「君が、高橋君?」 驚き戸惑い体を固める高橋君に、琉は殺気立つ笑顔で言葉を発する。 「どうも、ヒモ男の腐れミュージシャンです」 「……え?…あの…えっ?」 「ああ、セックスが良すぎて離れられない。ってのは当たってるかな?」 ねえ?。 琉がゆっくりと私の方を振り向いて、慈しむように、同調を求めるようにそう私の名を口にした。 何を考えているの? 今起こっている事態が、琉にとってマイナスになる事、私にだって分かる。 状況を把握したのか蒼白になった高橋君は、目を見開いて私と琉を交互に見比べ口をパクパクさせた。 「君、学生の頃からあんな感じなの?」 誰もが皆、突然の即興劇に口をあんぐりと開け、食い入るようにその役者達を観賞している。 「がどれだけ傷ついてるか分からないクセに。そんな事しても、なびく訳ないってそろそろ学んだ方がいいよ」 どういうこと? 嘘、マジで? 他人事の会話が、私の心臓をこれでもかというほど圧迫する。 それでも、琉は早口で次から次へと捲し立てていく事を止めない。 「昔の感情を思い出して惜しくなった?」 「"女"になってるこいつが欲しくなった?」 「悪いけど俺のだから」 だから 「に近づくんじゃねぇ」 あの繊細で誰もが心惹かれる歌声とは裏腹な、どす黒い感情を身につけた琉の最後の言葉に 何をするか分からない危うさ、特別も弁別もなく同じ世界にいるミュージシャンに誰もが圧倒される。 それを一番感じていたのは、私自身なのかもしれない。 「行こう」 息をするのも忘れてしまいそうな感覚に陥って、呆然とする私の手を握って琉は歩き出す。 琉の感触に、琉の熱に、覚醒した私は慌てて自分のバッグを手にして戸惑いがちに琉の名を呼んだ。 けれどそれは、あまりにも掠れ過ぎていて琉の耳に届かず 引っ張られる手は離される事なく、必然的に私は琉の後をついて行く事になる。 「それじゃー皆さん、お騒がせしました〜」 出入り口の前で一度だけ振り返りそう明るく振舞う琉は、そのまま手を離す事なく歩き出す。 不夜城と化した街の中で、包み隠さぬ琉にすれ違う誰もが『本物?偽者?』と面白半分に視線を注ぐ。 私は堪えきれず、絡まる指を解こうとするけれど 逃れようとする度に押さえつける強さが増し、不可能な事を思い知った。 「琉、帽子は?」 「ああ、忘れちゃった。眼鏡も」 どうでもよさそうな言い方に、それ以上何も言えなくなってしまう。 あのトンネルのような階段を降りて、地下スタジオの中へ戻れば あの短い時間で起こった出来事は、嘘だったように静まり返った。 辺りを見回すと先程までいたメンバーやスタッフの姿は消えていて 床に置かれた楽器や機材は部屋の隅へと寄せられ、沈黙が部屋を覆う。 アーティスティックな室内は、日常とかけ離れていて心の中の何かが喪失し、迷子になった気になる。 「あー、スッキリした」 琉はこの部屋に馴染んだ、黒革張りのソファーに体を沈め口を開き ソファーの前で立ち尽くす私の腕を掴んで、自分の隣へと私を引き寄せ座らせた。 「ごめん」 「なんで謝るんだよ。お前は悪くないだろ…それとも、やましい気持ちでもあったのかよ?」 「違うっ。…けど、もしこの事が表沙汰になったら」 「この事って、俺がと付き合ってるって事?高橋君にタンカ切った事?」 「……どっちも」 「別に俺、隠してるつもりないし。好きな女にちょっかい出されて黙ってられるかよ」 悪びれる風もなく喋る琉をチラリと盗み見ると、背もたれに寄りかかり天井を仰ぎ見ている。 嬉しかった、地位や身分を省みることなく、真っ直ぐに進む琉が。 でも、そんな危うさが不安を誘い胸を締め付ける。 「、俺から離れようとしてる?俺が嫌になった?」 抑揚をつけず、ただ棒読みするそのセリフは、何よりも感情的で苦しげで。 