定時より一時間ほど遅く仕事を終えて、私は会社のロビーを後にした。 『近くまで来たから、一緒にメシでもどうか?と思ってさ』 『時間合うなら、お前の会社の近くで待ってる』 先程そうかけてきた電話の主を探すため、辺りをキョロキョロと見回してみる。 すると、数メートル先にたたずむ見慣れた二人の姿を見つける。 それと同時に向こうも私に気がついたようで体をこちらに向け軽く手を振ってきた。 軽くお辞儀をして駆け寄ると、楽しそうな笑顔が目に入る。 チームのメンバーとは、取材を終えてからも良い友人として皆で何度か出かけたりもした。 だから、今回の誘いもいつものものだと思っていた。 ただ、加賀見さんと岩戸さんがいないだけで、食事や会話を楽しむため。 ただのいつもの日常に、こんな感情が隠されているなんて知らなかった。 それはきっと、二人にとっても…… Wolf 「お前…、こんなのに毎日乗ってるわけ?」 帰り客で混雑する駅のホームで、乗る前に既に嫌気のさした様子で疾斗はため息を吐いた。 「そうですね。その時によるけど大体こんな感じ…かな?」 「…うげぇ」 「嫌なら乗るな」 相変わらずの航河の言葉に、疾斗はいつものように食ってかかる。 「なんだよっ、嫌なんて言ってないだろ」 「文句言うなって言ってるんだ、阿呆」 「じゃあ、そう言えばいいだろ!?っつーかアホって言うなアルのくせにっ」 「意味が分からない……ガキだな」 腕を組みフッと笑みをこぼし呆れてみせる航河を、疾斗は憮然とした表情で睨みつける。 感覚が麻痺してしまったというのもあるかもしれないけれど、それはまるで子犬がじゃれ合うように見えて 私はそんな二人のやり取りを見つめつつ、抑えてはいたものの笑い声を漏らしてしまう。 「おい、。お前なに笑ってんだよ!」 その輪の中に私が入れてもらっていると思うと、なんだか嬉しくて 唇を尖らせて咎めてくる疾斗を見て、私は余計に笑い声を上げた。 「くくっ…いえ、本当に仲が良いんだなと思って」 「「別に仲良くなんかない」」 いつものようにからかい半分でそう言うと、見事なユニゾンが返ってくる。 これ以上怒られないように、口元に手を当てて笑いを誤魔化してみるけれど 二人は互いの顔を真似するなと言いたげに睨みつけていて、笑いが止まりそうにない。 「……笑いすぎだ、」 「ごっ…ごめん…なさっ…っくく…」 睨みつける視線をそのまま私に向ける航河は、ばつが悪そうにそう言うと大きなため息をひとつ。 「……そもそも俺は、いい居酒屋見つけたからお前と二人で行こうと思ってたんだ。それなのに…」 恨めしそうに横目で疾斗の姿を見る航河の姿に、思わず胸が鳴る。 「そうはいかないっつーの。悪いけど俺だって同じなんだ」 イーと口を横へ伸ばして、悪態をつく疾斗の姿に体中が熱くなる。 そんな事、あるわけない。 そう思う気持ちの半面、もしかしたらという気持ち。 ここ最近二人からメールを頻繁にもらうようになって、次第に内容も濃いものになっていって …でもまさか、私なんかに恋愛感情を抱くなんて事あるはずない。 自惚れも大概にしろと、そう自分で自分を戒めていた。 それでも、そうかもしれないという想いは拭い去る事が出来ずにいる そんな時に、ニュアンスを含んだ言葉達がおりてきて、私は身動きが取れなくなってしまう。 「……来たな」 刹那の沈黙を破きっかけは、ホームに着いた電車だった。 夕方特有の学生と社会人の入り混じった車内に、半ば無理やり入り込む。 ただでさえ混雑した車内は身動きはできないが、苦しいほどでもなかった。 まるで…。 今の…私の気持ちのような…。 