ふと、気がつくと隣で小さな寝息が聞こえてきた。

がそちらを向くと、ソファーに座ったまま顔を少し上へ向け器用に眠っている慧の姿。

唇がほんの少し開いていて、規則的な呼吸には思わず笑みをこぼす。


慧のマンションでさっきまで食事を取りワインを楽しみ、もちろん会話も弾んで。

その後はテレビを見たりして、けれどやはり慧も仕事の疲れが出たのだろう。

は、寝室へ向かうと慣れた様子で毛布を探し当て、慧のも元へと戻った。


起こさないよう静かにそれを掛けて再び、は慧の隣へ座る。















する魔法



















「慧。」


しばらく、見るともなく見ていたテレビに目を向けてはいたが
は隣で眠る慧が気にかかって、痺れを切らすように恋人の名を呼んだ。




「寝るなら、ちゃんとベッドで寝てくださーい。」


独り言のように小さく呟きながら、は慧に掛けた毛布の中へ自らも入り寄り添ってみる。
寝息をたてるだけで反応のない恋人には少々不満でもあったが、慧の体温と体を包む毛布の温もりを感じる楽しさが勝った。

は初めて慧とデートした時の事を思い出し、懐かしむように微笑む。
あの時に触れた手の感触と衝撃は、きっと忘れる事の出来ない事件。
もしかして故意にされたのか…なんて嬉しい悩みでもあって。
一度はそれを慧に尋ねてみた事があった。
けれど、涼しい顔をして慧は微笑むだけで、そのまま迷宮入りになってしまった。


そんな事を思い出しながら、は滅多に出来ない慧の観察をし始めた。
静かにソファーに両膝をついて、慧の顔をそっと覗き込んでみる。


男らしい骨格に羨ましいくらいきめ細やかな肌。
そして何より綺麗な髪に、は思わず手を伸ばした。
指が遠慮がちに触れると、サラリと柔らかく静かに揺れる。

起きてしまわないかは慧の様子をうかがうが、反応は見られない。
ほっと胸を撫で下ろすのも束の間、は更なる好奇心に駆られて触れるか触れないかの強さで頭を撫でる。

自分の頭に触れるのとは違う感覚。
は撫でる度に穏やかな気持ちになっていく自分に思わず苦笑した。



そんな事をし続けても寝入っている慧に気を大きくしたは、顔をゆっくりと近づけて見つめる。
綺麗なあごのライン男らしい首筋。
何度そこへ顔を埋め何度そこへ腕を巻きつけたのだろうか。

綺麗に整った形のいい眉。
いつも優しく微笑む目。
筋の通った鼻。
そして、艶やかな唇。

見つめれば見つめるほど、は愛しさを募らせて
頬を人差し指の先で軽くつついた後、その指を唇へと滑らせる。

エスカレートさせれば起こしてしまうと思ってはいても
は気づかれていない事で恥らう事なく、そのまま鼻先と頬に口付けをした。


さすがにこれ以上の悪戯は気が引けると、は満足気に慧から体を離しソファーに座ろうとする。




けれど次の瞬間、眠っていたはずの慧が目を開けて、離れようとしたの腕をつかんだ。


「…もう、おしまい?」



胸が飛び出そうなくらい驚いたは、先ほどまでの行為を知られていたと思うと体中が熱くなった。
こらえきれずにくつくつと笑い出す慧は、もう片方の手で毛布を脇に避けてを見つめ


「慧…、起きて…ひゃっ!?」


が恥ずかしそうに話し始めるのを遮って、慧は掴んだ腕を自分のもとへ引き寄せる。
そして、細い腰に手を回し自らの膝の上へを、またぐように座らせた。


「どうせ調べるなら、全部…調べて欲しいな。」


逃げられないように腰を押さえつけられて、バランスを崩したは慧の肩にしがみつく事になり
力強い慧の手は腰から背中へと移動し、そのまま自身へとの体を引き寄せる。

引き寄せられたは、先ほどまじまじと見つめた慧の首元へ顔を埋める事になり胸を高鳴らせた。


「け…、…け…い。」

「まだ…たくさんあるんだけどな。…に触れて欲しい場所。」


内緒話するように慧はの耳元でそっと囁いて、ふふっと楽しそうに笑ってみせる。

『だって』と言いかけて口ごもるは、埋めた顔を起こして慧に許しを乞う。
そんなの弱々しく潤んだ瞳に、慧は触れたい衝動を必死に抑え言葉を続ける。


「その気にさせておいて、逃げるなんて酷いな。」

「……っそういう…わけじゃ…。」


「じゃあ、僕の言う事聞いてくれる?」

「………な…に?」


「…から、キスして。もちろん口に、だよ?」





その言葉に思わずは慧の唇を凝視してしまう。


少しだけ口の端を上に向け、笑みをこぼす姿に恥ずかしさが募るけれど

『ほら』と急かしてくる慧の指がの唇に触れ、観念するように近づけた。

ゆっくりと近づいていくと、痺れを切らしたかのように慧の手がの後頭部を押さえ『早く』と導く。
心臓がはちきれそうなくらい脈打つは、そっと慧の唇に自分のそれを触れさせる。
それで終わりにしようにも、後ろから押さえつける慧の手が離れる事を許さない。