「違うっ…ただ、自信がないの」 私は、琉に不安を与えていた事を、今更ながら知る。 「自信?何をそんなに怖がってんの?」 「もっと…頑張らないと、琉に相応しいように…」 「………………」 「もっと自分に自信が持てるように変わりたいの、でも…何も変わってなくて」 「………それで?」 「友達は結婚したり、仕事で成功したり。でも私に誇れるものってあるのかな?って」 置いていかれちゃったみたいで…焦るの。 まるで子供のように小さく呟いて、俯きいじける私に 琉は背もたれから体を離して、私を見つめ優しく諭すように問いかける。 「俺はがいないと、もうだめ人間になる絶対。それじゃ〜ダメ?」 「………でも」 琉の腕がそっと私の肩へ乗せられて、温かい琉の体温に緩んだ体が引き寄せられた。 「お前は凄いよ。この琉ちゃんが、こんなにメロメロになっちゃってんだから」 時々思うよ。 あーなんで俺、こんなにの事好きで、こんなにも苦しいんだろうって。 誰かの、何かの特別になるって、本当に凄いと思うよ。 それこそお前の言う、"誇り"なんじゃない? 俺を惚れさせたお前の中には、やっぱり良いモノが沢山詰まってる。 その良いモノだってちゃんとした"誇り"でしょ? ただ、お前は今、見失ってるだけ。分かったかな〜? 自信に満ちた、これが正しい答えだと、そんな顔をした琉に目頭が熱くなって 私は『うん。そうだね』とだけ答えると、顔を琉の肩に押し付けて泣きそうな自分を隠した。 肩を抱く腕の力が強まって、琉は優しく私の頭を撫でる。 額に、耳に、頬に、琉の唇が何度も触れてくる。 「ねぇ、…俺はまだ違う世界にいる男?」 ゼンマイを巻き終えた人形のように、私は精一杯首を横に振る。 そんな事もう思わない、考えない。 「もういい加減、降参してさ、もっと俺を知って?」 琉のその言葉に、胸が酷く痺れ、甘く溶けてしまいそうなのは それと同時に背中を背もたれへ押し付けられ、頬に大きな手があてられたから。 「俺はお前の事を好きな、ただの男」 至近距離の琉と、目と目が重なって、逸らせなくなる。 「お前を俺だけのものにしたくて、俺の全身でお前を悦ばせたくて、メチャクチャに善がらせて汚したくて…」 「……っ…琉…」 「そんな事ばーっかり、考えてる」 ゆっくりと近づく琉に、唇を塞がれて、溶けてしまいそうな熱い舌が否応なしに絡められる。 琉にもっと近づきたい。 夢とか現実とか、本音とか建前とか何もかもを捨てて前を向きたいと思った。 琉の背中に手を回して、私は琉の舌に応える。 待っているだけじゃ、考えているだけじゃダメな事もある。 自ら琉を感じれば、いつも触れる体温はよりリアルで愛しく感じた。 「……して」 体を離して余韻を楽しむ間もなく、琉は私の腕を掴んで内緒話をするようにそう囁く。 「…………え?」 意味を理解しかねて漏らした私の疑問符に、琉は妖艶な微笑を浮かべる。 「……手で…口で…して」 琉に導かれた手が、既に硬く主張したソレに触れる。 布越しにでも分かるその熱と形に、体中が恥ずかしさで震えるけれど 「して…じゃないと俺、襲う。お前が嫌がっても何しても無視して…」 躊躇う私に切なげに訴える琉は、羞恥とか戸惑いが揺らぐ言葉を紡ぐ。 そう、とても切なげに、切羽詰って苦しげに。 「はけ口にはしたくない、がどれだけ俺を好きなのか証明して欲しいんだ」 私の思考回路を遮断させる、考えるより先に体が動いてしまう。 ゆっくりとベルトに手を掛けて、それを外していく。 その姿はとてもイヤらしくて、自分がとても卑猥に思えた。 カチャリとベルトが緩む音、そしてジリリとジッパーを下ろす音がやけに耳に絡んでくる。 琉は今、私を見て何を思っているのだろう? 