君が愛しくて、何故こんなに好きなのか分からないくらい揺れて でもそれは、想いを伝える事で逃れられると思っていた。 君が誰を見つめていたかなんて、とうに気付いていた。 サーキット場であいつの車に乗り込もうと、帰ろうとする君と目が合ったあの時に 僕は胸に押し寄せる虚しさと悔しさを抱いて、あいつに惹かれていく君を欲して。 それでも消えてくれないわずかな期待が、僕を取り巻いて仕方がない。 仕事場に行けば、僕を見て微笑む君がいて、感情を抑えるのがこんなに大変だとは思わなかった。 それでも、君の幸せを信じていたから、望んでいたから。 だからこそ、君に振られようとしたあの日。 諦めるはずだったのに、君の幸せを一番に願うと誓ったはずなのに…。 「これ。持っててくれない?」 そう言ったと同時に、君の手に握らせた大切なお守り。 手を開いて、これがどういう意味か察知した君がみるみるうちに表情を変える。 『笑え、笑うんだ』心の中で自分にそう唱えて、必死に君を見つめた。 ああ、自分は今傷ついているんだと、そう思った。 戸惑った君の声が、困りきった君の表情が、胸に突き刺さる。 足が凍りついて前にも後ろにも、進む事が出来ない。 ただ辛くて、苦しくて、それなのに心のどこかにあるわずかな希望が嫉妬心を煽って すり抜ける想いが、拒絶する君が、憎いと思うほど愛しくて、善も悪も混ざり合っていく。 どんな事をしても、どうしても君が欲しいと感情が暴れ出す。 君の手に触れた瞬間、体中に走った幸福をどうしても離したくなかった。 君の困惑が増せば、僕の激情も増していく。 全ては君と僕と…あいつが出会ってしまった所為。 君の瞳が潤んで揺れるのが、とても…綺麗だった。 「誰のだ。」 あいつの、疾斗の怒声が聞こえたのはその後すぐの事だった。 必死に弁明しようとする君の声を、疾斗は突き放す。 何も聞かずに、ただ自分の感情をむき出しにして、噛み付いて。 素直というプラスであるべき要素が、全て反転し狂い出すのを目の当たりにした。 思わず、握った手に力が入る。 彼女が悪いわけじゃないのに、自分だけが傷ついたように、何故話を聞いてやらない? 僕を傷つけまいと、疾斗を傷つけまいとしている君が一番傷つくなんて 何故、好きだというのに、愛しいと思うのに彼女を傷つける? 僕なら…、あんなふうに悲しませたりしない。 ジリジリと胸を焦がす感情が震える。 僕自身だって君を傷つけているというのに、それを棚にあげて それでも、振り返る事なく去って行く疾斗の背中を見つめる彼女の背中が 今にも崩れそうで、苦しくて耐えられなかった。 心の中で幾度となく呟いた言霊が、僕の感情をより一層激しく揺らす。 『君を、誰にも渡したくない』 君を諦める事で傷つくか 君を奪う事で傷つくか どちらにしろ苦しまなければならない運命なら 僕は、どうすればいい? 『叶わないなら、捨ててしまえばいい』 この気持ちを? この恋心を? 『傷つきたくないのなら』 『捨てられないのなら』 僕は前を見据えて、短く息を吐く。 『罪悪など考えずに、前に進め。』 そうだ、僕は渇くほど君が欲しくてしょうがない。 静かに足を踏み出して、君のもとへと歩き出す。 『どんな事をしても、を手に入れてみせる』 もう 後戻りできない するつもりもない。 後編へ続きます。 疾斗ENDルート(多少都合よく書かれていますが)の慧のお話です…。 疾斗ファンの方…申し訳ありません。 本当に申し訳ないです。私、すでに壊れちゃっております。 後編は独自のお話を書かせていただきます…。 ←BACK NEXT→ |