチンコチンに固めている
そんなを半ば無理やり助手席に押し込み、素早く運転席に回って自分も乗り込む。
その前後に同じように駐車されている何台もの車のおかげで
注がれていた視線も、何事もなかったように消え去る。


ふぅ〜。

がため息を吐いて、俺を睨みつけてきた。

そんな顔したって怖くないもんね。
大体さ、会って最初の行為がため息と睨みつけってどうよ?
俺がどれだけ会いたかったかわかってんのか?

「琉、いつ日本に?…連絡くらいしてよ。」

「今さっき戻ってきたんだよ。びっくりした?」

「……驚きすぎて寿命が5年くらい縮んじゃったよ。」

「そりゃ大変。」

ハハハと笑う俺を見て、が目を細くして微笑んだ。
どうやら突拍子もない俺の行動を許してくれたようだ。
その顔が見たかった。
けどね、俺にはまだ欲しいものが残ってるんだ。

「ねぇ…、何か忘れてない?」

すっとぼけた口調で『何だっけ?』と返してきたに、俺は極上のスマイルをおくる。

「何だっけ?って、すんごぉぉっく大切な事なんだけど。」

「……え。」

ああ、そんな不安そうな顔しなくても大丈夫。
怒ったりしないし、ちゃんと教えてあげるから。
んで、ちゃんとしてもらうから。



「お帰りのチュー。」

「………は?」

「だってさ、空港で行ってきますのチューをした訳だろ?だったら帰ってきた時もしないとダメじゃん。」

「ダメじゃんって…、そんなの誰が決めたの!?」

「え?俺。」


真っ赤な顔してあたふたしてる姿は可愛いけど、早くしてくれないと壊れちゃうよ俺。


「10数えるうちにしてくれなかったら、帰っちゃおっかな〜。」

本当はそんな気、全くないんだけど、欲しくて欲しくてしょうがなかったから。
そういって俺は、シートに寄りかかり目を閉じた。


「いくよ〜?」

「ちょっ…!待ってよ、琉!」

「……ごー。」

「えぇっ!?」

「よ〜ん。」

「今、10数えるって言ったじゃん!」

「さ〜ん。」

「……ずるい。」

「……にー。」

「…………。」

「いーち……。」


不意に…、というかやっと軽く触れてきた唇の柔らかさに
嬉しくて、嬉しすぎて、体が素直に反応してしまう。

逃げられぬようにその背中にしっかりと両手を回して目を開ける
そこには、恥ずかしそうにうつむいた恋人の姿。

会いたかった
嬉しいよ
大好きだよ
よく出来ました

そして俺は、言いたい事全てを、ひとつに凝縮させた愛の言葉を囁いた。



「ただいま。」








あとがき
HIDE AND SEEK…かくれんぼという意味ですが
今回は直訳のほうの、隠れて求めるという意で書かせてもらいました。
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