琉を覆い隠す全てを剥いで、興奮と快感を求めるソレにゆっくりと顔を近づける。 琉の手が、私の髪を梳くように頭に触れ、早く早くと急かす。 それだけで体中がジンと痺れて、私の胸を感情を壊していく。 いきり立つソレを宥めるようにそっと両手で触れると、琉の体がビクンと反応する。 先端に口付けをして、琉の息遣いに耳を傾ける。 深いため息に少しだけ握る力を強めて、少しずつ口の中へ含んでいく。 「……っ……はぁ…よすぎる…」 艶めいた声が耳に絡んで、頭を押さえる手の力が強められて。 私は懸命に舌で、唇で、手で、琉を愛撫し続けた。 その度に硬く膨張し続ける琉に、苦しさが増して思わず声を漏らしてしまう。 「…ふっ…んん…っ…」 くぐもった自分の声がやけにイヤらしくて、恥ずかしくなる。 フッと息だけで笑う琉の、もうひとつの手が伸びてきて私の胸を包み込んだ。 五本の指が、自在に私の胸の形を変えて、楽しむように揉みしだく。 驚きと、その刺激に耐えられず唇を離そうにも、押さえられた手が許してくれない。 苦しさも辱めさえも気持ちよくて、琉の快感に繋がるものだと思えば 私の体は琉を欲して、熱い感情が溢れ出す。 「くっ……ヤパイ…もう…いいよ」 頭に置かれた手は、流れるように私の背中へ移される。 惜しみながらゆっくりと唇を離し、自分の唾液で滑らかな動きをさせる指を離し いつの間にか上気し、琉の体に酔いしれていた私の体を起こす。 虚ろな意識に呼びかけるように、琉は私の唇に触れ名残を指で拭い去ってくれる。 「…琉、気持ちよかった?」 「……ものすごく」 「よかった」 「よかった…じゃないよ。早く乗って」 「え?ひゃっ…ん…まっ、待って私…まだっ」 何もかもを身に着けた私を、琉はまるで我慢の出来ない子供のように自分の膝の上に乗せる。 「無理、もう待てないんだよね」 抵抗する私に間髪入れず返ってくる言葉。 琉の膝にまたがって、下着越しにあてられるソレに戸惑っていれば 背中に回された琉の手が、ブラのホックを器用に外し、解放された私の胸を直に触れてきた。 先端を強く刺激したり、膨らみを弄んだり、先程とは比にならないくらいの刺激が私を襲う。 「だ…だって…琉、わた…んっ…し…、まだ下着つけ…ふっぁ…ん…」 「だから…言ってるだろ?もう…待てない…って」 そう零すやいなや、琉は私の腰に腕を絡めて、支えるようにもう片方の手をソレに添えると 私の中心に熱く溶けそうなその先端を、半ば強引に下着の脇から滑り込ませる。 「あっ…っ…りゅ…っ…琉っ。こん…な…の…」 琉の胸元に手を押し当てて逃れようとしても 秘部に直接触れた琉の先端が、奥を探るように動き回り卑猥な水音が 抵抗する、恥ずかしがる私の正体を晒すようで、体裁というものを見事に壊してしまう。 次の瞬間、私の腰を押さえつけながら琉は腰を突き上げて、私の中に一気に侵入した。 熱い息を零す琉が、含み笑いをして私を抱き寄せ耳元で囁いてくる。 「……予想外。俺の咥えて興奮した?」 「やぁっ…はぁぁんっ…りゅ…っう…」 「すごい濡れてて、…簡単に入っちゃったよ?」 「……ぃ…やぁ…琉…動いたら……わた…し…ああっ…」 自分の体重の所為で、琉の全てが、根元まで入り込んだソレに しがみつく私をユラユラと刺激して、最奥をこすり付ける琉の感触に、気が狂いそうになる。 啼き出しそうな自分の喘ぎに、琉が高潮していくのが分かる。 琉の鼓動も、息遣いも、熱も全てが私を感じていると思うと、理性も何もかも吹き飛んで 私は惜しげもなく体を揺らし、琉に与えられる快感を貪った。 「…っく……上手。もっと…動いて?」 言われるがままに、琉の望むように 私は艶やかな声を漏らす琉の首に両腕を巻きつけて、輪郭を壊していく。 