メ・ン・テ・ナ・ン・ス









「加賀見さ〜んっ!おつかれさまですぅ〜。」




オングストロームのピットに、いつものように甲高いカリナの声がひびいた。



小さなテーブルを囲んで座っている中にカリナは、がいるのを見つけ

「あら、来てたのね。」

と、以前よりも柔らかな表情で笑顔を見せた。




はそんなカリナの態度にホッとしたのか、嬉しいのか、立ち上がってお辞儀をした。

「こんにちは!私、今ちょうど来たところなんです。

ハーブティー作ってきたんで、カリナさんももしよかったらどうですか?」

「そうねぇ〜。じゃ、いただこうかしら。」

の隣に座っていた和浩は、もう一人分のイスを用意しカリナにどうぞとやさしい笑顔で渡した。




「カズさん、気がきくぅ〜。

そういえば、中沢さんの姿が見えないんだけど…。」

イスに腰掛けながら、カリナはあたりをキョロキョロと見回した。



「ああ、航河ならさっき少し休むと言って応接室のほうで休んでいるよ。」

「そうだったんですかぁ〜。きっとお疲れなんですねぇ〜。」

慧の言葉に、一段と高く甘い声で返事をするカリナに対し

疾斗が攻撃を開始する。

「ホント、ホント、誰かさんの相手してるとマジで疲れちゃいますよねぇ〜。」

「ちょっと!ハヤト君、何が言いたいわけ?」

「べっつに〜。」

「だったら〜、静かに座っててくれない?大切な休憩時間を無駄にしたくな・い・の!」





だんだん険悪になってきた雰囲気を、改善しようとはカリナにハーブティーを渡した。

「カ、カリナさん、これどうぞ〜。疲労回復、お肌にもいいんですよ。」

それを受け取り機嫌を直したカリナは、少し感心したようにうなづいた。

「へ〜、さんハーブに詳しいのね。」

は恥ずかしそうに、そんな事ないですよと笑った。

「フフッ。カズの影響大、かな?」

からかうようにそう言うと、慧はと和浩の顔を交互に見た。






「なるほど〜!さんとカズさんって付き合ってるんだもの、ねぇ…。」

と和浩は、恥ずかしそうに、でも幸せそうに顔を見合わせ笑った。

「いいわねぇ〜、ラブラブなのねぇ〜。」

カリナは羨ましそうに二人を見つめ、あ〜あとため息を吐く。

「カ、カリナさん?」

が困ったような表情でカリナを見つめていると

突然、カリナは慧の腕に自分の腕を絡みつけ

ウルウルさせた瞳で慧を見つめた。

「あ〜ん、カリナもラブラブになりたい〜。ね?加・賀・見・さ〜ん。」






「え?…あ、そうなんだ。なれるといいね。」

慧はどうしたものかと戸惑いつつも、平静な態度で笑顔を見せる。

「あ〜ん、そういうことじゃなくて!カリナがラブラブになりたいのは〜…」

慧の返事が自分の想像とかけ離れていた事がもどかしくて、カリナは手足をバタバタさせた。

「てゆーかさ、お前にはムリだって!

カズさんがケガした時、カズさんの右腕になっちゃったんだぜ!?