「…ホントに、毎日こんなのに乗ってんのか」 密集した室内から聞こえてくる話し声に、笑い声に混じってすぐ後ろから疾斗の声がした。 普段車で生活してる疾斗にとっては、かなりの苦痛なのかその口調は先程よりも切羽詰った感じ。 縮めた体を少し緩めて、なんとか乗り込んだ俯いたままの顔を上げ 「大丈夫ですか?鷹島さん…」 そう呟いたと同時に目の前に映るのは、航河の胸元、そして少し上向けば戸惑った表情。 「中沢さんも…だいじょう…」 私がそう言いかけた瞬間、電車は加速し始めた。 加えられた力によってよろめいた疾斗の手が私の肩へ触れ、体が私の背中に痛いくらいに密着する。 その勢いに押され、私は思わず航河の胸へとしがみついてしまう。 「ごっ…ごめんなさい」 慌ててしがみついた手を離してそう呟くと 「……だいじょばねぇ」 「………………………」 弱音を吐く疾斗の声が直に体に響いて、ため息をこぼす航河の息が私の耳をかすめて、私の胸は早鐘を打つ。 こんな事になるなんて、さっきの思考が再び取りまいて余計に意識してしょうがない。 車内の雑音も、窓を流れる景色も、何も感じられない。 ただ、触れ合う二人の体から感じる温もりが、感覚だけが今の私の感じる全てになる。 胸に持っている鞄を抱き締めると、私は俯く事を決め込んだ。 あと、十数分の我慢だと言い聞かせて。 けれど 明らかに、人の手だと そう思う感触が、突然私の背中に感じられた。 先程よろめいてきて私の肩を掴んだ疾斗の手が、私の背中をなぞる。 それは明らかに意図的なもので、胸が飛び出そうなくらい跳ね上がって、緊張で体が固まる。 それでもその手は、ゆっくりと下がってそのまま、腰とお尻を通り過ぎていく。 まさか、そんなまさか。 そんな事、ある分けない。 きっと私の勘違いだ。 頭の中でそんな堂々巡りをしている間に、疾斗の手はスカートの上から足の付け根をなぞってきた。 息を止めて、目をギュッと瞑り、振り返る事なんて出来ず更に深く俯いて。 もうそれ以上何も出来なくて。 「……?」 そんな私の態度を不審に思った航河が、私の顔を覗き込み呼びかけてくる。 私の勘違いかもしれないし、どう伝えていいかも分からない そんな考えが本能的に知られてはいけないという衝動に駆られ、私は必死に取り繕うように顔を上げた。 「…ん?」 OLのたしなみの作り笑いをなんとか浮かべて、航河に返事をする。 どうした? なんでもないよ。 という会話のシミュレーションを頭の中で対策として立てたものの 私の体を調べるように、付け根周辺を動き回る疾斗の手に思わず体が震え顔を歪ませてしまう。 しまったと顔を背けた瞬間、すり抜けてゆく航河の視線は疾斗を見据えているようで、体中が羞恥に襲われた。 フッと鼻で笑うような、切なげにも聞こえる息遣いが聞こえたと思うと、疾斗の右手が突然触れるのを止めた。 ホッとしたのも束の間、その手はするりと前へ出て、私のジャケットのボタンを外してくる。 驚いている間に、ボタンは外されてその隙間に疾斗の手が侵入してきて まるで、航河を挑発するかのように私の胸をゆっくりと揺すり動かしてきた。 薄手のシャツと下着の上からでも分かるその手の動きが、体の深い部分まで侵入してくる。 ビクンと反射的に跳ね上がってしまう体の動きを最小限に押さえ込んで 胸を弄んでくる疾斗の手から逃れようと、眉根にしわを寄せながら体をよじらせた。 「……っ疾斗、お前…なにやってるんだ」 どんなに車内が狭くても、航河だけには今、私が何をされているのか丸見えだ。 驚き戸惑う航河の視線が、……私を貫く。 