〜峠道の二人〜





雑誌の記者として2ヶ月間の取材も終わり
私と疾斗は、色々あったけれどうまくいっている。

もちろんオングストロームの皆さんとも。


今日は、私の記事が掲載されたことをお祝いに
皆で集まってキャンプ場に集まってバーベキューパーティーを開いてくれるそう。




そして今、私は疾斗の車に乗ってキャンプ場に向かっている。


「それでさ、これから行くキャンプ場っつーのがさ、
山の中にあって〜、すんっげぇ〜広いんだぜ!」

そう言って、ニコニコと楽しそうに笑う疾斗の横顔を見ると
なんだか、それだけでも楽しくなってきてしまう。


「そうなんだ。皆は向こうにもう着いているんだよね?
とりあえずおにぎりと疾斗の好きながめ煮作ってきたけど
何か買っていかなくても大丈夫かな…?」


「がめ煮!?マジ?超ラッキー!……ってだからさ〜、
今日はが主役なんだから、ド〜ンと座ってかまえていればいいんだって。」

「う…、努力します。」

そ、そんな事言われても…気になっちゃうんだよね。

「何だよそれ〜、何もしないのに努力してどうするんだ……って、
おぉ!ここ、ここ!ここの峠入ってさ、しばらく行くと着くんだぜ!」

赤や黄色に色づいた木々にはさまれた道を通って、
私は、その美しさに思わずため息をついた。

「すごーい!木がトンネルみたいになってる…、きれいだね〜。」

「だろ〜?喜ぶと思ったんだ!」

私の反応に満足したのか、疾斗はにっこりと笑ってこちらを向いた。



それから、とりとめのない話をしつつ車は峠道を進んでいく。






…………。








のだけれど…。









…なんだか。


山道にらしからぬピンク色の看板や、お城みたいな建物があるんですけど…。


なんというか、その…、つまり…。

簡単に言えば恋人たちが愛をはぐくむ場所…

私と疾斗はまだ……、って何考えてるのよ私!



変に意識しちゃダメよっ!



ただの通り道なんだから、普通に通過するのを待っていれば…




、どーしたの?」



「ぎゃっ!」

突然話しかけられて、私思わず変な声を上げた。

……なんだか心の中を見られていたような気がしちゃったんだもん。



「さっきから百面相してると思ったら、ぎゃっ!って…失礼だぞ。」

疾斗はちょっと不機嫌そうに唇をとがらせて、ジロっと私をにらむ…。


けれど、すぐに心配そうな表情になって『具合でも悪いのか?』といいつつ私の額に手のひらを置いてきた。




うわぁぁぁぁ……。



いつもはおちゃらけて子供みたいなのに……。

触れられた手がしっかりとして大きくて…、疾斗も男の人だって事を思い知らされる。

やさしく気づかってくれる疾斗に比べて、
私はなんてくだらない事を考えているのだろうと恥ずかしくなってきた。

「だ、大丈夫だよ。ナンデモナイデス…。」


か、顔が熱い…。

きっと今、私の顔赤くなっちゃってるだろうな…。

疾斗に触れられるの全然慣れないんだよね。
向こうはどうだかわからないけれど、私はいつもドキドキしっぱなし。
どうしていいのか分からなくなっちゃって、ついついうつむいてしまう。


「ふ〜ん。なら良いんだけど〜…。」


横目でチラリと私のほうを見てそう言うと、疾斗はそのまま黙ってしまった。





…怒っちゃったかな?




というよりも、何か考えてる感じかな?




ごめんね?と謝ろうとした時、

前方に再び先ほど通過した物と似たような看板と建物が見えてきた…。



またっ!!?



も〜っ!何で山の中にこんなもの建てるのよ!
きれいな景色も台無しじゃない!
午前9時からフリータイム、なんてあるんだ〜…。

……じゃなくて!!

と、とにかく今の私には全く関係ないんだから気にしないようにしなくちゃ!

私はこの状況になんだか怒りすらわいてきて近づく建物をにらみつけた。





「あ、なんだよ!、入りたいのか〜?」




…………。





「……はっ?」

思わず疾斗のほうへ顔を向けると、
まるでイタズラっ子みたいな顔をしてニコニコと笑っている。

しまった!

