メープルフレーバー 「あま〜い!」 は白と琥珀色の混ざったソフトクリームを口に含むと、この上ないほど幸せそうに顔をほころばせた。 口の中で広がるミルクのコクと、メープルの芳しく甘い香りに は口に含んでは溶けていくその感覚を楽しむように、何度もソフトクリームを口に運んでいく。 「太っちゃうんじゃなーい?」 助手席に座るの隣で、琉はハンドルを握り、車を走らせながら 横目で恋人の幸せそうな顔をチラリと見ると、からかい半分でそう言って意地悪く笑ってみせた。 琉の言葉と同時にピタリと動作を止め、は苦悶の表情を浮かべソフトクリームと睨めっこを始める。 「こんな深夜に近い時間なんて…特にねぇ〜。」 わざとそう付け加える琉は、おあずけをくらった子犬のように切なげに目を潤ませるに堪えられず吹き出した。 「ぶっ…っくく、冗談だよ。」 「……いじわる。」 「だって、あまりにも幸せそうな顔してたからさ。」 「そもそもコンビニに行こうって、琉が言ったんでしょ。」 「別に俺は、ソフトクリーム買いに行ったわけじゃないし。」 「……だって、メープルソフトなんて初めてだったんだもん。」 「そうだねー、メープルソフトがいけないんだよねー。」 「……もう、いいもん太ったって。」 と拗ねながら開き直るが、再びソフトクリームに唇を寄せるのを見ると 「大丈夫、俺はちゃんが太ろうが、おばあちゃんになろうが好きだから安心して。」 琉はフロントガラスの先に視線を移し、穏やかに笑ってそう呟いた。 「メ、メープルシロップってさ、楓の樹液で出来てるんだよね。不思議だな。」 『好き』という琉の言葉が恥ずかしくて、はそれを誤魔化すように早口で捲くし立てる。 「メープルっていえばカナダだっけ。ソフトクリームといえば…どこだろう?」 まるで独り言のようなの言葉に、琉は可笑しそうに『そうだね』と相槌を打つ。 「イタリアはジェラート、だよね。あ、でもよく言うよねソフトクリームといえばあのコンビニって。」 あはは、と無理に笑うはいつに無く饒舌で、琉と目を合わせようとしない。 口説くとそうやって恥ずかしがる癖が、まるでアノ行為に至るまでの雰囲気を連想させて タイミングよく信号機が黄色から赤に変わるのを見て、琉はむくむくとわき上がる感情を解放させた。 「、俺にもひと口ちょうだい。」 ブレーキを踏み込んでそう言うと、琉は停止線手前で車を止めた。 サイドブレーキをひいてハンドルから手を離すと、を見つめ微笑む。 「いいよ、はい。」 が優しい眼差しでソフトクリームを持った手を差し出す。 その手のひらを優しく包み込んで、琉はふわりと柔らかく冷たいそれを舌の上にのせた。 口の中でいとも簡単に溶け始めるソフトクリームは、甘くその形を変えていく。 優しく香るメープルフレーバーは、まるで心の中にまで沁みこんでくるようで琉の感情を揺らした。 琉がと目を合わせると、少し照れた様子のに じっとしてなんていられないといった感じで、からソフトクリームを奪い取る。 キョトンとするを余所に、琉はもう片方の手をへと伸ばし 柔らかい髪を指に絡ませながら、後頭部へと当て自分の元へと引き寄せた。 「…………りゅ……っ!?」 目を丸くして驚くを無視して、琉はの唇へ吸い寄せるられるように口づけ 冷えたの唇を、温めるように舌でなぞっては唇を重ねる。 繰り返すその行為で熱くなる唇に満足すると、甘く痺れる舌を口内へと侵入させていく。 絡まるたびに溶けてしまいそうな舌に、は抵抗する事を忘れるほど翻弄されてしまう。 「……ふっ……んっ……。」 艶美な声の中に現れた魅惑的なの吐息に、琉は思わず深くまで貪り続けた。 「……甘いね。」 琉の言葉がこの口づけをより甘くさせているんだと、の胸に愛しさが募っていく。 「琉の方が…甘い。」 しばらくの間味わった唇を名残惜しそうに離すと、琉は信号が青に変わるのを確認し再び車を走らせた。 触れられた部分が熱く痺れ、まるで溶けてしまったような感覚に陥るは 手元に戻ってきたソフトクリームを見つめ、ただ琉の熱の余韻に酔っていた。 そんな見るともなく見ていたの視界の端に映る、ギアを握る琉の手が の膝の上へとそっと乗せられて、途端に触れられた場所が熱を持ちジリジリと胸を焦がしていく。 「…まるで、ソフトクリームみたいだね。」 「…………え?」 両足の間に割り込むように琉の指がの膝をゆっくりとなぞり、は堪らず体を跳ね上がらせた。 空いた片方の手でそれを阻止しようとが琉の手に触れると、その手はすかさず合わさり 躊躇うを余所にしっかりと指と指を絡め合ってきて、そのまま琉は言葉を続ける。 「…柔らかくて。いつも甘い…いい匂いで。」 「……りゅ…う…。」 「俺が触った場所も、キスした場所も…すぐに溶けて、もっと欲しくなる。」 「琉…やっ…そんな事……。」 「ん?」 「だめ…そんな事…。」 「……どうして?」 「……どうしても。」 「ふふっ、嬉しい?」 「そろそろ…家に着くよ。」 「あー、ずるい。誤魔化すなよ。」 マンションの近くまで来ると、琉は重ねた手を離しギアを握りなおす。 シフトダウンして駐車場へ入ると、離れた距離を縮めるように素早く車を止めた。 溶けてしまいそうなソフトクリームを握り締め、黙りこくったを切なげに見つめ、琉は言葉を発する。 「全部溶けないうちに部屋に戻ろう。」 車の鍵を抜いて静まり返った車内でそう呟くと、琉は半ば強引にを抱き寄せて唇を重ねた。 胸を貫く琉の口づけに、は素直に従う事しか出来ない。 唇を離して見つめるの顔は、何もかもを忘れたかのように恍惚として。 確かにその表情を引き出したのは自分だと分かっていても、琉はに溺れていく。 「じゃないと…おかしくなりそうだ、俺。」 は、愛しい恋人の言葉に小さく頷き微笑んだ。 あとがき 近所のコンビニにメープル味のソフトが売っていまして、こんな妄想してみました。 琉のお話は車に乗っているものが多い気が…(汗)。 なんだかこのまま裏に行ってしまいそうな内容ですがここまで。 後は皆様のご想像にお任せいたしますです。 ←BACK |