最強の武器














「俺達、もう会うのヤメにしない?」


……は?
今、目の前のこの男はなんて言った?


「なんか、違うんだよね。」


血管切れそう


「もっとノリの良い子だと思ってたのにさ〜。」


てゆーかキれる。

コイツと初めて会ってから一ヶ月も経ってない気がする。
そもそも付き合ってたつもりないし、コンパで知り合って二、三回お茶したくらいでなにこの態度?
医大生で高級マンションに1人暮らしだかなんだか知んないけど
親のすねかじって自立してます〜なんて顔したバカ男に
このカリナ様が惚れるかってのっ!


「ちょっと待って、そもそも私たちって…」

「今日これから、俺の部屋に来るって言うなら考えてもいいけど?」


完っ全にキれた。


「ごめんなさ〜い…。カリナ〜。」

「え?なになに?」


ほら、ちょっと甘えた声出せば目の色変えちゃって、一度地獄に突き落としたいわ。


「自分が認めたイイ男としか、セックスはしないの。」

「……へ?」

「だからぁ〜、最初からあなたは論外って言うの?自惚れも大概にしてくれない?」


ポカンと口を半開きにしたままフリーズしている男の頭に、グラスに入った氷水をかけてやった。

それじゃ、さようなら。

そう言って席を立つと私は、いつもの営業スマイルを見せてその場に背を向けた。


すると、カフェの客達が一斉にこちらに向けていた視線をはずす。
ま、そんな事どーでもいいんだけどね。
こんな事で恥ずかしがってたら、女なんてやってらんないし。













「えぇ〜!?それでフッちゃったの!?顔もイケてたし医大生よ?親は金持ちよ?何が不満だったわけ〜?」

信じらんないという表情で同じレースクイーン仲間の子にそう言われた。
周りにいた数人の子達も賛同するようにウンウンと頷いている。

「だから〜、カリナは今、好きな人がい・る・の!それにアイツ、ヤる事しか考えてないし。」

「うっわ、それって超ヒドッ〜!そんな男は風俗に行って満足してろって感じだよね?」

さっきと同じように周りにいた数人の子達が頷いた。
こんな時、なんだかここは自分の居場所じゃないような気がしてきてしょうがない。




「加賀見さんのとこ行ってくる…。」



そうよ、私には加賀見慧という大切な人がいるんだから。
どんなにウザイ勘違い男がいようとも、どんなにキモイカメラ小僧が追いかけてこようとも

私には加賀見さんという目標があるんだから。


群れの外に出てドアを閉めた途端、聞こえてくるのはさっき言っていた事とは全く違う言葉。
『てきとーにキープしとけばいいのに』『だからカリナって変なのよ』

こんな事で傷ついてなんかいられないのよ。
所詮、女の友情なんてこんなものなんだから。









女は大きく分けて二種類いる。
女を武器にして生きていく女と、女を武器に出来ないで生きていく女。

私はもちろん前者。
女である事を誇りに思っているし、この体も容姿も必死に努力して手に入れたものだもの。



欲しいものを欲しいと言って何がいけないの?
我慢して誤魔化して情けなくない?
いうなれば思いに真っ直ぐなの純粋なの。

私みたいな女が嫌いって言う女は、
大概私みたいな容姿を欲しくても手に入れられなくて悔しがってる奴。

そうよ、それが正しい答えなの。

そうやって進むべきなのよ。

その先にきっと幸せが待ってるんだから。




そう思ってた。




…あの子が来るまでは。











「カリナさん何を聴いてるんですか?」



プレス証を首から下げて、が私の隣へやって来た。
加賀見さんに会いに来たはいいけれど、なんだか急がしそうで
でも、そんな彼を眺めるだけでもよかったから、琉の歌を聴きながらピットにいた時だった。


には散々悪態をついてきた。
取材記者っていうだけの女に、どうしてメンバーの皆があれほどちやほやするのか納得いかなかったから。
何より、加賀見さん達に近づく女は気に入らない。

でも、それでもあの子の仕事ぶりに、一生懸命さに惹かれていって
そんな自分が許せない反面、揺れる感情が歯痒くて。

私とは正反対な人間とも言えるの事を、悔しいけどもっと知りたい、と思ったんだ。



「ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」

「なんですか?」



「ある女がね、花屋の前で綺麗な花を見つけたの。」

「……はい。」

「一本だけでいいからその花が欲しいの。でもお金を持ってなくて。」


はただ静かに頷いて私を見つめる。


「欲しくて欲しくてしょうがなくて一本の花と引き換えに店の男と寝ちゃうの。」


何故だか声が震えてくる。


「あなたは、この女の事どう思う?」


多分、分かってるからだ。

にこれを聞いたら、今までの私が崩れていくかもしれないという事。



本当はそう望んでた事

本当は気がついていた事



「……とても欲張りな人だと思います。」



聞こえてくるのは、真っ直ぐで強い意志のこもった声。


「どうして、そう思うの?」


どうして、私は聞いてしまったの?