「…もっと、…深く、いつも僕がしてるみたいにしてごらん。」


鼻先がかすめるくらいの距離で、慧は低く艶のある声を発し再び唇を重ね合わせてくる。

は躊躇った。
けれど次の瞬間、足のつけ根にすでに張り詰め始めている慧を感じると愛しさを感じずにはいられなくて。
とても勇気のいる行動だったけれども、は遠慮がちに慧の口内へと舌を進入させた。

熱く溶けそうな慧の舌にそれを絡めると、慧の腕がをより強く抱き締める。
より密着した体に、より体積を増してきた慧の下半身。
そして、自分から口付けを交わす行為に、まだ触れられてもいないのには酷く感じていた。


「…んっふぅ…け…い…ぁ…ん。」

「…はぁ…上手だよ、。次は…シャツのボタン外して。」

「………慧…の?」

「僕のも…のも、最初にが脱ぐ所…魅せて。」


腕の力を弱めて体を背もたれにあずけながら、慧はを見つめながらそう呟く。


「で…電気…消そうよ…。」

「駄目。それじゃが見えない。」


あからさまな視線と意地の悪い答えに、は恥ずかしさのあまり俯いた。
そして震える手をシャツのボタンへと移動させ、ゆっくりとひとつまたひとつと外していく。

外し終えると同時に慧はそこから手を差し入れて下着の上から胸を揉みしだいた。
自分の事で精一杯で思いもよらない慧の行動に、は思わず体をくねらせ甘い声を吐く。


「あっ…んんっ…け、慧…ぁ…はぁ…。」

「どうしたの?次は僕の…だよ。」


とぼけた様子で背中に手を回し、手早くホックを外すと
慧は下着ごとのシャツを体から引きはがし、床へハラリと落とした。

緊張で震える上に、さらに胸を愛撫され力の抜けた指先で、は必死に慧のボタンを外す。


「…いやらしいね…。」

「はぁっ…ん…け…いの…ぁ…せい…んっ。」


たいして触れられてもないのに、は既に慧を受け入れられるほどの興奮が体を包んでいた。
それを知ってか知らずか、慧はがシャツを外し終えたと同時に再び口を開く。


…ここも…触ってくれる?」


慧はの手をズボンの中で硬く興奮した自身へと導いていく。
触れた瞬間こぼす慧の吐息を聞いて、は慧の顔を見つめた。

熱を帯びた瞳と目が合うと、『もう、限界だよ』そう言う慧の唇がの首筋を這い回った。

体中を襲う甘い痺れにが思わず手の力を強めると、慧は眉間にしわを寄せ息を吐き出す。


その様子が愛しくて、はベルトに手をかけ、慣れない手つきで慧の興奮したそれを外へと出した。
同時に屹立したそれを目の当たりにしたは、息を呑んだ。
これが自分の中であの快感を生むのかと、は恐る恐る手を伸ばす。


「……慧…の…熱い。」


伝わる熱に思わずそうの口から零れると、慧は苦笑しながら自身に触れるの手に触れた。
『こうやって動かして』そう小さく囁いて、慧はの手ごと上下に動かして快感を誘った。

仕方を理解させると慧はの手から離れ、のスカートの中へと手を滑らせる。
太腿をゆっくりと撫で上げながら慧はの隠された場所へと到達した。

躊躇いや抵抗はあったもののゆっくりと慧の指示通りにその手を動かす
その姿を満足そうに見つめながら、慧は下着の中へと手を進入させの弱い部分を中心に刺激する

触れるたびにまだ大きくなっている気がする慧のそれと、慧の指の動きがの頭の中を真っ白にした。

目の前で慧の腕がの中心へと伸び、手が指が恥ずかしいくらい濡れた部分を弄んでいる。
同じく目の前で細く小さいの手が反り立つそれに触れ、中心を溢れさせている。
そんな情景を目の当たりにし、も慧も互いが愛しくて興奮した。