欲しいのは 琉の本音 琉の感情 琉の想い 琉の熱 琉の声 もう、琉の全て。 飽きる事なく琉を貪って 琉が私を突き上げて ユラユラと揺れる景色の中で、どんどんと高みへと上り詰めていく。 全神経が琉のソレを感じ取るだけのものになって 琉が尚膨張し続けているのか、私の中がきつく締め上げているのか 中心が、赴くままに乱れる琉のソレが張り詰めていくのを感じた。 その感覚までもが愛しくて、私は制御不能になる。 琉にしがみついて琉だけを感じて、限界を超えてしまいそうな私は、ただただ淫らな声をあげる事しか出来ない。 「りゅ…うっ…ああっ…すごい…もう…わたし……んんっ」 「…ふっ…ザマーミロ…たかはし」 背を弓なりに反らし、快楽に没頭する私の唇に琉が唇を重ねてくる。 コイツは絶対に俺のもの、まるでそう言われているみたいで歪んだ喜びが体を支配する。 同じもののはずなのに、同じ体温のはずなのに 琉の唇の柔らかさも、その唇の温かさも、まるで違い、私のものではなくて だからこそ、いつも何度でも、求め合い感じ合うのだと思った。 目を薄く開いて、舌を絡める琉の顔を虚ろながらも見つめると 同じように私を見つめる琉の瞳と重なった。 琉は…まるで私しか見えていないみたい…。 そう思えば余計に歓喜に酔いしれる体が、反応し琉を感じてしまう。 もうとにかく限界で、それを見計らったように、琉の動きがより激しさを増して私を突き上げてくる。 「……っく…破裂しそう…俺」 「…っんん!…ふっ…ぁ…ああぁっ!」 私は体中に快感を放出させて、琉に倒れこむ。 「…っく…はぁ…イク」 それと同時に、逃さぬように私の腰を押さえつける琉が 逃れる事の出来ないほど、脱力した私の中で精液を吐き出した。 「……汚しちゃったな」 しばらくの間琉の胸でそのまま、静かに余韻を楽しみ呼吸を整える私に 少しかすれた琉の言葉が、静かに優しく降り注ぐ。 抱き締めてくれるその背中に回されたその手が、どれだけ私を幸せにするのか 琉もきっと想いであって欲しいと、私は首に巻きつけた両手にギュッと力を込めた。 「シャワーあるよ。少し狭いかもしんないけど一緒に入る?」 「…ん…、もう少しこのままが…いい…」 「可愛いね…」 優しい声と一緒に額に琉の唇が触れてくる。 幸せな幸せなこの瞬間 「…、聞いてもいい?」 「……ん?」 「俺達の事」 どんな現実が押し寄せてこようとも 「多分、どこかに取り上げられると思うんだ」 「…うん」 「面白おかしく書かれる事もあるかもしれない」 琉が私を手放したくないと、こんなに不安に思ってくれる事も 「けど、お前の名前は絶対に出さないし…守るから」 「うん」 「くだらない長電話したり、ご飯食べに行ったり、部屋でゴロゴロしたり…ずっと俺を好きでいて」 「うん」 大丈夫。 そう思える。 胸に手を当てて、この強い気持ちを確かめる。 不安も焦りも乗り越えて、私は琉にまた一歩近づけた。 「なんだよ、"うん"しか言えないのかよ」 「ふふっ…だって、琉、分かったでしょ?私が…どれだけ好きか」 不満気な声が可笑しくて、私が顔を上げるとすかさず琉の口付けが落ちてくる。 ゆっくりと何度もついばむような唇に、私が擽ったがっていると 琉は私にだけに見せる、無邪気な笑顔で 「分かったよーな、足りないよーな……と、いう訳で」 嬉しそうに、幸せそうに 「もう一回、愛し合っちゃおう」 そんな難題を、意地悪そうに笑って言った。 あとがき カウンタ27000を踏んでくださった紅さんへ捧げます。 内容がリクエストと少々違ってしまったような気もしますが、頑張りました。 どうかお許しを……(´Д`;) 楽しんでいただけることを祈りつつ、アップしました。 なにはともあれ、カウントゲットありがとうございました^^ ←BACK |