この顔は何かやらかそうと考えている顔だ…。

「な、何の事よ?それより今日は晴れてよかったね〜…。」


「入りたいんだろ?ラブホテル。」



ラ…ラブッ……ホ……


道の左側に見えてきた建物を指差して
疾斗はいとも簡単にその建物の名称を言ってのけた…。




「な、ななな何を言って…。」

「だってさ、さっきから様子変だし。ずーっと見てただろ?」

「みてないみてないみてない!」

「俺、とだったらOKだから。…やさしくしてね?」

「……なっっ!!」



驚きのあまりそれ以上言葉に出来なくて、
私はめまいを起こしそうなくらい必死にブンブンと首を横に振った。




けれど、疾斗は『そうか、そうか』と言いながらウンウンとうなづいて

それから何をするのかと思えば……。



なんと、車を減速させながら左に寄せて

その建物の入り口に向かって左折の合図を出すと

「やっぱりさ、……二人っきりで、お祝いしようか?」

いつもの冗談っぽい言い方ではなく、そして真剣な表情でそう言った。



え、え、え…?



ちょっ…、何?


まさか。





入る気なの!?





どうしよう…。


どうしようどうしよう!?


私はうつむきながら目をギュッとつむった。




何がどうなってるの!?


心臓が壊れちゃいそうなくらいドキドキして、何も考えられない。


疾斗が『二人っきりで、お祝いしようか?』なんて真面目な声して言うんだもん。


あの声は反則だよ……。




「疾斗、……あの。」

私は勇気を出して疾斗を見つめた。


…私も、疾斗の事が大好きだから。

ちょっと早いような気もするけれど……、

でも……疾斗なら。





……って。





ん?





疾斗の肩が震えてる……?





「…………ぶっ!」


何っ!?

いきなり吹き出して笑い出す疾斗にあっけにとられていると


「わははははっ、じょ、冗談だって…」


冗談?


もしかして、

もしかしなくても、私ってからかわれてた?


ふと、まわりを見渡すとあの建物も見えなくなって

いつの間にかウィンカーも消えて、車も元の速度に戻っていた。


、かわいい!カチンコチンに固まっちゃうし……くっ…。」

疾斗がよしよし、と私の頭をなでてくる。

けど、なんか、嬉しくない…。


それよりも、イタズラ大成功!みたいな顔で笑っている疾斗をみていると

カーッと全身が熱くなって、涙がこみ上げてきた。


「ハヤトッ!!」

「は〜い。」

「は〜い、じゃないでしょ〜!」

「な、泣くなよ〜。…そんなにイヤだったのか?」

疾斗が困ったような笑顔で私を見る。


う……。

私、その困った顔にも弱いのに…。

「泣いてないし、その、…イヤっていうわけじゃ…。」


ちょっと…、そこでちっちゃくガッツポーズとってるのはどういう意味デスカ…?

 
「イ、イヤっていうわけじゃないけど、ダメ!だからね。」

「えぇ〜…。」

「えぇ〜、じゃないわよ!もう、疾斗のバカ。知らないっ!」


私は、恥ずかしいのとイジワルされた事に対しての抗議もかねて、それから無言を貫いた。





「お〜い。」

「……。」

「もうすぐ着きますよ〜?」

「……。」

「っだ〜!ホントごめんってば〜。着いたら俺の分の肉少し分けてやるから、機嫌直してくれよ〜。」

「……。」

疾斗じゃあるまいし、肉で釣られたりしないっての!

「……許して?ね?俺の大切なお姫様。」

「……っ。」

うっ……。

お姫様って何よそれ〜…。

ハズカシイ…。

「あ、赤くなった。」

ムカッ。

もしかして、私ってまたからかわれてない?

私は口を尖らせて疾斗をにらみつけた。


すると、ニコニコと無邪気なあの笑顔を見せて

「よし、じゃ〜あ〜、もうひと声!」

そう言うと、突然車の窓を開けて、疾斗はスゥーッと息を吸い込んだ。





〜っ!!大好きだ〜っ!!愛してる〜っ!!」





「わかった!わかったわよ〜…。……もうっ!急に何するかと思えば〜。」

「へへっ。でも本当の事だぜ?」

「…ありがと。疾斗の分のお肉は疾斗食べていいからね。」

「おぉ〜、マジで!?いや〜よかった。それはもう生死を分ける究極の選択だったんだぜ?」

「ふふっ。でしょうね〜。」

嬉しいけれどちょっと照れくさくて、そんな冗談を交わして、私と疾斗は笑い出す。



こんなにも愛しさがあふれてしょうがない

私と疾斗の進む道はまだ始まったばかり。

これから、何が起こるかわからないし

不安な事もあるかもしれないけれど

疾斗がこうやって、隣にずっといてくれれば平気だと思う。



一歩一歩、二人で成長しながら進んで行こうね?





――さぁ、





とりあえず今日の目的地は、もうすぐそこ――。









「なぁなぁ、やっぱり〜さっきの所、帰りに寄っちゃおっか?」


「うーるーさーいー。」








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