エピソード が玄関の扉を開けると、そこには先程こちらへ行くと連絡のあった疾斗の姿。 車から玄関までの距離で既に寒さに負けたのか、寒い寒いと繰り返しながら疾斗は部屋の中へと入り込む。 「わりぃな、突然きたりして。」 暖房のきいた暖かい部屋にホッとしたのか、疾斗は上着を脱いで慣れた様子でソファーへと腰掛けた。 「別に大丈夫だよ。お腹すいてない?何か作ろうか?」 優しい言葉に笑顔、一人暮らしでは味わえない幸せもこの部屋を暖かくしてるに違いない。 疾斗はを愛しく感じながらそう思った。 「おぉ!まじ?お願いしまーす!」 しっぽがあったら思い切り振っていそうなくらい、疾斗は喜びながらの顔を見て笑う。 その時、疾斗はの先に見える『ある物』が目に入り鼻の下を伸ばしながら小さく呟いた。 「…いい眺めー。」 が疾斗の視線を追うと、そこには今朝干したまましまい忘れていた下着の上下。 体をわなわなと震わせて、は物凄い速さで下着を取り乱暴にタンスへと押し込んだ。 「あー、なんだよ!しまう事ないじゃんよ!」 だらしのない表情をした疾斗に『バカ!』と顔を赤くして一喝。 「いーじゃーん!いつも付けてるとこ見てるし…あ、外したとこも見てるよなぁ…。」 そう言いながら思い出しているのか、疾斗はの体をわざと舐めるように見つめニヤニヤと笑った。 「み、見ないでよ!」 まるで恥ずかしい格好をしているような感覚に陥って、は自分の体を隠すように抱き締める。 そして刺々しくそう言い睨みつけるが、疾斗は臆することなく再び口を開いてくる。 「…てゆーか、特典だよな。」 「え?」 「だってさ、俺とが一緒に住めば毎日のように見れるわけじゃん?」 「……絶対に疾斗がいない時に洗濯して、帰ってくるまでには片付けておくから安心して。」 ため息混じりにがそうこぼすと、それでも疾斗は嬉しそうにへと腕を伸ばす。 疾斗はの手首を捕まえて、ソファーへと引き寄せると そのままをソファーへと沈め、その上へ覆いかぶさるように疾斗は抱きつく。 「そんな固い事言わないでよー!ちゃーん。」 「は、疾斗っ離して!」 「えぇ〜、ダメー。」 「んんっ〜もう!疾斗!」 「でもさ、そうなるとは俺の妻になるんだよな?…妻!」 「……そう…だね。」 疾斗の言葉に、は改めてそうなるんだという意識をさせられ照れる。 これが犬だったらの顔をベロベロと舐め回しているだろう勢いで、疾斗は擦り寄りながら 「……新妻、…サイコーの響きだよな。」 何かを噛み締めるようにそう一言。 明らかに自分とは違う妄想を繰り広げている疾斗に、は顔を引きつらせながら言葉をかける。 「どこら辺がサイコーなのよ…疾斗が言うと変な意味にしか聞こえない!」 「男の子には色んな夢があるの!」 「どんな夢よ、もう…。」 疾斗の勢いに負けてが再びため息をこぼすと 疾斗は二つの膨らみを楽しむように、の胸へ顔をすり寄せた。 「ー、結婚しようよー。」 「ひゃっ…なっ…何を急に!?」 「だって、したくなったもんはしたくなったんだもん。」 が疾斗の肩を押しのけようとするが、がっしりと両腕で抱き締められていてどうにも出来ない。 いつも以上に甘えた口調で離れようとしない疾斗に、は何かあったなと確信する。 仕事で失敗したのか、怒られたのか、理由は分からないけれど何だか心配になって は押しのけようとした手の力を緩め話を続けた。 「でもさ、誰かに結婚のきっかけは?て聞かれた時何て言うの?」 「えー?さんのお家へ遊びに行った時に、干してあった下着を見て僕は決意しました。とか?ガハッうける。」 「うけないでよ!もう。やだよそんなエピソード。」 「じゃーさ、今度本気でプロポーズしたらOKしてくれる?」 胸に埋めた顔を起こして、疾斗はを真っ直ぐに見つめて答えを待つ。 予想もしていなかった展開に、は胸をドクドクと高鳴らせながら言葉を発する。 「た、…多分、大丈夫…です。」 恥ずかしそうに目を逸らしてそのままが黙り込むと 「じゃあその時は、を超メロメロにさせるようなプロポーズしちゃうからな。」 疾斗は嬉しそうな笑顔をこぼして、自身ありげにそうに告げた。 抱き締める腕を緩めて、疾斗はそのままその手での髪を撫でる。 幸せな約束と、疾斗の安堵の表情を確認したは、目を閉じて疾斗の大きな手を感じる事に集中する。 「楽しみにしてるね、疾斗。」 「取り敢えず今日は、新婚さんごっこしよっか。」 疾斗はのセーターの中へ手をもぐらせると、耳元でそっと悪戯っぽく囁いて 真っ赤になり目を見開いたの唇へ愛しげに誓いの口づけをした――。 あとがき 結婚のきっかけは?をきちんと答えられる人を私は尊敬します(´Д`;) この話を書いている時、カズさんが『ごめんねコイツ餌付けがなってなくて』と謝る声が何度も聞こえてきました(笑)。 ←BACK |