――深い …深い闇の中 頬や額に感じる温もりに、意識が少しずつ甦ってくる。 目を開けることすらままならないくらい瞼が重い。 体中が疲労感に襲われていて、鈍った感覚の中、私は熱い息を零した。 夢と現実の狭間で、特有の気だるさから抜け出す為に、私は抵抗する瞼をゆっくりと開く。 薄暗い部屋は、暖色のスタンドライトだけが輪郭を作り上げていて 「…気がついたか。」 霞んだ視界に映し出された恋人の姿と言葉に、体中の感覚が戻り始める。 この疲労感も、熱い息を零す理由も、鮮明になって一瞬にして現実が押し寄せた。 エンドレスラヴァー 原因は今日の昼。 ピットの片隅で休憩していたカリナさんとある話をした事がきっかけ。 小さなテーブルに向かい合うように座り、雑誌を読んでいたカリナさんが突然ニッコリと微笑んだ顔が印象的だった。 「ねぇ、ところでアナタ達どこまでいってるの?」 「……へっ?」 質問を理解する前に私の口から間抜けな言葉が漏れる。 というか、それ以上言葉が出なくて、それでもカリナさんはそんな事気にせずに 両肘をテーブルについて、私の方へと体を傾け近づいて、再び話を始めた。 「コレ読んでたら特集でね、恋人についてのアンケートの結果が載っててね。アナタ達はどうかなと思って。」 「…は、はぁ。…ど、どうなんでしょうか。」 「まさかまだHしてないなんて…ワケないわよねー。去年いきなり付き合い始めて温泉旅行とか行っちゃってるしー。」 「いや…っ…あの…なんていうか……すみません。」 「で、ぶっちゃけどうなのよ?」 「…あの…えーとですね……。」 「あのねぇ!中学生じゃないんだから恥ずかしがり過ぎよ。てゆーか、シてるわよね?」 「…………はい。」 半ば強引に話を進められると、カリナさんはさっきまで読んでいた雑誌を開いて得意げに私を見つめてくる。 「相手はあの、中沢さん…だものねぇ。ちゃんと満足させてるの?」 「ま…満足ですか?」 「そうよ。ほらココにもHは平均週二回って載ってるでしょ?」 「ええっ!?」 「最高は週五回だって。でも、数こなしてるだけじゃ意味ないけどねぇー。楽しんでもらわなくちゃ。」 「……そういうものなんですか。」 「そうよ〜?カリナもぉ〜加賀見さんとお付き合いした時は、思いっきりご奉仕しちゃうんだからっ。」 その話を聞いて、もう頭の中はぐるぐるで。 夜になって航河の部屋に行っても、それが取り憑いて酷く私を悩ませた。 週…二回 まして、週五回なんて有り得ない。 そもそも航河に長時間会える回数もそんなにない訳だし、忙しい時期になると特に。 『それが、ダメなのよ!』と頭の中でカリナさんの声がする。 大した経験もないし航河を満足させてるかと聞かれても、正直分からない。 どうすれば満足してもらえるのかも…分からない。 『それは、アナタ達二人で話し合うことでしょ』再びカリナさんの言葉を思い出し、私はより一層考え込んでしまって。 「心ここにあらずって感じだな。」 コーヒーを二つテーブルに置きながら、航河は少し不満そうにそう発した。 ソファーで膝を抱え座る私は明らかに不自然だったのだろう、航河は私の隣に座ると何も言わずただカップに口をつける。 「…ごめんね。ありがとう。」 隣にいる航河を軽んじていた事の謝罪と、コーヒーのお礼を言うと、酷くかすれた声が出た。 淹れてくれたコーヒーを飲むと、それは幾分和らいだ気もした。 けれど、胸に残る不安は募るばかりで、私はその言葉を口に出さずにはいられなかった。 「ねぇ、…航河。…私って…どうなの…かな。」 「…抽象的過ぎて、質問の意図が分からない。」 「えーと…だから、何て言うんだろう。…その航河は、…私との、その…Hで…満足してるの…かなって。」 「…………足りないのか?」 「ちっ、違うよ!航河、いつも私に合わせてくれるでしょ?回数とか…その、…色々。」 そう、航河はいつも私のペースに合わせ、リードしてくれる。 そうやって気遣ってくれる事だけでも、私はとても幸せを感じる。 けれど、私は一体航河に何をしてあげられるのか、何をすれば喜んでくれるのか。 