「…っ、ねぇ…、どうしてこんなに…濡れてるの?」

「やっ…ぁ……しら…な…、あぁ…ん…はぁ…。」

「知らないわけ…ないよね?ほら、僕の指…の所為で凄いよ…。」

「…い…や、…いわ…な…いで…。」


慧は悩ましげなの表情に煽られて、手を奥へと進ませ指をの中へと一気に挿し入れた。


「っ…ん…ああっ!…はぁ…け……い…ぃ…。」

「ああほら、簡単に飲み込んじゃう。」


内壁を擦るような慧の動きに、は思わず手を離し慧のシャツへしがみついた。


「……っふ、…気持ち…いい?」

「あっ…はぁ…ん…慧…こん…な…。」

「…………ん?」

「…も…、ああっ…ん…だ…はぁ…めぇ…。」


どんなに逃れようにも快感が押し寄せてきて、は心も体も乱していく。
甘えるように慧に抱きついて、全ての神経を慧の指を感じるものとしていった。

すぐ側から聞こえてくるの喘ぎに、慧は興奮を押さえきれず指を抜き取った。

そこから生まれる空虚感に、は物足りなさを感じずにはいられず慧を見つめた。
艶かしい目つきの慧はと目を合わせると、愛しげに頬に手を添え唇を重ね合わせる。


「……いい?我慢…できない。…下着、脱いで…。」


口付けの合間に発される熱い言葉に、は浮かされるようにゆっくりと従った。
片足に重心をかけ、もう片方を浮かせゆっくりと下着を足から外していく。
慧の手が急かすように腰を持ち上げて、の中心を脈打つそれに宛がう。

触れ合うだけで反応してしまう互いの体。
そしてもっと欲しいという想いを募らせ、慧はの最奥まで貫いた。


眉間にしわを寄せ濡れた唇から零れるの声に、慧はより快感に敏感になってしまう。

感じるままに揺れるの体に手を伸ばし、慧は胸の膨らみを強く揉みしだく。
尖った先端にも意識をさせていると、の表情がより羞恥を映し貫く慧を締め上げた。


「…ひゃぁ…ん…ああっ…け…い…おかしくな…っんん…。」


慧はの言葉を遮って、自らの唇を押し付け封じる。
激しく舌を絡ませたと思うと、離してすぐ繋がったままの体を持ち上げるようにソファーへ寝かせた。

慧は足を持ち上げてソファーに片膝をついたまま、再び深く強くを突き始める。


「…もっと、おかしく…なって…。最初から…っく…に…触れられた時から…こうなりたかったんだ。」


切なげに唱える魔法のような言葉に、は愛しさがあふれ出して止まらない。
『慧』と何度も快感の波に呑まれながら呟く恋人の名も、体中を触れてくる慧の全てが温かくて。


「…け…い…、あ…っん…好き…ぃ…ああっ…もう…イッ……。」

「んっ…キツイ…、はぁ…いいよ…もっとよくしてあげるから…イクところ…みせ…て?」

「ひゃぁ…ああっ!…はぁぁ…ん…慧…け…い……。」

「っく…すき…だ…よ…、…。」



繋がりを輪郭が溶けてしまいそうなくらい、慧はギリギリまで引き抜いては奥へと挿入を繰り返す。
動く度にきつく締め上げてくるの中の限界を察知して、愛しい恋人の名を呼びより激しく掻き混ぜた。

艶かしく啼き声を上げるは、堪らず自らの腰を揺らしその痺れに悦楽する。

その動きに耐え切れず慧は果てる寸前特有の張り詰めを感じ
動きを封じられそうなくらいの中を必死に揺らし、二人は同時に果てた。









息を整え余韻を楽しみながら、慧はの体のいたるところへ口付けを落としていく。


それがの唇にくると、ゆっくりと口をこじ開けて力の抜けた舌を絡めた。



愛しげなその行為を終えると、慧は自身を引き抜きその瞬間が震えるのを見て微笑む。



「……可愛かったよ。」

「ねぇ、慧…もしかして……。」

「…………ん?」

「寝てふり…してたの?」


「……さぁ、どうだろうね。」

「ずるい……えっち。」

「ふふっ…僕じゃなくてが…ね?」

「…その上、意地悪。」


楽しそうに笑いながら慧は、力の抜けたの体を優しく抱き上げる。
快感が抜けきれず敏感な肌が、慧を感じた瞬間跳ね上がり、は小さく息をこぼした。


「見たかったんだ、…の欲情する姿が。」

「…えっ?ちょっ…慧…どこ行くの?」


言葉を発すると同時に歩き出す慧に、は思わず話を逸らした。


「もっと…、僕を欲しがるを見たいな。」


けれども、慧はの質問には直接的な答えを出さず歩き続ける。
方向的に寝室だと察したは、今の慧の言葉と行動を重ね合わせ胸を震わせる。

目を合わせると視線を逸らすに、苦笑しながらも慧はの頬に口付けをして寝室へと向かった。




「……ねぇ、…本当に?」


「うん?それとも…今度は僕がを調べてみてもいい?」










甘い甘い愛しい魔法はまだ、二人を包んで解けそうにない――。














あとがき
カウンタ22222を踏んでくださったサクラ一番さんに捧げます。
マンションでのひとコマという事で…イチャコライチャコラさせていただきました。
妄想が妄想を呼びとんでもない事になってしまいましたがいかがでしょうか^^;
お気に召していただければ幸いです。
ありがとうございました!

←BACK