やっぱり愛だよな〜。カズさんそうッスよね?ね?」

疾斗は腕を組んで、ウンウンと自らの言葉にうなづいている。

和浩は、話題がそれた事にホッとしている慧を見て苦笑している。


「ちょっと!ハヤト君それどーゆーイミよ!?」

カリナは、眉間にこれでもかというほど皺を寄せて疾斗をにらみつける。

「そのまんま、そ〜ゆ〜イミで〜す。」

下をべーっと出しておちゃらけながら疾斗がそう言うと

カリナは白く細い手をテーブルに叩きつけて、唇をとがらせた。

「ほんっんとにかわいくないんだから〜!」




「ふふふっ。」

「ちょっと、さん。何がおかしいの?ここ、笑うところじゃないわよ!」

そんなやり取りを見てニコニコと笑うを、カリナはジロリとにらむ。

「あ、ごめんなさい…。何だかとても息が合っていて仲よさそうだったから、つい…。」


「「どこがっ!」」


カリナと疾斗の反論の言葉がピタリと重なり合い

お互いにそれが気に入らなくて、二人はフンッとそっぽを向いた。





「そ・ん・な・こ・と・よ・り・!」

カリナは、チッチッチと人差し指を立ててニヤリとに笑いかけた。

「ちょ〜っと聞きたいんだけど、いいかしら?」

「な、何でしょう…?」

はその勢いに後ずさりするが、カリナはの隣にピタリとくっついている。

さん、カズさんと…どこまで進んでるの〜?」

「なっ!?どっ……えぇっ!?」

いきなりの話題に、は思わず和浩とカリナの顔を交互に見て、すっとんきょうな声を上げた。

「ぼ、僕は、黙秘させてもらいまーす…。」

和浩は困ったように笑いながらそう言うと、ごまかすようにハーブティーを口にした。

「私も!黙秘!黙秘しますよ〜。」

顔を真っ赤にしながら、は和浩に同調するように首を縦に振った。



「黙秘ぃ〜?二人とも、なんかやましい事でもあるのかな〜?」

面白そうなこと大好きな疾斗は、当然このやり取りに首を突っ込で来る。

「カリナさんっ!鷹島さんまで〜!」

の言葉を無視して、カリナと疾斗はとんでもない事を口にした。

「二人とも、奥手っぽいしぃ〜、どうなのかしら?って心配してるのよ〜。」

「いや、そうとも限らないだろ〜?大人の男と女が付き合ってる訳なんだからさ〜。」

「やっだ〜!ハヤト君ってば〜。でも、それもそうかもしれないわね〜。」

さっきまでの険悪な二人は何だったのか!?というくらい

カリナと疾斗は、あーでもないこーでもないと話をどんどん盛り上げていく。

この二人が組むともう誰にも止められないと、は半ばあきらめた表情でため息を吐いた。






「ねぇねぇ、さん。もしかして、カズさんがメカニックだからって、

カズさ〜ん、私をメンテナンスしてぇ〜!なぁ〜んて、言ってるんじゃないの〜?」

そう言って、カリナは頬杖をついたままに視線を向けた。






ぶーーーーーーっ!!!






あまりの突然さに和浩は口につけていたハーブティーを、勢いよく吹き出した…。



カリナの言葉に固まってしまったは、

まさか和浩がその言葉にそんな反応するとは思わず、驚き、よりいっそう固まってうつむいた。

「……ッゲホッ、ゲホッ。」

涙目になってむせている和浩に、ずっと黙っていた慧が大丈夫か?とタオルを差し出した。



静まり返ったこの状況に、ちょっとやり過ぎちゃったかしら?とカリナは

「あらっ、そろそろ戻らなくちゃ〜…。忙しくてやんなっちゃ〜う。」

ごまかすようにそう言って、そそくさとピットを後にした――。

そして残されたメンバーたちは、えもいわれぬ気まずい雰囲気に包まれてしまう。







「カズさ〜ん、大丈夫ッスか〜?」

疾斗がヒョイと和浩の顔を覗き込むと

「こら疾斗、からかうにも程があるぞ。」

腕を組みながら威圧する慧にギョッとして

「お、俺ッスか〜!?ちょっ、ちょっと待ってくださいよ〜。」

疾斗は思わず自身を指差しながらしり込みしてしまう。




するとそこへ、応接室で休んでいた航河が戻ってきた。



「…よう、来てたんだな。」

このギクシャクした雰囲気に疑問を抱きつつ、航河はに挨拶をした。

「あ…中沢さん、こんにちは。」

は何とか笑顔を作ってみせる。


「…カズ、どうした?」

「あ…、いや、なんでもないよ航河。ちょっとこぼしちゃって…はは。」

少しばつが悪そうな和浩は、タオルで濡れた場所を拭きつつ、をチラチラと気にかける。

慧に怒られた疾斗はしょんぼりとうなだれ、いじけている…。







は何だか急におかしくなってきて肩を震わせた。

自分には事実無根の、ただからかう材料として用いられただけの話に

大体、何故こんなにギクシャクした雰囲気になってしまったのか?

しかも、和浩までもが驚き慌てふためいてお茶を吹き出してしまい

あまつさえ、むせこんで涙目になってしまうことなんてめったに見られるものじゃない。

「ふ、ふふっ…くっ…。あはははは。」

突然笑い出したに、4人は何が起こったのかとびっくりしている。

「……さん?だ、大丈夫?」

和浩が心配になって話しかけてみると、は可愛らしい笑顔を向けた。

「だ、大丈夫。ご、ごめんなさい。何だかよく考えると

何でこんなにギクシャクしちゃってるんだろうっておかしくなっちゃたんです。

カズさんはハーブティー思い切り吹き出しちゃうし…ふふふっ。」



の笑い声に、彼らの周りの空気までもが浄化していくかのように

ギクシャクした雰囲気も薄れていき、メンバーたちも笑い出した――。






「じゃあ、丸く収まったところで休憩も終わりにしようか。航河、疾斗こっちに来てくれ。」

ニコッと和浩に目配せした慧は、席から立ち上がって皆に指示を出し始めた。

「ラジャ〜!」

「……わかりました。」





「ごめんね?何だか変な事になっちゃって…。」

和浩は優しいまなざしでを見つめた。

「カズさんが謝る事じゃないよ。それに、貴重なカズさんの姿も見れたし。」

「あ〜…、またそれ言った。何だか今日のさんはイジワルだな〜。」

和浩は恥ずかしそうに頬をかいた。

「えへへ、ごめんなさ〜い。でも、たまにはいいでしょ?」

は、ペロッと舌を出して笑顔を見せた。

その可愛らしい笑顔を見てしまえば、なんでも許してしまいそうだなと

和浩は、嬉しそうに困ってみせた。




「じゃ、そろそろ僕も仕事に戻らなきゃ。ゆっくりしててね。

…あ、そうだ。」

そして、そう言うと何か思いついたのか手を打ち

いい事を教えてあげるから耳を貸して?とニッコリと笑った。


は何?と楽しそうに耳を近づけてみると……







「今度、さんのメンテナンス…してあげるね?」






耳元で優しく囁くと、和浩は愛しそうにその耳に一瞬口付けをした。






「ふぇっ……!?」

は触れられた耳を押さえると、見る見るうちに顔を真っ赤にさせた。






「なんちゃって。あはは。からかったお返しだよ〜。たまには、いいでしょ、ね?。」

和浩は手をひらひらと振って、車の方へと姿を消した。






「……かなわないなぁ。」

その場に一人残された は、耳に残る和浩の温もりを感じながら、
愛しげにそうつぶやいた――。





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