「…それは、無理強いしたくはないからだ。」 「でも、それって…我慢してるって事?」 「そうじゃない。」 「私ばっかり良くなるんじゃなくて、航河にももっと喜んでもらいたいの。」 「自覚してないだけだろ。」 半分呆れた様子で笑う航河は、カップをテーブルに置いて何かを思い出すように私を見つめた。 そして、急に私の腰へ手を回すと、耳元に唇を近づけ意地の悪い口調で囁いてくる。 「いつも、あの時はすごい事言ってるぞ。…俺のがすごいとか壊れちゃうとか。」 「いっ、言ってないよ!」 「入れる時とか、イキそうになる前とか…もっと、もっと、ってせがんできたり。」 「してないよ。そんな…。」 恥ずかしさのあまり顔を背けても、耳から航河の楽しそうな声がどうしても聞こえてきて 余計に私の体は羞恥に襲われ、逃げ場を失う。 「…どうせ、誰かに入れ知恵されたんだろう。」 「そういう訳じゃ……っ、航河…。」 半分は当たっているけれど、私自身がその答えを求めているから。 私は、弁明しようと航河の方に顔を向ける。 けれど、目と目が合った瞬間近づいてくる航河の唇にそれを制止された。 そして短いキスの後、触れるか触れないかの距離で航河が静かに呟いた。 「……ためしてみるか?」 「…え…?」 「どうせ、今ここで俺が満足してるって言っても、信じないだろ?」 確かにそうかもしれない。 今、航河にどう言われようとも、遠慮されているのかもと思うだろう。 なんて考えているうちに、航河の手が私の体を撫でまわってくる。 胸が、高鳴り震えた。 「ためすって、……何を?」 「…今日は、俺がしたいだけを抱く…って事だ。」 「。」 航河の声に意識を戻すと、切なげな表情をした航河と目が合った。 すると殆ど痺れ、いう事の利かない私の両足の間に航河は割って入ってきて その場所から見下ろし腕を伸ばし、私の髪をそっとすくい上げる。 航河の指が髪を絡めてくるだけなのに、それなのに暗がりの所為か全てが艶かしく映ってしまう。 手がその場所から離れ、今度は膝の裏を持ち上げてきた。 露になった内腿へ、すかさず航河の唇が触れる。 時には強く吸い付いてきて、軽い痛みに私の体は跳ねてしまう。 時には溶けるように熱い舌が這い回って、快感に彷徨うように私は体をくねらせた。 「こう…が…もう…、やめ…。」 「だめだ。」 あれから何度達したかもう分からない。 それでも航河は、息を弾ませながらそう即答してくる。 熱い息が唇と同時に触れてくるだけで、敏感に感じてしまう私も私だ。 「お願い…も…はぁ…ゆる…して…。」 「許さない。ふっ…今日は俺の満足するまで…だろ?」 航河は内腿から唇を離し顔を上げると、強い口調でたしなめてくる。 そして、そのまま私の中心に、驚くほどの回復力を見せる反り立つ航河のそれが宛がわれた。 先端だけが押し入って、ゆっくりと動かされるだけで部屋中に水音が響いた。 「っひゃぁ…ん…はぁ…ああっ。」 「嫌がるわりに、ここは凄いな。」 「はぁ…ちが…う…これは…航河の…あっ…ん…。」 「…俺の、なんだ?」 息を零すように囁く航河の言葉に、思わず体が反応して航河が小さく唸って笑った。 航河が何度も吐き出した欲望の果て…なんて事は分かっているくせに。 「…分からないなら、…また幾らでも教えてやる。」 「はぁん…やぁっ…あぁ…んっ!」 そう言って航河は、感覚を楽しむように自身を私の奥へと押し進めてきた。 「っく…、まあ、俺の所為だけじゃ…ないみたいだけどな。」 「あ…はぁん…んんっ…そんな…はぁ…っこと……。」 抵抗しようにも伸ばした手は、航河の筋肉質な腕に触れるだけで えぐるように攻め立ててくる、目を閉じてもそれの快感からは逃げられない。 それに加えて、航河の手がいつの間にか私の胸へと到達し弄んできた。 航河の手が動くたびに体をよがらせる所為で、交わった部分を自らも刺激する事になる。 恥ずかしさも相まって、航河の顔が快感に歪むほど自分の中が彼を締め上げているのを感じた。 