PRINCE OF A CAR 〜航河編〜






「……おい。」




捕まれていた腕が、やっと解放された。
その男の腕を引き剥がしてくれたのは…、グレーを主調としたレーシングスーツを着た人…。


――航河だ!


私が見上げたそこには、やはり恋人の航河の顔が目に映った。

その鋭い瞳は、男を威圧して
そのたくましい腕が、私を捕んでいた男の腕を押さえつけて
引き剥がした事を確認するとその腕を切り捨てるかのように投げた…。

よかった…。
航河が…来てくれた…。
緊張の糸がプツンと切れたように、安心した私は思わず涙ぐんでしまった。




「……行くぞ。」

私の手を優しく握ってくれた航河は、ぐいっと自分のもとへ引っ張った。




航河の勢いにしり込みをしていた男は、ハッと我に返ったかと思うと

「ちょっと、待てよ!」

そう言って航河を睨みつけ、仁王立ちしてみせる。



航河は不機嫌そうにピタッと立ち止まると

「……用があるなら、俺が聞く。さっさと言え。」

私を自分の後ろへ隠して守ってくれた。
まるで王子様のようだと思った。
私はこの人じゃなきゃ…、航河じゃなきゃ……。


――航河が、好き。


「俺は今、この子と大事な話の途中なんだよ。邪魔しないでくれる?」

チッと舌打ちをした男は、長身の航河を見上げ航河に近づく。

そんな男の態度に苛立った航河は、突然男の胸ぐらを掴む。

「……邪魔なのはお前だっ。」

「…っく、くるしっ……。」

「さっきから断ってるだろ…。…これ以上こいつに近づいてみろ、俺が容赦しない。」

ドスのきいた声に恐れをなした男は、小さな声でわかったと言って
航河の手が離されると同時にどこかへと消えてしまった――。








「こう…が……きゃっ。」

話しかけようとした瞬間、航河は無言のまま私の手を引いて歩き出した。

…怒ってる?

前方をじっと見つめたまま、何の言葉も発してくれない。

航河?
ねぇ、航河。
何を、考えているの?
……航河。

航河の横顔を見つめながら、不安に思っていると

「こっちだ…。」

表情をくずさずにそう言って、誰もいない階段の踊り場へと私を導く…。






「航河…あの、…ごめんね?」

「…別に、が謝る事じゃないだろ?」

「う、うん。」

「……どこだ?」

「え?」

「……触られた場所。」

握っていた手を離すと、航河は私の腕を掴む。
何が何だかわからない私は、首をかしげながら腕だけだよ?と言った。

すると、私の腕に航河が顔を近づけてきて口づけをした…。


「……っ!?」


服の上からだけど腕に航河の熱が伝わってきて

私の胸は早鐘をつくように高鳴った。


瞳と瞳が合うと、航河は私の腕から唇を離し

今度は、力強く私を抱きしめて唇を奪う――。





深く



深く交わされる口づけには、終わりが見えなくて…、
しだいに、全身の力が抜けていく私は、
倒れこんでしまわぬように、必死に航河の服にしがみつく。



名残惜しそうに唇が離されたころには
意識が飛んでしまいそうなくらいで
息を整えるのに精一杯の私を見つめている航河は

「……消毒だ。」

そう言ってクスリと笑顔を見せた――。













「航河、助けてくれてありがとう。」

「おう。…ただ、さっきみたいな事があったら、困ったら、すぐ俺を呼べ。」

「うん!」

私はそんな事めったにあるわけないと思いつつ、笑顔でうなづいた。

「…ただし、今回は俺を呼ばなかったからペナルティーな。」

「えぇっ!?」

「…ふっ。レースが終わったら、覚悟しておけよ?」

優しい瞳を見せてイタズラっぽく笑う航河は、私の髪をそっと撫でた。

「あ、あのねっ?呼ぼうとしたら航河が来てくれたの……ダメ?」

「ああ、ダメだな。」

どんな罰則が待ち受けているのかと不安で、しゅんとうなだれていると

「大丈夫だ、怖くはない。…俺の言う事をきちんと聞いてくれれば、な。」

耳元でそっと囁かれる。

そんな事言われても、私のドキドキはおさまりそうにないかも…。




「…行くか。」

航河は少し照れたように目線を外した航河に笑顔でうなづく。

そして、私と航河はオングストロームのピットへと向かって、ゆっくりと歩き出した――。











ちなみに、ペナルティーがどんなものだったかは……






二人だけの秘密――。











・あとがき・

い、いかがでしたでしょうか?(汗)
無口な彼を表現するのは難しいですね(´Д`;)
でも、それが航河の魅力ですよね。
あの顔と声で「なんでやね〜ん」とかペラペラしゃべってたら恐ろしいなぁ…。

←BACK