PRINCE OF A CAR 〜慧編〜









、どうかしたの?」






後ろから肩をぽんと叩かれて、私はハッとする…。
私はこの声を知っている。

だって、この声は…





「慧!」




大好きな彼の声だから。




振り返って慧の姿を確認すると改めて安心する。
その顔がまるで『もう大丈夫だよ』と言っているように微笑んでいて…。





「加賀見…慧!?」

ここにいるレーサー達の中で知らない人はいないであろう人物が現れて
びっくりした男は私をつかんでいた手を離した。

それを見計らって慧は、私の体を自分のもとへ引き寄せた。

慧…。
嬉しいけれど…その、腰に手を回されると……。
そんなに身体を密着させると…何も考えられなくなっちゃうよ〜…。





「彼女が、どうかしましたか?」

慧はあくまで紳士的な態度で男に接している。

「へ?いや…、別にお茶に誘ってただけ…。」

間の抜けた顔で男は慧と私の顔を交互に見ている。

「そうなの?。」

「でも、ちゃんとお断りしました!」

「そう。」

私を見下ろして優しく微笑む顔が近くて
久しぶりに会えたこともあいまってドキドキする。
なんだか慧から目が離せない……。



「もしかして、二人は…付き合って…?」

まだ間の抜けた顔の男は、先ほどの勢いはどこに行ったのか
まるで、借りてきた猫のよう。

「それは、君に教える必要はあるのかな?」

「…なっ!」

「君は彼女をお茶に誘って、あわよくば彼女をものにできるとでも思ったのかな?」

「わからないじゃ…ないですか。」

慧の、男を見る目が鋭くなって…
慧は、男の態度をせせら笑いながら、私の身体を優しく撫でてきた。

「…っけ、け…い…。」

まるで魔法をかけられてしまったかのように、私の身体から力が抜けていく。

いつもだったら、人前でこんなことしないのに…。
もしかして…、慧、嫉妬…してる?
私には慧しか見えないのに…。

「そう、そうかもしれないね。
でも、僕を知ってしまった彼女を…君は満足させられるかな?」

男にそう言い終わると、私の耳にわずかに触れる距離で
慧の唇が『立っていられなくなっちゃった?かわいいね』と囁く…。



艶のある声が、私の体中をかけめぐって全ての回路をシャットダウンさせる。

途端に足の力が抜けて

「大丈夫?」

私はクスリと笑う慧に、ふいに抱き上げられた。


こっこれは…
お姫様抱っこ!?

「慧っ!大丈夫、は、恥ずかしいから降ろして?」

「歩けるの?」

「う……。」

「じゃあ、このままでいいんだよね?」

慧、もしかしてこうなる事分かっててやってない?
満足げな慧の胸の中で、敵わないとため息をこぼす。




「お、おい!」

男の存在を忘れかけ…、いやすっかり忘れていたところに
所在なさげの男の声が聞こえてきた。

「ああ、まだいたんだね。悪いけれど、彼女を君に渡すわけにはいかないんだ。」

棘のある声と、突き刺すような目で、慧が男を威嚇する。

「今度彼女に近づいたら、君に何をするか分からないくらい、僕は彼女に溺れているからね…。」

ひるむ男に最後の一言をおくって、慧は私を抱きかかえたままピットへと歩き出した――。










ピットに着くとメンバー達がギョッとした目で私達を見ている…。
そりゃそうだよね…、いきなりお姫様抱っこで登場だもん…。

「か、加賀見さん、どうしたんですか?」

「ああ、彼女少し熱かがあるみたいでね。応接室かりるぞ。」

「そうなんですか!?今、誰もいないんで使ってください。」

熱なんてないのに…。
心配そうに見つめる皆さんの視線が痛い…。




バタンとドアが閉じると、慧はやっと私をソファーに降ろしてくれた。

けれど…

正面からまるで覆いかぶさるように私を見つめる慧からは…逃げられそうにない。


、気をつけないとダメだよ?君はその魅力で、いろんな人を惹きつけてしまうんだから。」

「そんな、私なんて…。それに、私には慧がいればそれでいいの。」

「…本当?」

慧の瞳がキラリと光ったことに気づかずに、私は『本当だよ』とうなづく。

「じゃあ、証拠…見せて?」

「証拠?」

「今ここで、君から僕にキスしてくれたら信じられるかも。」



キスっ!?
私から!?
私の顔がみるみるうちに赤くなる。



「さぁ、…どうする?」

イタズラっぽく笑う慧は、私の顔に少しだけ近づけてくる。

そんな顔されたら嫌なんて言えるわけないじゃない…。

「目、…閉じて?」

「ダメ。そんなもったいないことできないよ。」

「イジワル…。」

「こんな僕は嫌い?」

「もう、…わかってるくせに。」

慧の首に両手を回して、私は勇気を振り絞って彼の唇に口付けをした……。





「熱は、下がったかな?」

熱い口付けの後、慧はソファーにもたれかかる私の髪を優しく撫でてくれる。

「え…?熱なんて…」

ないよ?と言おうとすると

慧の大きな手が私の内腿に移って『こっちの…熱』とクスリと笑った。

「……っ!?」

おさまるわけないじゃないと言いたかったけれど

何だかまた慧の策略にはまってしまいそうだったから

慧には絶対に、教えてあげないと心に誓った。







でも結局





そのあと、見事にその誓いは崩れ去られててしまったんだけどね…――。












あとがき

いや、なんていうか…
ただのエロい兄ちゃんになってしまったような気が…(汗)。
最後まで見てくださったさんありがとうございました。

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