限界を超えたはずなのに、引き抜いて、最奥まで突き上げる度に頭の芯まで及ぶ快感が 無情なまでに押し寄せて、私の目の前を霞ませる。 自分の意思とは違う航河の動きに、感情も体も全てが追いつかなくて、私の目から涙が零れた。 「……っ。」 「こう…が…あぁっ…もう…はぁ、…ん…こわ…れ…。」 抵抗なのか支えなのかもう分からない、航河の腕につかまる私の手首を 突然つかみ返され、航河はそのままベッドに沈めてきた。 覆いかぶさる航河の重みが、体中に伝わってきて壊れてしまいそうになる。 漏らす言葉は殆ど意味をなさなくて、睦言にもならない。 身動きさえも封じられ、瞼を開ければすぐ近くに私を見下ろす航河。 「俺しか…いないんだ、…っく…好きなだけ壊れろ。…見ててやる。」 私の中心も耳も目も、体中が航河を感じるためだけのものになり、高みへと上り詰めていく。 航河もそれはきっと同じで、突き上げる強さも質量もどんどん増しているのが分かった。 「こ…うが……っはぁ…ぁん…わた…し…っ…ああっ…いっ……。」 かろうじて動きのとれる首を、イヤイヤをするように左右に振ると、航河がタイミングよく露になった首に吸い付いてきて 「…好きだ…っはぁ………すき…だ。」 そう呪文を唱えるように、何度もそう繰り返し囁いてくる。 愛しさが募って、繋がる中心までもが歓喜して、航河の声を合図にするように私は上り詰め果てた。 航河は締め上げる私に何度か荒い息を吐き唸ると、 はちきれそうなそれを数回揺するように動かして、私に新たな欲望の証をドクドクと注ぎ込む。 その熱さが航河にまた貫かれイかされた事を物語るようで そして私の中に放って満足そうに笑う航河に、粟立つような支配感に襲われ体が歪んだ悦楽に震えた。 「俺はセックスだけでの事を判断してるわけじゃない。」 航河は私の中から自身を引き抜くと、たくさんの名残を映す私の体に静かにシーツをかけながらそう言った。 突然の言葉に、私の頭は理解しきれずに、ただ上がった息を整える事で精一杯だった。 何度も達し、何度も突き上げられたりした体はいまだに痺れて航河の感触が抜けない。 ああ、さっきの話題の事かと気付く頃にはもう再び航河が言葉を発していた。 「まぁ、でもこういうのも…たまにはいいかもな。」 「……もう動けないよ。」 「じゃあ、風呂、一緒に入って洗ってやろうか、……体中の隅々まで。」 「さすがにもう…変な事…しない…よね?」 「ふっ…どうだろうな。」 楽しそうに笑いながらそう言う航河に、冗談じゃない!と濃密過ぎた行為が恐ろしくさえ感じる。 「が好きなだけして、って言ったんだろう?」 そんな事言ってない。 そういうニュアンスを含めて言葉を発したとしても、こんな事になるとは思っても見なかったし。 「それとこれとは……っ。」 意地の悪い言葉に抵抗しようと、口を開いた瞬間航河の顔がゆっくりと近づいてきて まだ熱の残った航河の唇が私の発する言葉ごと飲み込むように口付けをしてきた。 溶けてしまいそうな感覚に促されるように、航河は唇を離し私をシーツごとギュッと抱き締めてくれる。 間近で見る航河の顔は、疲れているもののとても幸せそうで嬉しかった。 新しい航河の発見といったら大げさかもしれないけれど、それはとても苦く甘く 優しい時間をより優しく感じさせて、襲いかかる不安や恐怖を諸共せず吹き飛ばしていく。 沁みこんでくる温もりが安堵と眠りを誘って、 私は航河と感じる幸せの余韻に身を任せて、静かに目を閉じた。 あとがき カウンタ22000を踏んでくださったあさちゃんさんに捧げます。 気を失うまでされちゃって、でも意識を取り戻した主人公ちゃんに 飽く事無く襲いかかる航河タン…という感じのお話です。 自分で書いて読み直して書き足してを繰り返していくうちに、内容に対する刺激が麻痺し 一体自分はどのくらいのエロ度で書いてあるのか分からなくなってしまいました…。 あ、ちなみに平均週二回と最高週5回というのは適当です。 何の確証もございません(笑)。…というか…多すぎでしょうか? ←BACK |