右手の窓に映される流れる景色が、まるで私の鼓動のように速度を増してくずれてしまう。 私達の左でに背中を向ける人は、ヘッドホンからシャカシャカと音を漏らしてこちらに気付く事もない。 それでも 羞恥が、羞辱を一身に受ける私の感情が、背筋をゾクゾクとさせる。 まさか、こんな事。 きっとなにかの間違いだ。 だから、だから…… カバンを抱き締める片方の手を、航河の腕へと伸ばし服をギュッと掴む。 こんな事、あっちゃいけない。 だから、だからどうか、今ならなかった事にきっとできるから。 疾斗の指から伝わる刺激を堪えながら、泣きたいような気持ちを堪えながら 私は航河を見上げて、懇願する。 「……知っているんだろ?俺達の気持ち」 「………えっ」 判断を窮するような表情で、航河は小さな声で私に問いかける。 それは、とても冷めた私を責めるような表情にも見えた。 「……ずるいんだよお前」 胸を弄る手を止めて、そのまま下へとその指を下げていきながら 疾斗の声が後ろから…耳のすぐ元でそう囁き介入してきた。 「そんな……っ」 言葉にならない言葉で必死に弁解しようとすると、長身の航河の体が静かに屈められて 私の感情を遮るように唇を塞がれた。 ざわめく車内で私の心臓は鈍器で殴られてしまったくらいの衝撃を受ける。 硬直する体が更に固くなり、呆然としている私の口内に生暖かいモノが入り込んで、私を現実に戻す。 逃れようとする私の舌を航河は責めつけるように自分の舌を絡めてきて 次の瞬間、疾斗の手が足の付け根を突き立てるように刺激し、ピリリと破ける感触が足を伝った。 膝の辺りまでその衝撃のせいで、瞬時にストッキングが伝線していくのを感じ 自分が今どうなっているのか、これからどうなってしまうのか、不道徳さに情けなくも感情が揺れた。 「お前がそのつもりなら、俺も止まらないぞ」 唇を離した航河の鋭い目が、疾斗を見つめ妖艶な声が恐ろしい言葉を奏でる。 フッっと鼻で笑うような疾斗の息遣いが耳をかすめ『望むところだ』と挑発的な言葉を返した。 私の感情なんてお構いなしに、二人が私の体に触れる。 「欲しいものが目の前にあるっていうのに…指咥えてなんていられねぇっつーの」 「、これはいつまでたっても知らない振りしてるお前へのペナルティーだ」 違う 知らない振りをしていたわけじゃない ただ、どうしたらいいのか分からなくて…戸惑っていただけ 言葉にならない言い訳は、『ああ、そうだったのか』と納得してもらえる事など皆無だと 渦巻く感情の中で掻き消えていく。 疾斗なのか航河なのか判断のつかない手が、邪魔だといわんばかりに下着ごとストッキングを太腿まで下げた。 許せない 「………すげぇ」 息をこぼすような疾斗の言葉と同時に私の体が、醜態を晒している部分を刺激され跳ね上がる。 背後から秘部を撫でる指が、膣の中へとゆっくりと挿入され、子宮を突き上げ掻き回す。 「……ぅ…ふっ……うぅ…ん…」 許せない 「……フッ、すごい、な」 シャツの上から胸を自在に弄ぶ航河の手が下がり、熱を帯びたその指が陰核に押し付けられる。 嘲るような笑みを浮かべ航河は、滑らかにそこを擦るように指を動かし始めた。 体中の細胞が、全神経が二人の指の動きだけを敏感に感じ取る。 刺激に耐え切れず、体をよがらせて 眉間にしわを寄せ堪えようにも、逃げ場のない体に次々と押し寄せてくる二人の感情。 許せない 見ない振りを決め込んで、結果二人を感情を弄んでしまった自分が 戸惑って何もしないで、二人を決壊させてしまった自分が 自分の体に興奮して貪る事を止めない二人に 疾斗の指を簡単に呑みこんでしまうほど、航河の激しい愛撫に相乗してしまうほど 淫靡に、卑猥に、秘部を濡らし興奮してしまっている自分が 背徳感に隠された感情が情けないくらい愉しんでいて、二人の男の言葉に悦んでしまっている自分が許せない。 