満開の桜の木の下で、春風に乗って桜の香りが鼻を掠める。 気付いたら、僕のそばには君がいて 伸ばされた腕に抱き締められると、僕は優しい君の香りに包まれて 何もいらないかった 君さえいれば、もう、何もいらないと本気でそう思った 夢の続き 目が覚めた瞬間、僕の体はこの上ない幸福に包まれていた。 「……夢、だったのか。」 だんだんとはっきりしてくる意識の中で、今自分はベッドの上だという事を理解する。 体を起こして辺りを見回してみるが、の姿は当然なかった。 久しぶりに見た夢は、現実と見間違えるほどの色鮮やかなものだった。 昨日までの仕事の疲れなんて、一気に吹き飛んだ。 桜の花の香りも、風の気持ちよさも、の感触も今でもはっきりと思い出せる。 「夢でもさんに逢えるなんて、なんか得した気分だな。」 部屋のカーテンを開けて光りを取り込みながら、僕は込み上げてくる喜びに微笑まずにはいられなかった。 テレビをつけ軽い朝食を取りながら、今日の天気についての最新情報を確認する。 せっかくの休日だ。 しかもとこれから会う約束もしてある。 晴れのマークを確認すると、まだ約束の時間には余裕があるというのに、僕は急くようにコーヒーを飲み干した。 さて、今日はどこへ行こうか。 公園の桜並木を散歩するのもいいかもしれない。 そう思った瞬間ハッとして、思わず苦笑する。 「ふふっ…もしかしたらこれって正夢?」 植物達の世話を終わらせると、今度は僕の出かける支度を始める。 に早く会いたくて、本当はメールでも問題なかったのだけど せめて声だけでもと、僕はに電話をかけた。 「もしもし、カズさん?」 愛しい、愛しい、君の声 あの柔らかな唇からこぼれる様々な言葉で、僕は幾つもの至福を得ているんだ。 「……カズさん?」 「…あ、ごめん。」 「どうしたの?……なにか…あった?」 「ん?違うよ。…えーと、さんの声に聞き惚れてました。」 「なっ!なに言って……もう。」 「……本当だよ?」 「どっどどどどうしたの?」 「さんこそ"ど"がいっぱい。どうしたの?」 「……カズさんのせいで、顔が茹で上がりそうなんです。」 そんなやりとりが楽しくて、僕は思わずクスクスと笑いを漏らす。 何のためとか、理由の要らない、それでも心が弾むとの会話。 付き合い始めの、あの緊張した気持ちとは違う穏やかな時間が、僕が僕である事を許してくれる。 「今、部屋にいるの?」 「うん?」 「良かった。さんのそんな可愛い顔、誰にも見せたくないもん。」 「カ、カズさんは私をからかうために電話してきたの!?」 「あはは。ごめん、怒らないで。今から家を出ようと思ってさ。」 笑いの混じった謝罪は、にはどうやら通用しなかったらしい。 『そうですか』と拗ねた口調で返事が返ってききた。 「けど、そう思ったのは本当の事だよ。」 「今日のカズさん…なんだか変。」 「ふふっ。陽気のせいかな?早くさんに会いたいんだ。」 「うん、私も。…あのね、カズさん。」 「なに?」 「今日はお花見しない?お弁当作ったから。」 『なんか妙に桜が見たくて』と付け足すの言葉に、僕は堪らず胸が熱くなる。 と同じ気持ちを持てる事、喜びを共存できる事、僕にとってそれが最大の幸せ。 「うん、いいね。そうしよう。お弁当楽しみにしてるね。」 君に今日の夢の出来事を話したら、喜んでくれるだろうか。 電話を切って、テーブルの上の車の鍵を取ると、僕は部屋を出る。 季節はまた巡って、僕の体を柔らかな日差しと風が包み込む。 まるで、君のように。 「もしかしたら、本当に逢っていたのかもね。」 車に乗り込んでエンジンをかけて、僕はもうすぐ会える恋人を想ってそう呟いた。 今、こうしてのそばにいられる事も 僕を癒してくれる事も 励ましてくれる事も 力を与えてくれる事も きっと僕の永遠の宝物になる。 さあ、幸せな夢の続きを始めよう――。 あとがき 夢は願望の現れや思い癖からくるのがほとんど。 けれど、某スピリチュアルカウンセラーの方のお話によると、お互いの想いが重なると夢で会う事もあるそう。 素晴らしい景色に囲まれて誰かに抱き締められ、欲というものから解放され 目が覚めた後もとても幸せに包まれているような夢。 こんなふうにカズさんに思ってもらえたら幸せだなと思い一気に書きました。 ←BACK |