たとえ、どんなに辛い夜も たとえ、どんな楽しい夜も 時間は止まることなく、進み続けて そう、たとえどんな夜にも、朝はいつもと同じようにやってくる。 誰よりも近くにいたのに 洗面台の前に立って、私は気だるい体を覚ますように 蛇口から流れる水を両手ですくって、丹念に顔を洗った。 その冷たい刺激に、肌が引き締まるのを感じると眠気は幾分かおさまってくれる。 けれど毎朝行うその行為は、同じようでもやはり違うもので 特に今、私はそれを思い知っている。 「おふぁよ〜…」 タオルで顔を拭いていると、いつの間に現れたのか背後に疾斗の気配。 「…お、おはよう」 思わず声がうわずる。 子供のように目を擦りながら、大きな欠伸をするまだ眠そうな疾斗を 私は鏡越しにチラリと盗み見れば、昨夜の出来事を思い出さずにはいられなかった。 初めて訪れた疾斗の部屋 初めてのお泊り、そして初めての夜 緊張で張り詰めた糸のように、お互いを意識せずにはいられなくて 不安と期待が入り混じった、そんな私達を包む空気はやがて熱いものに変わって。 何度も、飽きる事なんかなく 今でもその感覚が抜け切らないくらい、私を求める疾斗の激しさを知った。 「、もー起きたの?」 ベッドからそのまま抜け出てきた様子の疾斗は、上半身を露にさせていて その上、何事もなかったかのような疾斗の態度が、動揺しているのは私だけなのかと気を小さくさせる。 「うん。ごめん、起こしちゃった?」 冷静を装って気遣ってはみるものの、鏡越しに見つめる疾斗と目が合って もう、何もかも見透かされていそうな気さえした。 「、首のとこキスマークついてる」 「…は、疾斗が…つけたんでしょ」 タオルを元の場所へ戻して、立ち去ろうとしたのだけれど 私の肩に置かれた疾斗の手が、首に残る所有の証をそっと撫でてきて動けなくなる。 「他はどこにつけたっけ。見せてよ、」 「なっ…なに言ってんの。嫌に決まって…」 おどけた口調とは正反対の力で抱き締められて、私は疾斗に捕らわれる。 「なぁ…、もう一回ベッドに戻ろうぜ?」 「……んっ…だめ…。ご飯食べたら出かけようって約束…っ」 私を抱き締めるその手は、大人しくなる事はなくて。 昨夜、全てを暴かれた所為で、私の弱い部分を知り尽くした指先が腰のラインを何度も往復した。 「…説得力のねぇ声」 「はや…とっ…」 逃れるために体を捩じらせても、何の意味もなさなくて 「目が覚めたらがいねーんだもん」 「…ふっ…ん」 顔を背けて露になった首筋に、タイミングを計ったように疾斗は猫みたいに顔をすり寄せてくる。 その刺激が全身をめぐり、まるで私の全神経を麻痺させていくみたいで 「すげぇー焦った」 力の抜けた足は、疾斗に支えられて立っているのがやっと。 首筋を這う疾斗の唇が強く吸い付いてきて、チリリと痛みが走る。 「勝手に…いなくなるなよ」 鏡越しの疾斗と再び目が合えば、私はもう何も言えなくなっていて それは、疾斗には敵わないという事を伝えてしまっているようでもあった。 誰よりも近くにいたのに、誰よりももっとずっと側にいたいと思う 誰よりも近くにいても、誰よりも近くにいるからこそ 私は当分、疾斗に、疾斗のこのギャップに溺れてしまいそうだ。 あとがき 時期的にはベストエンドを向かえしばらく経ったくらいでしょうか。 初めて疾斗の部屋に泊まりに行って、初めての×××(´Д`;) まだ少しぎこちなくて、それでも好きが止まらなくて……どーん! 読んでくださりありがとうございました。 ←BACK |