「たった一本の花なのよ?その程度の事が欲張りなわけ?」

「…あの、でも数は問題じゃないと思います。」

「じゃあ、寝る事がみっともないって事?」

「そういう事でもないです。」

「じゃあ、……。」


じゃあ、なんなのよ。
そう言おうとした口は途中で止まったまま、動こうとしてくれない。


「……私は、欲しいからといって何をしてもいいとは思いません。」

「ただ、自分の気持ちに正直なのよ。」

「それは、正直とは違うと思います。」


初めてが私の言葉に反論した。
今まで、どんな事をしても攻撃的な言葉なんて返してこなかったがだ。

次の瞬間ハッとして『すみません』と頭を下げるに、胸が締め付けられる。


「いいのよ、続けて。」

「…あの、何ていうか、それは欲に感情を操られてるだけだと思うんです。」

「理性がないって事……?」

「はい。って、私も衝動買いしたりするんで偉そうな事言えないんですけどね…。」


えへへ、と恥ずかしそうに笑うは、どこか温かい。


「本当に欲しいんだったら、努力して手に入れたほうが気持ちいいじゃないですか。」

「ふーん…。」


温かくて、居心地が良すぎて苦しくなる。

着飾っていた私の醜さが露にされたようで

心のどこかでそう思い続けていた私が何かを脱ぎ出したようで。


「やっ!あの…べ、別に、気持ちいいって…変な意味じゃないですよ!?」


黙り込んだ私を見つめるは、何を勘違いしたのかしどろもどろになりながら間抜けな事を言い始める。
私は思わず吹き出して、恥ずかしそうに俯くを見つめた。


「バカね。そのくらい分かってるわよ。」

「そっ、そうですよね…すみません。」


の事が気に入らなかったのは、きっと私が欲しいものをもっていたから。
悔しいけど、もう認めるしかないわ。

私は、の事を嫌いじゃないって。


「あの…カリナさんは、どう思ったんですか?」

「…残念ながら、…あなたと同じよ。」

「そうですか。」


嬉しそうにが微笑むのを見て、つられて私まで笑ってしまう。
ついこの前来たばかりの記者のクセに、ホントに変な子。



「この前、加賀見さん達に差し入れ持って来てたでしょ?」

「あ…はい。取材の時に好きな物を教えてもらったんですよ。」

「誰かの事、狙ってるからじゃないの?」

「いえっ!本当にお世話になってるからというだけで…そういうつもりでは…。」


「そぉ〜お〜?でもやけに力の入ったのもあったみたいだけど〜?」

「なっ!えっと…でも…その、なんていうかですね…。」

「前にカズさんが、さんイイコだよね。とか言ってるのカリナ聞いちゃったのよねー。」

「えぇっ!ほ、本当ですか?」


みるみるうちに顔を真っ赤にする
そして、すぐにしまった…という表情をして、うらめしそうに私をジッと見つめてくる。


「…やっぱりね。」


勝ち誇るようにそう言ってみせると、は『内緒ですよ』と降参した。

この子がライバルだったら本当に強敵だったわね。
まあ、負ける気は全っ然ないけど、良かったわ。


「カリナさんこそ、今度誘ってみたらどうですか?」

「え?」

「加賀見さん、釜飯系好きらしいですから、ご飯食べに行きませんかとかって…変ですかね?」

「そうやって誘ってデートしてるわけね?」

「えぇっ…あの…デートっていうか、二回くらい二人でお逢いした事は…。」

「なによ!カリナだって頑張れば釜飯くらい作れるわよ!」


なによそれ
なによこれ

まるで仲のいい友達みたいな会話じゃない。
なんで私こんなに、楽しいのよ。


「え、あ…はい!応援してます。」

「…だから今度、作り方教えなさいよね。」


欲しかったら努力して手に入れろ…ね。


上等よ。


あなたと仲良くなれるならいくらでも努力してやるわ。



「え、私でいいんですか?」

「あなたが、いいのよ。見てなさい、加賀見さんの事びっくりさせちゃうんだから!」






そう言って見つめた先に映るのは、嬉しそうに頷くの笑顔。



私のホントの気持ちを分かってくれる、そんな最強の笑顔――。











あとがき
えー、ゲームとは違う感じの内容でございます^^;
かなーり前からかりなの話を書いてみたくて、しかしながらなかなか文章に出来なくてやっとこでした。
一度でいいからカリナと慧のくっついた話を読んでみたい…。
もしかしたら続きを書くかもしれません(笑)。
あー、でも書きたかった事の三割も書けていない気が…_| ̄|○
ドンマイ、自分。

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