『ごめんなさい』はもう、きっと意味を成さない。 そんな事を言えるほど、私は能天気にはなれない。 「……!?……はっ…ぁ……くぅ…っ…ん…!」 出し入れを繰り返したり、指を折り曲げて中を掻き混ぜたりする疾斗の指が、圧力を増し更に中を押し広げた。 脳天を突き抜けそうな衝撃に頭が真っ白になり、私は堪らず航河にしがみつく。 「……一本じゃ足りないだろ?」 息だけで、私だけに聴こえるようにそっと疾斗が囁く。 それでも攻撃的で無慈悲なまでの行為は止まることはなく、私を崩壊させようとする。 「……そんな顔するな。さすがにこんな所で突っ込まれたくはないだろう?」 そう囁かれた言葉に、私はゾクリと体を硬直させ冷や汗をかく。 私の表情を見つめる航河のオクターブ低い声が、息と一緒に耳にかかる。 ガタンガタンと電車がレールの上を走る音が、その箱に詰め込まれた人達のざわめきが一気に甦った。 「…すげっ…お前の中がどんどんしまって…ヒクついてるぜ」 「……、そんなにイイのか?」 「…っく…や、二人とも…やめ…っ…」 吐き出した言葉と裏腹に悦ぶ体。 唇を噛んで耐えれば耐えるほど、壊れる度合いも酷く修復不可能な気がした。 そもそも、本当に私は止めて欲しいのか そんな疑いを持ってしまうほど思考は停止し、泣きたいくらい溶けてしまいそうなくらい気持ちよくて 快楽を貪りたいと欲望が、本能が、理性を打ち崩していく。 ああ、私は今 二人の男の部分を むき出しにされて 嬉しいんだ 「……っぅ…ふ…っく…はぁ…っん!」 そう思った瞬間体中に走る、緊張。 昇りつめそうな体に、耐え切れず嬌声を漏らそうとした私の頭を 航河が見計らったように、自分の胸へと押し付けてきた。 「……イけよ」 押し付けられたまま航河は私にそう囁く。 胸から伝わる鼓動に声の振動も加わって、疾斗の指が何度も差し入れを繰り返し 私は航河の艶やかな声に従うように、体を強張らせた。 「…あーあ、イッちゃった…ってか、アルがいじめ過ぎ」 「お前だけには…言われたくない」 二人の声が聞こえてくる。 それ以外はもう何も解らない。 力の抜けた体は余韻でヒクついて、焦点の定まらない視界には航河のシャツが揺れる。 航河の指が離れ、疾斗の指がゆっくりと抜かれ、鋭敏になった体はそんな刺激にも反応してしまう。 「…もうすぐ駅に着くな」 車内アナウンスが流れると、航河はそう言って私の頭を優しく撫でた。 ドキドキと胸が高鳴って、息苦しくも心地いい。 脳細胞が麻痺して体中が震えるほどの狂気すら快感に変わってしまった。 二の腕を掴まれて、疾斗が私を引き寄せて耳打ちする。 「もう、…知らない振りなんて、出来ねぇぞ?」 沢山の人を乗せた電車が駅に近づいて、減速していく。 逃げられない 逃げたくない これから起こる事がどんな事になろうとも 私は、二人に従う道を選んでみようと思った。 電車がキキキとブレーキ音を響かせながら停止すると扉が開いて、私は人波に押されるように歩き出した。 あとがき ……………どーん! いけないと思いつつ書いてしまいました、背徳シリーズ。 濃度(?)は低いもののちょっとアグレッシブな感じ仕上がり個人的には満足。 この後三人はどうなっちゃうのでしょう^^; 簡単な絡みだけだったので、次はたっぷりと苛めてみようかと思索中です。 読んでいただきありがとうございました。 ←BACK |